262:黄砂の塔への侵攻を開始しました!



■メロ・イェロ 22歳

■第494期 Cランク【黄砂の塔】塔主



 【六花の塔】からの塔主戦争バトル申請受理の返答が来てから私はひたすら戦力強化に勤しんだ。

 今できる全てのことをやる。それだけを考えて。


 おそらく塔主戦争バトルの内容は【彩糸の組紐ブライトブレイド】に観られるだろう。それでも関係ない。


 私はただ【六花の塔】さえ斃せれば――父の仇さえ討てればそれでいいのだから。



 神の号令と共に私は攻撃陣を【六花の塔】に送り込んだ。

 総数150もの大部隊だ。


 私の【黄砂の塔】には砂漠に適した魔物が多い。

 土属性が多く、砂漠の暑さにも強い魔物だ。

 だからこそ【六花の塔】への攻撃陣には頭を悩ませた。


 【六花の塔】が『寒冷の塔』であるというのは当たり前の話で、そこを探索・攻略するのは困難に違いない。私の魔物など特にそうだ。


 だからこそ環境適正の高いゴブリン部隊を強化し、主力とした。

 どんな環境だろうが普通に生息できるのがゴブリンの強みなのだから。


 他にもスフィンクス(A)を中心とした飛行魔法部隊、デザートアサシン(B)を中心とした斥候部隊を形成し乗り込ませたのだ。

 これが私の考える【六花の塔】に適した攻撃陣である。



 逆に考えれば【六花の塔】の魔物は【黄砂の塔】に適さないはずだ。寒冷の魔物ばかりだろうし。

 その中でどのような攻撃陣を組んでくるのか、私はまずそれを確かめた。


 【六花の塔】へと向かう私の攻撃陣と入れ替わるように、敵攻撃陣が侵入してきた。


 最初に入って来たのはアイスウルフ(C)の群れを従えたフェンリル(A)。

 分かってはいたがやはり来たか、と画面を睨みつけた。


 【六花の塔】の最大戦力、神造従魔アニマを攻撃陣の指揮官にしてきた。

 砂漠でも苦もなく戦えて、尚且つ私の塔の戦力を斃せるほどの魔物となればフェンリルに頼るしかないだろう。

 だからこそ本来は塔主に身近に置きたいはずの神造従魔アニマを攻撃に回さざるを得なかったのだ。


 その判断は正しい――が、こちらはそれを予測済みだ。

 ちゃんとフェンリルを斃せる魔物を防衛に残してある。残念だったな。



 そう思ったのも束の間、フェンリルのあとに続いて入って来た敵攻撃陣の陣容に私は驚いた。

 攻撃陣の指揮官はフェンリルだけではなかったのだ。


 ホワイトクロウ(D)、スパルナ(C)、ブリーズイーグル(B)などの鳥の群れ、その最後に入って来たのは有翼の悪魔。


 クロセル――Aランクの魔物だ。



 一年目のDランクで召喚できる魔物ではない。

 【魔術師の塔】同盟を斃したのは知っているが他五塔との戦力差が明らかな【六花】では報酬TPはそれほど貰えないはずだし、いくら侵入者が多くてもAランクやBランクの魔物はそう易々と召喚できないはずだ。

 すでにブリーズイーグルも五体見えているし、Cランクの魔物も相当いるのだから。


 あらためて見ると向こうの攻撃陣は


 フェンリル(A)1、アイスウルフ(C)30、イエティ(B)5、ウェンディゴ(C)20、クロセル(A)1、ブリーズイーグル(B)5、スパルナ(C)20、ホワイトクロウ(D)30。


 計112体。Aランクが2体、Bランクが10体もいる。



 こちらの防衛陣と比べれば下だが、考えていたよりも随分と質が高い。これで二年目Dランクと言うのだからふざけた話だ。

 おそらく【六花】は防衛をある程度地形に任せ、攻撃陣を厚くしたのだろう。だからこれほどの陣容となったのだ。


 防衛に大ボスを置かないはずがない。

 フェンリルに代わる大ボスを最終決戦場に配置しているはずだ。


 つまりクロセルと同様のAランクが……いや、地形で削ることを考えればBランクでも防ぎきれると思うかもしれない。

 最大でAランクの魔物と想定しておこう。油断しないためにも。



 攻撃にも防衛にもAランクの魔物を指揮官にできるのであれば、それはもうDランクの塔とは呼べない。

 Cランクの塔のつもりで戦うべきだ。二年目とかも考えてはいけない。

 私は気を引き締め直して画面を見やった。





 【六花の塔】へと入った攻撃陣は一階層を進んでいる。


 雪の積もる森の中を進むような階層だが、これは事前に情報を得ている。

 足が埋まるような雪ではないし、出て来る魔物もF~Dランク、たまにアイスウルフ(C)が出る程度だ。


 罠もデザートアサシン(B)がいれば問題ない。

 ゴブリンキング(A)とスフィンクス(A)に指揮を任せれば余裕で突破できる。



 二階層の『氷の洞窟』までは特に苦もなく進めるはずだ。

 問題は三階層からの雪原階層。積雪量が多く、しかも吹雪いている。

 探索しにくいのは間違いないから飛行部隊で地上部隊をフォローするような形になるだろうな。

 いずれにせよ攻略には時間が掛かるだろう。


 情報があるのは四階層の途中まで。そこから先は侵入者の中でも未探索領域だ。

 Dランクに上がった際の大改装でどこまで創れているか……おそらくは完璧には仕上がっていないはず。


 ランクアップしたばかりの塔は優先的に侵入者の入る階層を仕上げ、上層に関しては後回しにする場合が多い。

 もちろん今回の塔主戦争バトルにあたり創ってはいるだろうが、魔物や罠はとりあえず配置しただけということも大いにありうる。

 まだ完成形の塔構成にはできていないのではないか、という予想だ。



 なんにせよしばらくはゴブリンキングとスフィンクスに任せて大丈夫。

 私が注視しなければならないのは【黄砂の塔】に入ってきている敵攻撃陣のほうだ。


 寒冷の魔物がどうやって砂漠の階層を攻略するつもりなのか。

 それが気になっていたのだが……正直驚いた。



 先頭のフェンリルが氷のブレスを吐き、氷の道を作っていたのだ。地上部隊のウェンディゴたちはその上を歩いている。

 それにより砂に足がとられることもなく、探索速度が異常に速くなっていたのだ。


 まずフェンリルのブレスの範囲が異常。まるでドラゴンのそれだ。

 おそらく神造従魔アニマであり眷属であるからだとは思うが、Aランクの神造従魔アニマとはこれほどのものかと思い知った。


 しかし一階層から道を作る為だけにブレスを吐き続け、魔力が持つはずがない。

 自塔が攻略される前に最速の攻略を目指す、ということで力押しをしているはずだ。

 だからこそ、そのフォローのためにクロセルを連れているのだと。



 ならばなるべく時間を掛けさせ、上層で仕掛けたほうがいい。

 フェンリルが完全に消耗すればあとはクロセルを相手にすればいいだけだ。

 クロセルも飛行系の魔物ということで楽な相手ではないが、神造従魔アニマのフェンリルと比べれば確実に劣るのだから。


 同じAランクでも神造従魔アニマと普通の魔物では危険度が違いすぎる。

 強い方が弱体化してくれるのであればありがたい。

 地面を凍らせる策はこちらにとっても歓迎すべきことだ。



 となれば九階層に集めておくか。八階層のボスも。

 六階層のサンドワーム(B)などはさすがに無理だが、小柄で強い魔物はまとめて九階層で当たらせてもいい。

 弱ったフェンリルとクロセルならばそれで十分に討ち取れる。


 天翔皇ホルス(★A)の鳥部隊、アヌビス(A)のウェアウルフ部隊、それとタイラントスコーピオン(A)。


 質でも量でも勝る防衛陣を揃えている。

 仮にフェンリルが万全な状態であっても問題はないはずだ。


 どうせ【六花の塔】の雪原攻略には時間がかかる。

 ならば防衛にも時間を掛け、九階層で一気に仕留めよう。

 私はその旨を眷属に伝え、画面を凝視し続けた。



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