372:【熱線の塔】戦、決着です!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
【熱線の塔】の探索は順調に進んでいった。
というのも【熱線の塔】に屋内階層というのは一階層しかないのだ。残りは屋外階層となっている。
迷路のような構造でない以上、最短経路も辿りやすいし、対処もしやすいというわけだ。
飛行系魔物が多い影響だろうな。
ファイアバード(D)やファイアドラコ(C)、上層にはフレイムドラコ(B)やファイアイーグル(B)なども出て来るが、基本的にはどの階層にも火属性の飛行系魔物がいる。
それと地上戦力である、フレイムボア(C)などの蛇系やファイアリザード(B)などの蜥蜴系、あるいは
地面は熱く、溶岩が流れるところもある。
そこに地上と空から火属性攻撃が襲い掛かって来るわけだ。
十三年目のCランク……なるほど侵入者からは嫌われそうな塔だな、と思った。
本来ならば相反属性である私の攻撃陣は進軍するにも苦戦するところである。
しかしそこを魔力によるゴリ押しで突き進んでいた。もちろんフッツィル殿の情報があってのことなのは間違いない。
フロージアは陣の付近を凍らせ、
近付く魔物はウルフたちと飛行部隊で次々に打ち倒す。
いくら熱に弱い寒冷系魔物だと言ってもこちらは二百以上の軍勢だ。対処の方法はいくらでもある。
途中、フロージアクイーンの部隊を前に出し、戦闘も経験させておいた。
フロージアジェネラルが指揮し、フロージアナイトの盾に当てた上で迎撃させる。フロージアは魔法要員だ。
中央に立つクイーンの指揮は的確で、私としてもかなり手応えを感じることができた。
……まぁ意外に好戦的と言うか、クイーン自体は後衛のくせに
うちの六階層にいる時には落ち着いている感じだったのだがな……戦場となると変わるタイプなのかもしれん。
地形の問題も解消し、魔物の対処も問題ない。となれば罠が気掛かりだったのだが、これはもうどうしようもない。
私の魔物に<罠察知>を持つ者などいないのだ。
これは今後の課題だろう。斥候系魔物を探しておく必要がある。
いくら屋外階層ばかりの【熱線の塔】とは言え、罠がないということはありえない。
仕方なしにアイスウルフ(C)に前を張らせ<危険察知>で対処するしかないのだが、それで全てを防ぐなど不可能だ。
いくらかの被害を出し、それでも予想以上に生き残ったと言えるだろう。
結局は十体ほどの魔物を喪っただけで八・九階層まで辿り着くことが出来た。
フロージアたちも魔力の切れた者が多かったが、一応付いて来させた。そこはクイーンにお任せだ。
七階層の最終地点でフロージア(D)は留守番となり、ウェンディゴ(C)たちも同様に護衛として残った。
残る攻撃陣は八・九階層へ。そこが決戦場となる。
放熱を続ける赤黒い岩に囲まれた荒野。そこに広がる敵の面子はすでに割れていた。
地上の正面にはファイアドレイク(A)とファイアリザード(B)の群れ。
周囲にはフレイムナーガ(A)とフレイムサーペント(B)の群れも見える。
最後衛には
空にはフレイムドラコ(B)とファイアイーグル(B)の群れ。
そして火のマンティコアを中心に、マンティコア(A)が三体。
合計で百は下らないだろう軍勢が、灼熱の階層で待ち受けていた。
『余裕勝ちですわね』
……アデル様、まだ私を油断させるようなことは仰らないで頂けませんか。
これから一大決戦なのですよ。いくら数で勝っていても嘗めてかかれる相手ではありませんので。
■ズゥリア 31歳
■第490期 Cランク【熱線の塔】塔主 獅子獣人
「なんなんだよあの化け物はよおおお!!!」
一階層の時から気にはなっていた。
アイスウルフに紛れた″獅子のようなナニカ″。
固有魔物であるのは間違いない。見た事も聞いた事もない魔物なのだから当然だ。
俺はAランク固有魔物だと当たりを付けていた。
だってそうだろう? 防衛にも固有魔物がいるはずだし、フリージアクイーンの軍勢まで用意しているのだ。
その上でSランク固有魔物などTPが足りるわけがないし、総合戦力で言ったらCランクどころかBランク程度の力を持っているということになる。
いくら【
【六花の塔】が二年目Dランクなのは間違いないんだ。
当然、報酬TPもほとんど貰えていないはずだし、それで出来る戦力強化などたかが知れている。
AとS、二体の固有魔物を召喚できる余裕などあるはずがないのだ。
しかしあの獅子はSランク固有魔物――それは間違いないだろう。
八・九階層での様子を見てすぐにそれは確信した。
七階層までは全く目立っていなかったのだ。今にして思えば力を隠していたのだろうが、まるで散歩でもしているかのようにウルフたちの群れに紛れていただけだった。
それが八・九階層に来た途端に正体を現した。
文字通り、容姿から何から変貌したのだ。
あの獅子は敵攻撃陣の前に躍り出ると同時、みるみるうちに身体を大きくさせていった。ウルフと同じようなサイズがあっと言う間に小屋のようなサイズへと。
顔付きも凶暴になり目付きは厳しく、牙も爪もするどく長い。
氷の鬣は身体中を覆うように広がり、まるで鎧を纏ったようにも見える。
『氷の凶獣』――そんな言葉が頭をよぎった。
変化は見た目だけの話ではない。身体から立ち込める白い冷気は周囲の空気を凍らせる。
四足で立つ地面は、その足元から氷に覆われていく。
『溶岩荒野』だぞ? その灼熱の地面がどんどんと凍っていくのだ。炎すら凍らせる勢いで。
そうして獅子を中心に氷の世界が出来上がる。
最早その一角は【熱線の塔】ではない。【六花の塔】だ。
当然、敵攻撃陣は獅子の周りに布陣するし、こちらも仕掛けないわけにはいかない。
なにせ獅子が一歩近づくだけで氷の世界が広がるのだ。このまま近づかせては有利なはずの八・九階層が丸々【六花の塔】化してしまう。
そうはさせまいと近づいて攻めるしかないのだ。火の軍勢の総力をもって。
マンティコアフレイム(★A)には当然、獅子の討伐を最優先で命じた。
歩くだけで災害みたいな化け物だ。自由にさせるわけにはいかんと。
しかし――やはりSランク固有魔物だったのだろう。力の差は歴然だった。
上空から炎のブレスを吐こうともヤツの纏う氷は溶けず、強烈な咆哮で身体を竦ませられ、極寒のブレスをまともに食らった。
獅子のように軽やかな動きではない。まるで不動の要塞に遠距離武器が備わったようなものだ。
直接攻撃を仕掛けようとファイアドレイク(A)の部隊を無理矢理突っ込ませたが、結果は散々たるものだ。
獅子の身体には傷一つつけることなく、全ての攻撃が氷の鎧で弾かれる。
そして地面の氷がドレイクの足をも捕らえるように固め始め、あとは爪と牙の餌食だ。
近寄れない。攻撃が通らない。斃せない。
遠距離でどうにかするしかないのだが、周囲にはクロセル(A)、スフィンクス(A)、フレスベルグ(A)の部隊がいる。
こんなもの……こんなものどうしろって言うんだ!!!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
『はーいしゅ~~りょ~~! 【六花の塔】の勝ち~~!』
結果だけ見れば完勝と言っていいだろう。しかし私にとっては
ただ色々と試すことが出来たのでそれは非常に有意義であったと言えるだろう。
ペロが使えるという結論は変わらないが、やはり巨大化した際の敏捷の低下はどうしようもないし、遠距離攻撃に対する手段に乏しいとよく分かった。
火のマンティコア相手には上手く決まったが、これが
咆哮やブレスを避け、強力な火魔法なりブレスなりで攻撃され続ければいかにペロと言えども一方的にやられるだけだ。
その為にはサポートできる飛行戦力の増強が求められる。
ついでに言えば斥候部隊の編制だな。そこら辺が次のステップになるだろう。
この三戦で得られた召喚権利はこのようなものだが――
=====
【鬼面の塔】鬼将カムゥロイ(★A)、オーガキング(A)
【息吹の塔】ストームグリフォン(★A)、スコールドラコ(B)
【熱線の塔】マンティコアフレイム(★A)、マンティコア(A)、
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残念ながら斥候特化と言える魔物はいない。
【黄砂】の魔物のデザートアサシン(B)ならばいるのだが砂漠の魔物だからな……【六花の塔】との相性が悪すぎる。
飛行系ならばそこそこいるのだが……火属性の魔物をどうすべきか迷いどころだ。
ストームグリフォンはうちの塔でも合うと思うのだがな。マンティコアフレイムは……シルバやペロと喧嘩するのではないだろうか。
Cランクに上がるためには固有魔物をもう一体召喚させておいた方がいいような気もするが……Sランク一体だけでは足りないだろうか。まだ二年目ということを踏まえればやはりもう一体だろうか。
おそらく後期には【世沸者の塔】もCランクに上がるだろうし、出来ればそれと一緒に上がりたいものだが……。
まぁそこら辺は追々の話だ。
とりあえず【熱線】同盟の三塔は片付けられたので今は良しとしておこう。
しばらくは純粋に塔運営を頑張るしかないだろうな。
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