371:【六花の塔】vs【熱線の塔】始まります!



■ズゥリア 31歳

■第490期 Cランク【熱線の塔】塔主 獅子獣人



 【六花】を斃すためにはなるべく早く仕掛ける必要がある。時間を与えさせてはダメだ。

 あの同盟連中の成長速度は尋常じゃない。

 少しの間で俺の塔の対策をし、上回って来る恐れがある。


 仕掛けないという選択肢もない。

 二戦もその戦いをこの目で見たのだ。そのアドバンテージを捨てるというのは勿体ないどころの話じゃない。塔主失格だろう。


 今さら【六花の塔】をDランクだとも思っちゃいないが、それにしたって相反属性の分こちらが有利には違いない。

 むしろ叩くなら今しかないだろう。



 【息吹】戦で見えた【六花】の戦力。攻撃陣には五種六体のAランク魔物がいた。


 フェンリル、氷貴精レーシーが二体、クロセル、フレスベルグは【六花】の寒冷系魔物だ。物理・魔法・回復・飛行とバランスも良い。

 スフィンクスは【黄砂】の魔物だろうな。こちらも飛行・回復。


 指揮官となるAランクで固めた部隊は、もうDランクの塔の攻撃陣とは言えないほどに精強。

 これを打ち破るにはこちらもAランクを揃えるか、それ以上の力が必要となる。


 つまりマンティコアフレイム(★A)だ。うちの固有魔物をぶつけるしかない。


 そこに他のAランク魔物――炎貴精サラマンド、ファイアドレイク、マンティコア、フレイムナーガ――を組ませて万全の守りを固めれば、【六花】の攻撃陣は確実に斃せる。



 ただそれは【六花】の攻撃陣があのままだったら、という話だ。


 二戦とも同じ陣容だったから基本形であるのは間違いないはずだが、相手が俺の塔となれば変えて来ることも考えられる。

 【六花】にしてみれば一つ上のCランクで尚且つ相反属性の塔。これに対処しないはずがない。


 考えられるのは固有魔物の召喚を行い、単純に戦力を上げること。

 おそらく防衛陣の大ボスとして固有魔物はすでに召喚しているだろう。でなければあれほどの攻撃陣を捻出は出来まい。

 巨体で堅牢な守護者がいて、だからこそ信頼のおける神造従魔アニマも攻撃陣に出しているのだと。



 その上さらに固有魔物を召喚できるのか、と普通のDランクが相手ならば思うところなのだが【六花】に関しては【鬼面】と【息吹】の報酬TPがある。

 これをつぎ込んで固有魔物を召喚し、俺の塔にぶつけてくるのではないかと思うのだ。


 Sランク固有魔物の可能性もある。

 そうなるとすでに大ボスとして召喚しているであろう固有魔物と合わせて二体もの固有魔物を抱えているということになり、Dランクの塔としてはありえない事なのだが……【六花】ならばありえるというのが恐ろしいところだ。


 もしAランク五体の攻撃陣にSランク固有魔物が加わった場合、やはりマンティコアフレイムだけでなく他四体のAランクも同時に襲わせるべきだろう。

 それぞれの配下を持ちより、大部隊をもって敵攻撃陣に当てるしかない。



 ただそれでも不安だ。いくら地形が有利であってもSランク固有魔物と戦って確実に勝つとは言えない。


 ならば俺も戦力補強を……と思うわけだが、俺にSランク固有魔物を召喚できるほどのTPはない。

 他塔のAランク固有魔物の召喚権利もない。

 ということで炎貴精サラマンドとマンティコアを二体ずつ追加で召喚した。これが限界だ。


 Aランク固有魔物のマンティコアフレイム、そして十体のAランク魔物で勝負をする。

 これで【六花】の攻撃陣がSランク固有魔物と六体のAランク魔物であっても対抗できる。

 決戦場が【熱線の塔】八・九階層『溶岩荒野』であれば地形的にもこちらが有利。これならば勝てる。



 そうなると最後に残る問題が「攻撃陣に割く魔物がいない」ということだ。

 Aランクの魔物を削って攻撃陣に回すほどの余裕はない。


 【息吹】戦で見た【六花の塔】の難易度は高く、やはりマンティコアフレイムの力が必要になってくるだろう。

 大ボスに固有魔物が控えていることを踏まえれば、やはり全軍で仕掛けるしかないだろうな。



 となれば最初は防衛に徹し、敵攻撃陣の殲滅を狙う。その上で攻撃に転じる、という形か。

 【六花】は二戦とも攻め気のある戦い方だった。俺の塔が相手でも攻め気のままでいてくれるならば良いが……。

 普通に考えれば防衛策だろうな。相反属性の塔が相手だし、地形的に有利な状況で戦いたがるはずだ。俺がそうであるように。


 もし【六花】が防衛策で出るようであれば我慢比べ。

 俺から攻撃に出ることは考えない。獣人の体力を嘗めるなよ? 何日でも待ち構えてやる。



 そうして送った塔主戦争バトル申請。

 日を置かずに返って来た【六花】の答えは――″受理″だった。





――カラァン――カラァン――



『はーい、二人とも準備はいいかなー?』


「おう」『はい』


『じゃあ始めようか! 交塔戦クロッサー! 【熱線の塔】対【六花の塔】! 塔主戦争バトルスタートっ!』



 神の号令の直後、転移門から【六花】の攻撃陣が入ってくる。

 どうやら防衛策には出ないらしく、【息吹】戦のようにこちらの出方を伺うということもないらしい。

 単純に「攻める」と、そう意気込んでいるようにも見えた。


 画面を注視し、敵攻撃陣の陣容を確認するが――



=====


 フェンリル(A)1、アイスウルフ(C)40、ウェンディゴ(C)30、イエティ(B)10

 クロセル(A)1、スフィンクス(A)1、氷貴精レーシー(A)2、ジャックフロスト(C)20

 フレスベルグ(A)1、ブリーズイーグル(B)10、スパルナ(C)30

 フロージアクイーン(A)1、フロージアジェネラル(B)5、フロージアナイト(C)20、フロージア(D)50


=====



「フロージアクイーンだと!?」



 途中までは予想通りの陣容だったのだ。数こそ多いものの過去二戦と変わりない攻撃陣だと。

 最後の最後でとんでもない軍隊が現れた。

 まさしく本陣と呼べるようなフロージア部隊が。


 【六花】が用意したのは固有魔物ではなくフロージアクイーンの軍勢だったのか……!


 確かにフロージアクイーン単体ではAランク止まり。

 しかしクイーン種は部隊を率いてこそ真価を発揮する。

 守りを固めるナイト、指揮官となるジェネラル、魔法部隊のフロージア、それらがクイーンの元にまとまるならば……それは固有魔物と戦えるほど精強となるだろう。



 ……いや待て、フロージア部隊は確かに予想外だったが全てが地上部隊で、尚且つ熱に弱いのは変わらない。

 であればマンティコアフレイムが有利なのは間違いない。

 先にクイーンさえ落とせばあとはどうとでもなる。


 Aが7、Bが25、Cが140、Dが50……計222体もの大軍ではあるが、七階層まででかなり削れるはずだ。敵攻撃陣からすれば地形だけでも深刻な問題に違いない。


 その上で八・九階層での決戦となればこちらに分があるのは当然――



 ――と考えていたところで、アイスウルフの群れに紛れた異物・・が目に留まった。



 氷のような鬣と黒い巻き角。それは明らかに″狼″ではない。

 なんなんだあの魔物は……。





■シルビア・アイスエッジ 23歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



 私は【氷獣ファーブニル(★S)】を眷属化した。

 予想外に使える性能であったし、やはり自分の塔のSランク固有魔物なのだから眷属化して当然だろうと。

 それによって他の戦力補強がほとんど出来なくはなったが後悔はない。それほどの価値はあると思っている。


 ちなみに名前はペロだ。私にネーミングセンスはない。

 最小化している時は活発で甘えん坊で私にすり寄ってくるのだ。フェンリルシルバにもかなり懐いている。


 まぁ最大化するとシルバよりも恐ろしくなって″ペロ″どころではなくなるのだがな……普段は子犬のようなものだから。



 ペロを主軸に据えるということで【熱線の塔】と戦う上での方針も変わった。

 やはりSランク固有魔物を攻撃陣として使えるということは大きい。

 私はてっきり防衛でしか使えないと思い込んでいたからな。嬉しい誤算だったわけだ。


 【熱線の塔】の情報はすでにフッツィル殿から受け取っている。順路も魔物も問題はない。

 ズゥリアが防衛策に出ることも、八・九階層の『溶岩荒野地帯』に主力を揃えていることも、全て把握している。


 火のマンティコアがSランク固有魔物だった場合はペロに加えてシルバの援護も必要だろう。場合によってはクロウや氷貴精レーシーも必要だとは思うが、そこは連携と策でカバーするしかない。



 となると考えるべきはそこまでの道中だ。

 【熱線の塔】は地面が熱かったり、気温が高かったりするわけで、【六花】の魔物にとっては普通に探索するだけでダメージにもなりうる。

 順路を真っすぐ進み、魔物を順調に対処しても、八・九階層に辿り着くだけで被害が出ていることも考えられるのだ。


 本当ならペロを巨大化させて進ませればそれで良い。ただそこにいるだけで周辺を冷たくするし、その気になれば範囲を拡大させることも出来るらしいので、ペロの周りに布陣するだけで熱対策になるのだ。


 しかしペロの巨大化は八・九階層まで取っておく。火のマンティコアが怖いからな。手の内はなるべく見せたくはない。

 だから最小化させてアイスウルフの群れに紛れさせる。


 まぁ見た目が違うので紛れるのは不可能だし、固有魔物であることはすぐにバレるだろうが、「あのサイズでSランクなわけないだろう」と誤認させることは出来るかもしれない。

 侮ってくれるならばありがたい。油断を突ければ最高だ。



 ということで、道中の熱対策はフロージアクイーンに任せることにした。

 シャルロット殿の階層案をもとに召喚していた魔物だが今までは大ボスとして六階層の『氷の神殿』に居させていたからな。


 今回は相手が完全防衛策で攻撃に出てこないし、いつまでも戦闘経験がないままではクイーンからも不満が出る。

 それもあって、道中、地上部隊の指揮は任せている。シルバは補佐と遊撃だな。


 Dランクのフロージアを大量に送り込んだのもそのためだ。

 フロージアの仕事は魔物の対処でもなく、斥候的な役割でもなく、あくまで氷魔法による周辺の寒冷化が第一。

 味方部隊が戦いやすい、進軍しやすい環境を整えるのがフロージアの役目だ。


 もちろん七階層分も魔力が持つわけがないので、そこはクイーンの運用だったり、クイーン自身の氷魔法であったり、シルバのブレスで代用もできるだろう。


 最悪、魔力の切れたフロージアをどこかの階層に置いて進んでもいい。どちらにしろ八・九階層の決戦の際にはフロージアは加われないのだしな。ランク的に。



 クイーンも今回の戦いにはかなり気合いが入っているようだし、その指揮を見るのも今回の塔主戦争バトルの見所の一つだと思っている。

 【熱線】を嘗めているわけではないが、私自身、確認しておかなくてはいけないことだからな。



『さあ、行きなさい、わたくしの軍勢よ! 全てを凍らせ、全てを砕いてあげましょう! ほらそこ! 魔法の範囲が甘いですわよ! しっかりなさい! そこの狼もちゃんと索敵なさい! 報告が遅いですわよ!』



 うーむ……いや、かなりしっかりとした女王っぷりだとは思うが……一応、私の軍勢なのだがな……。



=====


明日から毎朝8時に1本ずつ投下になります。

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