370:シルビアさんは対策を練っています!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
私は【鬼面の塔】と【息吹の塔】を斃してから、【熱線の塔】対策に取り組んでいた。
すぐに
いくら同盟の先達方々が傍にいて、それが手掛けた【六花の塔】があっても、【熱線】が格上の相反属性ということには変わりない。
向こうもそれは承知だろう。私に時間を与えるよりも早々に仕掛けたほうが簡単に勝てると思うはずだ。
しかし未だ申請は来ていない。それはなぜか。
【熱線】のズゥリアが必要以上に私を警戒しているからに他ならない。
「予想以上に手強いから申請するのはやめよう」か「予想以上に手強いから対策を練ってから申請しよう」の二択だ。
前者ならば私のほうから申請するつもりではあるが、果たしてそれに乗るかは微妙だな。
いずれにせよ私としては戦う前提で考えておこうと思っている。
【熱線】対策として考えなくてはいけないのが、大きく三つ。
まずは火対策。【熱線の塔】は暑いというか熱い階層ばかりだし、魔物はほぼ全てが火属性。
火魔法か、火のブレスか、火を纏った物理攻撃か、そんなのばかりだ。
こちらが対応を間違えれば簡単に負ける。相反属性との戦いであるならランク差を意識した布陣にしなければならない。
ただそれは地形で補える部分もある。なので防衛に関してはそれほど考えなくてもいいかと思っている。
問題は攻撃だ。【熱線の塔】の中で相反属性の魔物を斃し攻略していくと。
そうなるとよりランク差を考えなくてはいけないし、陣容や策に頭を悩ますところなのだ。
おそらくズゥリアもどうやって【六花の塔】を攻略したものかと考えているに違いない。
攻撃陣を厚くするか、何かしらの策を持って挑んで来るのではないだろうか。
……まぁ申請してくるかどうかは分からないが。
次に飛行対策だな。【熱線】の魔物にはファイアドラコ(C)やファイアバード(D)などの飛行系魔物が多くいる。
固有魔物も飛行系だからたちが悪いのだが、そうした魔物の対策も練らなければならない。
私の塔にも飛行系はいるのだが、地上戦力に比べれば貧弱だからな。
相手の主力が飛行系の上に火属性であることを踏まえれば、より考えておく必要があるだろう。
最後にその固有魔物だ。【熱線】には身体が燃えている赤いマンティコアがいるらしい。
SランクなのかAランクなのかは分からない。
ただ火属性に特化したマンティコア(A)なのは確定だ。なんとも厄介な魔物がいたものだ。
普通に考えれば大ボスなのだが、攻撃陣で使って来ることもありうる。
そうした場合、【六花の塔】の魔物はことごとく蹂躙されるだろう。仮にAランク固有魔物だとしてもだ。
なにせ私の塔の最高戦力は
他のAランク戦力を集中させれば戦えるかもしれないが、どう考えても被害は甚大なものになるだろう。
相反属性でないスフィンクス(A)にしても部隊で当たらせたところで勝てるかどうかは微妙なところだ。
ならばどうするか――こちらも召喚するしかない。
火のマンティコアに対抗できるだけの固有魔物を用意するしかない、のだが……。
=====
【六花の塔】氷獣ファーブニル(★S)、霜巨人ヨートゥン(★A)
【青の塔】青竜リヴァルナーガ(★S)
【魔術師の塔】デュアルドレイク(★A)
【黄砂の塔】天翔皇ホルス(★A)
=====
私の召喚できる固有魔物はこのようなラインナップとなっている。【息吹】と【鬼面】のAランク固有魔物もいるが置いておく。
相反属性で考えればファーブニルかヨートゥンかリヴァルナーガだ。【六花の塔】との相性も良い。
しかし三体とも巨体だと思われる。
巨人と青竜は言わずもがな。ファーブニルは分からないが『氷獣』というのは過去の文献にあった。家ほどの大きさの獣らしい。
となれば防衛にしか使えず、仮に火のマンティコアが防衛にいた場合、攻め込んで斃すということが出来ないのだ。
デュアルドレイクは火と雷のブレスを放つ亜竜だが、これも攻撃陣には使えない。
そうなるとホルス一択になるのだが、
TPは十五万ほどある。Sランク固有魔物を召喚して眷属化できるくらいはギリギリあるのだ。眷属枠も一つ余っているしな。
二体を召喚して眷属化しない、という選択もとれる。
ホルスとフレスベルグ(A)数体の部隊を創るというのもアリかもしれない。
「――と悩んでいるのですがどう思われますか?」
『うーむ、ホルスとフレスベルグが安定しそうに見えるが、場合によっては数で負けるからのう』
『火のマンティコアがSランクだった時はかなり辛くないですか? フレスベルグ十体でも下手したら負けますよ』
『ウチやったら完全防衛策に出て【六花の塔】の、しかも屋内地形の場所でどうにかするかな。そしたら敵の飛行系魔物もある程度は抑制できるやろし』
『そ、それにしたって厳しくないですか……? 空にSランクで火属性のマンティコアがいるとなれば【六花の塔】のどこで戦っても難しそうですけど……』
火のマンティコアを対処するなら【六花の塔】で何とかするしかない。
それは即ち大ボスという存在をこちらに引きずり込む必要があるということだ。
ズゥリアも【熱線の塔】で私の魔物を削りたいと思っていることだろう。
そうなれば防衛策同士の耐久戦になる。レイチェル殿たちが「やめろ」と言っていた形だな。
『わたくしでしたらファーブニルを召喚しますかね』
『わしも二案がそれじゃったが、アデルの考えは?』
『フレスベルグを頼るのでしたら
『不確定なAランク固有魔物に頼るのを止めるちゅうことか』
『Sランク固有魔物でしたら仮に火のマンティコアがSランクでも【六花の塔】の地形でこちらが有利ですしね』
なるほど……それで火のマンティコアが大ボスとして鎮座していても、そこまでの魔物は問題なく【熱線の塔】を攻略できる。
そしてその時の戦力状況で、そのままマンティコアに当たるか、さもなくば退くかだ。
もし大ボスの直前で退いたら、【熱線の塔】を蹂躙されたズゥリアも黙ってはいられないだろう。無理矢理にでもマンティコアを動かすしかない。
私の攻撃陣は転移魔法陣で【六花の塔】に帰還する。
マンティコアは必ず追ってくるだろう。つまり【六花の塔】で戦うことになる。
ファーブニルを六階層に置いたとしても転移魔法陣で一階層に移動させれば、入口がそのまま決戦場に早変わりだ。
「それはいいかもしれませんね。試してみる価値があります」
『リヴァルナーガでもいいですけれどスペース的にはファーブニルのほうがまだマシでしょうし、何より【六花】の固有魔物ですからね。優先させるに越したことはないでしょう』
やはり聞いてみるべきだな。
私にないアイデアが次々と出て来るし、五人が五人とも個性が違うから腹案を得やすい。
毎度のことながら得難い環境に身を置いているのだと実感する。
善は急げと私は早速召喚をした。
私にとって初めてとなる固有魔物、それもSランク固有魔物の召喚だ。
私は目を見開いて、ゴクリと唾を飲みこんだ。
一体どのような魔物が現れるのか。期待半分、畏れ半分。それは冒険者として数々の魔物と戦ってきたが故の恐怖だろう。
果たしてこの魔法陣に見合う巨大な化け物が本当に私のものに――
「ガウ!」
「えっ」
魔法陣から出てきたのはアイスウルフ程度の大きさの魔物だった。体高は私の腰程度だろう。
獅子のような身体に氷の茨のような鬣、そして山羊のような角。
なんとなく文献で見る『氷獣』と同じようにも見えるが、これは……。
「ええと……氷獣ファーブニル……で、合っているか?」
「ガウ!」
「そうだと言っています」
「そ、そうか……私は【六花の塔】の塔主、シルビア・アイスエッジと言う。その……よろしく頼む」
「ガウ!」
「よろしくと言っています」
通訳の
本当か?
そう思って私は
その後、クロウの通訳を交えつつ色々と話し合ったり検証した結果、ある程度ファーブニルの能力を知ることができた。
まず身体の大きさは変えられるらしい。最小が現在の狼サイズで、最大が体高4mほどの家サイズだそうだ。
実際に見させてもらったが巨大化すると鬣となっていた氷の茨が全身に纏うような感じになり、一気に重厚で恐ろしい印象に変わる。牙や爪も伸びてまさしく『氷獣』といった感じだ。
戦い方も変わるらしい。
小さい時は敏捷に優れ、氷を纏った爪撃と氷のブレスが主な攻撃手段。
大きくなれば敏捷は極端に低くなる代わりに防御力と体力が桁違いになる。おまけに周囲を凍らせるような冷気を絶えず発するらしい。私のそばで巨大化はするなと厳命しておいた。
その他、氷を使った攻撃手段や防御手段が増えるため、強敵と戦うならば巨大化したほうが良さそうに思える。
但し斥候スキルも持っているため、塔の攻略をする際には小さな身体のほうがいいだろう。
そうした使い分けが出来るということだな。
……Sランク固有魔物とは色々と規格外なのだな。
『となれば作戦は大幅に変更ですわよ』
「はい、私もそう思っていました。策もそうですが攻撃陣も防衛陣も見直しですし、ファーブニルを眷属化すべきか、それとも配下となるような魔物を召喚しておくべきか、それも考えなければなりません」
『まぁそれでも良かったんちゃう? 思いの外使い勝手のいい固有魔物やったってことやから』
『うむ、わしからすれば攻撃陣に使えるSランク固有魔物というだけで羨ましいわい』
それはそうだ。嬉しい誤算と言っていいだろう。
ファーブニルを主軸に据えるのは決まった。そこからどのように戦力を整え、策を練り、【熱線】を迎え撃つか――
――ピロン
=====
【熱線の塔】から
形式:
受理 却下
――手紙添付なし――
=====
はぁ……タイミングが良いと言うか、悪いと言うか……。
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