第二十章 女帝の塔は三年目も戦います!Ⅱ
369:新塔主たちも話し合っているようです!
■メルティエンリ 23歳
■第502期 Eランク【毒の塔】塔主
「むっずいね、こりゃあ。罠のポイントを1mずらしただけで戦果が変わるとか。そんな思考誘導めいたこともしなきゃならないの? 塔主様ってのは」
「そこが面白いんじゃないか。不確定要素の中に黄金律を求めるようなもんだ。まるで錬金術みたいじゃないか」
「錬金術って決められた素材から決められた薬を作るんじゃないの?」
「それは過程の一部であって、例えば
「うわー、めんどいわー、私には絶対無理だわー」
【毒の塔】がオープンしてから一月。私は相変わらず塔運営に従事している。
やっていることは侵入者の動きを見つつ、日々改良という感じ。これがなかなか面白い。
今までは物質相手の研究だったものが、今は人を対象に行っているわけで。
そこには対象の思考だったり、他者の動きだったり、こちらの塔構成・魔物配置も絡んだりするものだから常にランダムなのだ。
安定してTPを稼ごうと思ったらなるべく利益率の良い方法を見出さなくてはならない。
こちらのTP消費を最小にして、ダメージTPなり討伐TPを稼ぐと。
その為にはどうすればいいか、と考えるわけだね。
おそらくこうした試行錯誤というのは私たちのような新人塔主や低ランク塔主が行うべき基本作業なのだろうと思っている。
ランクが上がれば上がるほど侵入者の
でなければ高ランクの塔が毎年後期のランキングで上位に居続けるのがおかしいって話になるからね。
もちろんそれ以外にも要因はある。
例えばバベルジュエルの存在。高ランクの冒険者は高ランクの塔に挑む時に所持していることが多いという。
それを持っていれば死なないということは、死ぬ前提で探索を進めることも多いということだ。
そうして死んだ場合、討伐TPはどうなる? おそらくバベルジュエルに内包されたTPを塔が得られるということじゃないだろうか。
そう考えれば、高ランクの塔がいつも上位にいる理由にもなる。
他には限定スキルもあるだろう。いわゆる内政型限定スキルというやつだ。
高ランク侵入者から一定量のTPを得られるようなものならば、それもまた理由の一つに挙がるはずだ。
もちろん内政型でなくとも限定スキルを使って討伐TPを得られやすくするなどの方法もあるだろうが。
あとはまぁ手っ取り早く
そもそも高ランクの塔は
……と言っても全ての高ランクの塔が
『神様通信
本日行われた
【氷牙の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
「おっ、これBランク同士じゃん。やるねぇ。ん? この【赤の塔】ってのは例の?」
「そうそう。【
「話に聞くとおりの戦闘狂集団だねぇ。直近だけでも……五塔目?」
「だね。まぁ一概に戦闘狂集団とも言えなそうだけど」
現状で500期トップ5の【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】【世沸者】に501期トップの【六花】を加えた六塔同盟。これがバベルで最も人気のある同盟と言われているらしい。
それもそのはずで、三年目にして四十以上の塔を屠っているのだ。馬鹿げた数だね。
その中には【魔術師】【傲慢】というAランク二塔に加え、Bランクが十一塔も入っている。
下克上を繰り返し、連戦に次ぐ連戦。
そうして駆け抜けた末に【女帝】と【赤】は二年目後期でもうBランクに上がってしまった。
こんなもん人気が出て当然だろう。称えるか呆れるかは分かれるだろうが私としては称賛するしかない。
ただまぁ【
新人Eランクの【毒の塔】がDランクの塔とかに
でも今なら「【
少なからず私たちが下剋上を出来る土台が出来上がっているんだ。
「私ももうちょっと強い相手と戦っておきたいんだけど。身体の動きもそうだけどこの世界の魔物にも慣れておきたいし」
「だよね。まぁもうちょっとで塔も安定するからさ、それまで我慢しといておくれよ」
「侵入者相手ってのも気が乗らないんだよねぇ。私あんまり人を斬ってこなかったから」
オープンしてすぐ、Fランクの新人塔主を相手に
でもうちの
検証も何もない。ただピーゾンの訓練をしただけだ。
だから頭のイメージと身体の動きが伴わずに常に違和感があるらしい。面白いもんだね。
ピーゾンは特に″動き″を重視した剣士らしくて、そこら辺のアジャスト作業は未だに最重要課題になっているようだ。
そのために高ランクの塔と
要望としては「とりあえずAランクの魔物」らしいんだけど……そんなのCランクの塔にいかないといないんじゃないか?
Dランクの塔でも大ボスくらいにはいるものなのか? 私にはまだそこら辺が分からない。
まぁピーゾンはうちの生命線でもあるからね。私も塔主として最大限の援助はしてあげたい。
【毒の塔】がある程度安定したら一先ずDランクの塔に申請してみようか。
で、その結果でCランク……は、ちょっと速いかな。
私たちは【
■コレット・パロ 38歳
■第480期 Aランク【黄の塔】塔主
『うーむ、今度は【氷牙】を単独で、か。【赤】はやはり手強いのう』
『その前に落とした【黄神石】のほうがランキング的には上ですがね。相反属性と考えれば【氷牙】のほうがやりづらかったとは思います』
『あたしの【炎魔の塔】は【氷牙の塔】よりちょっと上だけど戦いたくはない相手だね。まぁ【黄神石】のほうが嫌だが』
同盟で画面を結び、話し合いながら塔運営をする。そんなことにも慣れてきた。
今まで二十年以上も孤独にやってきたのが馬鹿らしく思えるほど効率的だ。まさかこれほどのものだとは思わなかった。
私の塔に直接的な″利″はないが、エドワルド陛下にとっては分からないことをすぐに聞ける状況であり、それはその日のうちに【橙の塔】へと反映される。
改善の速度が段違いなのだ。考察も検証も必要ない。私たちが答えを持っているのだから。
それは【炎魔の塔】や【聖殿の塔】にも言える。私と相談することで改善できる点は多い。
即ち同盟全体の成長に繋がるというわけだ。
そして情報を共有できるという意味でもありがたい。通信しながら塔運営をするありがたみを日々感じている。
『わしとしても出来るだけ多く戦っておきたいのだがのう。経験という意味で』
『やはり先日のFランクでは不足すぎましたか』
『そりゃあただの″死にたがり新人″だからねぇ。介錯をしてやっただけで力試しにもなっちゃいないよ。ただ本格的に戦うってんなら相手を選ぶべきだろうけどね』
『これだけ盛んに
新塔主の顔ぶれ、ランクアップした多くの塔、例年通りとも言える【
いずれにしてもエドワルド陛下は【橙の塔】を逸早く強くさせようと奮闘しているし、その為にも
それ自体は悪いことではない。TPは稼げるし、戦績もランクアップには重要視されるだろうから。
とは言え今はまだオープンして一月。【橙の塔】が安定したとは言えず、その状態で確実に勝つ
エドワルド陛下が【赤の塔】とその同盟【
陛下の目的はメルセドウより上に立つこと。
その為にはいずれ斃さなければいけない相手なのだ。
その【赤】が高ランクの塔相手に連戦連勝しているとなれば焦るのも無理からぬことだろう。
【節制】同盟は二塔がランクアップしたことでまともに動けない状態にある。
一方で【
『コレットよ、其方は【赤の塔】をどう見る』
「最低でもBランク上位相当の力を持っているのは間違いありません。フレイアとて戦いたくはないでしょう?」
『当たり前だろう。分の悪い賭けをするつもりはないよ』
『ふむ、では【女帝】はどうだ?』
「現段階でも負けがありうる、という感じですね」
『それほどか……これはなかなか骨が折れるのう』
『ははっ、Aランクの【黄の塔】様でも危険ってか。そこまで強いかねぇ。いやヤバイってのは分かるんだが』
あの同盟の数々の下剋上を為してきたのは間違いなく【女帝の塔】があってこそだ。
もっと言えばあのメイドだな。規格外の
と言うか、それ以外に答えがないと言ったほうが正しい。
【赤の塔】を単独で狙うのであれば如何様にも対処できる。
しかし【
となると、【風雷の塔】のメイドも気になるところだが……これをどうするかも考えものだな。
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