422:【節制】同盟は色々探っているようです!
■アズーリオ・シンフォニア 42歳
■第487期 Aランク【節制の塔】塔主
『――ということですので、あの戦力であれば【空城】同盟に勝てたのも順当かと』
『
『【空城】同盟の限定スキルを封じれば勝てると確信していたわけですな……』
なんとも頭の痛い日々だ。
デルトーニから毎日のように上がってくる報告は、私たちをどんどんと崖に追い込むような気持ちにさせていた。
【戦車】のデルトーニは二つの限定スキルを持っているが、その一つが諜報型限定スキル<創作戦車>だ。
どんな物体でもデルトーニが触れば″戦車″に変えることが出来る。
動かしたり攻撃したりも出来るが、一番使えるポイントは『デルトーニ自身の視覚と聴覚をその戦車に
例えば紙屑を戦車化し、街中へと偵察に出すことも出来る。
冒険者の手荷物でも触ればその冒険者が侵入する他塔の内部に侵入も出来る。
塔に入ればデルトーニ自身が操作し、自由に動かし、自由に見聞きすることが出来るというわけだ。
ただ、どんな物体と言ってもそのサイズには限界がある。
最低でも小指の爪ほどの大きさで、多少の厚みがなくてはならない。
そして小さければ小さいほど移動速度は遅くなる。壁を登ることは出来るが天井には張りつけないなどの制約もある。
【
まず扉が閉まっているところは通れないので進める階層に限度があるのだ。
従って【女帝】【忍耐】【世沸者】は侵入者の最高到達地点までしか進めていない。
それに最上階近くまで行くと、敵にバレる恐れがある。
戦車に気配があるわけではないのだが、小指の爪サイズの物体が動いていたらさすがに不審に思うだろう。
特にSランク固有魔物や
だから最上階に近づけるのは止めて、到達階層までの塔構成や魔物戦力を調べることに注力していたのだ。
しかしメルセドウの一件を受けて積極的に調べざるを得なくなった。すぐにでも戦う準備をしなければいけない。
狙ったのは【六花の塔】だ。
ここならば
塔主のシルビアが寝ている時間帯などを見計らって戦車を動かせば最上階まで行けるはずだと。
デルトーニは何日も掛けて【六花の塔】を上り、無事に最上階まで戦車を進ませることが出来た。
固有魔物の獣も見かけたがどうやら気付けないらしい。まぁ子犬のような見た目らしいので無理もないが。
ともかくこれで潜入には成功。それからはシルビア越しに【
シルビアは毎日頻繁に画面を繋いで話しながら塔運営をしていた。
そのおかげで他五塔の情報も多く手に入ったのだが、それが頭を痛くさせる原因にもなっていた。
濃すぎるのだ、その情報が。何度驚かされたか分からん。
直接耳にしているデルトーニなどは日々やつれていったほどだ。
まず【輝翼】のフッツィルが問題だ。
その正体がエルフであり、固有スキルか何かで諜報が出来ると判明した。これだけで大事件だ。
限定スキルではおそらくない。とにかく他塔の情報を見聞き出来るような能力らしい。
ただ諜報出来る塔には制限があるらしく、どうやらBランク以上の塔には効かないようなのだ。
つまり我々の塔には効果がないという事なのだが、念の為【魔霧】のゾロアには【節制の塔】の情報を流さないでおこうと思っている。Bランクに上がったばかりだしな。
私が申請した
アデルはともかく【忍耐】のドロシーと【輝翼】のフッツィルもかなり頭が切れるらしい。
こちらの思惑はある程度看破していたようなので、これからはそれを考慮して進める必要がある。
他にも色々と情報はあるのだが、そうこうしているうちに【空城】同盟と戦うという話が出てきた。
作戦会議は頻繁に行われ、どうやって戦うか、条文はどうするか、戦力の配置は、など詳しく議論されていた。
そこでもアデル、ドロシー、フッツィルが主導となり作戦を立てていく。
どうすれば【空城】側を騙せるか、どうすればこちらに有利に出来るかといった話し合いは老獪な策略家のそれだ。
少なくともデルトーニにとっては衝撃的だったらしい。私もそれを聞いて危機感を覚えたのだが。
並外れた三人の軍師はそれ一人で私に匹敵するだろう。
しかも種族も性格も塔もバラバラの三人だ。普通ならば話し合いなどまとまるはずがない。
ところが中心に【女帝】がいるせいでそれらが一塊になっている。デルトーニはそう感じたらしい。
なぜこの四人を同期とし、なぜこの四人を引き合わせてしまったのか。私は神を恨んだ。
そして作戦会議の中で出ていた戦力というのも問題だ。
魔物の総数や全体的な質で見ればさすがに私の圧勝だと言う。
しかし固有魔物の数に限れば向こうが上らしいのだ。
通常、一つの塔で召喚できる固有魔物は二体。それ以外は
その為にはその固有魔物を斃さなければいけないし、斃したところで自塔で使いやすい魔物でなければ召喚もしないだろう。
単体で使うならまだしも、配下をつけたり、同じ階層で戦う戦力が必要なのだ。
そういった魔物は消費しやすい分、自塔の魔物を使うべきだし、そうなるとあまり尖った固有魔物は使いにくい。
例えば水属性の塔で火属性の固有魔物など使いづらいだろう? 自塔戦力と共に戦わせることなど無理なのだから。
それならば自塔で元々召喚できる通常のSランク魔物を使った方がいいに決まっている。普通の塔ならばそう判断する。
しかしあの【
相反属性だろうが何だろうが無理矢理にでも召喚しているようなのだ。
【女帝の塔】など最たるもので、水棲の固有魔物を召喚し、それ専用に海の階層を創っているらしい。まだ戦車で確認は出来ていないが。
海階層など【女帝の塔】に沿わないのは当たり前で、階層を創るにも多大なTPが必要だろうし、そこに配置する魔物などリストにないはずだ。
にも関わらず【女帝】は召喚したと……。私から言わせてもらえば常軌を逸している。
その【女帝】に感化されたのか同盟全体でも同じような傾向があるらしく、結果として固有魔物を大量に抱える戦力となっていた。
『
この陣容で【空城】同盟如き斃せずしてどうするのですか。これで苦戦するようなら【聖】同盟はおろか【節制】同盟でさえも戦えないという結論になりますわよ』
作戦会議の中でアデルがそう言ったらしい。
六塔合計でAランク十一体、Sランク十体の固有魔物がいると。
こんな同盟がありえるのか、とさすがの私も恐れ慄いた。
しかしその
特に【女帝】はメイドを使わずに戦うのを不安がっていたと。
これもアデルの話に出たことらしいが、ジータとゼンガー(という名前らしい)にはそこまで戦力的に重きを置いていないと言う。
しかしメイドに関しては重要な戦力という位置づけらしいのだ。
そしてその中には『魔剣』『魔竜剣』『指揮』というキーワードも出ていた。
まずジータが戦力的に重要視されていないというのが驚きだ。
アデルも別に戦力として見ていないわけではない。
メイドがそれだけかけ離れた力を持っているということなのだと思う。ジータという特級戦力が小さく見えるほどに。
そしてその
固有魔物をかき集め、局所的な質を高め、力でねじ伏せた……のだと思う。
残念ながら
最上階に戦車があったのはあくまで【六花の塔】だからな。代表塔が【女帝の塔】である以上、その様子を窺い知ることは出来ない。
ただ【女帝の塔】を進めせていた戦車は八階層にあり、そこでの戦闘が見られなかったことから、おそらく七階層までで迎撃を済ませたのだと思われる。
もしくは【空城】同盟が完全防衛策に出ていたのかもしれんがな。私がヘルロック伯の立場であればそうするだろうし。
ともかくそういった情報が集まっている現在、デルトーニから入るそれは日に日に重要性を増している。
内容が濃すぎる上、我々の未来に直結した問題でもあるので余計に心労となっているのだが。
特に直接見聞きするデルトーニは【戦車の塔】がAランクに上がったばかりというのもあって忙しさに拍車をかけている。
塔主が過労で死ぬことはないが、心身共に堪えているのが分かるからな……しかし今は無理せねばなるまい。
現時点でも脅威である【
日々の運営でもそれは同じだ。成長率という点では群を抜いている。
私の【節制の塔】の戦力でどこまで対抗できるのかと言われれば疑問符が出るかもしれない。
しかし優位に立てるものもある。
デルトーニの戦車による情報、
これらを元に確実に勝てる策を見出す。それしかないだろう。
ただ一番の懸念点もまた限定スキル。
私の<節制の豊盃>に映る未来が、いつになったら″良い未来″を示すかというところなのだが……。
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