第十九章 女帝の塔は三年目も戦います!Ⅰ
354:同盟の皆さんは血気盛んです!
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
「――で調べさせてはいたのですが、どうやら【赤竜兵団】とかいうミッドガルド最大の傭兵団らしいですわ」
『ははっ、【赤の塔】に【赤竜兵団】とは皮肉なもんじゃのう』
「全くですわね。ブルグリード伯も頼みづらかったでしょうに」
先日、新しく【赤の塔】に侵入してきた団体がおりました。
背中に赤い外套を羽織った二十人もの集団。その外套には竜の紋様があります。
冒険者パーティーでないことは一目瞭然だったのですが、その正体を探った結果【赤竜兵団】という傭兵団だったと。
【赤竜兵団】というのは総勢で百人近くにもなる傭兵団だそうです。
ミッドガルド王国では一番の規模を誇り、その活動域は隣国のスルーツワイデ王国やバラージ王国にまで広がっていると。
おそらくはその中でバベルランクがCとBの者を選抜して派遣してきたのだと思われます。
冒険者と傭兵団では違うところが多々あります。
冒険者は少人数でパーティーを組むことが多く、小隊のようにして活動しているケースがほとんど。
その仕事内容も戦闘だけではなく、調査や採取、手紙配達やちょっとしたお手伝いまでと幅広い。バベリオの場合はバベルに挑む者がほぼ全てですがね。
一方で傭兵団は人数も多く、仕事としては戦闘のみ。
警護や衛兵めいたことをしている場合もありますが、基本的には領域の魔物駆除や時には戦争などといった戦闘を主として活動をしています。
冒険者を小隊とするならばこちらは中隊や大隊といったところでしょう。
そしてブルグリード伯爵は今回【赤竜兵団】という傭兵団に依頼をした。
奥方であるオーレリア様の仇を討つため。【赤の塔】を、アデル・ロージットを潰すために。
「何と言いますか……報復は報復で結構なのですが、もうちょっと違う手で来て欲しかったですわね」
『アデル様、報復を簡単に受け入れすぎですよ……』
『まぁ気持ちは分かるで。ウチのとこに来た偽Cランクとほぼ変わらんしな』
『暗殺とかよりは百倍マシですよ。贅沢言っちゃダメです』
【赤竜兵団】が【赤の塔】を攻略できる可能性はゼロです。これは断言できます。
というわけで、いかにしてTPを得るかということが主題になるのですが、たかが二十名程度で攻め込んで来ても冒険者パーティー四組と大差ないのですよね。
もちろん傭兵団ならではの強さはあると思います。冒険者パーティー四組がバラバラで戦うよりも強いでしょう。
しかし得られるTPが同じであればこちらとしては困るわけでして。
せめて傭兵団の中に幾人か『偽Bランク』が混じっていて欲しいのですが……さすがに夢を見すぎですわよね。
【赤竜兵団】はしばらく遊ばせようと思っております。
傭兵団ならでは、大人数ならではの探索というのも見ておきたいですし、ミッドガルド随一と言われる実力も見たいですから。
まぁ【赤竜兵団】のトップ層はAランク以上でしょうしおそらく来てはいないのでしょうがね。それでも見ておく価値はあると。
そうして遊ばせてダメージTPなどを貰いつつ、最終的には斃すと。
ブルグリード伯に報復失敗と伝えるべきですから伝令役に一人くらいは逃がすかもしれませんが、基本的には全滅してもらうつもりです。
その時期も見極めが必要ですわね。どれほどTPを搾り取れるかと。
まぁ苦労に見合うかと言われれば微妙ですわね。
ミッドガルド騎士団を送り込んで来ることを期待したのですが、さすがに虫が良すぎました。
それでもシャルロットさんが仰るように、暗殺者を差し向けられるよりはマシなのですが。
暗殺者による報復は旨味など皆無ですからね。
街中で狙われるのですから危険性は高いですし、TP収入などゼロですし。
捕らえたところでブルグリード伯が悔しがってそれで終わりです。追撃も厳しいでしょう。
そう考えれば傭兵団を雇ってくれただけありがたいと言うところなのですが、しかし何と言うかこう……もうちょっと何とかならなかったのかと。欲張ってしまう自分もいるわけです。
『そ、それこそ【竜牙の塔】を斃せばミッドガルド騎士団が来るとか……ないですかね?』
『ヴェルガダーツ侯爵家の人間で騎士団の副長やったか。それにしたって騎士団なんか来るか? ニーベルゲン帝国の場合は一応第三皇子が斃されたって理由があったから騎士団まで動かせたんやろうし』
『皇子にしても異例だと思いますよ。バベリオに戦争を仕掛けているのも同じですからね。下手すれば世界から敵と認定されてしまいます』
『バベリオが世界から注目を集める自治都市であるからか。他国からしても潰されるのは困ると。それはそうかもしれぬな、バベルは英雄譚の舞台でもあるんじゃし、英雄となる塔主を抱える国は黙ってはおらぬか』
『じゃあニーベルゲン騎士団が来たのはラッキーだったのですね……暗殺者やら【力】同盟やら色々と困らされたのですが』
そういうことですわよね。あまり高望みはするものではないと、わたくしも諦めましょう。
「それでその【竜牙の塔】はどうしますの?」
『頃合いを見てエレオノーラに申請させようと思っておったが……アデルのとこに報復の手が伸びていることを踏まえればシルビアのほうが良いかのう』
『ミッドガルドから恨みを買いやすい状況を作るってことやな。どんどん報復してくれと』
『うわぁ……そう聞くとなんかアレですね……』
『その際は申し付けて下さい、私は構いませんので。しかしそうなると【正義】のほうはどうしますか?』
『そっちこそ【春風】のほうが申請は通りやすいと思っておる。創世教の大司教がエルフに嘗められるわけにもいかんじゃろ』
【聖】同盟と考えればわたくしたち【
アダルゼア大司教個人で考えれば確かに、シルビアさんよりエレオノーラさんに敵意を持ちやすいかもしれません。
つまり【竜牙】のほうは【六花】が申請し、ダメなら【春風】が申請する。
【正義】は逆に【春風】が申請し、ダメなら【六花】……という感じですか。
問題は申請する時期ですわね。
オープンしたての新塔主がすぐさま
最低でも数月は寝かせなければ、塔も安定しないでしょうし、塔主の仕事に慣れたとも言えないでしょう。
かと言って一年も放置すれば劇的に成長する可能性も……ないですか。わたくしたちが特殊だっただけですわね。
『とりあえず時期が来るまでは色々と申請してみたり、塔運営を頑張ったり、脱Cランク病に取り組むって感じですかね』
『い、今までどおりってことですね……私もどこかと
『ノノアちゃんも言うようになったなぁ。まぁ
『私もです。新塔主と戦うつもりはありませんが、程良い敵と戦っておきたいとは思っています』
皆さん血気盛んですわねぇ。塔主としては素晴らしい成長意欲だと思いますけれど。
ああ、もちろんわたくしも望んでおりますわよ。なかなか実るものでもないのですが。
『うーむ、一つ仕掛けやすいところがないわけでもないんじゃが』
『今までおすすめしてもらってたところとはちゃうの?』
『それは皆が狙いやすいのがCランクじゃからな。そうではなくて』
わたくしたちはD~Bランクの同盟です。
となると戦いたい相手というのがCランクに固まるのですよね。Dランクでは不足ですし、Bランクでは危険性が高いと。
フッツィルさんが仰るからにはBランクの塔なのでしょう。
Bランクに上がったばかりの塔であればファムで探れるかもしれませんし、限定スキルを持っていない可能性もあります。
しかしランクアップしたばかりの塔は今頃改装で大変でしょうからね。
『ちなみにどこなんです?』
『【狂乱の塔】じゃ』
『『『あぁ……』』』
なるほど。そこが残っておりましたわね。
【狂乱の塔】は昨年の後期にBランクへと上がり、新年祭でシャルロットさんに対し限定スキルを仕掛けようとしたゼーレの塔ですわね。
確かにあそこであれば、とっくにファムで確認なさっているでしょうし、何より限定スキルがほぼ判明しています。
対象に接触することで発動するナニカ。おそらく諜報型かデバフ型だと思いますが、攻撃型でないことは確実ですわね。
であれば確かに
もちろんBランク相応の強さはあると思いますが、あれ以来、塔の客足も絶不調らしいですからね。
強化もろくに出来ていないでしょうし、下手すれば魔物の数が減っている可能性すらあります。
『限定スキルの調査が終わったのなら私が申請しようかと思っていたのですが』
『うむ、【狂乱】を斃すのならばシャルが適任じゃ。仕掛けられたから返り討ちにしたと話題になりやすい。しかしシャルが申請したところで却下される可能性も高いじゃろ』
『そりゃゼーレからすればエメリーさんとジータさんに潰されたようなもんやからな。あの場で負けておいて
『じゃから次点として、同盟の誰かが斃すというのが望ましいと思うのじゃ。そうすれば一応″返り討ち″の面目は立つ』
なるほど、あくまで「ゼーレは【
ゼーレとてわたくしたちに恨みはあるでしょう。自信満々に仕掛けた策を潰され、一気に転落塔主生活になったのですから。まぁ自業自得もいいところですが。
そもそも限定スキルを仕掛けようとしたということは、シャルロットさんを斃す意思があったはずです。
【女帝の塔】か同盟全体かを狙っていたということでしょう。
とは言え、【女帝の塔】や【赤の塔】と真正面から
だから限定スキルを使おうとしたのですからね。しかも新年祭の場というリスクを背負ってまで。
わたくしやシャルロットさんが申請したところで却下される可能性は高い。
『じゃあまずシャルちゃんが申請して、ダメならウチらが一気に申請するか。んでどれかが釣れれば御の字と』
「わたくしたちが狙っているという明確な意思表示にもなりますからね。どうにかしなければと焦って、一つくらい受理するかもしれません」
『すみません、私も申請するのですか? 正直【六花の塔】で勝てる相手とは思えないのですが……』
『【六花】は厳しいかもしれぬな。【世沸者】までにしておいたほうが無難か』
『わ、私は
『ノノアさんはもう
『で、ですよね、アハハ……』
ではそうした予定で行ってみますか。
まずはシャルロットさんが申請してみての様子ですわね。
しかしどう転んでもわたくしが戦えそうにありませんわね……どこか別を探しておかないといけませんわ。
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