50:世沸者の塔、リニューアルオープンです!
■チーノス 15歳
■Fランク冒険者 パーティー【一光一影】所属
俺たちがバベリオにやって来てから一月が経った。
今日は最近よく行く【湖畔の塔】の一階層でゴブリンを相手に戦っていた。
最初は一匹のヤツだけを狙って戦っていたが次第に二体同時、そして今日は三体同時に戦えた。
少しずつでも成長できていると実感できるのは嬉しいもんだ。
初日に妙な先輩冒険者から馬鹿にしたような忠告を受けたわけだが、あの後みんなで話し合い、冷静に思い返すとすごくまともな事を言っているように思ったんだ。
そりゃせっかく冒険者になれたのだから一山当てたい気持ちはある。英雄願望ってやつだな。
とは言え、何も調べずやみくもに挑戦して英雄になれるのかと言われると……そんなわけないよな、と。
俺たちは新人らしくしっかりバベルのこと、塔のことを調べ、まずは肩慣らしと塔の感触をつかむためにFランクの塔へと乗り込んだ。
いくつか回ってみた結果、今は【湖畔の塔】が戦いやすいと、そういうわけだ。
ということで気分晴れやかにギルドに戻ってきた。そこそこの魔石を持って。
「よお、【一光一影】じゃん。おつかれい」
話しかけてきたのは同じFランクの新人冒険者だ。最近はよく話す仲だな。
まあ、こいつらは地元である程度冒険者らしい活動をした上でバベリオにやってきたそうだから、俺たちよりは経験的に上。
俺たちは冒険者になってすぐにバベリオに来たからな。
同じFランクでも上位なのは間違いないだろう。
話せば自然と今日の戦果についてや、塔の情報など、バベルに挑む新人らしく情報収集をメインとした世間話になる。
今日もそんな感じかと思っていたのだが――
「おめえら聞いたか? 【
「はあ?」
初日に先輩から言われたから一応は調べてみた。だから知ってはいる。本当は【世沸者の塔】だということも。
しかし魔物はスライムしかいないし、迷路と罠しかないと聞いてやっぱり【弱き者の塔】だなと思っていた。
二階層の最後には何やら意味不明な仕掛けがあるらしいが、苦労してその仕掛けを解く価値もない。
冒険者の間ではそんな結論が出されていたようだ。
ところが三週間くらい前か。その【弱き者の塔】がいきなり話題に上る。
どうやら500期の新塔主、そのトップ連中が組んだ同盟になぜか【弱き者の塔】も入ったらしいのだ。
今年の新塔主は数も多く、異常に強いのがゴロゴロしていることで有名だ。
中でもBランクの【力の塔】の同盟を破った【女帝の塔】【忍耐の塔】【輝翼の塔】の同盟は一際話題に上がっていた。
そこに500期トップの【赤の塔】が加入。当然大騒ぎだ。
ついでとばかりに
しかし所詮は【弱き者の塔】。相変わらずスライムしかいねえし、迷路も単調と代わり映えしない塔だったらしい。
で、その【弱き者の塔】の何がヤベエってんだ?
「いや最近、大規模な改装があったみたいでよ。ガラッと中身が変わってんだ。今は何組ものFランクが毎日のように攻め込んでるんよ」
「マジかよ。スライム迷路じゃねえのか?」
「全く違えな。いやさ、俺らも噂を聞いて行ってみたんだけどよ、これがまたとんでもない塔でさ、ちっとも探索が進まねえんだけど悔しくて明日も行こうってなっちゃうんだよな」
全く意味が分からん。
難易度が上がって探索が進まねえってんなら別の塔に行けばいいだろうが。
仮に攻略できたって【弱き者】には変わりねえんだろ? 挑む価値がねえよ。
◆
……と、そんなことを言ってはみたが気になるのは事実。俺だけじゃなくてパーティーメンバー全員同じだった。
【弱き者の塔】がFランクである以上、挑む権利があるのは俺たちFランクだけだ。俺たちがランクアップしちまえば二度と行けなくなるかもしれない
せっかくだから今のうちに行っておこうかと。そんなわけで初めて【弱き者】……いや【世沸者の塔】へと乗り込んだ。
「……随分ほかと雰囲気が違うな」
メンバーの一人がそう呟く。同意だ。
城か砦か分からないが、入った先は広めのエントランスだった。すでに以前の情報であった迷路ではない。
そして俺たちと同じようなパーティーが三組、エントランスに散って、何やら作戦会議のようなことをしている。
「だからあそこのパズルを解かないとダメなんだって!」
「違えよ! 第一衛兵室の絵だろ! あれがヒントに決まってる!」
「それだけで開くわけねえじゃねえかよ! 何かと組み合わせんだよ!」
何やら言い争っているが、険悪という感じではない。
と言うか塔に入ってまでそんな言い争いをするのか? 探索方針なら事前に打ち合わせておけよ。
まあ俺たちも同じような新人だから他人のことは言えないけどな。
と、そんなパーティーに気をとられていたが、エントランス中央に立て看板があるのに気付いていなかった。
そこにはこう書かれている。
=====
栄光を目論む若き挑戦者たちよ
力なき若人たちよ
塔を制するは武のみならず
英雄は時に知を以って栄光を掴んできた
弱き者は武力ではなく知力を備えよ
さすればやがて世を沸かす者――英雄となるだろう
=====
「…………は?」
塔側から俺たち挑戦者へのメッセージ……だよな。
知力……つまりこの塔は武力ではなく知力が試されるってことか?
そりゃスライムしかいねえ塔だから武力なんて意味ないんだろうけど……。
「どういうことだ?」
「分かんねえ。とりあえず探索してみるしかねえんじゃねえか?」
「ああ。一応警戒は……いるのか、これ?」
「周りが誰も警戒してねえんだよな。剣を抜いてもいねえ」
いくらなんでも罠や魔物を警戒せずに探索なんてできねえと思うんだが。一応塔なわけだし。
ま、俺たちは俺たちの探索スタイルでやってみよう。
◆
「だああああ! わっかんねえ! どうなってんだよここは!」
「やっぱさっきの部屋に何かしらあるんじゃねえか? 不自然な小道具ばっかだったし」
「ヒントっぽいのが多すぎるんだよ。何を手掛かりにしていいのか分からん!」
数時間後、まんまと俺たちは塔の『謎』にはまっていた。
とっくに警戒なんかしていないし剣よりもペンを持ってヒントを書き記している時間の方が多い。
探索を開始した当初、とりあえずぐるっと見て回ろうと思ったが、通路は途中で行き止まりだし、入れる部屋も三つしかなかった。他の部屋は全部鍵が掛かっていたんだ。
だからその三つの部屋を探索するしかなかったんだが……。
どの部屋も生活感があるというか、砦や城らしくない住空間になっててさ。
壁には絵画やパズルみたいな木枠があったり、無駄に花瓶や燭台があったり、本棚にいっぱい本が並んでいるのに手にとれなかったり、椅子の下に意味不明な数字が書かれていたり……。
無数にあるヒントを駆使して『謎』を解いて、その積み重ねでやっと開かなかった部屋の鍵が手に入る……という仕掛けなんだと気付くまでに時間が掛かった。
気付いたところで『謎』を解くのにも時間が掛かる。
なんとか一つの部屋を開放したわけだが、その時のみんなのテンションはヤバかった。
「うおっしゃああああ!!!」と強い魔物に打ち勝ったような高揚感だった。
そして一つ謎が解けると、すぐにまた次の謎が行く手を阻む……その繰り返しだ。
こんなんじゃ二の鐘から五の鐘の間に攻略するだなんて夢のまた夢。
魔物も出ないから魔石も手に入らないし、挑む価値もない。
しかし。しかしだ。
今日解いた謎があれば明日は次の謎に挑める。明日はもっと先に行ける。
そうして進んだ先にあるのは攻略という名の栄光だ。あの看板にも書いてあった。
だから……明日も挑戦してみるべきじゃないか?
「……お前、ただ謎解きがしたいってだけじゃないよな?」
「…………」
「……いやまあ、俺も同じ気持ちだけどさ」
だよな! 頭いっぱい使ってさ、悩んで考えて出した答えが合ってた時の快感!
これはもう明日も行くしかねえよな! な!
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