49:世沸者の塔の改装方針が決まりました!



■シャルロット 15歳

■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主



「さて、まずは何から手をつけたらいいんや?」


「どんな罠やギミックがあるのかわしらも知るべきじゃろ」


「その前に現状の塔構成と魔物、罠の配置の確認が先でしょう」


「す、すみません、お手数おかけします……」



 今の【世沸者の塔】はFランクですから全三階層です。直径500m、天井高5mですね。

 三階は今私たちがいる住居エリアと玉座の間という感じ。これはどこも似たようなものです。

 階段から玉座までは広々としたスペースがあり、そこで召喚などを行うのでしょう。


 ……まぁ召喚できるのはスライムばかりのようですが。


 一階と二階は石壁の迷路になっていまして、二階層の最奥、昇り階段の手前に大部屋となっています。

 大部屋の中にボスがいるわけもなくスライムが群れているだけのようです。

 ただその部屋に入る為に『クイズ扉』を突破する必要があるということですね。


 迷路の途中にいくつか罠を配置していますが、どれもよく見るタイプのもの。

 スイッチを踏んで発動する落とし穴だったり、毒霧だったり、槍が飛び出してきたり。

 特殊なギミックも少しは見られますが、あれだけ種類のある罠やギミックを使いこなしているとは言えません。



「ど、どうしても使いやすい罠の方が便利に思えてしまって……」


「それはそうじゃろうな。罠一つ配置して、あわよくば討伐TPやダメージTPを狙えるんじゃから」


「せやけどこんな適当な配置はあかんで。素人丸出しやん。こんなん新人冒険者くらいしか掛からんやろ」


「『クイズ扉』を至る所に配置するのはダメですの?」


「クイズ扉の配置制限が【1】なんです……」



 私もアデルさんと同じことを考えましたが、どうやらクイズ扉は塔に一つだけしか置けないようです。

 なるほど。だから最後の砦として二階層の最奥に置いたのですね。


 迷路で時間をかけさせて探索時間を伸ばすのはTP稼ぎの上でも常道だと思います。


 しかし罠が有効に使えていない上に、襲わせる魔物がスライム系だけとなると、滞在TPだけでは赤字になりそうですね。スライムもすぐに斃されちゃうでしょうし。

 むしろ全く魔物を配置しない方が稼げる可能性すらあります。



「うーん、現状使ってる罠だけでもウチが配置と迷路構造をいじればだいぶ改善すると思うで」


「ほ、ほんとですか!?」


「せやけどそれで安全が買えるかっちゅーと別の話や。毎日少しずついじるのはノノアちゃんなんやし、魔物もスライムしかおらんから気を引くとかダメージを稼ぐってことができひん。【忍耐の塔】かて魔物が足止めしてるから罠が有効になるんやし」


「はい……」



 改善はできても最善にはほど遠い。そうドロシーさんは言います。

 アデルさんもジータさんに聞いています。罠だけの迷路は有効かどうか。



「俺も嬢ちゃんの意見に賛成だな。魔物がろくにいねえ、罠しかねえって分かりゃ必要なのは斥候能力だけってこったろ? Fランクの侵入者に相応のヤツがいるかは知らねえが、仮に斥候能力がなくても地道に調べりゃいつかは攻略できるしな。姉ちゃんはどう思うよ」


「わたくしも同意見です。<罠察知>や<危険察知>を持っていれば簡単に突破されるでしょう。そうなるとただの迷路になってしまうかと」


「ふむ、そうなるとやはりクイズ扉に頼る現状は変わりないのですかのう」



 結論としては今の塔構成を大きく変える必要があると。

 魔物が当てにならない以上、やはりこの塔独自の罠やギミックを活用して、それを活かせる塔構成にするしかない。


 そんなわけで再び罠リストを見せてもらいつつ、皆さんで調べていきます。



「『鍵』だけでも相当な数やな。レバーを引く、数字を合わせる、何かをはめこむ、蝋燭の火を消す……本棚の本の位置を変えるやて! おもろいな!」


「その『鍵』をもって動かすものも多種多様……扉、箱、家具、壁……これは組み合わせが無限にあるんじゃないかのう」


「組み合わせを複雑にすればいいのでは? 例えば①の鍵を使って箱を開け、その中の②の鍵で扉を開けるといったような」


「主よ、それだと探索時間は伸びるが結局突破されちまうんじゃねえか?」


「①の鍵を隠して見つけにくくすればいいのでは?」


「せやったら箱の中にあるのも②の鍵を見つける『手掛かり』みたいなもんでええやん。何も直に渡すことあらへんし」


「な、なるほど……皆さんすごいですね……こんなにアイデアがポンポンと……」



 ギミックの連鎖。それは以前にドロシーさんからもお聞きしましたね。

 <罠察知>に悟られない罠を作るには、罠を起動させるための罠を作ればいいと。

 それをギミックに置き換えて何重にもすればいいのでは、という話です。


 私の隣で何やら考え込んでいたエメリーさんが思い立ったように聞きます。



「お嬢様、『だっしゅつげえむ』というのはご存じですか?」


「『だっしゅつげえむ』……脱出する遊戯ゲームですか? いえ、知りません」


「わたくしも話に聞いただけなのですが――」



 エメリーさんのいう『脱出ゲーム』とはこういうものだそうです。



 とある屋敷の中から外に出なくてはいけない。しかし玄関には鍵。

 その鍵を探そうと屋敷の中を探索するが、入れる部屋は限られている。

 いくつかの部屋に散りばめられたヒントを頼りに金庫を開けるとその中に宝石が。

 その宝石を玄関の石像にはめると食堂の鍵が。

 食堂の中にはまた別の部屋に入るためのヒントが――。


 そうしていくつものヒントを探し、鍵を探し、探索を続けた末に外に出られる――それが脱出ゲームだと。



「わたくしも実際に見たわけではありません。しかしそうした遊戯・・があると伺ったことはあります。この塔ならではの罠とギミックのラインナップを見ていて、ふと思い出したのです。もしかすると、そうした遊戯・・的な塔構成が可能なのではと」



 それを聞いていた皆さんが「ほおー」と何かを得たような声を出します。

 なるほど私も分かりました。そういったものを【世沸者の塔】でできないかと、そういうことですね。


 確かにこの塔特有の細かいギミックが多いですし、塔構成も屋敷・城・砦などが可能となっています。

 屋敷を脱出するよりもかなり広い規模での『脱出ゲーム』ができるのではないでしょうか。

 その分、ギミックなどは多く必要でしょうし、それを考えたり配置したりも大変そうですが。



「面白そうやな! 脱出先が『三階層への階段』になるっちゅーことやな!」


「ふむ。であれば大量のギミックもあれこれ使えそうじゃのう」


「ははっ! そんな塔なら俺みてえな力一辺倒じゃ攻略は無理だな! できるとすりゃ頭でっかちの商人や内政官とかだろ」



 好意的な意見はドロシーさん、フゥさん、ジータさんから。

 ジータさんの言う通り、もし出来上がれば【世沸者の塔】の攻略に必要なのは武力ではなく知力になるでしょう。

 そうなるとFランクの冒険者や傭兵では厳しそうです。学校で教育を受けた、とかいう人もほとんどいないでしょうし。


 しかしエメリーさんの話を聞いて考え込んでいたゼンガーさんとアデルさんからはこんな意見も。



「討伐やダメージを狙わず、完全に滞在TPのみを狙うということですかな? そうなると侵入者を帰す前提になりますし、ギミックの情報が流れれば、知力がなくともいつかは攻略できる者も現れるのでは?」


「そのTPについても問題ですわよ。これだけの広さでギミック満載の屋敷なり砦なりを創ったとして、それを設置し常時稼働させる為のTPは膨大ですわ。稼ぐ見込みも滞在TPのみでは不足するかもしれませんわよ?」


「私もちょっと気になったのですが、それだけ大掛かりなギミックを設置するにしても管理するのはノノアさんお一人なんですよね? 毎日少しずついじるとか無理じゃないですか?」



 合わせて私からも意見を言わせてもらいました。

 案としては面白いですし手応えがあります。しかし実際にそれを創り、塔として運営を考えれば色々と無理がありそうで。


 逆に言えば、疑問や不安を払拭できるようならやってみる価値はあります。

 もちろんノノアさん次第ですけど。


 ノノアさんとしてはどうなんですかね?

 ご自分の塔ですし、私たちがあれこれ言う前にノノアさんの意見を尊重したいです。



「わ、わたしは……甘えてばかりで恐縮なのですが、その『脱出ゲーム』というものを是非やってみたいと……お、思います」



 相変わらずビクビクと恐縮している感はありますが、目はしっかりと皆さんを見ていますし、狐耳もピンと上を向いています。

 ノノアさんなりの決意と覚悟のようにも見えました。


 本当であれば塔主である自分が考えなければいけない。それを他人に任せるもどかしさ。


 一方で、自分では無理だと判断したから同盟相手を探した経緯。そういったものが絡み合っているのではないでしょうか。



「せ、せっかくですからこの塔らしい・・・ものを創ってみたいとも思いますし、皆さんのアイデアを形にしたいとも、お、思います。管理が大変そうだと仰るのも分かるのですが……例えば最初は一階層だけ、とかでも……」


「TPは大丈夫ですの?」


「え、あ、はい。一応、その……10,000TPくらいは……」


『10,000!?』


「ひぃっ!」



 10,000TPを保有しているということですか!? 多いんじゃないですかそれ!?


 いえ、私ももちろんですし、ドロシーさんもフゥさんもアデルさんも数万TP持っているでしょう。それは想像つきます。


 しかしFランクで、侵入者も少なく、塔主戦争バトルの経験もない。失礼ですがお金持ちでもないでしょう。

 そんなノノアさんが10,000TPも持っているとは誰も思いません。


 どうしてそんなにあるのかと尋ねれば――



「あの、えっと、毎日コツコツ魔力を籠めまして……」



 どうやら狐獣人のノノアさんは獣人にあるまじき魔力を持っているらしいです。

 近接戦闘特化が多い獣人種族の中でも狐獣人は魔法に秀でているそうなのですが、その中でもノノアさんは多いほうだと。


 ご自身は火魔法を得意としているそうです。

 ただ内向的な性格もあって、戦闘経験などはないそうですが、先天的な素質として魔力が多いのだとか。


 なるほど、そうした特別なノノアさんだから塔主に選ばれたということなのかもしれません。


 おまけに神造従魔アニマのペコはスライム種にしては破格の魔力を持っているそうです。

 <擬態>を使い続けるのに魔力が必要らしく、ミミックスライムというのは魔力が多いのだとか。

 それに加えて神造従魔アニマとなったことで、さらに魔力量も増えているそうです。


 つまりノノアさんご自身と、宝珠オーブ登録した眷属のペコで毎日毎日、魔力を注ぎこんだと。


 一方で消費は、少ない侵入者に対して数体のスライムをけしかけるだけ。

 罠もあきりたりなものだから回避されれば再設置のTPは消費されない。

 おかげで毎日大黒字になっていると……。



「いやそないTPあるなら強い魔物召喚せえや!」


「ひぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「あー、すまんすまん、そういうんとちゃうねん。これはツッコミであってやな――」



 強い魔物といってもスライムばかりでしょうしね。

 固有魔物もおそらくスライム系なのでしょう。まぁ固有魔物は数万TPかかるでしょうから土台無理ですけど。



 ともかく、そんなわけでノノアさんの【世沸者の塔】の改装が決まりました。


 ここから二週間ほど掛け、毎日宝珠オーブの通信で相談したり、時には実際に集合して煮詰めていきました。


 そうして休塔日に改装を実施。

 【世沸者の塔】はリニューアルオープンを迎えたのです。



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