427:同盟戦を終えて~女帝編~



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 【空城】同盟戦の翌日、私の【女帝の塔】は休塔日にしました。

 塔主戦争バトルようで塔構成を弄った部分もありましたし、何より一時的に消した魔物を配置し直さないといけませんでしたしね。これが大変なのですよ。


 一年ぶりの同盟戦ストルグ……と言いますか魔物数制限をかけての同盟戦ストルグというのも久しぶりだったのですが、当時と比べて魔物の数が多すぎます。

 【女帝の塔】も随分と強くなったなぁと改めて思いました。

 消すのも大変ですし、再配置はもっと大変なのです。



 同盟戦ストルグをしたことで見えた課題とかもありますからね。

 八女王会議をしながら再配置し、適宜修正していくといった作業になります。



「でも一階層がやっと試せて良かったですね」


「想定以上の戦果でしたね。上手くいきすぎた感もありますが」


「水路の中の罠など通用しなかった点もありまス。個人的にはそこが残念でス」


「ん……それは【空城】が塔構成を見抜いていたからでは……?」


「私としてはハイフェアリーちゃんたちが移動しづらいのが気になりますね~」


「家々の迷路は敵が入りづらくもありますが放電・放火係の魔物が逃げづらくもありますからね」


「今回の敵は地上部隊が多かったから良かったが飛行系魔物主体の相手ならまた違っただろうな」


「そうしたらハーピィたちも危うかったですね。普通なら迎撃されていますし」



 上手くいった部分も多いのですが、完璧とは言えません。当たり前ですけどね。

 当然のように課題は見つかりますし、そこをどう修正するかというのも悩みどころなのです。


 例えば一階層で言うと、目的は『偵察と敵地上部隊の削り』なのですが、バートリさんの仰るように飛行系魔物が主体の敵であったなら素通りされて終わりでしょう。


 極端な話、鳥だけで構成された攻撃陣なら水路も油路も意味ないですし、家の上を飛ばれて終わりです。

 そこはもう仕方ないと割り切っているつもりですが、実戦で試してみると余計に痛感するものです。



 二階層などもっと酷いですね。

 【空城】のマキシアさんに塔構成を見抜かれていたせいでほとんどの罠は無意味となりました。

 目的は『地上斥候部隊の削り』なのですが意味を為しませんでしたね。



「いっそのこと塔主戦争バトルの時は暗闇階層にしたらどうですか?」


「二階層全体を、ですか? それなら罠に掛かりやすくもなるとは思いますけど……真っ暗なお城というのはどうなのでしょう」


「コンセプトを優先するか、実利をとるか、というところですね」


「妾としてはアリだと思う。平常時はコンセプト重視、塔主戦争バトルは戦果重視でもな。ただ暗闇とするならば迎撃用の魔物を揃えておくべきだと思うが」


「今回のように罠だけで対処しようとせズ、ちゃんと魔物で削るということですネ。それは私も賛成でス」



 というような意見が出て来ました。

 なるほどと思う反面、『女帝のお城のエントランス』なのに真っ暗なのもなぁ……と思ってしまいます。

 普段見せないからこそ塔主戦争バトルで活きるというのも分かりますけどね。


 今度塔主戦争バトルをする機会にまた考えてみますか。

 相手によっては本当に刺さりそうですし。



「私は三階層も少し気になっています。足元の水と霧で雷魔法を使うというのはいいのですが」


「フォッグスネークと雷精霊チャクの相性ですね?」


「はい。フォッグスネークの位置によっては同士討ちが起こりますし、それによって部分的に霧も薄くなりますから」


「ラミアクイーンを置いて<統率>させるというのは?」


「今回は消していましたが本来はそうすべきでしょうね。ただ雷精霊チャクの統率に雷貴精トールを置くかという話になりますよ」


「Aランクを三階層にですか……。一階層のハーピィクイーンのように表に出さないというのなら良いと思いますが」



 三階層はやりたいことが出来ていたと思いますが、霧の発生にはフォッグスネークが必要ですし、雷魔法を撃つには雷精霊チャクなどの雷系魔物が必要です。


 単純な話、フォッグスネークが感電してしまうのですよね。水浸しの地面に潜んでいるので。

 感電させないためには雷魔法の着地点から離す必要があり、それは即ち侵入者からも離すということです。

 そしてフォッグスネークが離れれば霧も薄れますから、侵入者としては楽になります。


 あちら立たねばこちらが立たぬという状況なのですよね。

 平時では雷精霊チャクも配置していないですし塔主戦争バトルの機会でしか試せないことなので悩みどころです。

 雷魔法以外の攻撃・阻害方法を考えておいたほうがいいかもしれません。



「ハルフゥさん、攻撃陣はどうでしたか」


「戦力的には大いに楽ですが、指揮となるとやはり大変ですね。主に陣形組みや部隊配置の面で」


「やっぱりそうですよねぇ……」


「特にヨギィとペロだな。部隊指揮が出来ぬから完全に単体戦力だし、集団戦には不向きな能力だ。それを今回のような大部隊の中で使うというのは正直無理がある」


「強敵と当たることを考えれば必要な戦力ですけどね~」


「付け加えれば飛行部隊も配置に困りました。結局は順々に前に出す形になりましたが最適解と呼べる布陣は出来なかったと思います」



 防衛陣は決まったところに配置して、向かってきた魔物の対処をするだけですが攻撃陣だとそうはいきません。

 大部隊で敵の塔の中を進み、罠を回避し、魔物を斃していき、最終的には敵防衛部隊との乱戦になる。

 部隊としてのまとまりはもちろん、臨機応変な対応と適した布陣が求められるわけです。


 ハルフゥさんはとてもよくやっていたと思います。見事な指揮だったと。

 ただ大変そうだなとも思っていたので聞いてみたのですが、案の定課題は山積みのようですね。



 私たちの同盟の中で局所戦闘の最高戦力はエメリーさんなのですが、その下となるとヨギィとペロになるでしょう。

 高ランクの魔物が群れで襲い掛かって来ても、それ一体で対処が可能な特級戦力です。

 しかし部隊運用を考えると、非常に使いづらいのですよね。分かってはいましたが。



 ヨギィはまず足が遅いので行軍に支障が出るわけですが、そこはハルフゥさんも同じなので同盟戦ストルグにおいては欠点と成り得ません。

 壁役として優秀ですから前に出したいのに、壁役の部隊と並べられないというのが問題なのです。多方向に触手を伸ばす戦い方ですからね。


 ハルフゥさんは結局、壁役の一列背後に布陣させて、時々一人で前に出させるといった運用にしていました。

 バートリさんがヨギィを敵主力部隊に投げてわざと孤立させて殲滅させるといったこともしていましたが、それが正しいとも思いません。有効なのは間違いないですがね。



 ペロは子犬バージョンですと主に斥候が役割なのですが同盟戦ストルグとなるとスカアハさんの部隊が斥候を担いますのでペロの出番はなくなります。


 そうなると戦闘面で期待したいところなのですが、氷獣バージョンに変身するとペロの周囲に味方が布陣できないのですよね。

 【六花】の魔物やハルフゥさんなら近くで戦闘も出来ますが基本的には孤立することになります。



 となると、集団戦での乱戦時、味方の部隊はまとまっていてもヨギィとペロの二体だけは遊撃とも言えないようなポジションになるわけです。


 私が敵指揮官なら、まず火魔法を使える戦力だけで部隊を作りペロを落とします。見るからに寒冷系の魔物だと分かりますからね。

 そしてヨギィの大体の能力が分かっていれば、硬い魔物か巨大な魔物を当たらせて時間稼ぎさせます。

 残った部隊で乱戦に臨む感じですかね。とにかく最初にペロを狙うのは間違いないでしょう。


 そうさせない為には部隊に組み込むべきなのですが……なかなか難しいのですよね。

 と頭を悩ませていると、ハルフゥさんからこんな意見が。



「わたくしとしては攻撃陣を四つか五つの中部隊に分けたほうがいいと思いました。それぞれの部隊に総指揮官がいるという形で。もちろん総指揮官はわたくしでも問題はないのですが」


「大部隊の乱戦に限っては、ということですね。なるほど……」


「ん……四つか五つの部隊っていうのは?」


「地上前衛部隊、地上遊撃部隊、飛行部隊、本陣で四つですね。あとは地上後衛部隊を入れるか、飛行部隊が前衛・後衛で分かれてもいいとは思います」


「ヨギィは地上前衛部隊か? ならばペロはどうする」


「本陣ですね。わたくしがペロに乗ればそれだけで本陣の防衛は強固になりますし、部隊全体の動きをペロの背から見ることが出来ます」


「そういうことですか。それはアリかもしれませんね」



 ハルフゥさんは冷気を全く苦としません。氷海の中でも普通に泳げますからね。そこは【海姫】の強みです。

 ペロをハルフゥさんの護衛につけるのは理に適っています。

 しかし他に本陣を守る魔物が【六花】の魔物に限定されるのが困りものですね。


 今回、ハルフゥさんの周りにはスキュラクイーンの部隊があり、前にはバートリさんの部隊、後ろにはランスロットさんの部隊となっていました。

 スキュラクイーンは今後攻撃陣で起用するとは考えにくいので省きますが、その状態で乱戦時となった場合、バートリ部隊とランスロット部隊は地上前衛部隊に配属されるわけですね。


 本陣の守りがペロだけというのも不安ですね……フェンリル+フレスベルグの群れとかも付けたいところです。

 あ、アデルさんのところのマナガルムとかでもいいですね。あれなら地上も空も対処できますし。


 ……Sランク固有魔物が固まりすぎですかね。勿体ない気もします。



「例えば地上前衛部隊の指揮官をランスロット様に任せれば、ヨギィを単体で当たらせつつ、バートリ部隊を別方向に当たらせるといったことも出来るでしょう。

 飛行部隊もウリエル様を指揮官とし、ヘルキマイラ部隊とイカロス部隊を動かすと。ただクルックーがいない場合、ヘルキマイラ部隊に眷属がいないというのが問題ではありますが」


「ヘルキマイラ、マンティコアフレイム、マンティコアという組み合わせは非常に強力ですからね。飛行前衛部隊とするならそこを中心にすべきですし、眷属の指揮官は必要でしょう」


「イカロスをそこの部隊長に置いて、元々イカロス部隊だったフレスベルグらを本陣に置くというのもアリです」


「ああ、それはいいかもしれません」



 今回の攻撃陣で言えば、という話ですけどね。

 次の同盟戦ストルグで全く同じ攻撃陣になるとは思えませんから、その都度編成は必要になると思います。


 でも考え方としては良さそうに思えます。

 大部隊から中部隊となって層は薄くなりますが、各個撃破されるほど脆弱ではない。

 それで戦いやすくなるのであれば分けるべきだと思います。



「エメリーさん、その場合、各部隊長はどうなりますか?」


「そうですね……このような感じでしょうか。暫定ですが」


=====


 本陣:ハルフゥ

 地上前衛部隊:ランスロットorジータ

 地上遊撃部隊:エメリーorスカアハ

 地上後衛部隊:ゼンガーorディーゴ

 飛行前衛部隊:パルテアorパタパタorイカロス

 飛行後衛部隊:ウリエルorターニア


=====


「一応、話に出た六つの中部隊で考えましたが、ハルフゥは本陣の総指揮官に固定でいいと思います」



 エメリーさんも完全に合格点を出したということですね。

 総指揮は任せると。ハルフゥさんも少し嬉しそうな表情になっています。


 であれば、同盟戦ストルグの布陣を考える時はこれをベースに考えたほうがいいかもしれません。

 この指揮官たちを攻撃と防衛に分け、それぞれどのような中部隊にするかを考える。

 そうすれば今回のように配置の際に混乱するということもなくなりそうな気もします。


 私たち塔主が指示するのも楽になりますしね。

 アデルさんなら地上前衛部隊に注視し、ランスロットさんに指示すればいいだけですし、シルビアさんは本陣を注視する形となるでしょう。

 そうして塔主の中でも分担できれば、あちこち見て指示が行き交うという混乱も少なくなるはずです。


 今後同盟の皆さんに聞いてみますか。

 ……ドロシーさんがアタランテさんを召喚とかしたらまた話が変わりそうですけど。



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