315:女帝の塔vs影の塔、決着です!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 エメリーさんを先頭に十四階層に上がると、早速魔物が飛び掛かってきました。

 部隊が揃わないうちに個別撃破を狙うつもりなのでしょう。物量で入口を塞ぐと。


 しかし――



『<<<<炎の嵐フレイムストーム氷の嵐アイスストーム暴風の嵐ウィンドストーム岩の嵐ロックストーム>>>>』



 <魔力操作><並列思考><早口>を併用しての疑似同時詠唱。

 四本の魔竜斧槍から放たれた範囲魔法は近づこうとする魔物に襲い掛かりました。まとめて弾き飛ばされます。

 とは言えあくまで中級魔法ですし相手は高ランクの魔物たち。一撃で斃すことは敵いません。


 それでも味方を階段の上に引き上げるくらいの時間は稼げます。

 入口には先陣を切る十四体の魔物がすぐに陣を組みました。後詰め部隊はまだ階段待機ですね。



 最前線にエメリーさんとバートリさん。その後ろにヴァンパイア(A)十体が壁となり後衛のハルフゥさんを守ります。

 空にはターニアさんとベアトリクスさんが並びました。

 たった15人。これが今の【女帝の塔】の最小最高戦力だと思います。



 そこからは文字通り暴れ始めました。エメリーさんとバートリさんが縦横無尽に動き、隙間から抜けて来る魔物をヴァンパイアが阻止。ハルフゥさんは全体にバフを掛けた後は攻撃にも回ります。回復なんて必要ないですからね。


 空はベアトリクスさんが固定砲台。ターニアさんが動き回りながら魔法を連発と。エメリーさん以上にターニアさんが派手かもしれません。



『これは酷いですわね……』


『本当に強い……特にエメリー殿、バートリ殿、ターニア殿は異常ですね……』


『【轟雷】同盟戦の時とは訳が違うぞ。相手が相手じゃからな』



 【轟雷】同盟戦ではエメリーさんとターニアさんで敵攻撃部隊を蹂躙しましたが、あの時は低ランクの魔物も混じっていましたし、そもそも【轟雷】の魔物は敏捷特化で防御が弱いという特性を持っていました。


 しかし【影の塔】十四階層に集められた魔物は″質″が違います。

 それを圧倒的な速度と攻撃力、怒涛の魔法で次々に斃していくのですから、見ている方としては若干引いてしまいますよ。



 おそらく【影】のサミュエさんも同様ではないでしょうか。血の気が引いていると思います。

 しかし攻めさせないわけにもいきません。いくらやられようともドンドンと魔物をけしかけ、こちらを潰すしかありません。


 ただそれを許すエメリーさんではないのですよ。対多数の殲滅はお得意ですから。


 エメリーさんは周囲に群がる魔物を相手にしながら、味方に指示を出していました。それこそバートリさんには前に出すぎないよう常に意識していたと思います。

 それもあって15人の陣は付かず離れず、陣を形成したまま徐々に前へと進みます。


 すでに後詰めが十四階層へと上がり準備を整えていますが……どうやら出番はないですね。

 15人だけでその十倍の魔物を斃せると、そういうおつもりのようです。ここまで見ていれば私にも異論はありません。存分に暴れて下さいといった感じ。



 敵最後尾にいたトレントのような大鹿の固有魔物が気になったのですが、どうやら神聖魔法使いのようでした。聖獣でしょうか。

 おそらく普通に戦っても強いとは思うのですが、前衛の被害が大きいので回復に回っていたような印象です。



『バートリとターニアで突っ込んで下さい。鹿をお願いします。残りはわたくしたちで対処しますよ』


『『『はい!』』』



 魔物の数が明らかに減ってから、エメリーさんはそう指示を出しました。固有魔物とアクリスの鹿部隊をお二人に任せると。


 ★Sが一体とSが五体。バートリさんとターニアさんだけでは厳しそうに思えます。

 おそらくエメリーさんお一人で突っ込んだほうが確実ですし速いでしょう。

 しかしそうはしなかった。お二人に任せてご自分は陣から離れなかった。


 お二人への信頼もあるのでしょうが、いざとなればエメリーさんが援護する算段もつけていたでしょうし、何よりそうして陣で指揮し続ける姿をハルフゥさんに見せたかったのではないでしょうか。少なくとも私にはそう思えました。



『バートリとターニアは前半遊ばせていましたからね。最後くらいはちゃんと働いてもらいませんと』



 終わったあとにそんな話をエメリーさんがしていましたけどね……本当にそれだけの理由なのですかね。


 バートリさんとターニアさんにはハルフゥさんから回復とバフが入っていました。そのおかげもあると思います。時間がかかったものの、結局はお二人だけで鹿部隊を斃すまでに至りました。

 エメリーさんは【魔剣グラシャラボラス】を見せることなく殲滅が完了。それほど″陣″を意識した戦いだったということです。



 そのまま最上階に上がると、サミュエさんは玉座で項垂れていました。ただ泣くことしかできず……。

 私はエメリーさんにお願いして遠目から宝珠オーブを破壊してもらいました。それで終わりです。



『は~~いしゅ~~りょ~~! 【女帝の塔】の勝ち~~!』





 エメリーさんたちは最上階で多くの金品を接収した後、こちらに帰還してきました。

 バベルジュエルと魔石を足して約25万TP。接収した分を除いてそのくらいが報酬です。

 【女帝の塔】で斃された魔物も抑えられたと思いますし、想定以上に黒字にはなったと思います。少しホッとしました。


 しかし終わってからは眷属の皆さんと反省会を行いました。

 今回の塔主戦争バトルではかなり多くの目的とチェックポイントがあったので、それを話し合い、一つずつ改善しなければなりません。


 もちろんすぐに改善などは出来ないのですが、塔主戦争バトル直後の今だからこそ修正点は出しておく必要がありますから。



「攻撃に関しては少ないですが、やはりバートリとターニアの部隊だけでは斥候不足ですね。まともな塔攻略には不向きです」


「私やハイフェアリーちゃんの<魔力感知>では限界がありますね~」


「それは分かっていたことだろう? 早く例の固有魔物を召喚してくれ、我が主よ」



 そうですね。やはり斥候部隊の重要性が浮き彫りになったと思います。承知はしていましたが。

 リストで確認しましたが、どうやらあの固有魔物は【影の女王スカアハ(★S)】というそうでかなり驚きました。クイーンだったのかと。

 ならば尚更召喚しないわけにはいきません。最優先で眷属化し、斥候部隊を作りましょう。



「あとはハルフゥの運用ですね。<騎獣>はついでで良いと思いますが全体指揮に関しては訓練が必要でしょう」


「そうですね。海の魔物でしたら楽なのですが……そこはエメリーさんにご指導頂きたいと思います」



 <騎獣>は今回のように行軍速度を重視した場合に必要なので――ハルフゥさん陸上だと遅いですから――ユニコーンなり他の魔物なり乗れるように頑張ってもらいましょう。


 全体指揮は経験ですね。それもクイーンがまとめている小隊を大隊としてまとめるとなった場合が難しくなると思います。

 できれば何回か塔主戦争バトルを行って慣れさせてあげたいところです。



「防衛に関しては本当に色々とありますが、全体的に見て塔主戦争バトル時における防衛の仕方そのものを見直す必要があると思います」


「そうですね。私も見ながら色々とメモっておきました。相談してから大改装をしようと思います」


「なんだそんなに酷かったのか。妾も気になるところだ。あとで教えてくれ」



 バートリさんとターニアさんは見ていないのですが、他の皆さんは一緒に見ていたのでよく分かるはずです。

 はっきり言ってしまえば、魔物を置く意味が全くないと。

 相手は精強な攻撃陣。こちらは普段配置している魔物だけ。これなら各個撃破されるだけでろくに削ることもできません。足止めすら無理です。


 魔物だけでなく罠に関しても同様に言えます。

 ちゃんとした斥候の前では現状の罠ではほとんど無意味。それは対侵入者でも言えることだと思います。

 それを意味のある罠……討伐・ダメージ・足止めが期待できるものにしなければなりません。


 これはドロシーさんも偽Cランクパーティーに侵入されて同じようなことを仰っていましたので、同盟として取り組みたいと思います。



 いずれにせよ根本的な塔構成と塔主戦争バトル防衛時における配置・目的・方法を見直さなければならないと。

 それはほとんど全ての階層に言えることです。

 相談を重ね、色々と洗い出し、休塔日を申請して一気に大改装をしなければいけませんね。



「まぁ今日のところは【影の女王スカアハ】を眷属化して終わりにしますか。塔構成のことを話し合うなら余計に居てもらいたいですし」


「いつもに増して速いですね。もちろん異論はありませんが」



 欲しかった斥候役の眷属ですからね。これが主目的で塔主戦争バトルしたようなものですし。

 しかも女王様と分かれば召喚したいに決まっています。報酬の半分弱がいきなり吹き飛びますが……。

 とにかく早速召喚しましょう。画面を操作します。


 玉座の前に広がる魔法陣はやはりSランク固有魔物特有の複雑さ。

 そして現れたのは今日戦ったばかりの相手――黒髪に黒いロングドレス。ひょろっと細長いような体型と半分隠した顔が不気味にも見えるその姿。ガンベルトのようにククリナイフがいくつも下げられていますね。


 その女王――スカアハは特に驚いた様子も見せず、軽くカーテシーをします。



「お初にお目にかかりまス。スカアハと申しまス」


「初めまして。私は【女帝の塔】の塔主、シャルロットと申します。スカアハさん、貴女は私の眷属とします」


「オオ、ありがとうございまス」


「お名前はそのままスカアハとします。どうぞよろしくお願いします」



 これで私の眷属が六枠全て揃いました。

 スカアハさんには斥候部隊を率いてもらうのと同時に塔構成についても色々と相談しなければなりません。

 ただその前に【女帝の塔】の説明からですね。時間をとってゆっくり話し合っていきましょう。


 これからは七女王会議ですね。……玉座の並びのバランスが悪いのはどうしましょうか……アラエルさんにでも座ってもらいましょうかね……女王ではありませんけど。



=====

名前:スカアハ

種族:影の女王スカアハ

職業:シャルロットの眷属

LV:60

筋力:B+

魔力:A+

体力:B+

敏捷:S

器用:S-

スキル:統率、影魔法、影潜り、気配遮断、気配察知、罠察知、危険察知、暗視etc

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