213:宝石の塔を蹂躙していきます!
■ドロシー 24歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
今回の
元々は向こうが『四塔同士出し合って攻略し合う』ちゅう条文やったけど、そんな変な条件にしたんは「フゥからエルフの里の情報を引き出す」のと「【世沸者の塔】を使わせたくない」という二つの理由が大きくて、次点として「王国派であるアデルちゃんとシルビアちゃんを斃したい」というのがあったはず。
そこにウチらが「一塔ずつの
向こうからすれば「四塔同士なのは変わらないし、主目的にも沿う」として了承したわけやな。
ところがそれは罠で、こちら側に天秤がググッと傾いたことになる。
元々一番怖いのは普通の
それが一塔ずつ潰していけるとなればこちらにもやりようがあると。そういう意味合いがあった。
さらにアデルちゃんが色々とバラしたことで向こうの主目的が直前に変わることになり、戦略も変わる。
怖かった諜報型限定スキルもメルセドウの調査ばかりに使われ、直前でウチらの情報が入らんくなる。まぁ事前に持っとる情報が全てと思うはずやけどな。ウチらが同じように情報を探れるとは思わんやろうし。
ともかくそうした過程を経て
シャルちゃんには速攻で【宝石の塔】を攻めてもらっている。
そこそこ部隊を引き連れているから【力】同盟の時とかよりは遅いやろうけど、それでも普通じゃ考えられん速さや。
【宝石】のノービアは当然慌てるやろうし、その様子は同盟の三人にも伝わるはず。
となれば考えるのは一つ。
「【宝石】を攻略し終えた【女帝】が攻め込んで来たらどうするか」ちゅうことや。
ウチもフゥもアデルちゃんも、まだどこにも入っていない。選択権は常に握っている状態。
普通ならば一番苦戦しそうな【赤】の援軍になると考えるはずや。
エメリーさんを恐れるケィヒルがその状態でどこまで【赤の塔】に攻め入れるか、これが一つの鍵やな。
コパンとザリィドも同じようなもんや。
【青】はウチに攻め込んでるけど、【赤】が【青の塔】に攻め込むことも考えられる。
となれば【女帝】が【赤】の援軍となり、【赤の塔】の防衛を手伝うと同時に【青の塔】に攻め込むことも可能なわけや。
つまり三人とも「次はこっちにエメリーさんが攻めて来るのでは」と思っとるはず。
これでは過剰な戦力を攻撃陣に回すわけにもいかないし、かと言って攻略しないわけにもいかない。
ただでさえ【宝石の塔】が消えて数的優位を作られるのが確定しとるんやから、早くにどこかを斃したいと思うやろ。
それは中途半端な戦力による焦った仕掛けとなる。
割り切った攻撃意識とかを持たれると困るんやけど、十数年も塔を保たせている慎重派の上、地位や名誉に執着するタイプやろ。博打みたいに防御を捨てた攻撃とかは出来ないはずや。
強いて言えば【青】のコパンが危険かな。
大商人としての勝負勘と
無鉄砲に見えるような攻撃がウチとしては一番怖い。
そんな【青】の攻撃陣がウチの塔に攻め込んできているわけや。
最初こそコボルトキング(B)を指揮官とした雑魚部隊やったけど、エメリーさんの【宝石の塔】蹂躙を受けて第二陣を送り込んで来た。
総指揮官は男版ヴァルキリーみたいな有翼亜人。
多分
その周りにはフゥのトコにもいる神聖魔法使いの鳥、ヴィゾフニル(B)が二十体。これも【青】とちゃうやろ。
【青の塔】は見た目が青い魔物と、水属性の魔物ばっかのはずや。アデルちゃんもそんな感じやし。
塔構成には【昏き水の塔】みたいに海とか湖めいた階層もあるらしいし、水棲魔物も多いはず。
こっちに送り込んでいるのは水棲魔物以外でデカくない魔物ちゅうことやな。
それは先に入っているコボルト軍団もそうやし、第二陣にもルサールカ(A)が十体もいたり、スキュラクイーン(A)に率いられたスキュラナイト(B)軍団がいたり、ブルーサーペント(B)の蛇部隊がいたり……錚々たる面子って感じやな。
水棲魔物とデカい魔物を除いてこれだけの攻撃陣を組めるってのが【青の塔】の恐ろしいところや。
本来ならこれに加えて
まぁエメリーさんが怖くて防衛に使うしかないんやろうけど。
そう仕向けられている時点で作戦は成功と言える。今のところ、やけどな。
この攻撃陣であればウチは十分に耐えられる。魔物の質と量だけ見ても勝っているし。
罠も今朝にかなり弄って実際に効果は出とるしな。
事前にウチの塔の情報は得ているやろうけど、今頃驚いているはずや。罠の配置が全然違うってな。
ただ戦力も割れているからこの攻撃陣で落とせんことも承知しとるはずや。
どっかで第三陣……おそらく
それの対策は練っておかんと――なんせ今回は長丁場やから。
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
「ナイトメアクイーン、前方右手よりトカゲが三体、左手に二体です」
「ああ、任せろ! 者共続けっ!」
「ウィッチクイーンは後方警戒。遠目で窺っている者がいます。奇襲をしかけてきますよ」
「ん……ハイウィッチたち、構えておいて」
【宝石の塔】は屋内地形が多いですが、屋外も岩山だったり渓谷だったりと多少はあります。
明確に罠が少なくなるのでわたくしが先頭を行く必要もありません。
クイーン二人にもある程度は自由に動いてもらいます。
今回選抜したのは眷属化していないクイーン二人ということで、それがどの程度″軍″として機能するのかというのも焦点の一つです。わたくしとしては、ですが。
ランク的に不足はない。Sランクの固有魔物とAランクですからね。地力でヴィクトリアたちを上回るのは当然です。
しかしこれまで見た限り、やはり眷属化の影響というのは大きいように見えます。
クイーンは配下を従えてこそ真価を発揮する。
つまりは部隊指揮の能力こそが真骨頂だと思うのですが、眷属化していない二人では限界があるようですね。
ヴィクトリアたちは眷属化に加えて軍としての部隊指揮を特訓したことで、彼女たちが率いる部隊はそれこそ騎士団のような規律をものにしていました。
一方でこの二人にも最低限の特訓はしましたが、出来としては『傭兵団』や『冒険者パーティー』止まりといった感じです。
部隊として動くことも出来ますし、指揮も一応は出来ていますが『女帝軍』として機能するかと言うと、まだ足りないですね。
これから特訓を重ねることで改善するのか、それとも眷属化しないとダメなのかは要検証です。
まぁこの二人は性格的な問題もありそうですしね。
ナイトメアクイーンは自らが率先して前に出るタイプ。前線指揮というよりはただの戦闘狂に見えますが。
ウィッチクイーンは逆に最後尾から動きません。スローテンポで配下を動かすのみです。
これで一応部隊として機能していることがわたくしとしては驚きなのですが、上位に従う魔物の本能なのでしょうか、配下はクイーンの意思に従って動いてくれています。
そうしたことが知れただけでも僥倖です。選抜したかいがあります。
【宝石の塔】の魔物は圧倒的に防御力重視。
【忍耐の塔】よりも【甲殻の塔】に似ている印象です。懐かしいですね。
ヴァンパイアは攻撃力が高いですし、ハイウィッチの魔法はよく刺さるということで、戦う分には問題ないです。
これでターニア部隊がいればもっと楽だったでしょうが、そこまで欲を出すわけにもいきません。
いずれにせよ七階層や八階層までは「防御力が高すぎて斃すのが困難」という魔物も出てこないらしいです。
過剰戦力ということですね。わたくしも魔竜斧槍で十分ですし。
ただ九階層には高ランクの魔物が固まっているようだと情報が入っています。
Aランクのクリスタルゴーレム……これはドロシー様が眷属にもしている馴染みの魔物ですね。
あとは固有魔物と思われる、宝石で創られたような大亀とヒュドラがいるようです。
そこら辺の敵が悩みどころですね。
わたくし一人で片付けたほうが速いのですが、大亀をクイーンたちに任せるという手もあります。経験の為にも。
ここはお嬢様とも相談しておきましょうか。今回はわたくしの現場判断だけで決めるわけにもいきませんし。
【宝石の塔】を片付けたら颯爽と家探し……もとい接収をしまして、次の塔の攻略に移らなければなりません。
ナイトメアクイーンとウィッチクイーンも体力・魔力的にきつそうなら休ませないといけませんしね。
二人を連戦で使うとなれば大亀の相手はわたくしがやりますし、休めそうであれば戦わせますか。
……と、わたくしも遊んでいる暇はありませんね。
【宝石の塔】など初戦にすぎません。さっさと攻略しませんと。
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