60:スタンピードの真相です!
■チーノス 15歳
■Fランク冒険者 パーティー【一光一影】所属
五の鐘が鳴り、俺たちはバベルを出て、夕焼けに染まるバベリオの街へと帰って来た。
今日も【世沸者の塔】だ。
最近は【湖畔の塔】のゴブリンを斃して金稼ぎをして、それ以外は【世沸者の塔】で謎解きをするという日々を送っている。
どちらもランクアップには関係なかったようで正直ホッとした。
まぁEランクに上がったところで俺たちは挑戦権があるのだが、特に【世沸者の塔】に関しては三階層から五階層になると思うと必然的に謎解きも増えるのだろうし……そうなると攻略にどれだけ時間がかかるのかも分からん。
じわじわと挑戦者の数も増えているが、未だ一階層を突破したヤツは出ていないらしい。
新しい部屋に入る方法を見つけたとなればその情報をギルドに売るだろうしな。
まぁ自分たちだけの秘密にするヤツもいるだろうけど金に余裕のあるFランクなんていないわけで。
【世沸者の塔】も【赤帝同盟】の一つだから一応は注目されているし、情報は値千金なんだ。
俺たちはそんな売られている情報を買うこともできず、新情報を売ることもできず、地道に探索を繰り返すしかない。
それが面白いから続けられているのだが、できれば俺たちも新情報を売れるくらい進んでみたいもんだ。
と、そんなことを言いながら大通りを歩きギルドへと向かっていた。
しかし何やら大通りが騒がしい。
正門に向かって走る人、大声で叫んでいる人、右往左往している人。様子がおかしいとすぐに気付いた。
「スタンピードだ! オークの群れがくるぞ!」
その声に俺たちは開いた目を見合わせた。
スタンピード――それは魔物災害だ。
魔物の群れが人の集落を襲うことを言う。強大な一体の魔物が襲うのとは違い、弱かろうが波のように群れて襲い掛かるのだ。
オークの群れと言っていたから、おそらくオークキングなどの上位種に率いられた群れなのだろう。
普通のオークでもDランク。ハイオークならCランク。オークキングならBランクのはずだ。
そんなのが群れで来たら……!
「と、とりあえずギルドに行くぞ!」
俺たちは急いでギルドへと向かった。
おそらくバベリオの衛兵団が防衛するのだろうが、その街を拠点としている冒険者にも出動命令が出るかもしれない。
Fランクの俺たちは免除になるかもしれないが、それでも後方支援とか仕事を回されるだろう。
なにせバベリオを守らなければいけないのだ。
弱いからって何もしないわけにもいかない。少しでも戦う力があるのだから。
そう意気込んでギルドへと走ったわけだが……思っていたのと少し様子が違った。
確かにギルドから正門方面へ急ぐパーティーは多い。
しかし呑気にギルド内の食堂で飲んでいるヤツもいるし、何と言うか全体的に悲壮感がないのだ。
「おい、急げ急げ! 早くいかねえと見逃しちまうぞ!」
「わあってるよ! 特等席をとるぜ!」
笑顔だ。どういうことだ? スタンピードがバベリオに向かって来ているんじゃないのか?
それともオークごとき問題ないとでも?
仮に数百のオークだろうが斃せるものだと? いや、AランクとかSランクのパーティーがいるのは知っているが……。
と困惑していると顔見知りの先輩冒険者に声をかけられた。
俺たちに「とりあえず付いてこい」と告げ、正門に向けて走りながら説明を聞く。
「お前らはバベリオに来たばかりだよな。じゃあ知らなくても無理ないんだが」
そう話し始めた。
聞けば、バベリオにおいてスタンピードはよくあることらしく、少なくとも一年に一~二回は発生しているらしい。
俺の地元じゃ十年に一度とか、数十年に一度とかだったぞ!?
それで街や村が潰されてとんでもない被害が出ていたんだ。だと言うのに……そんな頻繁に起こるのか!?
バベリオは自治都市だし国の干渉がない地域。国の騎士団が間引きなどもしない。
冒険者にしてもバベリオの場合はほぼ全てがバベルに挑むので、街の周囲の魔物討伐などしない。
だからバベリオの周辺は特に魔物が繁殖しやすいのだそうだ。
「今回はオークキングが生まれたせいでオークが大量発生したらしいな。千匹近くになるらしいぞ」
「千匹!? そ、そんな呑気に言うことじゃないでしょう!」
「そうですよ! 防衛はどうするんですか! 俺たちも戦わないと!」
「いやいや、俺らは出る幕ねえんだ。ただの見物だな」
オーク千匹が向かって来る正門に出て、戦力である冒険者はただ見物するだけだと言う。
じゃあバベリオの衛兵団が出張るのかと思えば、そうでもないらしい。
一体どういうことかと思いつつ、正門へと走った。
正門を出れば多くの人がいた。冒険者だけじゃない。明らかに一般街民と分かる人までいる。
武器など持たず、皆笑顔で談笑までしているのだ。
そんな中、正門から伸びる街道のはるか先。丘陵の奥からオークの群れが姿を見せる。
夕焼けの赤に彩られたそれは蠢く獣の波だ。
千匹のオーク……その地獄絵図は俺の想像をはるかに超えた、明らかな″災害″だった。
まだまだ距離があるのに腰が抜けそうになる。
しかし恐怖に慄いているのは俺たちくらいのもので、他の連中は「来たぞ来たぞ」と嬉しそうにも見える。
バベリオの住民は常軌を逸している、そう思わずにはいられなかった。
――その時、俺たちの上空を黒い影がよぎった。一瞬、夕焼けの赤が黒く染まったのだ。
何事かと見上げれば――
「おおっ! 来たっ! 来たぞっ!!!」
「相変わらずすげえ! 今日は三体か!」
ドラゴンだ。
黒いドラゴンが三体、三角形を描くように空を飛んでいる。
それは俺たちの後方――バベルからオークのスタンピードに向かっているようだった。
隣で先輩冒険者が言う。
「先頭の黒竜の首のトコ見えるか? あそこに人が立ってるだろ」
指さす方には、言われてみれば微かに見える程度の人影。
夕焼けの暗さと黒竜の黒さも相まってよくは見えないが。
「あれが【黒の塔】のノワールだよ」
「ノワール!?」
言わずと知れたバベルの三強。たった三塔のSランクにしてバベルの頂点。
その一角が【黒の塔】。そんなことはFランクの俺たちでさえ知っている。
たった八年でFランクからSランクにまで上り詰めた天才だとも。
そのSランク塔主がバベルから飛んできたのか!? バベリオを救いに!? ドラゴンに乗って!?
「ここ数年はずっとさ。スタンピードが出るたびにノワールがドラゴンで殲滅するんだ。まさにバベリオの英雄様だな」
塔主は街民にとっての英雄。それは分かっている。
でも
「まあ見てろ。ドラゴンの戦闘なんてそうそう見られるもんじゃねえ。それが三体もいるんだぜ? 千匹のオークなんてあっという間に蹴散らすだろうよ」
だから俺たちは特等席から見物するだけだ、そう言った。
――ゴオオオオオオッ!!!
放心状態のまま、俺はそれを見た。
三体の黒竜が放つブレスが上空から地上を薙いでいくのを。
後に残るのは焦げた地面、ただそれだけだった。
■シャルロット 15歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『――というわけですわ。今回もノワール様の活躍でバベリオは無事でしたと。数日はノワール様を称える記事になるでしょうね』
スタンピードが起こったことすら知りませんでした……。
私だけではなく、ドロシーさんもノノアさんも同じようでしたけど。
ノワールさんという方はどうやってスタンピードを察知しているのか、どうやって出撃しているのか、黒竜三体なんて大戦力を見せびらかせていいものなのか……全く理解できません。
「と言うか、黒竜三体とも眷属ということですか?」
自塔の外に出すことのできる魔物は眷属だけのはずです。
そうなると黒竜三体が全て眷属ということ。
Sランクの塔の眷属枠は八体ですから、その内三体が黒竜ということでしょうか。
……確実にSランクの魔物でしょうけどね、黒竜とか。
『普通に考えればそうでしょうけど、不自然ではあるとわたくしも思いますわ。仮に何体も黒竜を召喚できたとしても眷属にするのは一体で良さそうですもの』
『一体に統率させて他の黒竜を従わせるってことやな。でもただの黒竜好きかもしれんで?』
『それならそれでいいですけれど……フッツィルさんは何か掴めませんの?』
『あの塔はファムで探れんからのう。塔の魔力が高すぎる』
小精霊ファムは世界のどこにでもいる。フゥさんはファムの見聞きした情報を聞くことができます。
だからこそ他の塔の情報を誰よりも詳細に知ることができるわけですが……。
そんなファムでも近寄れない場所があると言います。
それは『自然とかけ離れすぎた高魔力の集まる場所』。
つまり塔――それも高ランクの、しかも属性の偏った塔が苦手らしく、さらに言えば火水風土の四属性より光闇の二属性に偏った場所が最も苦手なのだそうです。
アデルさんの【赤の塔】も火属性に偏っていますがCランクということもありまだ問題なし。
Aランクの【緑の塔】などはかなり厳しいものの、全くファムがいないということもないのだとか。
逆にBランクの【闇の塔】の方が厳しいらしいですね。ほぼ探れないそうです。
自然と共にある精霊が故に、そうした不自然な属性の塔には近寄りたがらない。
だからフゥさんの情報収集も限界があると言います。
【黒の塔】はSランクで、しかも闇属性に偏っているのでしょう。ならばフゥさんが情報を集めるのはほぼ不可能じゃないでしょうか。
なんとなくモヤモヤした気分でいると、私の後ろから呟きが聞こえました。
「【黒の塔】……ですか」
――エメリーさん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます