397:バラージパーティーが侵入して来ました!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『――というわけですので、お手数ですがわたくしが街に出る際は、シャルロットさんとエメリーさんに同行お願いしたいのですわ』


「分かりました。その時はお声がけ下さい」



 アデルさんが【赤竜兵団】をまとめて討伐したようです。

 思いの外早かったですね。もうちょっと泳がせると思いましたが。


 【赤竜兵団】全滅の報を受けて、ミッドガルドのブルグリード伯は暗殺者を差し向けるかもしれないということで、エメリーさんに護衛を頼まれました。

 これまでも極力一緒にお出掛けするようにしていましたけど、より警戒が必要ということですね。



『ウチもスルーツワイデから暗殺者とか来るんやろか』


『い、今のところなさそうですけどね……ローゼンダーツ伯が復讐を諦めたのならいいのですが……』


『貴族の復讐に限らず今の【彩糸の組紐ブライトブレイド】はどこから恨みを買っているのか分からない状態です。私も気を付けます』


『うーむ、わしも夜の独り歩きは自重しといたほうがいいのかのう……』



 フゥさんは無防備すぎますよ。

 ファムに見張らせているのも、ご自身が強いのも知ってますけどね。

 なるべく誰かと一緒のほうが安心でしょう。





 それから数日後、私はいつものように玉座に座り、二の鐘が鳴るのと同時に画面を監視し始めました。

 最近はまた侵入者の数も増えましてBランクの塔にしては多いと言えるほどの盛況ぶりとなっています。

 【白雷の塔】や【正義の塔】の一件のせいというのもあるのですが、だからと言って【赤の塔】の侵入者が減っているというわけでもなく、そちらも客入りは良いとのこと。


 これは多くのBランクの塔が消えたためですね。まぁその張本人は私たちなのですが。

 私とアデルさんがBランクに上がった時から数えれば、【轟雷】【影】【黄神石】【狂乱】【隠者】【氷牙】【白雷】【針葉樹】と、八塔ものBランクが消えています。改めて数えるとすごいですね。


 そのせいで行き場を失くした侵入者の方々が私たちの塔に入っていると。

 大改装をしたことで客入りの減少も考えられましたが、今では逆に増えている結果となっています。嬉しい誤算ですね。



 【女帝の塔】に入ってくる侵入者はBランクとCランクの方々ですが、圧倒的にBランクが多いと思います。

 やはりBランクの塔の中でも難しいほうだと見られているのでしょう。

 Cランク侵入者で【女帝の塔】に来るのは、よほど功名心が高いか、物見遊山で入りに来るか、そんなところです。


 Bランクに上がった当初は「せっかく今まで【女帝の塔】に挑んでいたのだから」とか「知識的なアドバンテージはBランク侵入者より上だ」とか「五階層への往復転移魔法陣が使えるから」とか、そういった理由でCランク侵入者も多かったと思いますが、だんだんとその数は減っていきました。


 そのCランク侵入者の方々は別のBランクの塔に行ったか、【忍耐の塔】【輝翼の塔】に行ったかという感じだと思います。

 私たちの同盟はどの塔も右肩上がりということですね。



 塔主戦争バトルの数はどこよりも多いですし、その結果、報酬TPや召喚報酬で塔は強くなり、集客も増えると。

 そう考えればやはり塔主戦争バトルを熟すことが、塔を成長させる一番の要因だということでしょう。

 神様はだから「もっと塔主戦争バトルしろ」と仰っているのかもしれません。



 話を戻しますが、今の【女帝の塔】は侵入者の大体二~三割が入ってすぐの往復転移魔法陣を使用します。

 二~三割が五・六階層スタートで、七~八割が一階層スタートということですね。

 大改装をしたせいで五階層に到達できるパーティーも限られるようになってしまいましたから、二~三割のほとんどが大改装前に五階層到達を為した人たちということです。


 やはり大改装後の三階層と四階層が難しいようですね。

 ここは塔主戦争バトル用に『斥候潰し』と『飛行系魔物潰し』を目的に改装しましたが、侵入者相手でもある程度は刺さると。

 そのせいで五階層到達者がなかなか出にくい現状です。


 まぁそれは承知していましたので特に問題はないです。

 おそらく情報が出回り、突破方法が研究され、そのうち突破者も増えるとは思いますが、どうせ塔主戦争バトルになれば多少弄りますしね。

 普段は侵入者用にこれでも手加減しているほうなのですよ。可動させるトラップを少なくしたりですとか。



 私は画面でその様子を眺めます。

 壇下に並ぶ六名のクイーンも同じ。観察しながら気になったところを共有し、話し合い、その日の夜に改善するというのがいつものスタイルです。私とエメリーさんを合わせて『八女王会議』と呼んでいます。


 その日も同じように皆さんで大きな画面を見ていたのですが――。



「ん? これってまさか……例のアレですかね?」


「まだ何とも言えませんが、見知らぬパーティーであるのは確かですね」



 一階層からスタートする侵入者の群れ、その中に知らないパーティーが数組紛れていました。

 ランクアップや塔主戦争バトルの直後ならそういうこともあるのです。

話題に上がった【女帝の塔】に挑戦してみようという新規パーティーが必ずいるので。


 しかし【正義の塔】戦から少し経ち、侵入者の波も収まりかけている今、新規パーティーが何組もまとめて入るというのはちょっと珍しい。

 私も全ての侵入者を覚えているわけではありませんが、少なくとも五組ほどは見た事のないパーティーがいます。



 つまりこれは……バラージ王国からの刺客、ですかね。


 ジータさんがドナテアさんから聞いた話によると、私が【影の塔】を斃したせいでそうした動きがあると。

 塔主のサミュエ・シェールさんは西の砂漠国バラージ王国の宰相でもあるシェール公爵の娘さんだったそうです。

 その敵討ちのために宰相さんが動いたのだと言います。


 権力を使ったのか財力を使ったのかは分かりません。

 とにかく冒険者を百人ほど【女帝の塔】に送り込み、攻略するよう依頼したということでしょう。

 それが今まさに入り始めたのではないでしょうか。私にはそうとしか思えません。



『宰相閣下が娘のために動いたというには真っ当すぎる手ですわね』


 アデルさんはそう言います。だから平行して暗殺者なども派遣しているかもしれないと。

 私も街中では気を付けないといけません。エメリーさん頼りになってしまいますが。

 しかしこうも言います。



『宰相位でありながら騎士団など国の戦力を使わず、わざわざ冒険者を雇ったというのは、わたくしとしては評価に値しますわね』


「騎士団よりもバベルの探索・攻略に向いているからですか?」


『それもありますけど単純に財力の高さと、手駒としての使い方ですわ』



 まずバラージ王国からバベリオまでが遠く、さらにそこで長期間掛けて高難易度の【女帝の塔】を攻略させる。

 そんな依頼は高額となって当然ですし、それが百人分ともなれば依頼料の総額はとんでもないことになります。


 いくら宰相さんでも前金でそんなお金を払うわけがない。

 だから成功報酬という形で、最初は旅費分くらいを渡しただけではないかとアデルさんは予想しています。

 そうすれば単純に百人分の依頼料を払うよりも断然安くなりますからね。

 アデルさんはそうした冒険者の使い方に感心しているようです。宰相さんの評価が高いと。



 ただその場合、二つの問題が考えられます。


 一つはバラージ王国の王都から冒険者が大量にいなくなるということ。

 おそらくBランクとCランクの冒険者に依頼していると思いますが、いくら人数の多い王都ギルドと言っても百人がいきなり抜ければギルドとしても大打撃です。

 宰相さんからの依頼であってもギルド側が断るでしょう。


 ですので王都以外のギルドにも声を掛けたのか、それともギルドに金を渡すことで解決したか。

 後者だとすればそれもまたお金の使い方が上手いということ……だそうです。アデルさん曰く。



 もう一つは、百人……おそらく二十組くらいの冒険者パーティーが協力体制にない・・ということ。

 成功報酬としているのなら大金を手にするのは一組だけになるでしょうし、【女帝の塔】の攻略争いになるでしょう。

 攻略情報の共有もしないでしょうし、他のパーティーに負けじと無茶な攻略をするパーティーも出てくるはずです。


 それでは攻略の難易度を高めているだけですよね。

 まぁ遠く離れたバラージ王国の宰相さんが、【女帝の塔】がどれほど攻略の難しい塔なのかなど知る由もありません。

 おそらくは「二十組もあれば誰かが攻略できるだろう」と高を括っているのでは、とアデルさんは言います。



 つまり私としてはありがたい話なのです。侮ってくれてありがとうございますと。

 私の立場から言わせて頂ければ、二十組が協力し、百人の大隊となって攻略してくるほうが断然厄介です。

 百人がまとまるかどうかは別ですが、単純に数が多いだけで攻略難易度は下がりますから。


 例えば一階層のボスにデュラハン(C)の部隊がいますが、一組五名ほどのパーティーであれば怪我を負うこともあります。

 しかし百人が一度に掛かればデュラハン部隊など簡単に斃せるでしょう。

 罠に関しても複数の斥候がいれば回避もしやすいでしょうし、百人の中に優秀な斥候が一人いれば完全回避も夢ではありません。


 アデルさんも【赤竜兵団】にそういうところを期待していたようですけどね。

 理性的すぎたのか何なのか、攻略に本腰を入れなかったようですので仕方ありません。

 大人数での塔攻略というのは本来それほど注目・警戒するものなのですよ。塔主としては。



 しかし私が今見ている限りでは、新規の五組も協力し合っている様子はありません。

 やはりアデルさんの予想が正しかったのかと。バラバラの冒険者パーティーの競い合いが始まるのかと思うのです。


 ならばこの五組は″先行組″ということでしょう。

 早めにバベリオに着いたパーティーが一足先に【女帝の塔】に入ってみただけ。

 明日以降も続々と新規の侵入者が入ってくる、その前兆なのだと思います。



「問題はどこを討伐ポイントとするかですね」


「今日の新顔がどの程度の探索ができるか、それを基準にするしかありません」


「出来れば<帝政統治>のエリア内で全てを討伐したいものですが……欲をかきすぎるのは良くないですね」



 バラージ王国の冒険者のレベルも分かりません。

 強いのか弱いのか、どれほどの速度でどれほど攻略してくるのか。

 探索の方法、得意・不得意、まだ何も分からないのです。


 今日の五組はある意味で試金石となります。

 出来れば今日の所は無茶な探索などせず、ある程度【女帝の塔】の難易度を測ってから本格的な探索に入って欲しいものですが……どうですかね。


 今日のうちの誰かが死んでしまうというのが一番いけませんよ。

 それだけは注意して下さいね、本当に。



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