398:怪しげな二人……です!
■セルミアイナ 33歳
■第491期 Aランク【風水の塔】塔主
「来たわね。何の用よ、こっちは忙しいってのに」
『ハハッ、やっぱバレたか。さすがだね、セルミアイナ』
私は玉座の前の
そこにいるのは私の限定スキルで分かってるのよ。
そしてそれが誰かってのもね。まぁこんなことをするのはこいつくらいしかいないだろうけど。
よほど暇なんだろうけど、こっちは相変わらず忙しい。
何せ上がる予定もなかったのにAランクになっちゃったんだから。
同じようにランクアップした″新人Aランク″の連中はみんな同じ感じだろう。
【土】や【戦車】は準備していたかもしれないが【竜爪】【色欲】は私と同じく大慌てに違いない。
情報収集はおざなりになっているが大体の想像はつく。
『上層はまだ時間がかかりそうだね。スカスカで酷いもんじゃないか』
「当たり前でしょ。広くなった上に五階層分も増えたんだから。Aランクの侵入者にも対応しなくちゃいけないし」
『まぁそんなもんだよね、ランクアップなんてさ』
よく言うわよ。自分はとっくに経験しているくせに。
BランクからAランクへの適応は簡単じゃない。CランクからBランクに上がった時よりよっぽど大変だ。
早い人なら半年や一年で済むらしいけど、私はまさかランクアップするなんて思ってなかったからね。当然のように出遅れている。
『TP不足なら
「今の【風水の塔】の状態で戦えそうなオススメはあるの?」
『そうだなー、【女帝の塔】とか』
「冗談じゃないわよ。誰があんなのと戦うもんですか」
『ハハッ! まぁそりゃそうだよね』
下克上ばかりを狙う【
結論を言えば、絶対に勝てない。
仮に私の【風水の塔】がAランクとして完成して、【女帝の塔】が現状のままの戦力だったとしても勝てない。それくらいの差がある。
何よあの眷属の陣容は。固有魔物だって全部で十体近くいるじゃない。
戦力的にはすでにAランクでもおかしくはない。
あと足りないのは魔物の総数と、限定スキルと、塔主としての年季くらいのものだろう。
「消したいんだったらあんたがやりなさいよ。あんただったら【女帝】でも勝てるでしょ」
『いやいやそんな勿体ないことしないよ。今は【女帝】のおかげで色々と盛り上がってるんだから』
「何それ。【聖】同盟の件?」
『そうそう。同盟がざわついてるのはそっちも知ってるでしょ? でもそれ以上にバベリオの創界教会がざわついてる』
【女帝の塔】による【白雷】【正義】の連続討伐。
もともとあの連中は【聖】同盟を敵視していたし、【聖】同盟も【
でもランク差がありすぎて戦いたいけど戦えない状態だったわけだ。
ところが創界教の大司教が新塔主になったことで状況が変わった。
【聖】同盟は大司教を焚きつけて【女帝】との
結果はもちろん【女帝】の勝ちだが、それ以上に【聖】同盟と【
これですぐに
でも【聖】同盟は申請しないわけにはいかない。色々と面子があるからね。
となれば、あとはいつ頃その申請を受理するかだけど……少なくともあと二年は先だろうね。いくらあの連中でも。
そんなわけで【聖】同盟のゴタゴタは分かってるんだけど、創界教会がざわついてるってのは?
『【
「うわぁ、いよいよ本格的になってきた感じね。教会のほうも黙っちゃいないでしょうに」
『神聖国のほうに話は行くだろうけど、それで出来る手なんて限られているだろう。せいぜい【聖】同盟に早く【
それで益々【聖】同盟はゴタゴタするってわけね。
いいじゃない。適当な説法をして信者から金を巻き上げるような連中はもっと苦しめばいいわ。
だからと言って私が【聖】同盟をどうにかすることも出来ないんだけど。
「あんたにとっては良い話じゃない。【女帝】に感謝でもしておきなさいよ」
『ハハッ! そうだね。だから【女帝】には益々強くなってさっさと【聖】同盟を斃してもらわなきゃならない。そんなわけで【風水の塔】と……』
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 誰が【女帝】のTPになんてなるもんですか!」
冗談なのは分かるけど本気も何割か入っていそうで嫌だわ。
ていうか、【聖】同盟を消したいってんならあんたがいくらか斃しなさいよ。
【聖】や【雷光】は無理でも【鏡面】や【鋭利】くらい斃せるでしょうが、あんたなら。
「冗談言って邪魔しに来ただけならさっさと帰りなさい。忙しいって言ってるでしょ」
『そうだね、じゃあ本題に入るけど』
何よ、さっきの世間話は本題じゃなかったの?
てっきり暇つぶしで遊びに来たのかと思ってたわ。
『うちと【風水の塔】で同盟組まない?』
「…………は?」
思いもよらないとはこのことだ。少しの間、時間が止まってしまった。
すでに私たちの関係はかなりオープンなものだ。互いに限定スキルを使っているから隠しようがないのだけど。
同盟を結ばずともこうして会話できるし、情報交換もできる。
新人塔主ならまだしも、十年以上も一人で運営してきて今さら同盟を組むメリットなんてないでしょう。
抑止力の為? いや、誰かに狙われてるなんてないし、仮に狙われても申請を却下するだけ。じゃあまさか……
「あんた【聖】同盟に仕掛ける気?」
それくらいしか理由が思いつかない。
私を組み入れて
でもこいつと組んだくらいで戦える相手でもないでしょうに。
『いやいや違う違う。アレは完全に【
「んじゃなんでよ」
『理由の一つは、この会話がめんどくさい』
あー、まぁそれは否定しない。
こいつは透明化した悪魔を自分の塔からわざわざ派遣していて、それで見聞きしている。
他人の塔でも潜入できるような規格外の諜報型限定スキルだ。
対して私は<風と水の調べ>という限定スキルで、向こうの塔の声を拾っている。
風が″声″を拾って来るまで時間が掛かるのだ。
普通なら一分くらいで済む会話も、その数十倍掛かっている。会話のテンポなんてないに等しい。
どうせ情報共有するならストレスのない会話がしたいってことね。
まぁそれには同意せざるを得ない。
『もう一つの理由は【緑】と【黄】に触発されたってとこかな。ベテランで高ランクの塔が同盟を組むことで明らかに活性化している。ならこっちも同盟ブームに乗っちゃおうってね』
【緑】のエルフ同盟と【黄】のバレーミア同盟についてはなかなか衝撃的だった。
絶対に同盟なんて組まないと思われていた高ランクの二塔が、今期になっていきなり同盟を組んだのだ。
それぞれに理由があるのは分かっているけど、狙ったかのように時期が同じだったので驚いたものだ。
今期は新塔主も妙なのが多い、
バベルの中はいつにも増して騒がしかった。
だから私たちが組んだところでそこまで驚かれることもないはず。木を隠すなら森ってことね。
【緑】や【黄】が活性化しているってのも何となく分かる。
話題に上がることで集客が増えるってのもそうだけど、ずっと一人で塔運営してきた環境がガラッと変わる。
それは塔主にとって心境の変化だけに留まらず、正しく心機一転の気持ちで運営に臨めるのでしょうね。
ただ、私がこいつと組んだところでそんな清々しい変化などあるか? どう考えてもストレスを感じそうだけど。
まぁ邪魔と思えば通信を切ればいいだけか。それでいつも通りの孤独な運営が出来る。
私は悩んだ末に了承した。
こいつ自身は全く頼りにならないが、こいつの塔の強さと限定スキルの利便性については信用している。
私の限定スキルと併用できれば情報網はさらに広がるしね。
というか私にとってのメリットはそれくらいのものなのだけど。
『オーケー! んじゃ、同盟申請出しとくんでヨロシクぅ!』
「はいはい。それじゃさっさと帰りなさい。あとは画面通信で会いましょう」
こうして私は塔主となって初めて同盟を組んだ。
しかしあれよね。同盟というのは大体、上位の塔の名前をとって〇〇同盟と言われるのよね?
ということはつまり……【悪魔】同盟になるの? それはちょっと恥ずかしいな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます