395:エルフ塔主の互助会です!



■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



「なるほど。では【清泉の塔】も【守り人の塔】も一応は順調ということじゃな。それは何より」


「はい。クラウディアさんを始め、皆さんの助けを借りて何とか出来ています。同盟に入れて頂いて本当に良かったですよ」


「あまりクラウディアさんの手を煩わせたくはないのですがね……アハハ……」



 月に一度のペースで行われているエルフ互助会じゃが、新塔主の塔がオープンしてからは少し内容が変わった。

 今までは【春風の塔】【紺碧の塔】【聖樹の塔】の強化・安定が議題の最優先じゃったが、エルフ六塔が同盟を組んだことで、それらは日常の塔運営の中で話し合われることとなった。


 新塔主であるエルメリアの【清泉の塔】とキーリオの【守り人の塔】にしても同じことじゃな。

 毎日の運営の中で画面を通し、話し合いと改良が日々行われておると。



 そういったわけで今の互助会は世間話や、わしへの報告といったものがほとんど。

 元々そういう緩い感じの食事会や親睦会をしたくて互助会を発足したので、ある意味狙い通りではある。



「エレオノーラはどうじゃ? 最近は全く連絡をとっておらんがちゃんと出来ておるか?」


「あんたの代わりにクラウディアさんやアリシアさんに怒られてるわよ」


「ハハッ! むしろ相変わらずで安心したわい」


「でも同盟で画面を繋げて塔運営するっていうのはすごいわね。本当に助かってるわ」


「私としてもその利便性を日々痛感しているところです。こんなに便利だと知っていればもっと早くに同盟を組んでいたと悔やんでいます」


「クラウディアの苦になっていなければそれでいい。わしも勧めた甲斐があるというものじゃ」



 エルフは人目をはばかって生きているからのう。塔主となっても孤独に運営するのが正しいとされてきた。

 わしが異端なんじゃよな。ハイエルフだからと言うわけではないが、五十年も隔離され続けた反動なのだと思っておる。

 街に出たかったし、様々な文化に触れてみたかった。人との交流もその延長じゃな。


 わしは運良く【彩糸の組紐ブライトブレイド】と知り合うことが出来た。

 その恩恵は現在進行形で身に染みておる。


 それが所謂「バベルにおける同盟の関係性」とは一線を画すものだと分かっておるつもりじゃが、こうした同盟であればエルフ塔主にとっても有意義なのは間違いない。

 だからこそクラウディアたちにも勧めたのじゃ。同盟はいいものだぞと。



 とは言えエルフ同盟と【彩糸の組紐ブライトブレイド】では大きく異なる部分がある。

 エルフ同盟の場合、トップが年長者であり一強のクラウディアで確立してしまっているし、塔主歴とランクで上下関係のようなものが出来上がっているのじゃ。


 対して【彩糸の組紐ブライトブレイド】の場合はほぼ横並び。

 シルビアが一年後輩ということでやたら敬って来よるが実質的な差はそれほどない。

 代表塔のシャルも別にわしらを従えているわけではないからのう。

 同盟の主軸ではあるがリーダーではない。あれでノノアと並んで最年少じゃしな。



 そういった違いもあってわしは危惧しておった。クラウディアの負担が大きすぎないかと。

 【緑の塔】がSランクに上がってしまったせいで塔運営が大変な状態であるにも関わらず、五塔の面倒を見させるというのもどうかと。


 しかし話を聞けば、下の者の面倒はアリシアやミケルが行っているという。

 新人のエルメリアやキーリオはまずアリシアやミケルに相談し、それでも悩んだ時はクラウディアを頼る、という形になっているそうじゃ。

 それはアリシアやミケルにとっても良い機会じゃと言う。教えることで学ぶこともあると。それは正しいとわしも思う。


 そしてエレオノーラも相変わらず塔運営に難儀しているようで、同じようにアリシアを頼っているらしい。

 アリシア曰く、エルメリアやキーリオよりエレオノーラの面倒を見るほうが大変だと。

 それはそうじゃろうな。わしにはそれがよく分かる。



 ともかく同盟を組んでから数月、会議しながらの塔運営にも慣れ、どの塔にしても安定はしているらしい。【緑の塔】は無理じゃろうがな。

 それはわしにとっても有り難い事。心配の種が減るからのう。



「どこかから塔主戦争バトルを申請されたりとかはあるのか?」


「今のところどこからもありません。同盟を組んだことで申請されづらくなっているのかもしれませんが」



 これだけバベルで塔主戦争バトルが頻発しておるのにエルフ同盟はまだ誰とも戦っておらん。

 危険でないのは幸いじゃが、塔を成長する機会がないと捉えれば、多少なりとも申請があっても良いとは思う。


 やはり「Sランクの【緑の塔】の同盟」というのが嫌がられる原因かのう。

 強大な塔が下位の塔の後ろ盾となることは″バベルの同盟″にありがちじゃ。【霧雨】同盟などがその典型じゃったが。

 【緑の塔】に目を付けられると困るから【春風の塔】は狙わない、といったこともあるかもしれぬな。



「しかし【聖】同盟からは前以上に目を付けられているでしょうし、他にもどこか狙って来るかもしれません。油断はしないつもりです」



 人間至上主義の【聖】同盟からすればエルフ同盟など排除したい最上位に違いない。

 ましてやそれが【聖の塔】とランキング的にもほど近い【緑の塔】の同盟であれば、余計に邪魔と思うじゃろう。


 バベルにおける同盟の最強は【聖】同盟で間違いない。

 しかし第二位としていきなり【緑】同盟が現れた。

 抜かされた形の【節制】同盟も何かしら思うところはあるじゃろうが、あそこはランクアップした二塔のせいで身動きとれぬからのう。指をくわえて見ていることしか出来まい。


 となれば警戒すべきは【聖】同盟にほぼ絞られる、が……。



「【聖】同盟は今わしらを斃すことに躍起になっていそうじゃからな。エルフの塔が狙われることも早々ないとは思うが」


「ああ、驚きましたよ。いきなり【女帝の塔】が【正義の塔】を斃したって聞いて」


「あの【女帝】が格下の新人相手に塔主戦争バトルをすること自体異常だしな」


「【聖】同盟に喧嘩を売ったってことなの? あれって?」



 アリシアたちも食いついてきた。やはりあの一戦は衝撃的だったらしい。


 わしは掻い摘んで説明しておいた。アデルも噂を流していることだし別に良いかと。

 【正義】のアダルゼアが想像以上の大馬鹿者で、大司教という権力をもって【白雷】に仕掛けさせたのが原因じゃと。

 ファムで覗いたわしの印象も入っているから多少誇張した感じにはなったがまぁいいじゃろ。



「なるほど。人間世界にあちがちな支配者と民の関係性ですか。私たちには理解できないですね」


「仮に司祭長様が『精霊様のお導きじゃ』って命令してきてもあたしだったら断っちゃうけどね」


「創界教には創界教の考えがあるのかもしれないな」


「少なくともアドミラにはそうしたものがあったのかもしれぬが、アダルゼアの行為が正しいとは思わん。それはエルフでなくても同じく思うところがあるらしい」


「同盟の皆さんですね。特に【女帝】には許せなかったと」


「だけではない。バベリオの民も創界教徒でなければ同じようじゃ。じゃから今は街でも騒がしいらしいのう」



 逆に言えばエルフが街で動きやすい下地が出来上がりつつあるということでもある。

 そういう意味ではわしにとっても都合が良い。

 アデルのファインプレーじゃな。



「しかし、そういうことであれば……まさか次は【聖】同盟を狙うおつもりですか? いかにフッツィル様と言えどもお止めしたいところではありますが……」


「クラウディアよ、分かっておる。わしとて無謀な真似をするつもりはない。【聖の塔】どころか他の三塔にも勝てぬからのう」


「【鏡面】や【鋭利】はどうなのです? 俺にはフッツィル様の同盟ならば勝てそうに思えるのですが」


「仮に勝てても観戦されるじゃろう。例の【大軍師】に」


「ああ、なるほど……」



 皆は同盟を組んでから塔主戦争バトルを経験していないからのう。観戦のことなどよく分からんのも無理はない。

 次に誰かが塔主戦争バトルをした時に思うじゃろうな。これもまた同盟の利かと。



「では【正義】だけ斃して後は放置ですか。私としては賛成です」


「それでなくても今は色々と忙しいからのう。わしはそちらに注力しておる」


「色々とは?」


「一つは例のCランク病じゃな。同盟全体の取り組みでもあるから、わしも後々を考えて今から塔構成を考えておる」



 クラウディアは『Cランク病』という言葉は知らなかったものの、やはり同じように悩まされた経験があるらしい。アリシアやミケルも多少はあるそうじゃが。

 とは言え、エルフ塔主は積極的に塔主戦争バトルを行うこともないので、必然的に塔の創りは『対・侵入者』だけに絞ったものとなる。まぁ一般的と言えば一般的じゃな。


 抱える問題は同じでも解決する手段がわしらとは違うということじゃ。

 わしらは『対・他塔』を基準に考えているせいで、自分たちの首を絞めておる。

 求められるのは『日常的な侵入者対策を踏まえた上での塔主戦争バトル仕様』といった感じじゃからのう。一筋縄ではいかん。



「あとは後期の塔主総会でBランクを狙っておるからのう。その準備じゃな」


「えっ!? もう上がるのですか!?」


「いやまぁ【女帝】や【赤】がすでにBランクだから麻痺してますけど……早すぎますね。さすがはフッツィル様」


「わしも自分でそう思っておる。しかしシャルやアデルが頑張っておるのにわしやドロシーが怠けたままではいかんからのう」


「怠けるの基準が私たちと違う気がしますが……」



 今はBランクに上がった時のことを考えて、TPを溜め、塔構成を練り、戦力をどうするかと悩む日々じゃ。

 今までのような『鳥の塔』とは一味違うものにしなければならん。

 その為の魔物と、それを配置する階層が必要じゃし、そこも『脱Cランク病』を考慮した創りにしなければならんと。


 どうせBランクに上がったらTP不足に悩むことは目に見えておる。

 だからこそ今からある程度は構想を練っておかねばならんのじゃ。



「フッツィル様、ということはまさかアレ・・を……」


「うむ、この場で相談などせぬぞ?」


「そうですか……いえ、それは流石としか言えませんね」


「え? 何の話なんです、クラウディアさん?」



 クラウディアは気付いたらしい。わしが限定スキルを取得したことを。

 やはりクラウディアの中でも「Bランクに上がるには限定スキルの一つくらいは必要」と思っておるということじゃ。


 おそらく絶対に必要というわけではあるまい。

 前期の塔主総会では取得していなさそうなのにランクアップした塔もあったからのう。

 しかし三年目やそこらでBランクに上がるならば限定スキルは必要じゃろうな。

 それに加えて総合戦力とか固有魔物の数とかもポイントになるとは思うが。


 これでわしがランクアップしなかったら、その理由はおそらく総合戦力の低さじゃろう。

 強い魔物はいくらかいるが階層数が少ない分、魔物の数が少ないからのう。そこがネックじゃな。


 まぁ如何ともし難いところじゃから、そうなったら諦めるしかないがのう。

 ドロシーだけランクアップしたらそれはそれで癪なんじゃが……。



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