210:持ち得た情報を整理しておきましょう!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
私たちは神様との立ち会い後も話し合いを進めました。
フゥさんに【宝石の塔】経由で探ってもらいつつの作戦会議となりましたが、そこから手に入れた情報は値千金と言えるものだったと思います。
元々あの同盟は【魔術師】ケィヒルさんと【青】コパンさんの話し合いで全てを決めていたようで【宝石】ノービアさんに入る情報はほとんどないと言っていいほどだったらしいです。
しかしアデルさんの言葉によりメルセドウ貴族として話し合う必要が出ている。
その上
結果として――時間的な問題もあるのかもしれませんが――最初からノービアさんとザリィドさんを交えての会議となり、フゥさんが探れる情報も入りやすくなっているというわけです。
まず向こうの攻め方ですが、予想通り【魔術師】が【輝翼】から【赤】に変更したそうです。
これは『そう動かすようにアデルさんがバラした』ので狙い通りではあります。
【魔術師】が【輝翼】ではなく【女帝】を狙っているかも、とは思いましたが結局は【赤】に帰結したと。
代わりに【霧雨】が【輝翼】となり、【青】が【忍耐】に、【宝石】が【女帝】に攻め込むようです。
これをもって私たちの戦略を練るわけですね。
『最良の方向に持って行けたのではないでしょうか。考える脳のリソースをメルセドウに持っていかれているのだとは思いますが……まぁ安直ですこと』
『四塔同士の
『詩人やなー。そんな余裕で油断できる状況とちゃうで。戦力差は変わっとらんのやから』
それはそうですね。
しかし戦略を練りやすくなったのは確かです。この情報は有効に利用しなければなりません。
そして最大の脅威と見ていた【青】のコパンさんの持つ諜報型限定スキル。これも多少は掴めてきました。
どうやら『一度に一人の対象を覗き見る』能力のようで、メルセドウの様子も探れるというくらいですから『距離的な制限はない』。しかし『時間的制限がある』ようです。
これで私たちの塔は弄り放題……と考えるのも危険なので、ギリギリまでは弄りません。
色々と決めておいて、
仮にそこで覗けても当日の変更ならば対処も難しいでしょうからね。
いずれにせよ厄介な限定スキルを『メルセドウの動きの確認』の為に使われるのであれば重畳です。その分、私たちの情報量は減るのですから。
とは言え他にも不安要素は多い。
【魔術師】【青】【霧雨】の塔構成や魔物。覗き見以外の限定スキル。【青】の
塔構成と魔物については情報と予想で「こういう感じだろう」とは思っていますが後者二つは全く不明です。
この二日間で【宝石】から少しでも漏れればいいんですがね。
あまり期待もできませんし、私たちは持ちえた情報と未確定情報を踏まえて作戦を練らなければならないのです。
「じゃあフゥさんには引き続き【宝石】を探ってもらって、ターニアさんはメルセドウの方を見ていてもらうという感じで継続ですか」
『そうですわね。今はその二点だけを注視すれば問題ないと思いますわ。お願いしますわね』
「了解です。あとは当日に向けた作戦ですが――」
■ザリィド 34歳
■第486期 Bランク【霧雨の塔】塔主
なんとも厄介な話になったもんだ。
せっかく【魔術師】同盟に入り、俺の成り上がり計画が完成間近……というところまで来たんだがな。
とんでもない邪魔が入ったもんだぜ。
アデル・ロージットはゼノーティア公爵の趣味を知っていた。つまり王国派筆頭であるロージット家に知られているということだ。
メルセドウでは闇奴隷を持つことも売買することも犯罪だが、国中には闇商人だって闇奴隷商だっているし、貴族連中の中には
ゼノーティア公爵は紛れもない大貴族だ。
仮に多少話が漏れても、誤魔化したりもみ消したりも容易いはず。それだけの力がある。
しかしメルセドウ貴族の双璧であるロージット公爵家にバレ、国王に伝わり、国軍を動かすような事態になっているということは、即ちゼノーティア公爵でもどうにもできない状況なのだろう。
公爵が捕まるか処されるか継爵されるかは知らんが、貴族派が大きく力を失うのは間違いない。
当然その被害はダウンノーク伯爵家、ウェルキン子爵家、メルンゲム商会にも及ぶ。
メルセドウから離れているからこそ余計に焦る。
俺にとっても痛手には違いない。
これからもっと近づこうとしていた相手がいきなり力を失くしたんだからな。
だがよくよく考えれば、よりチャンスが増えたとも言える。
ゼノーティア公がどうなろうがケィヒルがメルセドウの伯爵なのには違いねえ。
貴族じゃなくなるわけじゃないし、塔がAランクから下がるわけでもない。
力を持ったまま拠り所となる母体が弱まっただけだ。
これから貴族派の権力を取り戻そうと動くはずだし、それに便乗するには今の俺の立場はうってつけじゃねえか。
同盟に加入し、俺の力を見せ、アデル・ロージットを討つ。
その先を考えれば俺の貢献度は一層高くなるはずだ。
だからこそ今回の
ケィヒルもコパンもノービアもメルセドウのことで頭がいっぱいみてえだが、俺は
俺が最初に攻め込むのは【輝翼】らしい。
そこの情報もすでに貰っている。塔構成に抱えている魔物もだ。
明らかに市井では手に入らない情報……こりゃ諜報型限定スキルだな。
さすがにそのスキルの詳細は聞けねえが、おそらくコパンが持っているんだろう。だからケィヒルはメルセドウを探るように指示を出したはずだ。
しかし入ったこともねえ塔の構成や戦力を調べられるスキルとは、随分と反則的だな。
こんなもんどんな塔主だって欲しがるに違いねえ。
なるほど【魔術師】や【青】が躍進し、ケィヒルがノービア以上にコパンを重用するわけだ。
俺からすりゃ敵に回したくない第一位だな。ケィヒル以上にコパンが危険だ。
おまけに
俺と同じBランクとは言え、【霧雨】と【青】とでは大きな差がある。そう感じた。
だからこそ近づく機会を逃すわけにはいかねえってわけだ。
ケィヒル以上にコパンに近づく選択も必要かもな。今後次第だが。
話を戻すが、【輝翼の塔】は飛行系の魔物ばかりで″階層つなぎ″を多用しており、本来ならば全十階層のところ実質五階層の塔になっているらしい。
Cランクでそこまで極端にすることはまずありえない。
馬鹿で無謀な悪手だというのが真っ先に受けた印象だ。
だが階層ごとの塔構成は見事と言うしかねえ。とても二年目とは思えねえほど厄介だ。
一目で探索しにくいと分かるし、地形と魔物の配置が合わさって″罠″みてえな創りになってやがる。
魔物にしてもCランクばなれした強さだ。
一・二階層からCランクの魔物が出て来るし、三・四階層にはAランクのガルーダまでいやがる。
五・六階層は氷雪地形の上にフェンリルやらおそらく固有魔物の大鳥までいる始末。
そして七・八・九階層にはドラゴンだ。さらに正体不明の
なるほどこれが新進気鋭の【女帝】一派か。
序列四位であろう【輝翼】でこの様子なら【女帝】【赤】【忍耐】はBランク上位程度の力を持っていると見ておいて間違いないだろう。【輝翼】だってBランク中位程度はあるだろうしな。
とは言え俺の【霧雨の塔】が劣るかと言われればそんなことはねえ。戦力は俺のほうが上だ。
これが【霧雨】vs【輝翼】の
例え【輝翼】の情報をもらっていなかったとしてもな。
問題は今回の
俺が【輝翼】に攻めるのは確定しているが、【輝翼】が【霧雨の塔】を攻めるとは限らねえ。
もしそうなら通常の
【赤】か【忍耐】ならばおそらく【輝翼】以上に楽になる。
【赤】には【魔術師】が攻めるし、【赤】は守りを固めるしかできないだろう。とても俺の塔に攻撃を回すことはできないはず。
【忍耐】も【青】に攻め込まれれば防衛に全力になるに違いない。まぁ【忍耐】の場合は仮に攻めて来ても相性的に俺のほうが有利だから一番戦いやすいんだけどな。
とにかく、どちらにしても俺は攻撃陣を厚くして【輝翼】を攻めることになる。
さっさと斃してどこかの援軍に行き、手助けすれば覚えめでたくなるだろう。
ただ【女帝】が攻めてきたら困る。
【女帝】の
ケィヒルの抱えているSランク固有魔物でも、コパンの
だから【女帝】が攻め込む塔は全力で防衛するよう厳命されている。
【魔術師の塔】はまだ守りつつ攻め込める戦力を有しているが、他は攻撃陣に戦力を割くことを許されていない。
【青の塔】でさえも守りを固めろと。それほど警戒されている。
しかし全く攻撃しないというのもダメだ。
仮に俺の塔に【女帝】が侵入してきた場合、俺が攻めるはずの【輝翼】を自由にさせちまう。
そうなると【輝翼】が攻めている塔が危険になる、ってわけだな。
ここら辺の噛み合いが今回の
もし【女帝】が【霧雨の塔】に来るようであれば主力は全て防衛に使うことになるだろう。
そうなると【輝翼の塔】にはD~Bランク程度の魔物を送り込み、適度の攻略をさせるに留める。捨て駒による時間稼ぎだ。
俺はメイドの足止めに専念し、援軍を待つという形になる。
それだと俺の貢献度が低くなるんだが……仕方ねえな。死ぬよりマシだ。
まぁ【女帝】が俺以外の塔に攻め込んでくれれば万々歳だ。
期待しつつ、用心しつつ、俺は俺で準備を進めておこう。
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