245:反逆も打ち止めのようです!
■アレサンドロ・スリッツィア 63歳
■第472期 Sランク【聖の塔】塔主
ふぅ、と一息吐く。
やっとのことで斃せたか。あの悪しき獣を。
半年足らずという期間とは言え長く感じたものだ。
今回の
その甲斐あって予定通り、完勝と言ってよい結果にはなったと思う。
【払拭の塔】の敗戦から少し間が空いたのは単に【鋭利の塔】の戦力を強化したかったからだ。
【反逆の塔】の侵入者も多かったが元々保有しているTPが少ないのは分かっていたし、多くなった侵入者に対抗するための魔物は弱く、塔構成も決して良いとは言えない。TPの増加はたかが知れているというわけだ。
ならばこちらが戦力強化に時間を充てても問題ないだろうという判断だった。
そうして
主力とも言えないような少数の魔物だ。
しかしそれでも【反逆の塔】を攻略するには十分すぎる。なにせ向こうはラグエル部隊を除けばミスリルゴーレム(B)程度の魔物がせいぜいなのだから。
これを潰すにはラグエル部隊を送るしかなく、さもなくば最上階まで引き上げるしかない。
【純潔の塔】戦で見せた限定スキルを使うためだな。
こちらとしてはどちらでも良かったが、ヤツは後者を選んだわけだ。
仮に前者を選んでいたら素直に斃させるつもりだった。
なぜかと言えば、攻撃陣の目的が塔を攻略することではなかったから。
第一目的は『影に忍ばせたシャドウアサシン(C)部隊を塔の上層に潜ませること』だった。
そして第二目的が、あわよくば『限定スキルを発動させる』ということ。
向こうは第二目的には気付いたのだろう。それを承知で最上階まで引き上げた。
そして例の限定スキルを発動させ【鋭利の塔】へと急いで向かった。
――シャドウアサシンに気付くことなく、な。
主のいなくなった塔でシャドウアサシンに
しかしすぐにそれをやるわけにはいかない。
我々が
【鋭利の塔】でラグエルを斃し、その上で
前日、【鋭利の塔】はこの
上層にあった『暗闇坑道』を一階層に移動させ、さらに通路を狭く改造。特製の罠も設置した。
罠は地面にスイッチがあるような一般的な罠を数多くし、他にも天井付近に『糸タイプ』のスイッチを使う罠を取り入れた。
これは飛行系魔物が掛かるような罠だ。
地上の罠はミスリードで、本命は天使部隊というわけだ。これも巧くはまった。
前方から仕掛ける魔物は暗闇が得意で速度のある小物ばかり。
それを過剰なほどに多く仕掛けさせる。ヤツは随分と慌てていたな。
ただ問題は、いかにしてラグエルを斃すかだ。
【鋭利の塔】にはSランクのドラゴンなどもいるが配置場所が限られる。
それをラグエルと当たらせるということは、即ちあの獣とも相対しているということだ。
必然的にドラゴンと相対するのはヤツになるだろうし、戦えばおそらく負けるだろう。
だからこそ一階層で仕留める必要があった。
敵攻撃陣と天使部隊の動きを極限まで抑制した『暗闇坑道』で一気にかたを付けようと。
脇道に潜ませておいたのはジャック・ザ・リッパーというAランク固有魔物。暗闇での暗殺ができる亜人系魔物だ。
敵部隊を素通りさせ、背後からそいつを強襲させた。
いくらラグエルがSランクで、こちらがAランクであっても背後から不意に強襲されれば為す術はない。勝利は必然だった。
そもそもラグエルはSランク固有魔物の中でもステータス的に強者というわけではない。それは我々が一番よく知っている。
例えば【節制の天使ミカエル】は攻撃に秀でており、【忍耐の天使ウリエル】は防御に秀でているわけだ。
そして【純潔の天使ラグエル】は回復特化。完全なる後衛である。
ラグエルを一番上手く使うのであれば最後尾からの指揮と援護とするべきであり、ヤツもそれは承知していたらしい。
結果、背後から強烈な攻撃を受けるはめになったのだから、こちらとしては「予定通りに動いてくれてありがとう」といったところだ。
そしてラグエルの消滅を確認し、【反逆の塔】に潜ませていたシャドウアサシン部隊に
ヤツは保険として眷属のミミックスライムを玉座に残していた。
これでもし私たちがミミックスライムの存在を知らず、シャドウアサシンが一体だけで
しかしヤツは出掛けに大声でミミックスライムに指示を出していたし、こちらは何体ものシャドウアサシンを準備していた。
結果は火を見るより明らかだ。
ミミックスライムを一瞬で殺し、生活エリアに隠していた
いくら限定スキルを使っていようが、いくらバフが掛かっていようが関係ない。
こうして【反逆の塔】は消えたわけだ。時間はかかったがな。
「対策の対策が甘かったですね。限定スキルを過信したのもあるでしょうが」
「さすがにそこまで頭は回らんかったようだな。獣は所詮獣ということだ」
「本来あの限定スキルは防衛の切り札に使うべきです。決して攻撃の主軸におくような代物じゃない」
それはそうだな。
しかしSランクの魔物を一撃で屠るような力を得られるのだ。過信も致し方なしと思えるところもある。
とはいえ同情には値せんがな。
こちらは同盟塔を二つも潰され【翡翠の聖女ミュシファ】を喪っているのだ。
負った傷は大きく深い。獣一人では埋まらんほどにな。
差し当たっては【反逆】の同盟となっている【響界】【剣士】の二塔。
あとは当初の目論見どおり亜人の塔を狙って行きたいところだ。
となれば標的とすべきは――
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『神様通信
本日行われた
【反逆の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
「うわぁ、負けましたか」
通知の内容に思わず声が出てしまいました。
個人的には【反逆の塔】を応援していたのですがね。【聖の塔】同盟を二塔も斃していましたし。
『さすがに三塔連続というのは無理でしたか。まぁ順当ですけれどね』
『【鋭利の塔】は【聖の塔】同盟の四番手やろうけど【反逆の塔】からすれば格上やからな』
『さ、さすがバベルで一番の同盟ですね……SABBとかおかしいですよ……』
『むしろ二塔斃しただけでも褒められて然るべきでしょう』
まぁそうですよね。あわよくばと思いましたが虫が良すぎました。
でもダンザークさんは勝算があったから受けたんですよね。
【純潔の塔】を斃し、その後ランクの低い塔から順々に斃していけると。
それだけ強烈な限定スキルを得られたってことなのでしょうが……塔主自ら乗り込んで塔を攻略できるようなバフ効果、ですか。
【聖の塔】同盟を相手に勝算を得られるほどの効果なのでしょうから、きっとものすごいスキルなのでしょう。
私がそのスキルを使用したらエメリーさんくらいに強くなれるのでしょうか。
『わしも【響界】経由で少し調べてみたが結末が全くわからんのう。とりあえず限定スキルは使用して【鋭利】に乗り込んだらしいが』
『やっぱりかい。怖いもんなしやな』
『大天使のラグエルもいるはずですからその力を加味していたのでは? 強大な力を持ったダンザークとラグエル部隊が組めば攻略も視野に入ります。まぁそこら辺のBランク下位の塔ならば、という話ですが』
『【聖の塔】同盟というだけで一線を画しますからね』
『れ、例の大軍師さんもいますし……』
【鋭利の塔】は前回の塔主総会でBランクに上がったばかりですからBランク下位というのは間違いありません。
私たちが今まで戦ったBランク――【力】【風】【死屍】【青】【霧雨】と比べれば確実に下です。
ただそこに【聖の塔】のサポートと【大軍師】シュレクトさんの軍略が加わるのですから、そうなると下位とは言えなくなるでしょう。
なにせ【聖の塔】をSランクにした実績があるのですから。
『限定スキルを使ったのは分かったが、ダンザークが玉座を離れた時点で同盟にも画面は見えなくなった。じゃから【響界】たちもどうやって負けたのか分からんようじゃな』
それはそうですね。通信は
【魔術師】のケィヒルさんもそうでしたが塔主自らが前線で戦うというのはやはり危険なんですね。
やりたくてやっているわけではないと思いますが。
と言いますか……
=====
□女帝の号令/600,000TP:自陣営全てに対して命令を下す(攻勢、守勢、撤退、etc)
=====
私のコレももしかして前線指揮のような感じなんですかね。
今までは玉座に座りながら
自陣営全てという文言も『塔主のいる階層の』自陣営全て、なのかもしれませんし……。
そう考えるとあまり取りたくないスキルですね……私の限定スキルの中で一番強力なのは分かるのですが。TPも一番高いですし。
とは言え私専用のスキルである以上、いずれは取得するのでしょうけど。
Aランクに上がったら考える、というくらいですかね。
またその時に皆さんに相談しましょう。
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