244:続・反逆のダンザーク!です!



■ダンザーク 33歳 狼獣人

■第490期 Cランク【反逆の塔】塔主



 前回の【払拭の塔】戦から四月近い間が空き、【鋭利の塔】から塔主戦争バトル申請があった。

 今の【聖の塔】同盟は四塔で末席がその【鋭利の塔】だ。



 ただ末席といってもBランク。

 それがあの同盟の恐ろしいところでもあるんだが、最初に斃した【純潔の塔】と比べれば同じBランクでも天地の差がある。

 Aランク間近だった【純潔】とBに上がったばかりの【鋭利】では格が違う。


 向こうはそれを承知で申請してきているはずだ。

 即ち、【純潔】【払拭】と戦った内容から俺の戦力やら限定スキルの詳細を読み、その対策をした上で申請したのだろう。


 その策に【聖の塔】の神定英雄サンクリオである【大軍師】シュレクト・ササーが関わっているのは間違いない。



 シュレクトは俺が【聖の塔】同盟を相手にすると決めた時から一番警戒が必要だと思っていた相手だ。

 名立たる塔主たちやSランクの魔物より恐ろしい存在。

 別に【聖の塔】と戦うつもりはねえが、相手が【鋭利の塔】だろうが一番の敵はシュレクトになるだろう。


 もちろん申請は受けた。

 向こうは対策しているだろうが、こちらも対策されるのを承知で色々と準備をしている。

 元よりBランクの塔は全て食らいつくすつもりで【純潔】に喧嘩を売ったのだ。今さら臆すことはない。



 そうして塔主戦争バトルが始まった。

 今回はどんな手を使ってくるのか、まずはそれを見極める為に防衛を固める。

 すると転移門から敵攻撃陣が入って来るのを画面で確認した。


 獣の群れだ。

 スラッシュファング(A)を筆頭にシルバーファング(B)、バレットホーン(D)、ニードルウルフ(D)など五十体ほど。


 すぐに違和感を覚えた。弱いし少ないなと。

 こちらに【純潔の天使ラグエル(★S)】がいると分かっていて送り込む戦力ではない。

 となれば先遣部隊の可能性が高い。



 本来ならば第二陣が合流する前に殲滅させておきたいところではあるが……悩ましいな。


 俺の戦力はラグエル部隊を除けばCランク下位相当。貧弱なもんだ。

 最近は侵入者の数も多いからそれでTPが潤ってはいるが、だからといって強力な固有魔物を召喚するといった強化はできていない。

 あの程度の攻撃陣でも確実に食い止めるためにはラグエル部隊に頼るしかないだろう。


 道中の罠も含めて仕掛けるということもできるが、そうなると上層まで引き上げるのと同じ。

 合流前に殲滅させるならば下層にラグエルを送り込んで斃すしかない。



「どうしましょうか。私が行きますか」


「……いや、引き上げよう。当初の作戦どおりに行く」



 例え第二陣が合流しようが最上階まで引き上げる。

 その上で<反撃の狼煙>を発動させ、俺とシャドウアサシンカゲロウ、そしてラグエル部隊で【鋭利の塔】に乗り込む。


 おそらく向こうはSランクの魔物やら罠やら用意しているだろうが俺とカゲロウで破れるし、ラグエル部隊の神聖魔法の補助があれば安全性も増す。


 ラグエル部隊がいる分【純潔の塔】を攻略した時よりも戦力は上だ。

 まぁあの聖女がいないから俺へのヘイトは減っているかもしれねえがな。それでもステータスの上がり幅は十分すぎる。

 仮にSランク固有魔物のドラゴンがいても俺一人で問題ない。確実に勝てるからな。



 だから俺は全く攻めずに待ち続けた。


 しかし第二陣がいつまで経っても入って来ない。

 そうこうしているうちに先遣部隊はどんどんと攻略していき、ついには十四階層までやってきたのだ。



 どういうことだ……? 第二陣を送り込まずに先遣部隊だけでここまで来させるとは……。

 まさかラグエル部隊に勝てるつもりでいるのか?


 いや、だとしても俺の限定スキルの条件をシュレクトの野郎は知っているはずだ。それをみすみす発動させるような真似を……



 ……そうか! わざと発動させるつもりか!


 発動させた状態で【鋭利の塔】に乗り込ませ、そこで斃せるという算段がついている。

 もしくは<反撃の狼煙>が時間制限などで効果が切れるものと勘違いしている。

 となれば【鋭利の塔】で徹底的に時間稼ぎをし、その上で塔主の俺を直接殺せるような準備をしているはずだ。



 だとすればチャンスに違いない。


 <反撃の狼煙>は敵を殲滅するまで効果は継続する。

 強烈すぎるバフ効果だから使用条件は厳しいだろうと勘繰ったわけだ。なるほどシュレクトは頭が切れる。


 しかし頭が切れすぎるのも考えものだな。

 世の中には条件が甘くて強力な限定スキルもあるってことだ。



 ならばやることは変わらない。当初の目論見どおりに<反撃の狼煙>で一気に攻め立てる。

 俺はラグエルとカゲロウに指示を出し、玉座の前で待ち構えた。



 やがて最上階まで上がって来た獣の群れ。その数は多少減っているものの四十以上残っている。

 だがそんなものは屁でもない。

 俺のステータスはすでにSランク固有魔物を凌駕するほどに高まっていた。


 ラグエル部隊と共に殲滅を始めれば、それはあっという間に終わった。まるで手応えがない。



「カゲロウ、ラグエル、行くぞ! ミミックスライムスイロウ、守りは任せた!」



 そう言い残して俺たちは一階層へと向かった。

 十五階層分を下るのは骨が折れるが、創ってあった裏道を使い、最短で駆け下りていく。


 どうせ【鋭利の塔】で時間稼ぎをされるのであればさっさと攻め込んだほうがいい。

 今まで防衛一辺倒だったその鬱憤を晴らすように、俺たちは急いだ。



 一階層に降り立ち転移門へと向かう。


 そのままくぐればそこは【鋭利の塔】……だったはずだが、俺の足は止まった。



(塔構成が全然違うじゃねえか!)



 直前まで調べていた【鋭利の塔】の一階層は『草原』だったはずだ。

 それが『真っ暗で狭い坑道』になっている。

 階層移動か大改装かは分からない。とにかく情報にない階層だ。


 なるほどこれが時間稼ぎの正体か……! これでは走り抜けることなどできない!


 しかし進む以外の選択肢はなく、俺はカゲロウの高まった斥候能力を信じて歩みを進めた。



 問題は他にもある。坑道の天井高が異常に低いのだ。

 これではラグエル部隊がろくに飛ぶこともできず、地上スレスレを浮くようにして付いてくるしかできない。


 シュレクトが授けたラグエル対策と見て間違いないだろう。

 もし前回の塔主戦争バトルと同じようにラグエル部隊だけで攻撃していたら為すすべなくやられていたかもしれない。

 やはり俺と一緒に攻める形で正解だったな。



 俺たちは天使部隊の光魔法を手掛かりに進んでいった。

 狭い坑道だけに罠も沢山あり、それらはカゲロウの指示で回避していったのだが――



「キャアッ!」



 なぜか後列の天使部隊に罠の被害が出始めた。

 罠はカゲロウが察知しているし回避するよう部隊全体に伝えている。

 それなのになぜ……!?


 混乱しているところに今度は怒涛の強襲。

 キラーオウル(C)、アサシンバット(D)、アサシンリンクス(C)など暗闇が得意な暗殺部隊だ。


 狭く罠の多い通路、縦に伸びた部隊、遅い足取り、そして暗闇と、こちらにとっての悪条件をそのまま活かすような軍勢。


 それは俺の上がったステータスだけで防げるものではない。狙いは天使部隊とばかりに最前衛の俺とカゲロウを素通りし、確実に攻撃を加えていく。



 <反撃の狼煙>状態の俺は跳ね上がった速度で駆け回り、一撃の破壊力でなぎ倒す――というのがスタイルだ。

 それが高めたステータスを最高に活かす方法だから仕方ない。魔法が撃てるようになるわけではないのだから。

 しかし塔構成、地形によって封じられ、その隙にと攻撃を仕掛けられているのだ。



 もちろん俺も応戦した。しかし暗闇の中から何十体も同時に仕掛けられては攻撃も遅れる上に抜けが出る。


 天使部隊は応戦しつつ、回復しつつ、何とか耐え凌いでいた。

 敵の魔物が弱いのが救いだ。Cランク程度ではラグエルは当然防げるし天使の中にはAランクやBランクもいる。だからこそ凌げている部分もある。


 敵の狙いは徹底した削りだ。それも一階層から数を掛けて削りにきている。

 同時に時間稼ぎも狙っているのだろうが……なるほどこれがシュレクトの策ってわけか。ふざけやがって。



 それでも俺たちは少しずつでも前へ。

 ダメージは回復し、敵は全てなぎ倒し、暗闇の中の道を進んでいた。

 依然として前方の通路からは魔物の強襲が続き、俺はひたすらアダマンタイトの剣を振っていた。



 ――だから気付けなかったのだ。



「キャアアアッ!!」



 その声は最後衛に置いていたラグエルのものだった。

 最も大事な戦力であり、指揮官であり、背後からの強襲があっても防げる力量があるからこそ最後衛に置いたのだ。



 それがなぜ……なぜ眷属伝達が繋がらん! 死んだというのか! そんなばかな!



 迫って来る魔物の群れが冷静にさせてくれない。


 ただあの位置のラグエルが死んだということは相応の敵が後ろにいるということに他ならない。


 Aランク、いやSランクかもしれない。……一階層でか!? そんな魔物に一階層から背後を狙わせるのか!?


 どうする……! 必死で頭を働かせる。

 前から魔物の群れ、後ろには正体不明の魔物、状況は悪くなる一方だ。


 仕方ない。俺とカゲロウだけでも無理矢理走り抜けてとにかく一階層を抜けるしか――



 ――と、そう考えていた時、俺の身体に衝撃が走った。



 別に攻撃をくらったわけではない。痛みを感じたわけでもない。


 何かこう……胸の奥の何かが砕けたような……身体が内側から崩れるよう、な……。



 急激に虚ろになった視界には光が見えた。


 光っているのは……俺の身体……か?


 これ、は、まさか……消、え…………。




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