81:今後の方針を考えます!
■シャルロット 15歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
「……人の流れが衰えませんね。もうすぐ三の鐘なのに」
「それだけ【風の塔】と【白雷獣】のネームバリューがあったということでしょう」
【女帝の塔】の最上階十階。玉座に座りながら右手は
いつものスタイル。日頃から女帝らしく、淑女らしくと心掛け、背筋はピンとしています。
後ろに立つエメリーさんはもっとピンとしていることでしょう。見なくても分かります。
「アデル様のところも同じような感じなのでしょうか」
「きっと五つ全部賑わってるのよー。アデル様だけじゃないと思うなー」
私の玉座の前には四つの玉座が並びます。そこに座るのは眷属である女王たち。
アラクネクイーンのヴィクトリアさん、サキュバスクイーンのパトラさん、ラミアクイーンのラージャさん、そして
全員で画面が見えるように、遠めで大きく映し出しています。
「しかしこうも侵入者が多いとリスポーンが間に合いませんわねぇ。素通りさせてしまうのが口惜しいですわぁ」
「ほらぁピクシーちゃんそこですよっ。あら残念~もうちょっとでしたのに~」
ターニアさんがのほほん応援モードなのはいつものことなのでほうっておきまして、今はパトラさんの声に耳を傾けましょう。
仰っているのは二階層のカンビオンですね。TP召喚の魔物ですがパトラさんの配下になります。
カンビオンはEランク。塔のランクはCですから二階層の主力と考えるとかなり弱い部類です。
「対策するならば強い魔物に変えるか、数を増やすか、戦術を変えるか、罠などで対処するか……ですね」
「改善案がたくさんあってよろしいことですわぁ」
「エメリーさんはどう思います?」
「まずは戦術からではないでしょうか。TPに頼らない方法ですし」
低コストで戦果をあげる。塔主としての基本方針でもありますね。
これは同盟の皆さんとお話していて気付いたのですが、どうやら私の【女帝の塔】はその基本方針をどこよりも実践しているようなのです。
きっかけはアデルさんです。
最近は【女帝の塔】から【赤の塔】に流れる侵入者も多く、侵入者の数では【赤の塔】のほうが人気のある状態でした。
おまけに【赤の塔】は『魔物による討伐TP獲得』を狙う方針もあってかなりの戦果を挙げていたようです。
しかしいざ収支を見比べてみれば【女帝の塔】の方が黒字だと。
どういうことかと細かく見てみれば、【赤の塔】より弱い魔物を使っているにも関わらず、その魔物の生存時間が長く、ダメージTPなり討伐TPを稼いでいるらしいのです。
結果として侵入者からは『斃しやすい魔物が多くいる高難易度の塔』と見られ、余計に人気が出ているのでは、とのことです。
じゃあなんでそんなことが起こるの、となった時に思い当たるのは二つです。
一つはクイーンを眷属としているからその配下の魔物が強化されている。
それは能力的な強化も多少はありますが、何より<統率>スキルにより軍隊のような連携がとれているということでしょう。
ちなみに私も<統率>の固有スキルをもっていますが塔主であれば誰でも持てるスキルなので無視します。
二つ目はエメリーさんが直接魔物に指導しているから。
稽古をつけているわけではありません(クイーンの皆さんは稽古をつけてもらっていますが)。単純に「こうなったらこう動きなさい」と指示をすると言う事を聞くと。
ヴィクトリアさん曰く、魔物の自分が言うよりもエメリーさんが言ったほうがよく聞くとのことです。
エメリーさんの<教育>スキルとかが関係しているのかもしれませんが。
『ほおらやっぱりエメリーさんやんか! なんかしてる思うてたんや!』
『ま、魔物を指導って……できるものなんですね……』
『わしも一応、精霊と妖精に関しては指示を通しやすい……はずじゃぞ』
『どうりでおかしいと思ったんですわ。気が付けばクイーンを何体も手に入れていたり、お高い魔物を召喚していたり……はぁ、ようやく腑に落ちましたわ』
といった一幕がありました。
ともかく『低コストで戦果を挙げる』というのは【女帝の塔】の持ち味みたいな部分もあり、だからこそ下手に魔物を増やしたりせず、戦術面で手直しできるところからやっていきましょうということです。
「カンビオンは血の気が多いので真っすぐバラバラに攻めがちなのですよね。もう少し隊列を意識するなり、我慢してタイミングを見るなりできればいいのですが」
「耳が痛いですわぁ。もう少し厳しくしごいてみましょうかねぇ」
「わたくしも時々見に行きましょう。全体的な戦術の見直しも行いたいですし」
「助かりますわぁ」
となりましたが、私としても魔物のランクの低さは気になっているんですよね。
ちなみに今現在はこんな感じです。
=====
・一階層:帝都+城門前広場
魔物:ウッドソルジャー(F)、ウッドナイト(E)、アーマービー(F)、ランサービー(F)
・二階層:エントランス+衛兵控室
魔物:カンビオン(E)、ピクシー(F)、シャドウ(E)
・三階層:地下牢獄
魔物:フォッグスネーク(F)、ラミア(D)、シャドウ(E)、スライム(F)
・四階層:トラップ回廊
魔物:人面蜘蛛(F)、アラクネ(D)、フェアリー(E)、ビーメイジ(E)、ビーナイト(E)
・五階層:庭園
魔物:ビーメイジ(E)、ビーナイト(E)、ビークイーン(C)、キラースプラウト(F)、アルラウネ(D)
・六階層:城内探索
魔物:シャドウ(E)、サキュバス(D)、インキュバス(D)、人面蜘蛛(F)、アラクネ(D)
・七階層:大書庫
魔物:ウィッチ(C)、フェアリー(E)、ハイフェアリー(C)
・八階層:ダンスホール+小部屋
魔物:サキュバス(D)、インキュバス(D)、ハイフェアリー(C)、リビングアーマー(D)、リビングローブ(D)
・九階層:多角形の部屋+大ボス部屋
魔物:眷属クイーン四人+配下、アスラエッジ(A)、シルバーファング(B)、リビングアーマー(D)+リビングローブ(D)
=====
侵入者の進行具合は四階層に行ける人が少しいるくらいです。これだけ人が入っているのにそれしか進めていないと。
改めて見るとよくこの陣容でやれているものだなと他人事のように思ってしまいます。
DランクからCランクに上がった時に大掛かりな修正を行っていないというのもあります。
だから元々五階層だった現八階層がやけに貧弱だったりするんですけど。
「では大掛かりな変更を行うのですか?」
「階層の変更はするつもりがないので考えるなら魔物の配置だけです。と言ってももう少し先ですね。今はTPに余裕もないですし」
「あまり悠長にしているとすぐにBランクになって階層が増えるはめになりそうですわよぉ」
「いえパトラさん、それはさすがにないです」
ランクアップはだんだんと難しくなっていくものだそうです。FからEに比べEからDは難しいと。
今までとんとん拍子で来たので実感はないですが、CからBに上がるには数年掛かるのが当たり前。下手すれば十数年掛かるそうです。
ですのでしばらくはCランクのまま。この階層をキープしたまま中身をいじるといった修正をしていく形になるでしょう。
そしていざBランクに上がった時のためにTPを溜めておきたいというのが理想です。
「魔物の配置変更でもTPを使う。ランクアップして階層が増えてもTPを使う。これでは例の【限定スキル】とやらも当分先のお話になりそうですわねぇ」
「かなり気にはなっているんですがね。全く手が届きそうもないので仕方ありませんよ」
例の
塔主五人もそうですが、エメリーさんやクイーンの皆さんも気に掛けて下さっています。
ターニアさんなんか「わたくしは<魔力感知>得意ですのでいつでもおそばにおりましょうか~?」などと仰ってくれます。
私がスキルをくらったのは塔の外ですし、ターニアさんを衆目に晒すわけにはいかないのでご遠慮しますが、周囲の警戒はお願いするしかないでしょう。
ターニアさんはフゥさんと同じようにファムと会話することができるので偵察や警戒は行えるのです。
ですのでファムからターニアさんに伝え、それを私に眷属伝達で伝えると。これならば私が塔外にいても一応は情報が入ります。
まぁ分かったところで防げるというものではないので対策を考えないわけにもいかないのですが。
ともかく長期目標として私たちも限定スキルを入手すべきだろうと。その意見は皆さんが一致しています。
で、改めて自分の限定スキルを見直してみたのですが――
=====
□女帝招集令/250,000TP:指定した眷属を塔主の元に集める
□帝政統治 /370,000TP:指定したエリアのTPを加算することでTP収入を増やす
□女帝の号令/600,000TP:自陣営全てに対して命令を下す(攻勢、守勢、撤退、etc)
=====
……という費用のわりにいまいちピンとこない効果だったのです。
例えば<帝政統治>というスキルですが、一見TPの収入増になりそうですし、先んじて取得したいスキルだとは思います。
しかしエリアとはどういった区切りになるのか、それをどう指定するのか、TPの加算とはどうやるのか、TPの増加率はどのくらいか、などなど分からない所が多すぎるのです。説明不足というかなんというか。
<女帝招集令>というのは良さそうですけどね。例えば
まぁ私の予想通りに転移めいたものであったら、という話ですが。
そしてお目当てだった『限定スキルに対抗するような限定スキル』ではなさそうな予感。
まぁこればかりは仕方ありませんけどね。
いずれにせよTPを溜めて魔物の強化をしてからさらにTPを溜めスキルを狙うなりランクアップに備えるなり。そういった方針をエメリーさんやクイーンの皆さんと共有しておきました。
「いざとなれば
「それも手よねぇ。面白くなるわぁ」
……クイーンの皆さんは魔物らしく好戦的なので少し困ります。
……エメリーさん、背後で頷いているの分かってますからね?
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