129:【バベル新聞】彩糸の組紐特集vol.5



 大好評を頂いている【彩糸の組紐ブライトブレイド】特集。


 今を輝く第500期の五塔同盟。すなわち【女帝の塔】シャルロット様、【赤の塔】アデル・ロージット様、【忍耐の塔】ドロシー様、【輝翼の塔】フッツィル様、【世沸者の塔】ノノア様へと行ったロングインタビューの内容を今まで四号連続でお送りしてきたが、いよいよ今回がラストである。


 最終回となる今号は一年間の振り返り。そして第501期に向けてのお話を伺った。



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――少し気は早いですがもうすぐ塔主となって一年を迎えようとしています。一年を通しての感想はいかがなものでしょう。


シャルロット様(以下、シ):本当に全てが変わった一年でした。生活や考え方、環境、全てです。その中で一番大きかったのがエメリーさん、そして同盟の皆さんとの出会いだったと思います。従って一言での感想というと「感謝」ですかね。


アデル様(以下、ア):わたくしはひたすらに学ぶ一年であったと思いますわ。塔主となる前も学んでいたつもりではありますが塔主となってから学ぶことのほうが多すぎます。周囲は未知に溢れそれを知ろうとしなければただ座して死を待つのみ。それを痛感した一年でしたわね。


ドロシー様(以下、ド):うちは満足できた一年ではあったと思う。欲を言えばキリがないけどもそれでもほぼ理想的に進められたかなと。あとはもうシャルちゃんに感謝やな。うちの一年はシャルちゃんあってのものやったし。


フッツィル様(以下、フ):わしは身を置くこの環境全てが新鮮なものじゃったからその中で生きるということを嬉しく思う一年じゃったな。それは人や街、食べ物、文化、色々な面でじゃ。大変であると同時に喜びが勝る日々であったと思う。


ノノア様(以下、ノ):私は本当に皆さんに感謝と、それだけです。塔主というものは想像以上に辛く厳しく、それはこの一年で亡くなった塔主の多さが物語っていると思います。その中で今こうして生きていること、救って下さった皆さんに感謝です。


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 我々から見れば順調そのものに見えた一年ではあったが、新塔主となってからの一年は決して楽なものではない。

 皆様がそれぞれに苦労して苦悩してようやく迎えた一年なのだと、その言葉の端々から感じられた。特にノノア様のお言葉はバベルの塔主というものがいかに大変なものかを教えて下さっていると思う。


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――今までで一番思い出深い塔主戦争バトルを教えて下さい。


シ:強い塔や苦戦した塔主戦争バトルというとどれもそうなのですが、私は【正義の塔】のラスターさんでしょうか。切っ掛けも唐突でしたし何も分からない状態でとりあえず塔主戦争バトルという流れだったので。


ア:強いて挙げれば先日の【昏き水の塔】でしょうかね。作戦を立て事前準備を行い時間をかけただけあって手応えのある内容にできたと思っております。


ド:うちは【力の塔】同盟かな。初めての塔主戦争バトルちゅうのもあったけど単純に強すぎたし。でも準備から何から全力でやったから達成感がひとしおやったな。しかし今にして思えば初戦で戦っていい相手とちゃうやろ。よく勝てたわほんま。


フ:わしは【風の塔】同盟じゃのう。あれほど苦戦しあれほど冷や汗かいた塔主戦争バトルもない。終わった時は抜け殻のようじゃったよ(笑)ただあれを乗り越えた経験がわしにとって大きなものになったのは間違いない。


ノ:私は先日の【千計の塔】戦ですね。自分なりにやっと手応えを感じることができた塔主戦争バトルだったと思います。それまでは皆さんに流されるままといった感じでしたし。それに神様にも褒めて頂きましたし。


――ノノア様、神様にお褒め頂いたのですか。


ノ:はい。私の塔の構成は特殊ですから不安だったのですが、そのまま頑張ってと言われました。それで少し自信になりました。


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 神が認める塔。それはさぞかし心強いことだろう。

 かつては【弱き者】と揶揄された塔はどこにもない。知力が即ち強さであると声高々に謳える塔となっているのだ。


 しかしこうして戦績をお聞きするだけでどれだけ強者との戦いを繰り広げられてきたのかが分かる。この同盟の一年は本当に濃密で厳しいものなのだと。


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――来期に向けての抱負をお聞かせください。


シ:色々とやりたいこと、やらなければいけないことがあるのですが、まずは私の思い描く理想的な塔の運営ができるようにしたいです。その為の準備に一年以上かかるかもしれませんが、ようやく土台ができてきたのでこれを徐々に積み上げていきたいと思います。


ア:わたくしは一番身近な強敵を追い抜きませんと(笑)まあそれは長期目標としまして、とりあえずランクアップですわね。二年目でBランクというのは今までにいるのか存じませんがそこを目標にしていきたい。その為のあれこれに挑戦していく一年となるでしょう。


ド:アデルちゃん言うなあ(笑)そのあとに言ううちの身にもなって欲しいんやけど、うちはひたすらに地道な塔運営。これが基本になると思う。特に戦力の増強かな。どうしても欲しい魔物がおるからそれを手に入れる為に毎日頑張ると。これしか出来へん。


フ:わしはバベリオでまだ行っていない飯屋があるのでそこを巡るのを目標に、というのは半分嘘じゃが(笑)やりたいことはドロシーと同じく戦力補強が第一じゃな。鳥の塔は慣れると対処されやすいもの。その対策を早めにしておかぬと大変なことになるからのう。


ノ:私はEランクに上がることと階層が増えた時のために謎解きをどのようにするかを考えています。侵入者の方々に頑張って頂いて探索を進めてもらわなければそれも報われませんので、どうぞよろしくお願いしますと。


ア:ノノアさん、それだと侵入者を煽っているように聞こえますわよ(笑)


ノ:ああ、いえ。そういうつもりじゃないです。とりあえず私なりの塔運営を頑張ります。


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 同盟の雰囲気の良さは毎回暖かい気持ちにさせられるものだが、それ以上に反省と目標立てが個々人でしっかりされているという印象が強い。

 一年目からこれだけ結果を出した新塔主は記者の知る限りいない。にも拘わらず、それに驕ることなく高い目標を持ち続けている。そういったモチベーションを維持するのもまた同盟の繋がりあってのものなのかもしれない。


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――来期から新塔主になる人に向けて一言お願いします。


シ:とにかく心を強くもって頑張って下さい。きっと想像以上に過酷でくじけそうになる事も多いと思います。それを乗り越える為には考えて、行動して、周囲を頼ってとやるしかありません。とにかく気持ちが折れないよう強い心でいて下さい。


ア:付け足すならば学ぶ努力を怠ったらそれで終わりですわ。ネガティブなことばかりで申し訳ありませんがバベルに夢を抱くのは冒険者だけで十分。塔主が夢を持ちたかったらそれ相応の努力が必要ですわね。


ド:さらに付け足すなら運がいるな。いくら努力しても運が悪けりゃすぐに死ぬ。でもそんな世界だからこそどこかに楽しむ気持ちは持っていて欲しいな。それが夢や理想でもうちはかまわへんと思う。


フ:皆厳しいのう。これでは新塔主が不安になるばかりではないか。まぁわしから言えるのは……ご愁傷さまと(笑)


ド:やっぱり厳しいやないか(笑)


フ:塔主に選ばれ喜んでいるのは最初の数日。ずっと浮かれているのは一部の金持ちだけじゃろう。今のうちからバベルとはそういう場所だと想像しておくのじゃな。あとは皆が言うことと変わらん。


ノ:私からはとりあえずプレオープンを全力で乗り切って下さいと。本当にそれだけです。余計なことを考えずにそこだけを考えて欲しいです。あの二週間で半分以上の人が地獄を見るので。


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 新塔主へのエールというわけにはいかず非常に厳しいご意見が沢山出てきた。それは皆さんが実感したことなのだろう。


 重ねて言うがこちらの五名は過去に類を見ないほどに成功した新塔主の方々なのだ。

 それをもってしてここまで言わせる塔主としての辛さ。きっと蚊帳の外である我々には想像も出来ない世界なのだろう。


 インタビューの内容は以上である。いかがだっただろうか。全五回に渡る本記事は楽しんで頂けただろうか。

 なかなかお聞きできない話やご意見、新しい発見がいくつもあった内容だと記者は感じている。


 【彩糸の組紐ブライトブレイド】の方々――シャルロット様、アデル・ロージット様、ドロシー様、フッツィル様、ノノア様には貴重なお時間を割いて頂いた。

 あらためて感謝申し上げると共に今後のご活躍を期待する所存である。




 と、ここで記事は終了の予定であったが急遽ニュースが飛び込んできたので同記事にまとめたい。


 なんでも【女帝の塔】の転移門に不思議な物体が現れたとの情報を手に入れ、記者は急ぎ向かった。

 運良く【女帝の塔】神定英雄サンクリオのエメリー様にお会いできたのでその突撃取材の模様をお送りする。


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――突然申し訳ありません。こちらが何なのか教えて頂けませんか。


エメリー様(以下、エ):これは塔章です。


――塔章とは一体なんでしょう。


エ:国には国章がありますよね。ですので塔に塔章があってもいいのではと。


――つまり【女帝の塔】のシンボルと言いますか、そういったものですか。


エ:ええ。シャルロットお嬢様はじめ身内で構想を練りまして形にしたものがこちらになります。


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 何のことを言っているかと言うと、転移門の横の壁に「飾り盾」が打ちつけてあるのだ。


 それは青や白、そして金で彩られた見事な細工の盾である。もはや飾り盾の域を超えて芸術品と言えるのではないだろうか。

 盾の内側は四つの区画で仕切られ、おそらくティアラ、四本のハルバード、縦縞模様、五つの輪で構成されている。

 眺めているだけで溜息が出る精巧さだ。


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――これはどなたがお作りになったのですか。


エ:お名前を出してよいのか許可がとれておりませんので控えますが、いつもお願いしている鍛冶屋さんに依頼したものです。


――この塔章は飾り盾以外にも用いられているのですか。


エ:ええ、城と言いますか住まいを飾るために旗を織ろうと言い出したのが始まりですので。塔章を入れた旗をいくつか飾っております。今も手持ちにありますが。


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 そういってどこからか出された旗は壁の上から垂れ下げるような細長いもの。それにしても立派だが。

 どうやって織ればこのような絵織物が出来るのか記者には分からないが、これは趣味や工芸品の類ではなく間違いなく【女帝の塔】を象徴する逸品であると断言できる。


 この旗は上層にあるという話なので探索が進めばもしかしたら目に入るかもしれない。

 そこまで行けない挑戦者は是非とも【女帝の塔】の転移門へと来てほしい。無造作に飾られた盾はまるで国宝のように見えるだろう。一見の価値はある。



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