336:第502期の内定式(絶望ルート)です!
■セリオ・ヒッツベル 24歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
「ミリア、そっちの準備は大丈夫か」
『いつもの場所は確保しました。同業者がちらほらいますがね』
「それこそいつものことだろう。下手に詮索する必要はない」
第502期の内定式の日となった。
この日、全ての塔は休塔日となり、塔主は二の鐘~五の鐘(9時~18時)まで塔の外に出ることを禁じられる。
おそらく新塔主に対する配慮だろう。接触してはならないと。
僕は毎年、この内定式に
眷属が外に出てはいけないというルールはないし、ミリアはゴーストであるために透明浮遊状態にもなれる。だから密偵のごとく内定式の様子を見させ、僕に眷属伝達する役目となっている。
新塔主の情報というのは優先して入手すべきだ。誰がどの塔でどのような
同じように眷属を調査目的に使っている塔主は他にもいる。
ルサールカだっているだろうし、他の見つかりにくい魔物を使っている塔もあるだろう。ミリアが気付いたのはおそらくゴースト系魔物だろうが。
どの塔の魔物だとか下手に探るのも野暮というもの。調査しない塔のほうが少ないだろうし。
第一こちらが目を付けられかねない。それが高ランクの塔だったら堪ったものではない。だから放置していい。
バベル前広場には例年通りに人だかりが出来ており、壇上には進行役のバベル職員とフランシス都市長がいるらしい。
その間に並ぶのが502期の新塔主。
ミリアが数えたところ、なんと95人もいるそうだ。
これはかなり多いほうだ。記念すべき第500期が100人であったがそれとほとんど変わらないということだろう。
昨年は72人の新塔主がいたが、特に前半は
その結果、この一年で消えた塔は77塔。反動なのか後半に多くなった印象はあるが比較的落ち着いた数だなと僕は思う。
まぁ72塔増えて77塔消えたのだからマイナスはマイナスなのだが。それでもだ。
ちなみに【
全体の三分の一がこの六塔に消されている。これは異常以外の何物でもない。
一年目でも多くの
こうなるともう単純に「すごいすごい」と賛辞を贈るしかできない。拍手でもしてやろう。ただ絶対に近づきたくはないが。
まぁヤツらのことはさておき、だ。
神としても思うところがあったのではないかと思うのだ。
だから母数を多くする意味で新塔主を95人も選んだのではないかと。
これだけ増やすからいっぱい
新塔主にも
これで存分に戦え。命を賭けて――そう告げられているような気がした。
僕にとっては全く喜ばしくない事態だ。なにせ今年は……。
「ミリア、伯母上の様子はどうだ?」
『のほほんとしてますね、相変わらず。周りの新塔主を見て楽しんでいるご様子です』
「はぁ……あれだけ説明したのに事の重大さが分かっていないのか?」
伯母上――シフォン・ヒッツベルはヒッツベルの街を治める僕の父の妹にあたる。
父とは年齢が少し離れ、僕と十四歳しか違わないということもあって、僕は姉のように慕って育ってきた。
今は婿養子となった義兄のもとに嫁ぎ、十歳になる娘もいる。閑静な小さな街で平和に暮らしていたのだ。
それがいきなり塔主に選ばれた。戦いとは全く無縁の伯母上が、毎日死と隣り合わせの塔主に。
僕は急いでヒッツベルの街から呼び寄せ、時間の許す限り教え込んだ。
バベルとは何か、塔主とは何か、塔の歴史、魔物、冒険者、武器、魔法、そして塔主として生き抜く術まで。本当に色々と詰め込んだ。
しかし伯母上は元来呑気な性格だ。笑顔以外を見た事がないし、いつもふわふわでのほほんとしている。
グリンラッド王国の国風とヒッツベルの街の街風を体現しているような存在だと思っている。
いかに僕が真剣に説明しても、いかに危機的状況だと教えようとも「あらあらそうなの?」「まあまあ大変だわ」と言うだけ。
この調子で本当に塔主としてやっていけるのか。僕は未だに不安でならない。
この分ではプレオープンで侵入者に何度も殺されるし、オープンしてもあっと言う間に殺されるだろう。
それだけは何としても阻止しなければならない。
精一杯のサポートをし、何とかして伯母上を守らねば……そう決意している。
もちろん同盟を組むつもりでいる。
今まではあまり同盟というものに気乗りしなかったが伯母上であれば止む無し。むしろ組まないという選択肢がない。
とは言え同盟を組めるのもプレオープンが終わり、塔主総会の後からだ。
それまでは毎日会う予定なので、そこで塔創りから何からレクチャーする形になるだろう。
はたして伯母上は何の塔を授かり、どのような
だからこそミリアとの眷属伝達に集中するのだ。情報を聞き逃さないために。
『そろそろ始まります』
「分かった。紙とペンは用意している。頼んだぞ」
フランシス都市長による儀式が始まったようだ。
伯母上以外の塔の情報も知っておく必要がある。ライバルが94人もいるということだからな。
そうして始まった内定式だが……正直、今年のそれは僕の予想を完全に上回っていた。
神が本気でテコ入れに掛かっているのではないかと思うほどの陣容だったのだ。
下手すれば第500期以上の群雄割拠となる――そう思わせるには十分な内容だった。
そんな中、伯母上が呼ばれたのは52番目のこと。
『来ました。シフォン様です』
「来たか!」
『相変わらず緊張感の欠片もないですね。都市長に「お世話になります」とかご挨拶なさっていますよ』
「いや、いいからそんなのは! さっさと情報をくれ!」
全く困った伯母上だ。今がどのような状況なのか本当に理解しているのだろうか。
今までの流れを見ていなかったのか? フランシス都市長に挨拶している新塔主などいたか? いないだろう?
まぁ僕が直接見たわけではないので何とも言えないのだが、おそらくそんなことをするのは伯母上以外にいないはずだ。
ともかく気を取り直して僕はペンを持つ手に力を入れた。
『
「何ィィィィ!? 本当か、それは!!!」
なんという幸運だ。神は伯母上に救いの道を照らしたのだ。
95人も新塔主がいれば一人くらい
どういった
僕はホッと一息……吐きたかったのだが……。
『メ、メイドです! セリオ様! メイド姿の
「はぁぁああああ!? メメメメイド!? それはあれか! あの死神の――」
『あれと全く同じ服です! 同じ異世界人じゃないですかあれ! 四本腕じゃないですけど!』
僕も玉座から転げ落ちそうになったが、声を聞くにミリアも相当だろう。いつも冷静なミリアが珍しく取り乱している。
メイドの
同じメイド服だからといって同じ異世界人だと決めつけるのはおかしいのだが、どうしてもそう思ってしまうのだ。
だってこの世界のメイドなら″英雄″のわけがないだろう? そのような伝承は聞いたこともない。
じゃあ【女帝】のメイドと同じように規格外の強さなのか。
いや、そう決めつけるのは早計だ。むしろあの死神が異端だと考えたほうが精神衛生上、楽というもの。
仮に異世界人だとしてもメイドはメイド。戦うことのほうが珍しいだろう。……この世界の感覚では、だが。
とは言え、あの死神のように戦えるメイドであって欲しいという気持ちもある。
伯母上を守る意味でだ。
もしあの死神が味方でいてくれるのならば、それに越したことはない。
これは今夜にでも伯母上に直接確認しなくては……。
『はぁ……セリオ様、ちなみに【風雷の塔】だそうです』
「……【風雷の塔】か。分かった」
すっかり
【風雷の塔】は既出の塔だ。今までの歴史で何度か出ているはず。
風属性と雷属性に特化した塔ということだろう。特に雷属性はありがたいな。単純に強い。
おそらく塔構成は屋外地形が多くなる。
飛行系魔物も多いだろうし、獣系も多いだろう。魔法使い系も多いかもしれん。
全体的に見れば、魔法と敏捷に重きを置いた魔物構成になるのではないだろうか。
それも伯母上のリストを教えてもらってからの話だな。
それからも内定式は続いたが、最後まで波乱続きだった。
最後の最後でもう一人、
95人中、2人の塔主が
非常に疲れる内定式が終わり、僕は玉座にぐったりともたれ掛かった。
考えることは多い。これからは頭を悩ませる毎日になるだろう。
自分の塔のことよりも伯母上のほうを気に掛けなくては……。
――そう思っていたところに「ピコン」と手紙が届いた。
いきなり何事だと手紙を開いたわけだが……。
=====
【審判の塔】塔主、セリオ・ヒッツベル様
突然の一報、お許し下さい。
まずはシフォン・ヒッツベル様の塔主内定、お慶び申し上げます。
もしシフォン様並びに【風雷の塔】の
尚、その際は『会談の間』を使用するものとし、こちらはわたくしとエメリー、そしてもう一体の眷属、計三名で伺います。
戦闘の意思はありません。
余計な口外をしないために魔法契約書も一応持参しますが、セリオ様がお持ち頂いても構いません。
以上、お手数ですが宜しくお願い致します。
【女帝の塔】塔主、シャルロット
=====
――僕は絶望を感じた。
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