242:エルフの互助会を発足します!
■アリシア・エデンルート 81歳 エルフ
■第487期 Bランク【聖樹の塔】塔主
ある日、クラウディアさんからお手紙が来た。
塔主になったばかりの頃は色々と相談にのって頂き、軌道に乗ってからも定期的に近況報告はしている。
今回もまた報告めいた内容なのかと思って開いたのだが……
「は? エルフ塔主が集まっての相談事?」
エルフの四人が集まることなど今までに一度もない。
当のクラウディアさんから目立つから避けるように言われていたし、私自身も同じように思っていたからだ。
新年祭のパレードでも遠目に顔を見合わせるだけで近寄ったりしないし、人前で会話をすることもなかった。
それがいきなり集まろうだなんて……一体何が起こったのか。私は不安になってすぐに会える旨の返答をした。
それから間もなく『会談の間』に集まる運びとなった。
やはり私だけでなくミケルやエレオノーラも返答が速かったのだろう。そう思わせる即日開催だった。
会談の間にはエルフ四人が集まった。至近距離で顔を合わせるのが不思議な感じだ。
「クラウディアさん、それで一体どうしたんです?」
「落ち着け、とりあえず三人共座ってくれ。もうじき揃うからそれまで待機だ」
揃う? つまり私たちだけの集まりではないのか? エルフ塔主など他にいないはずだが……。
怪訝な顔をするのは私とミケルのみ。
クラウディアさんは落ち着いているがエレオノーラは苦笑いのまま落ち着かない表情。
何か知っているな? つまりはエレオノーラに関連したことなのか?
そんなことを考えながらしばし待っていると部屋の扉が開かれた。
入って来たのはフードを被った子供……これは!
「【輝翼】のフッツィル!?」
「おおー、一目でよく分かるもんじゃのう。待たせてすまんな」
「え、待っていたのってこいつなんですか、クラウディアさん!?」
「なんで私たちの集まりにこいつが!? どういうことです!?」
「落ち着け、アリシア、ミケル。説明するからとりあえず席に着け」
納得がいかないまま引き下がったけど……やっぱりクラウディアさんとエレオノーラは承知していたらしい。
【輝翼】のフッツィルは昨年から一番注目されている【女帝】同盟の一塔だ。
フードを被ったまま塔主総会に臨むヤツなんか他にいないからある意味目立っている。一目で分かるに決まってるでしょ。
フッツィルは開いている席に着くと、そのままお茶を飲みだした。
そして話し始めたのもフッツィルだ。クラウディアさんを差し置いてまるで幹事のように。
「さて、呼び立てた上に遅れてすまぬな。アリシアとミケルじゃな、よろしく頼む」
「エレオノーラは内情を知っているが二人はなぜ今回集まったのか、なぜフッツィル様がいらっしゃるのか分からないと思う。まずはその説明から……お願いしてもよろしいですか?」
「うむ」
様!? クラウディアさんが恐縮している!? 新米塔主で子供のフッツィル相手に!?
えっ、もしかしてこいつってどこかの貴族とか王族とか?
困惑する私とミケルを放っておいて、フッツィルは人差し指を上に向けた。
上を見ろというサインかと思ったがそうではない。その指先が光り始めたのだ。
その光は……妖精光!? え!? そんな真似できる人なんてまるで――
「ハイエ――」
「はいそこまで。口には出さんでくれ。とりあえず正体不明で通しておるからのう」
私は口が開いたままミケルと顔を見合わせ、クラウディアさんとエレオノーラにも目を向ける。
クラウディアさんはうんうんと大きく頷き、エレオノーラは相変わらず苦笑いだ。
つまりフッツィル……いや、フッツィル様はハイエルフ様ってこと!?
そんな馬鹿な! 今の世に生まれているだなんて聞いてないし誰も知らな……ああ、だから隠してるの!?
正直頭がパニックで理解するには時間が掛かりそうだけど、クラウディアさんが認めているってことはつまりそういうことなんだろう。
一体何がどうなっているのか……塔主になって最大のショックだわ。
「まず事の経緯から説明するが、新年祭の時にクラウディアに早速バレてのう。正確にはヴィヴィアンが気付いてしまったようじゃが」
「その節は大変失礼しました」
「構わん。ただわしは正体を隠しておるから接触はしないでくれとその時は言っておいた。ここではまだ関わりなどない」
そうか。クラウディアさんの
私とかだと全く分からないけど……ハイエルフどころかエルフだとも分からないし。
「ところがその三月後にバベリオの街中でエレオノーラにばったり出会ってのう。そこで【春風の塔】の実情を聞き、わしが助言というか指導をする流れになった」
「エレオノーラ!? お前、フッツィル……様が、その、アレだって分かったのか!?」
「い、いや、分かんなかったですし、普通に【女帝】同盟のスーパールーキーを見つけて助けてって感じで……」
「助けてって、あんた、正体云々は抜きにしても相手は一年目とかでしょうに」
「ミケル、アリシア、そこら辺は私のほうからとっくに言ってある。しかしエレオノーラなりに危機的状況を改善しようと動いた結果、そうなったのだ。そこを責めてはいけない」
【春風の塔】が厳しそうなのは分かってたけど、そこまで追い詰められていたってこと?
私やクラウディアさんに相談もできないほどに。見ず知らずのルーキーに頼るほどに。
しかもその相手がよりにもよってハイエルフ様だなんて……。
「ともかくじゃ。それから色々と指導はしたがなかなか改善せず、煮詰まったわしはクラウディアと相談し、【春風の塔】の大改装を行うことにした。そこでエレオノーラとクラウディアと直接会い、わしの正体もバラした」
「【春風の塔】がどのように改善されたのかは後で二人とも聞くがいい。フッツィル様の手腕は見事なものだ。緻密な計算に基づいた塔構成というのは二人にとっても為になるはずだ」
「やめい、そんな大層なもんじゃないわ。とにかく大改装後の【春風の塔】はTP収入の安定と侵入者の増加も相まって、今は塔運営もだいぶ安定しておる……というわけじゃな」
それはつまり″【春風の塔】の再生″と呼べるものだろう。
他者の塔を弄って改善するなど少なくとも一年目の塔主に出来ることではない。それは私にも分かる。
私だったらアドバイスくらいはできても、他人の塔を改善するなど出来ないだろう。
もし改善するなら悪い所を見つけ、その塔の特性やリストを把握した上で創り直す必要があるのだから。
誰より経験を積んでいるクラウディアさんだって難しいんじゃないだろうか。
ハイエルフ様だから出来たということではないはず。
フッツィル様にそれだけの才能があったってことなんだろうけど……それで500期だと4位なの!? 【女帝】【赤】【忍耐】はどうなってるのよ!?
「それから【春風】の五連戦じゃな。あれを指示したのもわしじゃ」
「ああそうだ! なんだったんですかあれは!」
「そうよ【霧雨】同盟の四塔を……あっ、その後に【霧雨】が【魔術師】同盟に加入して【女帝】同盟に斃されたってことは……!」
「うむ。その全てが関連しておる」
「詳細は私のほうから説明しよう」
クラウディアさんが言うには【霧雨】同盟と【魔術師】同盟は共にエルフを闇奴隷として捕獲すべく動いていたらしい。
バベリオの街でも探し、エルフ塔主にも
私のところにも【霧雨】や【魔術師】【青】【宝石】から申請は来ていた。
当然のように却下していたけど……そんな思惑があったなんて。背筋がゾッとした。
クラウディアさんはフッツィル様にエルフ塔主が狙われている事を相談し、フッツィル様は【春風の塔】を使って【霧雨】同盟を削っていくことにした。エレオノーラが低ランクであることを逆に利用したわけね。
フッツィル様が塔運営を安定させた【春風の塔】は当然のように四連勝したが、親玉の【霧雨】と【魔術師】同盟が残った。
「本当はフッツィル様の同盟と私もヤツらに仕掛け
「ヤツらはお主らではなくわしに狙いをつけた。そして
「はぁ~、なるほど……」
「それであの
【女帝】同盟が勝ったという通知が来た時、私は「まーたお得意の下剋上か」くらいにしか思わなかった。
もはやランク差など関係なく戦いまくり勝ちまくっていたのが彼の同盟なのだから。
しかしその実は私も深く関わる問題だったと……。
ともかくエルフ闇奴隷の一件は終わり、エレオノーラが【忍ぶ者】も斃したことで表面化していた『エルフの敵』は全て一掃されたことになる。
ただ、まだ隠れてエルフを狙っている者がいてもおかしくはない。
警戒は常にしておく必要がある。今回集まったのはその為でもあるらしい。
「わしはエルフ塔主の互助会を作らぬかとクラウディアに相談したのじゃ。定期的に集まって会議なり食事会なりできるようになれば、とのう」
「定期的に、ですか? そうなるとかなり目立つのでは……」
「今日は隠れて来ましたけどいずれバレてしまうのではないでしょうか……」
「うむ、それも狙いの一つではある。詳しく説明すると――」
目的の一つ目は助言やアドバイス、相談などがしやすい環境を作る為。
これはエレオノーラが相談できずに危機的状況を招いたようなことを今後は起こさないようにと。
手紙では不十分と感じたが故ということだそうだ。
二つ目は敵を明確にする為。
【魔術師】同盟がエルフの塔全てに申請していたように、誰がどこから申請されたという情報は共有しておく必要がある。
ただ漠然と却下するだけでなく、そういった情報を集めることで相手がどんな目的で申請しているのかを見極めたいということらしい。
三つ目は諜報型限定スキル持ちの敵を特定する為。
二つ目の目的と被るが、敵の中には【青】と同じように私たちの集まりを覗く者がいるはず。
そうした敵がアクションを起こした時にそいつが諜報型限定スキル持ちだと判断するためにわざと集まる必要があると。
「おそらく今も覗いているヤツはいるじゃろうし、こちらがいくら隠しても確実にバレないなどということはありえない。限定スキルというものが存在している以上、絶対などないからのう」
「だからと言って大っぴらにするつもりはない。隠れてコソコソ集まるつもりだし、それでも尚バレるのであればむしろ好都合。アクションを起こした者が諜報型限定スキルを持っている可能性が極めて高いということだ」
「それはつまり俺たち自身が囮ということですか」
「一番の餌はわしじゃな。そいつがちゃんと覗いていれば価値の高さで計るじゃろうし」
言わんとしていることは分かった。
確かに世界に一人しかいないハイエルフ様は我々と比べ物にならないほどに価値が高い。
それを狙う悪人を突き止める為にも集まる機会が必要というわけだ。
同時に相談し合うことによって私たちの塔も強くしようと。
「例えばその覗き見している悪人がSランクとかだったらどうするのですか?」
「その時は静観じゃな。申請は却下するし、逆にこちらの武器にできる。『敵は諜報型限定スキルを持っている』という情報を得ただけでも大戦果じゃ」
「なるほど、それはそうですね……」
それからも色々と説明を受け、私とミケルは互助会への参加を了承した。クラウディアさんとエレオノーラは元から承知していたから聞くまでもない。
そしてその日は【春風の塔】の改善の件や近況報告など他愛のない会話だけで終わった。
本格的な互助会としての活動は次回以降となる。
……いや、【春風】の件は聞いたけど、これ全部修正したっていうならフッツィル様は天才すぎるわ。
……私の塔も色々見てもらおうかしら。
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