291:ご婦人方はお茶会をしているようです!
■ジュリエット・ローゼンダーツ 22歳
■第497期 Cランク【竜翼の塔】塔主
大陸中央部に位置するスルーツワイデ王国。
国を行きかう街道の中継地点でもあるローゼンダーツの街は商人たちの馬車で賑わう商業都市です。
街を治めるのはわたくしの父。王国からは伯爵位を賜っております。
今から五年前、わたくしは伯爵令嬢という立場でありながらバベルの塔主に選ばれました。
それも名立たる
当然父も喜び、わたくしの塔を応援すべく様々な援助を頂きましたわ。
まぁそれもそうですわね。ローゼンダーツ家から名塔が生まれるというのは国から勲章を賜るよりも光栄なことですから。
もちろんわたくしも驕ることなく研鑽を積み、努力した結果、同期でトップの座を独走しました。
ローゼンダーツの名を世界に轟かせ、世間に知らしめる。それは十分に出来ていたと思います。
今ではランキングも65位。5年目でこの成績というのは十分に誇れるものです。
通常ならば……。
暗雲が立ち始めたのが二年前。隣国メルセドウの公爵令嬢、アデル・ロージットがバベルの塔主となってからです。
それからの快進撃は言うまでもありませんわね。現在【女帝の塔】に抜かされた立場ではありますが、【
「そして【魔術師】同盟ですか。おそらくメルセドウ内のいざこざが発展したのでしょうけどよくもまぁAランクの塔をこうも斃せるものです」
「貴族の誇りを捨てておきながらのうのうと……さすがに看過できませんわ」
「彼の同盟の噂話はバベリオに留まらず世界に広まっているようですわ。おかげで本国からもせっつかれておりますわよ。何とも迷惑な話です」
テーブルを囲みお茶をするのはわたくし以外にもうお二方。
バラージ公国の公爵令嬢、【影の塔】のサミュエ・シェール様。
ミッドガルド王国の伯爵夫人、【黄神石の塔】のオーレリア・ブルグリード様。
それぞれ十六年目と十四年目となるBランクの先輩方ですわ。
スルーツワイデ王国の東にミッドガルド王国、その東にバラージ王国と連なっており、産業的な繋がりで半ば協力関係にある三国。
サミュエ様もオーレリア様も貴族の誇りを持って塔を運営なさっている御婦人方。
塔同士での同盟というわけではありませんが時折お茶会をするお仲間、先達の方々として仲良くさせて頂いております。
声をかけて頂いて本当に感謝しておりますわ。
しかし最近出る話題は主に【
名のある塔が一気に躍進するというのはバベルによくあることだそうですが、それが「自分はもう貴族ではない」と豪語し次々に貴族たちを斃しているアデル・ロージットの一派ともなれば話は別です。
これ以上、奴らの好きにさせてはいけない。貴族ならば誰しもそう思うでしょう。それがバベルの塔主であろうとなかろうと。
もちろんわたくしも何かと父から言われておりますわ。
500期の連中はどうなっているのだ、あの同盟は何とかできないのか、なぜあれほど勝ち続けられるのか、などなど。
本国にいる父やほかの貴族の方々は伝え聞く少しの情報だけで判断するものですから、バベルやバベリオの状況などよく分からないのです。
塔主や
わたくしとて好きで野放しにしているわけではありませんわよ。
サミュエ様やオーレリア様も同じようなもので、国からはせっつかれているそうです。
とは言え好きに戦うことなどできないとバベルの塔主ならば誰でも知っていることですわ。
こちらが戦いたくても相手に申請を却下されれば終わり。
例えばランク差であったり、改装していて準備不足であるとか、別の
その上、高ランクになればなるほど限定スキルなどの不確定要素が入ってきますからね。それも足踏みする一因となりますわ。
501期後期のランキングで【
【女帝】は25位、【赤】は30位でBランクにもなっています。
サミュエ様の【影の塔】は21位なのでギリギリ抜かされてはいないのですが、オーレリア様の【黄神石の塔】は31位ですのですでに抜かされている格好です。
わたくしの【竜翼の塔】は65位ですので【忍耐】や【輝翼】にも抜かされている状況。
悔しいですしどうにかしたいとも考えております。それは父たち本国の方々以上に。
サミュエ様やオーレリア様も同様でしょう。こうしてお茶会で集まっても奴らに対する恨みがつらつらと出て来るのですから。
しかし今に限って見れば好機とも言えます。
ランク差やランキング順位で見ても近しいが故に
まぁ向こうは常に下剋上ばかり狙っているような蛮族ですからランクが開いていようと気にしないかもしれませんがね。一般的な塔主の思考で考えれば
おそらくお二方とも同じようにお考えのことでしょう。
そろそろ本腰を入れて潰しにいく必要がある、と。
「そういえばお二方、最近バベリオの街で流行の美容品はご存じ?」
「美容品、ですか? お化粧道具のような?」
唐突にオーレリア様がそのようなことを口にしました。
バベリオの街は国に縛られない自治都市ですから当然貴族などおりません。それこそ我々塔主くらいのものです。
美容品というのは貴族ならば必需品ですが庶民などお化粧もしないでしょうし、滅多に使うものでもないでしょう。
「お化粧道具ではないのですがね。石鹸や洗髪剤、髪油に乳液といったものなのですが」
「乳液というのは存じあげませんが、なるほど、そちらの美容品でしたか」
「乳液は肌が綺麗になる薬剤ですわ。行きつけの装飾品店から少し頂いたのですがね。これが庶民に使わせておくには勿体ないほどの品質と効能なのですよ」
「まぁ。どうりで今日のオーレリア様は一段とお美しいと思いましたわ」
言われてみればオーレリア様のお顔は化粧乗りもよく見えるし、髪も艶やか。こう言っては何ですが四十歳を超えるご婦人には見えません。
「バベリオ西部の小さな商店で売り始めたと聞きましたので買い付けに行かせたのですが」
「オーレリア様からのご依頼であればその商店もさぞかし喜んだでしょう。庶民の店からすれば願ってもない顧客ですもの」
「いえ、それが専売も契約も大量発注も出来なかったのですよ」
「まぁ! なんと無礼な!」
庶民向けの美容品を扱っているならば塔主や貴族の顧客など喉から手が出るほど欲しい太客に違いありません。
本来ならば店のほうから「どうぞ使って下さい」と上納するものです。
それがオーレリア様のご要望を断るだなんて……!
「どうやらその店は【女帝】の御手付きだったようなのです」
「【女帝】の? ……ああ、そういえば【女帝】は元々ただの街娘だと噂にありましたわね」
「だから小さな商店を使って商売を始めたと? では【女帝の塔】の躍進に乗っかってその美容品も広まったということでしょうか」
「どうでしょうね。ただその店が生産し卸した商品は例の同盟に流れ、そこからあぶれた美容品が店に並ぶと、どうやらそういうことのようです」
つまりは少数しか市井に出回らないにも関わらず、その効能故に口コミで広まっているということでしょう。
それこそオーレリア様が通っている高級店にまで伝わるほどに。全く忌まわしいことですわ。
「ですからわたくしは余計にあの同盟をどうにかしたいのですよ。平民や亜人などあの美容品は勿体ないにも程があります」
「素晴らしい美容品ならば貴族が使ってこそですものね」
「つまりオーレリア様はあの同盟を潰せばその商店を独占できると、そうお考えですのね」
「ええ。国に顔向けもできますしね。まぁそちらは
「まぁオーレリア様ったら。うふふ」
やはり本腰を入れて潰しにかかりたいとそういうことですわね。
動機の出所はどちらが本当かは分かりませんが。
おそらくサミュエ様も動かれるでしょう。わたくしも出遅れるわけには参りませんわよ。
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