105:忍耐の塔vs打突の塔、始まります!



■ドロシー 24歳 ドワーフ

■第500期 Dランク【忍耐の塔】塔主



「フゥ、向こうの情報ありがとうな。地図とか大変やったろうに」


『詳細ではないぞ。わしが直接見たわけでもないし。過信するでないぞ』


「了解……で、ええか? スフィー」


『ハッ。フッツィル様、ありがたく使わせて頂きます』



 そろそろ塔主戦争バトルが始まる。

 久しぶりの交塔戦クロッサーやし、相手は格上や。さすがに緊張するな。



 最初は同じCランクでも【審判の塔】を狙ってたんやけど申請は受理されなかった。

 あそこは神造従魔アニマがAランクの喋れる魔物、ルサールカやし、塔の魔物も神聖属性が多いらしい。

 うちに欲しいものが揃ってるってことで欲を出したけど無理やったな。


 で、妥協した結果がそれよりランキング上位の【打突の塔】ってなんでやねん! 98位から80位やぞ! うち201位や!


 まぁランキングはあくまでTPの取得数やから目安にしかならんけどな。

 180位でEランクとかも普通におるし。

 それでも格上には違いない。油断なんて全くできん。



 【打突の塔】ってのがどんな塔かって言うと、大雑把に言えば人型の魔物と獣ばかり。

 フゥが申請してた【人形の塔】はそれこそ人型の魔物ばかりだったそうやけど、こちらはより攻撃力を重視といった感じ。


 オーガ、トロール、サイクロプスの巨人系。ウェアウルフ、ライカンスロープの亜人系。それと狼とか熊とかの魔物。


 うちが物理防御ばっかなのに対してこっちは物理攻撃ばっかって感じやな。

 だからあんな挑発めいたお手紙を添付したんやけど。

 ともかくそんな相手の情報を教えてくれたフゥに感謝や。



『それで本当にあの作戦でいくんですか? ちょっと怖いですけど』


『な、なんて言うか、すごい大胆ですよね……』


『わたくしは理に適ってると思いますわよ? 真正面から戦えば負けはしなくても勝てもしませんもの』



 アデルちゃんの言うとおりや。現戦力で勝とう思うたらこれしかないと思う。

 もうちょっと待てば固有魔物の一体でも召喚できたんやろうけど……ないものねだりしてもしゃあないし。

 うちから提案して一応みんなでも相談した。それでこれにしようと。



『散々言ったが神授宝具アーティファクトには気を付けるんじゃぞ。効果は分からんのじゃからな』


「腕輪やな。こっちでも用心するけどファムで見とってもらえると助かる」


『うむ。それは任せい』



 神授宝具アーティファクトの腕輪が離れた自戦力にバフを与える効果とかやったら用心のしようもないからな。

 そこはファム頼みや。

 最悪、大幅な作戦変更も視野に入れとかんと。



『それと【限定スキル】もです。80位のCランクなら持ってる可能性は低いですけど、確実にないとも言えませんので』


「それもファムに頼るしかないな。フゥもターニアさんも頼むで」



 情報戦は圧勝。でも戦力は向こうが上。

 同盟組んでなかったら絶対戦えない相手や。

 ここまでお膳立てされて負けようものなら笑い話にもならへんで。



――カラァン――カラァン――



『はいはーい、二人とも準備はいいかなー?』


『てめえこらドワーフのガキがいきがってんじゃねえぞこらあ!』



 うわぁ……めっちゃキレてるやん。あの煽り手紙でこんなキレるんか……。



『はははっ! 元気がいいねー! よっしじゃあ始めようか! 制限時間はなし! 交塔戦クロッサー!【打突の塔】対【忍耐の塔】! 塔主戦争バトルスタートっ!』



 返事をする間もなく始まってもうたわ。

 とにかく指示を出さんと。



スフィンクススフィークリスタルゴーレムキラリン土精霊ノーミン、言うたとおりや! 頑張ってや!」


『承知しました!』



 さて画面を見ればすでに転移門から入ってきとるな。


 Eランクのグレイウルフ、Dランクのニードルウルフを先頭にCランクのウェアウルフとBランクのウェアウルフリーダー。

 Cランクのオーガに、指揮官の眷属二体がAランクのオーガキングとBランクのライカンスロープ。


 合計百体ほど。重圧がすごい。


 しかしうちの一階層は迷路や。あの団体のままでは通れん。どうしたって縦長になる。

 そこを狙っていければ――




■ニフィスト 35歳 

■第493期 Cランク【打突の塔】



 くそがあのガキがこらあ!!!


 ……といつまでも怒ってられねえ。ぶっつぶしてやる為にも冷静にならねえとな。



 んで? あいつらどんな攻撃陣で……ああん?


 ソリッドヘッジホッグとベノムヘッジホッグが大量……雑魚のハリネズミばっかじゃねえか! 嘗めてんのかコラァ!


 ……いやまだ続けて来るな。


 アラクネが三〇体、ハミングバードが一体、土精霊ノームが三〇体、リビングアーマーが二〇体……やっぱ雑魚じゃねえか!


 ……いやまだ来るな。


 ミスリルゴーレム十体、クリスタルゴーレム一体、ガーゴイルが五体、スフィンクスが一体……。



 ……二百体近くいるじゃねえか多いなコラァ!



 しかしAランクが二体とBランクが十五体か。Dランクとしちゃかなり豪華だ。

 この上防衛側にもいるってこったろ?


 攻撃陣より防衛陣の方を厚くするのは当たり前。

 攻めきれなかった時は仕切り直せばいいが、守り切れなかったらそれは終了だからな。

 ましてやあのクソガキの塔は防御が売りだ。自信のある防御力で制してこようとするはずだ。


 ってなるとこの攻撃陣より強力な防衛陣……まさか固有魔物か?


 だとしたらちとキツイかもしれねえな。

 俺の固有魔物――ヘカトンケイルはデカイから攻撃では使えねえんだよな。迷路とかじゃろくに戦えねえ。

 となれば向こうの攻撃陣をぶっつぶしてから再編して増援しねえといけねえかもな。


 攻撃陣にはゆっくり進ませといて、まずは防衛をちゃっちゃと終わらせるか。




■ドロシー 24歳 ドワーフ

■第500期 Dランク【忍耐の塔】塔主



 【打突の塔】はCランクやから全十階層。侵入者のように普通に探索しとったら一日じゃ終わらん。


 フゥから地図はもらってるから順路をひたすら進んで、出て来る敵も速攻で斃していかんとな。

 ゴーレム系の足が遅いけどそこは頑張ってもらうしかない。



 幸いなことにこの塔はデカイ魔物ばっかやから迷路みたいな屋内構成は少ない。あっても連続中部屋とか連続大部屋みたいな感じや。

 ひたすらに奥側の階段を目指せばそれでいい。階数のハンデはなしも同然や。



 先頭はヘッジホッグ系統と虎の子のハミングバード。言うまでもなく斥候や。

 アラクネは遊撃、土精霊ノームは魔法。残りの面子は壁やな。

 スフィーが総指揮官で飛びながら行ってもらい、ガーゴイルがその周りを飛ぶ――という部隊構成。


 部隊数が多いから前衛はキラリン、後衛はノーミンが部隊長となっている。

 スフィーは地図の確認とかもせなあかんから忙しいねん。

 それでも全力でやってもらわんと勝てん相手やしな。頑張ってくれとしか言えん。



 一階層は普通の平野やな。攻撃側でもいた狼系ばかり。最後にウェアウルフがいるはずやけど、そんくらいならまだまだ余裕やな。


 問題は四階層あたりから。

 そこら辺から巨人系が出始める。オーガ、サイクロプス、トロール……果てはトロールキングに固有魔物のヘカトンケイル。


 トロールキングにしたってBランクの【力の塔】も眷属にしてたようなヤツやで?

 そんなんよお召喚したわ。キラリンに頑張って貰うしかないけども。



『うわぁ、なんか大進行って感じですごいですね……』


『この後に待ってるのは巨人大戦争じゃぞ』


『ゴーレム対巨人、ですか……迫力ありそうですね』


『真正面から戦えば、でしょう?』



 せやな。真正面から戦ったって消耗するだけや。

 最後のヘカトンケイル戦でどれだけ生き残ってるかっちゅう話になる。

 あくまでゴーレムは壁。本命はアラクネとベノムヘッジホッグの毒。土精霊ノームの魔法。


 それと――


 うちは画面のスフィーを見る。

 その背中には立派な大剣が背負われていた。



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