195:シルビアさんと情報共有しておきます!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
「シルビアさん、今後どういう魔物を召喚し、どういう塔を創るかという指針めいたものは掴めましたか」
「はい。目標と言えるものがいくつか出来たと思います。ありがとうございます」
「【女帝の塔】だけでなく他の四塔を見て、色々とお聞きしてから実践はすべきですがね。一日で理解できるものでもないでしょうし」
「どうせ毎日画面つないでお話するんやから、その中で徐々に進めていったらええ。常に相談し合うのがウチらの同盟なんやし」
「シルビアさんは真面目ですから恥を忍んで聞きたいけど言い出せない、というのが怖いですわ。遠慮など無用ですわよ」
「わ、私なんて毎日いっぱい質問しちゃってますし……あはは……」
なんともありがたい話だ。
新塔主の私にとって必要な情報を惜し気もなく教えて頂ける。
甘えてはいけないという自分もいるのだが、アデル様の仰るように『聞かない』というのが罪なのだろうな。
同盟に加わったのならば私の塔の成長は必須。その為に遠慮などしてはいられないということだ。
「【六花の塔】の目標もそうなのですが【
「表面化している敵対勢力との状況ということですわね」
個々の目標というのはそれぞれにあるだろう。私なら『Aランクの塔となってパーティーメンバーを迎える』というのが目標だ。
アデル様は『バベルの頂点』だろうし、きっと他の方々にもあるはずだ。
では同盟とは何ぞや、となると『個々の目標を達成する為、生き残る為の協力関係』というのが近いのだろうな。【
個々の目標と同盟の目標は等しくはない。
しかし同盟である以上、共に戦わなければいけない相手がいて、それを斃す為に一丸とならなくてはいけない。
「まずは【魔術師】同盟と【霧雨】同盟。これはシルビアさんも事情をよくご存じですわね」
「はい。エルフ奴隷に関連するメルセドウ貴族派の動きですね」
貴族派筆頭ベルゲン・ゼノーティア公爵によるエルフ闇奴隷所持の疑い。それに呼応するエルフ捕獲の動き。
おそらくフッツィル殿が主導となって知り得た情報なのだろう。
メルセドウが関わっている以上アデル様も動くだろうし、必然的に同盟全体の敵となる。
「向こうの情報を探ろうにも【宝石の塔】と【霧雨】傘下の塔くらいしかファムでは探れぬ。【魔術師】【青】【霧雨】という大本を叩くには不確定要素が大きい」
「とりあえずはシルビアちゃんと【春風の塔】に頑張ってもらって【霧雨】同盟を削ってもらってるけどな」
「では残りの【偶像】【北風】も私から仕掛けたほうがよろしいでしょうか」
「エレオノーラにも仕掛けさせるから食いつくとすればそっちに行きそうじゃがのう」
「まぁ申請しておいて損はないですわよ。時期を見てまたお願いしますわ」
「分かりました」
今までは言われるまま
フッツィル殿が敵の塔を調べ、仲間のエルフの塔に仕掛けさせるのと同時にアデル様が私を使っていたのだな。
それが手助けとなれるならば本望。低ランクの塔くらいにしか挑めないのが情けなくもあるのだが……今は精進だ。
「【魔術師】同盟と【霧雨】についてもそろそろ慌ただしくなると思いますわ。仕掛けるならばその時でしょう」
「お? ちゅうことはメルセドウで動きがあるんか? 早ない?」
「お爺様が頑張って下さっているようですわね。シルビアさんも気に掛けておいたほうがよろしいですわよ」
「分かりました」
その様子だと闇奴隷の証拠を見つけたのか、その一歩手前といったところか。
相手が大貴族ということを考えれば相当な早さだ。ドロシー殿の言うとおり。
事前にアデル様から得ていた情報で動いていたのか、それともかなりの無茶をしたのか……。
「ま、【魔術師】同盟と戦う時は
「それが一番勝率は高い……が、向こうがそれを受けるかのう。弱ったところを突くと言っても引き籠りかねん。仮に煽ったところでそれに乗る保障もない」
「最悪は
「個人的には【青】のほうが不気味ですわね。
Aランクの【魔術師の塔】は昨年後期のランキングで9位。紛れもなく強敵だ。
それを独力で斃せる見込みがあるということ自体、私には異常に思えるのだが。
一体エメリー殿はどれほど規格外の戦闘力を持っているというのだ……。
「【霧雨】に仕掛けるタイミングというのも【魔術師】と同じなんですか?」
「出来れば同時期がいいのですけれどね。メルセドウの動きを受けてすぐ。ここならば【魔術師】も【霧雨】も乗りやすいと思うのですが。野放しにはしたくありませんし」
「そうなるとウチとフゥが【霧雨】と【宝石】を相手する感じか? いけるんかなぁ」
「【宝石】は楽だがのう。【霧雨】は情報がない上に格上じゃからな。ランキング的には【青】と大差ない」
【霧雨】も【青】も私は挑戦したことがない。
しかし近々Aランクに上がるだろうと注目はしていた。多少の情報は持っているが……それで勝てるとは言えない相手だな。
「やっぱり【緑の塔】に協力してもらったほうがいいんじゃありませんか?」
「どうじゃろ。メルセドウの動きでエルフの価値がなくなれば上位からの申請を受けるとは思えぬがのう。現段階でも【霧雨】には却下されたみたいじゃし。【魔術師】からは逆に申請があったらしいが……」
「し、【色欲の塔】はどうです? 向こうも敵対してるんじゃないですか?」
「【色欲】にとっちゃウチらも敵やろ。情報流して潰し合いを期待しとるだけやで」
どうやら色々と繋がりがあるらしい。
【緑】のクラウディアはエルフだからフッツィル殿と繋がっていると分かる。
【色欲】の名前が出てきたのは意外だが、どうやら情報を得た経緯に絡んでいるらしいな。
「【色欲】も潜在的な敵には違いありませんが、【聖の塔】や【節制の塔】のほうが『明らかな敵』と言えるでしょうね」
「【聖の塔】は分かりますが【節制の塔】は敵で確定なのですか? メルセドウで中立派の動きが?」
「わたくしの予想ですが、貴族派が衰退すれば中立派は吸収するべく動くと思いますわ。勝ち馬に乗るよりも自派の強大化に努めるのではないでしょうか。となれば【節制】はわたくしを潰したいはず。シルビアさんも狙われるかもしれませんが、一番の標的はわたくしでしょうね」
【節制の塔】アズーリオ・シンフォニア伯か。
元々王国派には付かず離れずといった感じだったはずだが、この機に動くかもしれないな。
私がしておかなければならない備えについても伺っておいたほうがいいだろう。
【聖の塔】に関してはやはり噂にある人間至上主義というのが関係しているのだろうな。
神聖国家ペテルギアは『人間の国』だし、他種族と手を取り合っていて尚且つ民衆の支持を得ている【
しかしバベルで一番の強さを誇る同盟だ。現在はSABBの四塔にまで減ったがそれでも強い。
Cランクの【反逆の塔】が二塔を打ち破っているので、これが続くものなのか……というかフッツィル殿が覗けるならば情報は持っているのか。いかにして斃したのか気になるので後ほど聞いておこう。
「まぁいずれにせよ【聖】同盟も【節制】同盟も今のわたくしたちには荷が重い。目先の【魔術師】同盟と【霧雨】で手一杯ですわね」
「すでに手に余っておるから困ったもんじゃのう」
「シルビアさんの為にまとめますと、こんな感じです」
=====
●目先の敵
【魔術師】同盟=A【魔術師】、B【青】、C【宝石】
【霧雨】同盟=B【霧雨】、D【偶像】、D【北風】
●将来的な敵(確定)
【聖】同盟=S【聖】、A【雷光】、B【鏡面】、B【鋭利】
【節制】同盟=A【節制】、B【戦車】、C【蒼刃】、C【魔霧】
●おそらく敵
S【黒】、A【火】、B【色欲】、他多数
●味方(確定)
S【世界】、エルフ=A【緑】、B【聖樹】、C【紺碧】、E【春風】
●おそらく味方
B【土】、【反逆】同盟=C【反逆】、C【響界】、C【剣士】
=====
「すみません、【黒】と【火】も敵なのですか」
「【黒の塔】はレイチェルさんから『ノワールさんに気を付けて』と言われたのですよ。まだ何をされたわけでもないのですが、一応警戒しています」
「【火の塔】は
レイチェルが警戒しているということか……バベルの頂点に言われると確かに不気味に感じるな。
ノワールはスタンピードの際にドラゴンで迎撃する為、バベリオの中では大英雄といった評判だ。わずか八年でSランクまで上りつめた天才としても有名だし、これが敵になるとは少々考えたくないところではある。
ジグルド・バルッジオはSランク冒険者として伝説的な存在だ。
単にSランク冒険者というだけならばバベリオに幾人もいるが、単独で竜を狩れるものはいないだろう。
それほどの強者ならば英雄ジータと剣を交えたいというのも分かる気がするな。
仮にまた
随分と話し込んで私のメモが十枚を超えた頃、とりあえず今日のところは勉強終了という流れになった。
おそらくまだ私が知るべき情報はあるのだろうが、それは追々お聞きするとしよう。
シャルロット殿から夕食も御馳走になり、そのまま帰るのかと思いきや――「皆さんでお風呂に入りましょう」と誘われた。
お風呂? ここにいる全員で? ああ、女性だけでと、なるほど。
えっ、アデル様もご一緒でよろしいんですか!? 公爵令嬢がそんな……いや、ここでは貴族ではないのですね失礼しました。
しかしエメリー殿やクイーンの皆さんも一緒に向かっていますがそれは……。
「いいから付いて来なさいな。ここのお風呂に入るために【女帝の塔】で会議しているようなものですわよ。シルビアさんもきっと驚きますわ」
はぁ……いや、【女帝の塔】に大風呂があるというのはお聞きしていましたが……。
クイーンと言っても魔物ですよ? アラクネクイーンとかすごい下半身してますし。一緒にお風呂だなんて……。
と思いつつも従う以外の選択肢もなく、広い脱衣所で服を脱ぎ、棚に置く。
そうして浴場へと足を踏み入れれば「うおっ!」と思わず声が出る広さだ。
どれだけTPをつぎ込んだのだ! ……と思ってしまう私はすっかり塔主の思考になってしまっているらしい。
とにかく王族もビックリというほどの広さで、湯も贅沢に溢れるほど使われている。
「入る前にこちらで洗いますわよ。わたくしが教えて差し上げますわ」
「は、はい。恐れ入ります」
「この石鹸と入浴後に使う乳液というものが素晴らしいのですよ。わたくしも使っておりますがオススメですわ」
なんでもエメリー殿が異世界の知識で作らせたものらしく、バベリオのとある商店で専売しているらしい。
アデル様たちは一度お裾分けされてから、ずっと使い続けているそうだ。そんな店があるとは知らなかったな。
勧められるまま使ってみれば思わず「おお」と声が出た。泡立ちは尋常ではなく洗い終わりの肌は赤ん坊のようだ。
「今度皆さんでバベリオの街に行った時に紹介しますよ。一緒に行きましょう」
「え、私もご一緒にですか? 街に行くのですか?」
「それはそうですよ。鍛冶屋さんに行って飾り盾を発注しないといけませんし、必要なら図書館で調べものをしてもいいですしね。【六花の塔】の魔物とか」
「わたくしは次の塔主総会に向けてシルビアさんのお洋服を見繕いたいですわ。塔主になったのですから塔主らしくありませんと」
ありがたいお話だが、同盟全員で街を歩くとなるとすごく目立ちそうだな……。
湯舟に身体を沈めそう話す私の並びには、平民・貴族・人間・ドワーフ・ハイエルフ・獣人・異世界の種族・そして魔物と本当に多種多様すぎる顔ぶれだ。
それが同じ風呂に入り、和気藹々と談笑している。
なんと不可思議でなんと面白くなんと居心地のよいことか。
これが【女帝の塔】であり、これが【
私は左手首に巻き付けられた六色の組紐を見て、少し微笑んだのだ。
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