277:立ち会いを経て考えは余計に巡るようです!



■ファモン・アズール 35歳

■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主



「一先ず条文は通りましたか」


『ただ新たに考慮すべきところが増えましたな』


『ええ。それも踏まえて準備に当たりましょう。もう後戻りはできないのですから』



 条文のやりとり、修正のし合いは幾度となく行われた。

 私たちもこれほど条件を詰めるのは初めてのことで、最終的には「これでダメならば諦めよう」という賭けのような形となり、結局は互いの妥協点をとる格好となった。


 それ自体は成功である。

 私たちが重要視していたのは「限定スキルが使える」「三塔で【女帝】一塔と戦う」という二点。

 それが神にも認められその条文をもって同盟戦ストルグを行えるというのは僥倖だ。


 これで私たちの勝率は高まった。

 もし私が単独で【女帝】と戦っていたら勝率は二割といったところだろう。同じ新米Bランクとは思えないほどの差だが、それほどの戦力を持っていると想定はしている。


 これを「三塔vs一塔」としたことで八割程度まで上げた。

 もしカラーダイス殿の限定スキルが使えなければ五割前後になっていただろう。



 問題はその過程で【女帝】が出してきた条文「【女帝】はこちらの三塔を攻略する」としてきたこと。その意味だ。

 私たちは「こちらの防衛戦力を分散させるため」と推測していた。それも確かに正解だとは思う。

 しかし神との立ち会いでの様子から、別の思惑も見えてきたのだ。


 【女帝】は神の提示した「こちらの塔の階層数制限」や「こちらの配置する魔物数制限」を拒否していたのだ。

 神の案は不平等さを減らすための条文として誰が見ても納得できるものだった。私たちでさえそう思った。

 しかし【女帝】は拒否した。明らかに攻略が楽になるのにその条文を飲まなかったのだ。


 ありえない姿勢だ。

 中立を謳う神の提示を蹴ることがそもそもありえない。

 それほどまでに【女帝】はその条文を飲みたくなかったということだ。



『【女帝】の狙いは報酬の魔物召喚ですか』


『それも【空白の塔】と【氷海の塔】の魔物ですな。鳥と寒冷系魔物……たしかに【女帝の塔】では召喚は難しいですが』


「それこそ今までの塔主戦争バトル報酬があるでしょう? それが理由であるなら想定外すぎますよ」



 【女帝】は最初から魔物狙いで塔主戦争バトルを仕掛けたのだ。

 【女帝の塔】のリストでは召喚できない魔物――【空白】の鳥と【氷海】の寒冷系魔物に違いないだろう。だからその二塔に申請をした。


 【空白】には天使もいるがその情報は漏れていないはずだ。おそらく単純に鳥が狙いなのだと思う。

 【氷海】は水棲系魔物も多いが【女帝の塔】で水棲系魔物は使いづらいだろうし、そうなると寒冷系の魔物が狙いだろう。こちらにも鳥はいるしな。


 【女帝】はそうした魔物をより多く斃したい。

 だから三塔を攻略すると言い出し、神の提示も断った。

 階層数制限も魔物数制限もされては困るのだ。斃す魔物の数が減るから。



 【女帝】がなぜ【空白の塔】と【氷海の塔】に申請したのかというのは今まで全く分からなかった。

 それが分かった今、余計に理解ができない。


 なぜそんな目的のために無茶な塔主戦争バトルをする必要がある? なぜ自分に不利な条文を飲む?

 今まで【女帝】が斃した名立たる塔に腐るほどいたはずだ。なぜそれを召喚しないでわざわざ私たちに仕掛ける?

 本当に理解できない。頭がイカれているとしか思えない。



 考えられるのは「今までの高ランクの塔との塔主戦争バトルではろくに魔物を斃さずに勝利している」ということか、「同盟トップの【女帝の塔】が報酬TPを多く得る代わりに他の塔に召喚権利を与えている」ということ。


 前者の場合、防衛に【世沸者の塔】を使っていると思われるので敵攻撃陣を斃すのは無理だろう。それは問題ない。

 では敵の魔物を極力斃さずに高ランクの塔を攻略したのか、という疑問が出るのだが……不可能にしか思えない。

 隠密や暗殺に長けた魔物を使っても、はたして【傲慢の塔】や【魔術師の塔】が攻略できるものかと。


 ジータは近接戦闘系の英雄だし、メイドもジータと同じような近接戦闘系だと聞いている。

 斥候系のSランク固有魔物でもいれば別だがそんなものはリストにないとドミノ殿の【召喚の書】で分かっている。

 そうなると【輝翼】の神定英雄サンクリオしか残らないのだが、仮にそのタイプの英雄だとしても厳しいのではないかと思うのだ。


 仮にあの神定英雄サンクリオが理外の術を持っている異世界人でも、それほどの能力を持っていれば【女帝】や【赤】より上位にいてしかるべきである。

 【輝翼の塔】が500期トップどころか第4位につけている時点でその可能性は低い。

 つまり高ランクの塔を相手に魔物を斃さず攻略などという真似はできないと思われる。



 ならば後者。同盟塔に召喚権利を与えているという可能性。

 これは十分にありえる。同盟戦ストルグでは戦わせる魔物の数に差が出るものだし、当然戦果も変わってくる。

 同盟トップの【女帝】が戦果を挙げているのは確実で、だからこそ報酬は多く得ているはずなのだ。

 しかし全てを独占しては同盟内に不和が生まれる。何かしらの形で報酬を分配する必要があるということだ。


 もしその推測が正しいのであれば、【女帝】が召喚権利を得ているのは単独で斃した【正義】と【強欲】の魔物のみ。おそらく【女帝の塔】では使いづらい魔物ばかりだろう。まぁ【正義】はオープン前だったからろくな魔物もいなかっただろうが。


 そして有り余るTP報酬で【女帝の塔】のリストにある魔物を召喚しているはずだ。

 そこから予想できる【女帝】の戦力……これは上方修正が必要かもしれない。



 ドミノ殿からの情報で予想していた【女帝】の戦力は、筆頭にメイド――近接戦闘系の神定英雄サンクリオ

 そしてSランク固有魔物、Aランクが一体、Bランクが一体という三体を眷属とし、その配下を数多く揃えている……といったものを想定していた。

 Sランク固有魔物は妖精女王ティターニアかナイトメアクイーンのどちらか。おそらく前者だとは思う。

 Aランクはウィッチクイーン、そしてBランクはいずれかのクイーン種だろうと。


 塔がBランクに上がったことで眷属枠が増えたのでロイヤルナイト(A)あたりも眷属化しているかもしれない。

 多くの職種を従えることが可能な防衛戦力だ。配下には前衛・魔法・回復・斥候と事欠かない。

 これで眷属枠が五つ埋まる。もう一つは余らせるだろう。


 しかし上方修正するならばSランク固有魔物も二体とも眷属化していると考えられる。

 二年目でBランクに上がったばかりと考えればとんでもない戦力に思えるが、戦歴と報酬TPの収入を考えればありえる話だ。

 Sランク二体、Aランクが二体、さらにメイドという眷属五体体制。


 さらに配下にはAランクやらBランクやらいると考えれば……Bランク上位というかAランク下位というか、いずれにせよ【女帝の塔】をBランクに上がったばかりの二年目だとは見てはいけないということだ。ランク詐欺で間違いない。


 そしてその戦力をもって私たちとどう戦おうとしているのかを考えると――。



「防衛にSランク固有魔物の一体は残すでしょう。そして攻撃にメイドともう一体のSランクが乗り込んで来るはずです」


神定英雄サンクリオを塔主の傍から離しますかね? 塔主の傍にいてこそのメイドでしょうに』


『攻撃に回すでしょうな。魔物を殲滅するのが目的ならば攻撃陣を厚くするでしょうし』



 それにあのメイドは【女帝の塔】の一階層で絵描きの真似事をして、絡んで来た侵入者を軒並み斃しているそうだ。

 塔主の脇に立たせるだけの存在ではない。塔主の傍から離れることをいとわないのだろう。

 攻撃陣として使うことは大いにありうると私は見ている。


 おそらく防衛は塔構成とSランク魔物に任せて攻撃陣を厚くする。ドミノ殿の言うとおりだ。

 最初は【空白の塔】か【氷海の塔】に乗り込むとは思うが、一塔ずつ、一階層ずつ殲滅していくような考えでいるはずだ。


 そうなると敵攻撃陣はメイドとSランク固有魔物、ウィッチクイーン(A)、そしてその配下……最大で百五十、いや二百ほどになるかもしれない。攻撃陣だけでBランク以上の魔物が三~四十いてもおかしくはない。


 それほどの軍勢が乗り込んで来るとなれば私の塔でも厳しいし【空白の塔】【氷海の塔】など尚更厳しい。とても防衛しきれるものではない。

 ここへ来て「【女帝】はこちらの三塔を攻略する」と提示してきたその恐ろしさを実感する。

 なるほど無茶な要求を飲み、馬鹿みたいな条文を提示してくるわけだ。それほど自分の戦力に自信があったのだろう。



『こちらとしては同盟の利を活かすしかありませんな。各個撃破だけは避けなければなりません』


『神様も黙っていてくれれば良かったのですがね。まぁ転移門の設置は助かりましたが』


「ええ。こちらにとってはありがたいことですよ。明確にしてくれるというのは」



 同盟戦ストルグである以上、戦力を同盟塔に配置させるというのは可能だ。【女帝】には同盟塔の介入を禁止としたがこちらは関係ない。

 【女帝】が「三塔攻略」を提示してきたことでその目的が防衛戦力の分散にある睨んでいたのだが――今となっては主目的が判明したわけだが――当然、各塔の防衛力を高めるために戦力を送り込もうと画策はしていた。


 さらに神が「各塔に行き来できるよう転移門を設ける」と仰ったことで初期配置だけでなく塔主戦争バトル中の移動も可能となった。

 例えば【女帝】攻撃陣が【空白の塔】に乗り込んだあとに私の戦力を【空白の塔】に送り込むといった真似ができると。

 これはただの援軍ではない。確実な挟撃ができるということが大きいのだ。


 これを策に組み込むことを明日までにしなければならない。

 【女帝】がどう動き、その時私たちはどう動くべきか、そのシミュレーションは必須だ。


 私たちはそれから夜を徹して話し合い、入念な準備と確認を行った。

 そうして塔主戦争バトルの朝を迎えたのだ。



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