112:強欲の塔殲滅作戦、開始です!



■マグドリオ・ゲーロス 51歳

■第498期 Cランク【強欲の塔】塔主



「くっ……! 退けっ! 後退だっ!!!」



 攻撃陣が敵地に乗り込んだ瞬間に魔法が乱れ飛んで来た――こんなの想定外もいいところだ!

 まさか塔に一歩も入らせないつもりか!?

 あれが『一階に配置している防衛戦力』だとでも言うのか!?


 どうすればいい……! どうやって攻めろと……!



「おい、入って来たぞ」



 セリの声に冷静さをなんとか保ち画面を見れば、確かに転移門からは敵の攻撃陣が入り始めていた。

 こちらの侵入を防いだから悠々と入れると、そういうことか。



 歯噛みしながら向こうの陣容を確認する。


 まず入って来たのはアラクネが四〇体とその最後尾に……アラクネクイーン!? いきなり来たか!


 いやそれだけではない。ラミア四〇体とラミアクイーン、サキュバス・インキュバス合わせて四〇体とサキュバスクイーン。クイーンが三体も……!


 最後尾には例のメイドもいる。

 そしてデュラハンが二〇体、ヴァルキリーが騎乗しているユニコーンが三体。ハイフェアリーが二〇体、ダンピールが十体、ウィッチが十体。ハイウィッチが一体。ヴァンパイアが一体。マンティコアが一体。



 合計で……二百十三!?



 Aランクが二体。Bランクが十体。他はCかDだ。しかしこの面子、この多さは……。



「おいおい、まさか主力全部、攻撃に使うってか……?」



 ……そうか。だからこちらの攻撃陣をいきなり攻撃したのか。


 確かにマモンがいると分かっているのだから攻めは出来る限り厚くと考えるだろう。

 そうなると防衛戦力がない。だから攻め込まれるわけにはいかない。先手を打って仕掛けるしかないと。


 しかしこの場はどうする……二択、いや三択か。


====

①このまま攻撃陣を敵軍とかち合わせて撃破を狙う。その後で進軍。


②攻撃を一端放棄。引き返させて攻撃陣を防衛戦力として使う。敵軍を引き込んで殲滅させた後で進軍。


③攻撃陣を隅に避け、敵軍を素通りさせた後に進軍。

=====


 くそっ……時間がない。



カーバンクルディーモ! 下がれ! 全員元の塔配置に戻れ!」



 結局儂は②を選んだ。神定英雄サンクリオとクイーン三体となれば確実に主力だ。

 確かに速攻で潰せればそれで勝ちは確定だが、確実にあれを叩くならば塔に引き込んだ方がいい。


 塔は攻撃より防衛が有利。これは常識だ。

 途中の魔物や罠で削り、上層まで引き込めばこちらの最大戦力が出せる。

 だから儂は後退命令を出した。


 交塔戦クロッサーはお互いの塔を攻略し合うものだ。

 だから敵軍が侵入してきたら『塔内の防衛戦力』で戦わせるのが筋だろう!?


 まさか主力全軍を攻撃陣にぶつけ、そのまま進軍してくるとは……くそっ!



 ……なるほど奇をてらった戦法でここまで勝ち続けてきたというわけか。



 しかし――



「おい、もしかしてチャンスか?」


「ああ、儂もそう思っていた。この勝負もらったぞ」




■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



 ようやく下がりましたか。これで確定しましたね。

 向こうに戦況判断できるものはいない。


 あの場面でしたらこちらが転移門をくぐった傍から攻撃を仕掛けるか、全力で退くかのどちらかです。

 それが中途半端な位置で立ち往生し、攻めるか引くか悩んだあげくにやっと帰ったと。



 塔主は商人だそうですから仕方ないとはいえ、神定英雄サンクリオもこうした戦いに身を置いたことがないのでしょうか。


 ターニアの情報では斥候のスペシャリストと聞いていますがね。

 まあいいでしょう。相手が引くならばこちらは押すだけです。



「横陣で行きます。隊列は一番」


「「「はいっ!」」」



 左からヴィクトリア、パトラ、私、ラージャの部隊が並びます。

 それぞれ配下の魔物と、ハイフェアリー五体、デュラハン五体、ユニコーンとヴァルキリーが一体ずつ。それが部隊ですね。


 私の部隊はハイフェアリーとデュラハンに加えダンピール、ウィッチ、ヴァンパイア、マンティコアとなります。



 【強欲の塔】の一階層は『黄金色の荒野』、二階層は『公孫樹の森』。共に屋外地形です。

 ならば広く進みましょう。今回は長丁場になりますからね。



「スケイブンの群れ! 引き付けてから攻撃なさい!」


「こっちはイエローインプ! あれは早めに処理しちゃってー!」


「ペトルスネークは噛み付かれると石化するわよ! 近付かれる前に攻撃なさい!」



 いいですね。三人とも様になっています。訓練の成果ですね。



「ではこちらも行きましょうか。一度デュラハンの盾に当ててからダンピールで攻めます。ウィッチはしばらく魔力温存ですよ」



 さあ、【強欲の塔】を殲滅しましょう。魔石は全て回収です。

 賊の住処であろうとも掃除するのは侍女の仕事ですから。




■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



『うひょー、いいな! これぞ戦いだよなぁ! 今度俺たちもこういうのやろうぜ! なあ!』



 ジータさんのテンションが異常に高いですね。騎士団長の血が騒ぐのでしょう。

 やってることは完全に『部隊戦』ですからね。小隊四つだけですけど。



 今回の作戦の始まりはクイーンの皆さんが「自分も戦いたい」と言い出したことです。


 せっかくエメリーさんから訓練を受けているのにそれを振るう機会がないと苦情がきましてね。まぁ魔物の本能らしいので仕方ないのですが。

 ちなみにターニアさんはそういうのないみたいなので省きます。



 そしてクイーンが三人とも行くのであれば総指揮はエメリーさんがとるしかないと。

 そうなると防衛戦力がターニアさんしかいないので、どうしようかと。

 だったら攻め込ませなければいいんじゃないかと。

 向こうの攻撃陣を最初に潰して、完全に攻塔戦アディケイトにしちゃいましょうと。

 どうせ攻塔戦アディケイトにするのなら【強欲の塔】の殲滅も狙いましょうと。

 三人の訓練になるし、背後をとられる心配も減るし、魔石はいっぱい集まるし……ということです。


 いやーじつに理に適ってますね。



『塔の殲滅を狙う塔主戦争バトルがあってたまるか。苦行どころの騒ぎじゃないぞ』


『相手は【強欲の塔】やで? こんなんよおやるわ』


『Fランクの全三階層とかならまだ分かるんですけど……じゅ、十階ですよ?』


『魔物のランク差も無視、塔主戦争バトルの定石も無視、それで勝つ見込みがあること自体が異常ですわよ』


『ラージャ! もう一歩前に出せ! 遅れてるぞ! そうだ! ああまだ撃たせるなラージャ!』



 アデルさん、ジータさんをちょっと黙らせて……ああダメですか、そうですか。



『初手で敵方攻撃陣の殲滅を狙う。防衛有利の攻塔戦アディケイトで攻撃側を選択する。攻め込まれないように全ての魔物を殲滅していく。高ランクの魔物がいると分かっていて低ランクの部隊を突っ込ませる……どれも定石とはほど遠いですわよ』



 まぁ仰りたいことはよく分かります。



『でもそれが可能というのも分かりますわ。エメリーさんがいて、クイーンが揃っているからこそ出来る策……もっと言えばエメリーさんが訓練を施したクイーンがさらに部隊訓練を行う、というのが前提ですわね』



 ですね。クイーンは配下を従えてこそ真価を発揮します。

 配下のみで構成された小隊だけで戦うのであれば特に訓練などなしでも連携はとれるのです。


 でもそこに軍としての全体の動きを仕込まなければ今回のようには戦えません。

 それが訓練の成果であり、今回エメリーさんが実戦で見てみたいと言っている部分なのです。



『小隊単位で構成すれば広く布陣して殲滅を狙うというのも少しは分かります。塔の魔物配置は散発的なのが普通なのですから、それを順次小隊で潰して行けばいいと。まぁ三階層以降は話が異なりますけれど』


『シャルよ、スタミナはどうする? このままでは丸一日戦わせることになるぞ』



 そう。部隊で攻めて殲滅を狙うとなった場合、気掛かりなのは体力。そして魔力です。

 特にクイーン配下のDランクの魔物は相当厳しいことが予想されます。



「そうなったら置いていきます。クイーンだけで攻めます」


『殲滅させてもリスポーンする魔物はおるんとちゃう?』


「その護衛としてヴァンパイアとマンティコアを連れて行ってますので」


『あーなるほど』



 あの二体はエメリーさんの部隊に入っていますが部隊として戦わせるためのものではありません。

 低ランクの魔物を護衛するためと、もう一つ役割があります。

 それは相手に分かりやすく「Aランクを連れて来た」と見せるため。

 これで「【女帝の塔】は全力で攻撃している」と思われるはずです。



『え、全部の階層で殲滅を狙うってことですよね、そ、それすっごく時間掛かっちゃいませんか? 大丈夫なんですか?』


「今までで一番時間は掛かると思います。ですから皆さん、ずっと見てなくて大丈夫ですからね?」


『いやいやいや、そ、そんな、それは見ますけれども』


『迷路とかじゃと時間が掛かりそうじゃが三・四階層だけじゃろ? 六階層も微妙にそうか』


『上層はほとんど広間だけって感じなんやっけ』



 殲滅に時間が掛かるのは三・四階層。ですが地図もありますしね。

 エメリーさんの<気配察知>でいなさそうな道には入らないでしょうし。

 ハイフェアリーも多めにいますから斥候は十分。広がって魔物を探すくらいならいくらでもできそうです。



『しかしマグドリオも災難ですわね』



 アデルさんがそう呟きます。



『ただの商人に戦争の指揮をとれと言っているのも同じですもの。部隊戦術やら何やらを考えなければならない。これはただ強い魔物を召喚してぶつけるという塔主戦争バトルとは全く違う戦いです。ある意味、相手の弱点を突いてますわ』


『結局はエメリーさんと悪魔の戦いになるんやけどな』



 ドロシーさんが茶化すように笑います。

 まぁそうでしょうね。最終的には『バベルの塔主戦争バトル』になるでしょう。


 私はそこが一番不安なところでもあるのですが……。



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