188:浄炎の塔側に異変がおきたようです!



■エキル 19歳

■第501期 Eランク【浄炎の塔】塔主



 【世沸者の塔】の謎解きは順調に進んでいる……と思う。

 僕もどんなものかと思っていたけど、これは予想以上に難しい。


 ある部屋の壁に数字が書かれていて、別の部屋の本からその数字のページを見て、そこに書かれてあるとおりに別の部屋の椅子の下を調べると金庫の暗証番号が書いてあり、その金庫の中に別の部屋に入るための鍵が入っている……みたいなことを繰り返す。


 それはただの『数字探し』だけど、ヒントを組み合わせないと解けない謎であるとか、パズルめいたものとか、本棚の本を並び替えないとヒントが出てこないとか……延々と頭を使う感じだ。


 なるほど武力ではなく知力で戦う塔とはよく言ったものだなぁと感心してしまった。



 しかし僕からしたら頭から煙が出そうな難問をダリアは颯爽と解いていく。

 改めてダリアの頭の良さを実感した。

 事前にいくつかの謎解きを調べていたみたいだけど、それにしても解くのが早い。


 途中、いくつかの罠もあった。

 しゃがんでヒントを探そうとするとギロチンが落ちてきたり、謎を解いて扉を開けると矢が飛んできたりと。


 懸念していたことではあるのでダリアは危なそうなところは全てコボルトに調べさせ、扉も自分では開けないようにしている。

 それも踏まえて今のところ順調だと言えるだろう。



 ただ順調だと言っても時間がかかる。

 階層の全ての小部屋を回るだけではなく、それを往復するような創りなのだ。右へ左へと移動しながら徐々に進んでいく感じ。


 鐘一つ分(約三時間)が経つ頃になってもまだ二階層の半分程度しか進めていない。

 この分では全七階層もある【世沸者の塔】を攻略するのはいつになることやら……下手すれば丸二日くらい掛かるかもしれない。


 まぁそれも危惧していたことではあるけれど。

 だから事前にダリアに回復薬などを持たせている。本人曰く、三日は問題ないだろうとのことだ。


 僕は途中で仮眠するよう言われているが……眠れるわけないでしょ。塔主戦争バトルの最中に。

 【浄炎の塔】にいる分には安全だけど、画面の中ではいつどこで罠が発動するかも分からないんだから。

 僕だってずっと集中して画面を見つめているんだ。



 ――と、そんな時。【浄炎の塔】の一階層に侵入者の姿を捉えた。



「て、敵襲だ! 攻め込んできた!」


『なんだって!? 陣容は!』


「え、えっと、スライムばっかりだけど、透明っぽいのが三〇、黒っぽいのが二〇、天使の輪っかみたいのがある白っぽいのが一体、それが指揮官かな……」


『はあ? なんだそりゃ。どっかの部屋に隠れてたのかねぇ』



 明らかに【世沸者の塔】の攻撃陣なんだろうけど噂どおりに全部がスライムだ。

 それも全部で五一体しかいない。

 これで【浄炎の塔】を攻略するつもりなのか……?


 事前にダリアは言っていた。スライムにも中には高ランクのヤツがいると。

 ただ多様性がある上に見分けがつきにくく、ダリアが直接対峙しても種類を間違えることもありえるとか。

 僕にはただの弱そうなスライムにしか見えないんだけど……。



『白っぽいのはあたしにも分からないが黒っぽいのがダークスライムだった場合、Cランク相当の可能性はあるよ。つまり白っぽいのはそれ以上。Bランクもありうる』


「ええっ!? そんなに強いの!?」


『ただ強いと言ってもスライムはスライムだ。溶岩階層ってだけで弱点になるだろうし、塔の戦力にはBランクもCランクもいるだろう? そこまで心配することじゃない』



 そ、そうか……スライムは総じて火属性が弱点って聞くし、塔の中を進むだけでダメージになるかもしれないのか。

 仮に四階層まで行ってもラヴァゴーレム(C)とかファイアジャイアント(B)がいれば大丈夫かな。



『一応アンタは見張っといてくれ。あたしが知らないスライムの可能性だってあるんだからね』


「ダリアが一度戻って来て斃すっていうのは……」


『二階層の転移魔法陣で戻るからそっちに行くのはすぐなんだが、そうなるとまた一階層から攻略し直しだろう? どれだけ時間が掛かることか……ああ、なるほど、そういう策もあるのかい』



 策? ……つまりダリアを一度引き返させる為にスライムを侵入させたってこと?


 そうか。そうなれば【世沸者の塔】の攻略は進まないし、ダリアは疲弊する一方だ。

 もしそんなことを繰り返されれば……三日じゃ済まないかもしれないぞ……。



『んじゃこうしよう。もしスライムが消費なしにすんなり一階層を突破するようならあたしはすぐに戻る。その時点で想定以上のスライムってことだからね。その時は連絡しな』


「わ、分かった! ちゃんと見ておくよ!」


『ああ、頼んだよ』





■ダリア・フェイロネイト

■【浄炎の塔】塔主エキルの神定英雄サンクリオ



 あたしは謎解き探索を再開したが、どうしてもスライムのことが気になっちまっていた。

 頭のリソースがそっちに割かれて頭が働かなくなっちまう。


 透明のスライムは普通に考えればクリーナースライムだ。Fランクの雑魚。

 しかしそんなスライムを攻撃に回す訳がない。となれば……ヒールスライム(D)かい?

 回復要員が三〇体? まさかそれもないだろう。


 黒いスライムはアサシンスライム(D)かダークスライム(C)しか知らない。

 アサシンスライムなら斥候役として二〇体使っているのも頷ける。

 ただ仮にダークスライムだった場合、闇魔法を使ってくるからね。危険度は段違いだ。


 指揮官の白いスライムというのは全く分からない。天使の輪っかがあるとか言ってたね。

 なんなんだそれは。


 【世沸者の塔】はスライムばかりと聞いたが、そんな多種多様なスライムが召喚できるってのかい?

 だとすれば益々嘗めてかかれないね。



 そっちが気になるのは確かだが、だからと言って攻略を進めないわけにもいかない。

 あたしはさっさと謎解きを進めて――



『ダ、ダリア!』


「どうした。何か動きがあったかい」


『い、いや、やっぱりあのスライムたち絶対何かおかしいよ!』



 さっきの通話からまださほど時間は経っていない。一階層の突破もしていないはずだ。

 だと言うのにエキルは慌てた様子。一体何が……。



『透明なヤツは多分斥候のスライムだ! 罠も全部避けられてる! それに黒いスライムは水魔法をバンバン撃ってくるし!』


「はあ? そりゃホントかい?」


『そ、それに進軍速度が尋常じゃないんだ! あんなのスライムの動きじゃないって!』



 不可解な点が多すぎる。斥候系の透明スライムも分からないし、黒いスライムがアサシンスライムでもダークスライムでも水魔法なんか使うわけがない。


 速度が速いってのもおかしい。溶岩階層の【浄炎の塔】はスライムにとって地獄のはずだ。

 しかもエキルの様子じゃスライムのくせにかなりの速度だと思われる。


 どうなってんだ? 全部あたしの知らない高ランクのスライムか?

 にしたって【世沸者の塔】がDランクというのは変わらない。どんなに強く見たって大ボスにAランクを置いているくらいのはずだ。

 普通なら防衛の最後の砦として置くはずだが……まさか白いスライムってのはAランクか!?


 あたしの謎解きに時間がかかると見て、隙を突いて最高戦力を送り込んだと?


 Aランクのスライムなら<統率>のような真似ができてもおかしくはない……それで部隊全体の速度を強化したのか?



 であればBランクのファイアジャイアントじゃ相手が悪い。仕方ないね。



「よし、あたしが行くよ。転移門から魔法陣を使って一気に上層に行くからそう時間は掛からないだろうさ。二階層あたりでスライムを潰すよ」


『わ、分かった! お願いするよ!』



 そうと決まればこの場はドモヴォーイヴォーイに任せよう。出来る限りのヒントを集めておいてもらおうかね。


 あたしは足早に二階層の転移魔法陣へと向かう。


 そして【世沸者の塔】の一階層へと飛び、転移門へ――



 ――と思ったが、そこには魔物が待ち構えていた。



 転移魔法陣から現れたあたしを狙ってきたのは″大鎌″だ。



「くっ……!」



 あたしは転ぶように無理矢理避けた。同時に距離をとり、混乱した頭を何とか冷静にと言い聞かせる。


 まず視界に入るのは大鎌を持つスケルトン。黒いローブは高位のそれだ。

 そしてそれに並ぶようにもう一体。

 こっちも豪華なローブを来たスケルトンだが、手に持つのは禍々しい杖。これは……!



(デスリーパーと……リッチ!? なんでAランクアンデッドが二体も……!)



 あたしらは一階層をくまなく探索し、二階層も手前から全ての部屋に入っているはずだ。

 スライムならともかく、こんな魔物が隠れているような場所などなかった。


 まさか隠し部屋!? そこにこんな魔物を隠してたってのかい!?


 いや、そもそもDランクの【世沸者の塔】がこんな魔物を持っているのがおかしい。

 じゃあ白いスライムは本当はAランクじゃないってのか!? 本当のボスはこいつらか!?


 おそらく最高戦力であろうこの二体を一階層に潜ませ、こんな待ち伏せに使うだなんて……一体どうなってんだよこの塔は!



『ダ、ダリアっ!?』



 頭にエキルの声が響くが、あたしはそれどころじゃない。冷や汗が一気に流れ出した。


 すまないねぇエキル。こいつは相手が悪すぎる。

 なるほど【浄炎の塔】にあたしがいると知っていて申請を受けるわけだ。


 ただまぁ――あたしにだって意地があんだよ! せいぜい足掻いてみせようじゃないか!



「<炎の破城矢フレイムバリスタ>!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る