35:赤×女帝会談、始まります!
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
『わしは行っても問題ないと思うぞ。向こうに敵意がないのは分かっておる。まぁ何かあってもエメリーが一緒であれば問題あるまい』
『うーん、フゥがそう言うんなら大丈夫なんやろうけどなあ。場所も【会談の間】なんやろ? せやったらやたらな事できひんやろし』
【赤の塔】のアデルさんから届いたお手紙には『一度会ってお話ししたい』という旨が書かれていました。
アデルさんは同期で一位ですし、メルセドウ王国の貴族様ですし、
【傲慢の塔】の人とは違って、本当に恐れ多く感じる貴族様なのです。
とは言え、そんな方からのお誘いを断るのもアレですし、同期のトップの方と仲良くできるのであれば嬉しいですし、万が一敵対するはめになってもお会いして情報を得るくらいはしておきたいですし……。
そう悩んでとりあえずドロシーさんとフゥさんに相談しました。
お二人とも会うのは問題なさそうです。でもドロシーさんはどこか不安気で。
『相手は大貴族の長子で尚且つ天才なんやで? シャルちゃんが言い包められそうで怖いわ。ウチらと同盟破棄して自分と組めとか言われそうで』
「それはないです。言われても断りますのでご安心下さい」
『ホンマか~? 相手のペースに飲みこまれたらあかんで? エメリーさん、シャルちゃんを頼むで。ちゃんと見張っててや』
「お任せください」
むぅ、信用ないですね。
でもエメリーさんが一緒で心強いのは私も同じなので何も言えません。
◆
そうして指定された日時にお会いすることになりました。
場所はバベルの一階にある『会談の間』と呼ばれる場所です。ここは塔主同士の打ち合わせなどに使われる『塔』らしく、誰であっても――塔主でなくても――職員さんに予約さえすれば使えるそうです。
こうした共有スペースのある『塔』もバベルの一階に三つほどあります。部屋の入口が転移門なので『塔』と扱いますが。
一階には500期のFランクの塔への転移門が並んでいますが、同じように『会談の間』への転移門もあるわけです。
会う場所をバベルの外ではなく『会談の間』にしたのは、敵意がありませんよと示す意味合いもあるそうです。
もし、チャンスとばかりに攻撃を仕掛けようものなら、それは神様に知られることとなり即座に【
塔主同士は
実際お手紙には『同盟申請や
また『同伴者としてそれぞれの
バベル一階、『会談の間』の転移門に入ると、中にはまず受付がありました。バベル職員の女性の方が座っています。
私はなんと言おうか迷いつつ近づくと――
「【女帝の塔】のシャルロット様ですね。右手側、一番の部屋へどうぞ。お相手様はすでに入っていらっしゃいます」
とのこと。私はただ女帝モードで「わかりました。ご苦労様です」としか言えません。
むしろ言えただけ偉いです。エメリーさんの淑女教育の賜物です。
いくつか並ぶ扉の中、一番手前の部屋の前へと行けば、エメリーさんが先回りして扉を開けてくれました。
今日はもういつも以上に侍女モードですね。
相手は大貴族。緊張しつつ、私もいつも以上に女帝……いえ淑女らしく振る舞わねばと気合いを入れました。
部屋はそれほど大きくありません。中央に円卓と、その周りにいくつか椅子が並ぶのみ。
正面に座っていたアデルさんは私に気付くと同時に席を立ちます。後ろにはジータさんがすでに立っていますね。
「お待たせして申し訳ありません。【女帝の塔】のシャルロットでございます」
私は臍のあたりに両手を当てたまま、軽く頭を下げて挨拶しました。
深々とはせず、かといってカーテシーなどといった真似もせず。
「【赤の塔】のアデル・ロージットですわ。それほど待ったわけではございませんのでご心配なく。どうぞお掛けになって下さい」
アデルさんは華麗なカーテシーで挨拶されました。
そのまま促されるように対面に座ります。エメリーさんが椅子を引いて。
お互い座るのは塔主だけのようですね。
バベル職員さんがお茶を運んで来てくれました。
それに口をつけつつ、切りだします。
「本日はお招き頂きましてありがとうございます」
「誘いを受けて頂いてこちらこそありがたいですわ。是非一度お会いしたいと思っておりましたの。貴女のことは最初から注目しておりましたので」
「最初から、ですか」
「それはそうでしょう。
異界の、と言いました。おそらく調べた結果、『異世界から召喚された』と結論づけたのでしょう。
「そして【正義の塔】に続いて今度は【力の塔】ですか。すでに英雄と言っても差し支えないかと」
「いえ、そのような。私は眷属や同盟の皆さんに助けられただけです」
「謙虚なのは【女帝】らしくありませんわよ? それでは街娘相応に思われてしまいますわ」
なるほど……でも「私の手柄です!」なんて言えませんよ。
……というか『街娘』って知っているんですか?
「よくご存じですね」
「わたくしも気になりましたので色々と調べさせて頂いたのですが、それでもどこの国のどこの街かは分かっておりませんの。しかし――街娘であることは間違いないと確信しておりましたわ」
「参考までにお教え願いますか?」
「単純に『見た目』ですわね。服、髪、化粧、そういったものが『平民の街娘』そのものですもの。……ああ、塔主となったからには貴族だの平民だのはないものと思っておりますのであしからず」
服、髪、化粧ですか……全く気にしていませんでした!
いやこれでも毎日お風呂に入って肌も髪も綺麗にしていますし、エメリーさんが髪を梳かしてくれたり、服の皺を伸ばしてくれたりしてるんですよ?
それでも本物の貴族様から見れば『街娘』となるのですか……。
それとどうやらアデルさんは平民だからと蔑むような感じではなさそうです。
これは少し気が楽になりました。油断はできませんが。
「しかし所作や表情、話し方などは【女帝】らしく見える部分もあります。おそらくそういった教育を施された方が優秀なのでしょう」
そういってアデルさんはチラリとエメリーさんを見ました。
赤い羽扇を口元に広げたままなので表情は読みづらいのですが。
「紹介が遅れました。私の
「こちらはジータですわ。説明不要だと思いますが」
エメリーさんはペコリと頭を下げただけ。ジータさんは頷くようにほんの少し。
完全に塔主だけにこの場を任せるつもりですかね。お二人とも。
「ええ、英雄ジータ様の御高名は伺っております。アデル様の才、ジータ様のお力、それに加えて
「あら、次席ではございませんの? 今ではすっかり【女帝の塔】の下といった評価でしょう。ああ、別に皮肉で言っているわけではありませんわよ? 事実ですから」
は、はぁ……と言いたくなります。
でも「ですよね!」とも言えないですし……無言しかありません。
「と言いましても貴女の事も塔の事も、調べるには限りがあるとは言ったとおりですわ。わたくしには何が原因でそこまでお強くなられているのか……想像する事くらいしかできませんの。例えば――そちらのエメリーさんでしたわね」
羽扇をぴしゃんと閉じてエメリーさんを指します。
やはりエメリーさんのことが気になるようですね。当然ですが。
そしてアデルさんはそのまま、背後のジータさんに問いかけます。
「ジータ、どう思います?」
「悪いが勝てねえな」
!? ジータさん、英雄ですよね!? 見るだけで断言できるものなんですか!?
「即答ですわね」
「そりゃあな。姉ちゃん……エメリーっつったか。俺と戦って何秒で勝てる?」
何秒って……エメリーさん、ジータさんを数秒で斃せるんですか!?
エメリーさんは私の方を見ています。発言の許可を、ってことですか。私は頷きます。
「早ければ5秒。もって5分……ですかね」
「5分もたせられる自信はねえなあ! はっはっはっは!」
えぇぇぇ……5秒で斃すって……ああ、【魔剣グラシャラボラス】で急所狙いとかですかね。
それならジータさんにでも勝てるんですかね。ジータさんなら防ぐとか避けるとかもしそうですけど。
「はぁ……笑いごとではございませんわよ。まぁそれほどの戦力なのだと分かっただけでも今日こうしてお話できた甲斐はあるのでしょうけど」
「……本日の目的はそれだったのですか?」
「それもありますけれど、本題は別ですわ」
アデルさんはそう言うと、仕切り直しとばかりに羽扇を広げ、目力を強くしました。
「ジータが負けると分かっていて
「はい」
「率直にお聞きしますわ。シャルロットさん、貴女は――何を目指していますの?」
――私が目指すもの、ですか。
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