30:あっちもこっちも奥の手を出します!
■ストルス・ガーナトン 40歳
■第485期 Bランク【力の塔】塔主
「
「
十四階層の闘技場。すでに俺たちの持ち寄った三強と、メイドとの戦いは始まっている。
ゲリッジとミネルバは自分の眷属に指示を飛ばし続けている。
それが功を奏している。
想像していたよりも優勢――それが今の戦況だ。
これまででメイドの規格外の強さは、もう十分堪えるほどに味わった。
一方こちらは最強には違いないが、三体とも単独戦闘が本来のスタイル。
最悪の展開を考えれば、メイドが三体をものともせずに圧倒するか、三体が同士討ちのような恰好になり自滅するか。そんな事も考えた。
しかし蓋を開けてみれば、こちらが優勢なのは間違いない。
俺の
強大な二体が脇役に回る。それほどの事をしなければいけない場面だと。
メイドは動きも速く、四本の黒いハルバードを振ってはいるが、それが効果的とはいかないようだ。
ヴォルカのラヴァタートルを甲羅ごと切断していたから相当な業物だとは思うが、浅く単発にしか攻撃できていない。回避で精一杯の様子。
その状態で
とは言え油断するつもりもない。
しかし最低限の足止めはできている。
この隙に、なんとか【女帝の塔】を攻略してしまいたい。すでに六階。あと少しなのだ。
俺の指示も
その六階層は――【女帝の塔】の最後の難問とばかりに謎かけのような仕組みになっていた。
部屋を全て回り、多角形の『何か』を入手する必要があるのだろう。
そうしてやっと大扉が開かれる。おそらくその先がボス部屋だ。
その事に思い至った俺はすぐさま指示を飛ばした。分散してでもすぐに『何か』を集めろと。
メイドがこちらに攻めてきている今、ボス部屋にいるのはおそらく【輝翼の塔】の
他にろくな手駒はないはず。あいつらはDEEの三塔だ。高ランクが召喚できるTPがあるとは思えない。
頑張ってAランクを一体召喚したとしても
メイドのようなSランク確定みたいな規格外はいない。
であれば急いでそれを斃すべく『何か』をさっさと集めさせるべき。
そう思ったのだが――
「はあっ!? アラクネクイーンがいるぞ!」
「こっちはサキュバスクイーンだ!」
「【女帝】か! あいつメイド以外にこんな魔物を……!」
「だからメイドを攻めに使ったの!? 守りはクイーンに任せて!?」
「じゃあもうボス部屋にいるのは【輝翼の塔】の
クイーン系統の魔物はそれが強いだけではなく配下を統べる能力が高い。
だからこそTPは高いし、召喚できる塔も限られる。
【女帝の塔】は確かにクイーン系統が召喚可能な塔ではあるが……まだ塔主になって三ヶ月も経っていないんだぞ!?
すでにDランクの塔の範疇にない! これに加えてメイドまでいるんだ! どうなってんだこの【女帝】は!
一刻も早く潰すべき。
この【女帝】を野放しにはできない。
何より今まさに、俺たちが食われようとしているのだ。
頼みの綱はもはや
――ガンッ! ガンッ! ガンッ!
『ガアアアアアッ!!!』
部屋には入れなかった。
扉を開けた先が『何か』で塞がれているのだ。
最初は岩か何かだと思ったがすぐに分かった。
これは『亀』だと。
Bランクの大亀【グランドタートル】がその巨体を活かして、部屋に入る事を邪魔している。
扉から見えるのは甲羅の横っ腹だけだ。
当然、さっさと斃すよう命じた。明らかな時間稼ぎだ。
意地でも部屋に入らせまい、中にある『何か』は取らせまいという確固たる意思。
……が、どれだけ殴ってもびくともしない。
いくらグランドタートルが物理攻撃に強い、耐久力が高いと言っても……
おかしい。
まさかグランドタートルではなく、もっと上位の魔物か? しかしそんな魔物を召喚できるわけ――
焦る俺は【女帝の塔】の様子ばかり気になってしまっていた。
少しの時間ではあったが、疎かになっていたのだ。――メイドへの対処が。
画面に映る十四階の闘技場。
強大なる三体に囲まれたメイドは――いつの間にか武器を持ち変えていた。
右には先ほどよりも禍々しい、漆黒のハルバードが一本。
左には不釣り合いな真っ白い大盾。
三体と正対するメイドは、御伽話の死神のようにも、英雄の騎士のようにも見えた。
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
「よおし! さすがウチの
「ゼンガー爺、バンバン回復せい! そこそこ時間稼ぎができればよい! あとはこの場を凌ぐのみじゃ!」
七階層の【謁見の間】。玉座に座る私と並んで、ドロシーさんとフゥさんが指示を飛ばしています。
もはやこの場にいるのは私たち三人のみ。
あとは全て六階層の迎撃に向かっているのです。
私たちの作戦では、最初から六階層を最終防衛線と考えていました。
エメリーさんは最速で【力の塔】を駆け上がる。一方でこちらは時間を掛けさせないといけない。
四階層【罠だらけの坂道】である程度の時間を稼ぎ、エメリーさんの攻略速度と合わせながら、相手の主力を六階層に上げる。
向こうからすれば徐々に攻めてくるエメリーさんにやきもきしつつ、【女帝の塔】もあとちょっとで攻略できるとなれば、冷静な判断や指示出しができるとは思えません。
だからこそ六階層まで時間を掛けて引っ張ってこよう、ここを最終防衛線にしようと、そういう事前の話があったのです。
厳密に言えば、『大ボス部屋に入れさせる前に斃そう』と。実は大ボス部屋には全く魔物を配置していないのです。
大ボス部屋に入る為の証を入手しようと、六つの部屋に入る。そこを決戦の場としました。
仮に相手がかたまってどこかの部屋に入ろうものなら、確実に挟撃できます。こちらの眷属の方々がバラけて各部屋に待機しているのですから。
もし分散したなら各個撃破すればいい。
戦力の減った相手であれば、それこそ眷属の方々の勝ちは決まっているようなものです。
しかし万が一も考えなければいけません。
予想以上に相手の戦力が強いであるとか、エメリーさんが苦戦して【力の塔】の攻略に時間が掛かるであるとか。
そういった場合に備え、『三角形の部屋』にはドロシーさんがこの日の為に召喚し眷属としたBランクの
さらに部屋の中にはゼンガーさんがいて、延々と
向こうの主力が近接物理主体であることは想像通りでした。【力の塔】も【鋼刃の塔】もそういった魔物ばかりですしね。
そして
そこにゼンガーさんの回復が加われば、ドロシーさんじゃないですけど無敵の要塞と化します。
一階層や二階層でこの手段を使っても良かったと思います。ゼンガーさんの魔力は相当持つそうですし、最悪エメリーさんのマジックバッグから支給されたMPポーションもありますので。
何時間でも粘り、その間にエメリーさんが攻略すると。それだけで勝てる。
そうしなかったのは相手を引き込んである程度向こうの精神状態をコントロールしたかったのと、眷属を含めた皆さんにも活躍して欲しかったというのが大きいです。
私もそうですが、ドロシーさんもフゥさんもこの日の為にTPをほとんど使って召喚し眷属としましたからね。
せっかくだから皆さんの出番を、ということで六階層の各部屋に布陣しているわけです。
もちろん六階層に送り出す前には、皆さんに私の<付与魔法>で
時間で切れちゃうと思いますが、私ができるのはこれくらいなので。
「シャルロット様ありがとうございます。しかし……これはすごいですね」
「身体が軽いですわぁ。今ならAランクとて倒せそうですわよぉ」
「いやシャルロット殿、これは<付与魔法>の域を超えておりますぞ。これほどの強化はありえません。助かりますがのう」
……間違いなくエメリーさんからお借りしている【黒曜賢者の杖】のせいです。
この真っ黒な杖、聞けば【黒曜樹】という異世界でも貴重な素材が使われているそうです。
それを侍女仲間の方が杖として造り上げたそうですが……私にはよく分かりません。ともかくすごい杖です。
そうして始まった六階層の戦い。
隊長格であるグレイオーガが運良く
【鋼刃】の眷属であるレジェンダリスケルトンがヴィクトリアさんの部屋に。
オークの群れがパトラさんの部屋に行きました。
パトラさんは楽勝ですね。オークなどサキュバスクイーンの<誘惑>に堕ちないわけがありません。
「パトラさん! そっちを早めに片付けて五角形の部屋にお願いします! 【詩人】の
『五角形はドロシー様のゴーレム部隊だったかしらぁ。了解しましたわぁ』
ヴィクトリアさんも多分レジェンダリスケルトンに勝てるはず。
勝ったなら六角形の部屋の救援に向かってもらいましょう。
あそこはフゥさんの鳥部隊ですが相手はリビングローブ部隊のようです。魔法を多用する相手でしょうしね。
おそらく一番動けるのはパトラさん。
あらかた他の部屋の殲滅が終わったら、
出来ればBランクの
防衛はこれで問題なし。よほどの何かが起こらない限り、確実に勝ちです。
そして私たちの目は自然と【力の塔】で戦い続けているエメリーさんの方へ。
十四階の闘技場。
相手はSランクのイスバザデン、Aランクのアスラエッジとフレアドレイク。
Sランクパーティーとて勝てるかどうか分からないほど絶望的な相手です。
しかし私は信じています。エメリーさんが負けるはずないと。
とは言え厳しいのには違いなさそうで、三体の魔物からの激しい攻撃に回避ばかりで手をこまねいているようにも見せました。
そしてエメリーさんは武器を替えたのです。
マジックバッグを利用しての高速換装。あらゆる武器を瞬時に入れ替え、その全てを使いこなす。エメリーさんにしか出来ない技術です。
取り出されたのは『白い大盾』と『一本の真っ黒なハルバード』でした。
ハルバードからハルバードへの換装――ではありません。
今まで四本同時に使っていたのは【魔竜斧槍】というそうです。
しかしあれは――
「な、なんやあの武器……今までのハルバードと似てるけど、全然雰囲気ちゃうで……なんか黒いモヤみたいの出てるやん……」
「ううむ、禍々しいのう……斧の刃がえぐれておるから、まるで『死神の鎌』に見えるわい」
「あれはエメリーさんの主武器だそうです」
「主武器!? 今までは違ったんかい!」
「今までのハルバードとて魔法を放つ
――【魔剣グラシャラボラス】。エメリーさんはそう言ってました。
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