334:ランゲロック商店、新規開店です!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 【世沸者の塔】と【魔導書の塔】の塔主戦争バトルを挟んで、私はずっと忙しくしていました。と言いますか現在進行形で忙しくしています。


 営業中はBランク侵入者の動向を見ながら八女王会議――五人のクイーンと天使のアラエルさんにも加わってもらってます――で話し合いながら日々の改善と、同盟の課題である脱Cランク病に向けて色々と取り組んでいます。

 そろそろ大改装を一回してみたいですね。試しも兼ねて。



 あとはランゲロック商店のあれこれですね。


 あまり休塔日を設けるわけにもいきませんから営業終了後に出掛けることが多いのですが、スマイリーさんの鍛治屋に行って塔章を頼んだり、ランゲロック商店にお邪魔してランゲロックさんやソフィアさんと打ち合わせしたり、商業ギルドに行ってビズレイズさんと打ち合わせしたり、新店舗に行ってみたりと……。


 アデルさんは毎回付き合って下さいまして、本当に感謝しています。

 私とエメリーさんだけでは何をどうしたらいいのか分かりませんから、いつも助かっています。



 ランゲロックさんは生産を委託する業者さんと商業ギルドで打ち合わせ、同時に商品の作りだめと引っ越しの準備ですから本当に忙しそうです。


 勝手に色々と決めてしまって申し訳ない気持ちもあるのですが、ご本人は吹っ切れたと言いますか、かなりやる気に満ちていて毎日頑張っています。

 倒れなきゃいいんですけどね……私は少し心配ですよ。


 奥さんのソフィアさんもですね。新店舗でもソフィアさんが作った木工細工も売るので、その製作も大変そうですし、新店舗で売り出すランゲロックさんお手製の美容品――女帝印の美容品やアデルスペシャル――はセット売りや贈答品用にソフィアさんが編んだ籠に入れるそうですので、それの製作もあります。


 その上でランゲロックさんのお手伝いもしているし引っ越しの準備も進めていると。頭が下がりますね。



 お二人が忙しい分、ビズレイズさんが色々と動いて下さっていますが、今のところ不審な動きはないです。

 やはり塔主である私たちに気を使っているのでしょうが、それでも今はありがたいですね。


 弱小商店の娘だった私にとって商業ギルドのトップというのはどうしても苦手な所があったのですが、今はそんな印象も薄れましたね。

 とても親身になって下さいますし、とても精力的に動いて下さっています。


 委託業者や手続きに関することは全てお任せしていますし、新店舗の改装や開業準備、薬瓶や商品の手配、従業員や警備員の用意まで本当に色々とお願いしています。

 それを私やアデルさん、ランゲロックさんと共有して全てを同時進行していると。



 移転の話が出始めて、502期の新塔主内定式まで約二月。

 想定以上にやることが多くて、長そうに見えた時間が全然足りなくなってきますね。


 だんだんと内定式の日が近づくにつれ、私もアデルさんもそわそわしてきまして、塔運営に集中することも出来なくなってきました。本業に支障が出ている感じです。


 最終的には頻繁に休塔日を設ける始末で、これでは塔主失格と言われても仕方ないのですが、どうしても色々と気になってせっせと動いていました。



 ただそうやって動いた結果、なんとか準備も整いましたし、ランゲロックさん夫妻の引っ越しも終了。

 新店舗もほぼ出来上がったというわけです。まだ開店もしていないのに妙な達成感がありました。


 私とエメリーさん、アデルさんが頻繁に出歩いたおかげで宣伝効果もあったようです。

 商業ギルドと新店舗は中心部ですし、ランゲロック商店にもよく行っていましたから街の西部まで歩くわけで、当然人目に付くのですよ。私とアデルさんはドレス姿ですしね。



「【女帝】と【赤】じゃないか! 今日は休みなのか?」

「なんか最近よく見るらしいぜ。商業ギルドに行ってるとか何とか」

「商業ギルド? 何か商売でも始めるのか? あの二人が?」

「ギルドの近くの建屋の一階が改装工事してるだろ? あそこで店を開くって噂だ」

「へぇ~、どんな店にするんだろうな。そりゃ楽しみだ」



 そんな感じらしいです。ランゲロックさんも美容品を買いに来ていたお客さんに移転のことを伝えていたらしいので、裕福な奥様方には広まっているみたいですね。


 【女帝】、というか【彩糸の組紐ブライトブレイド】がランゲロック商店と組んで新店舗を立ち上げると。


 実際のところ私はただの後援なのですが、どうも″女帝の店″だとか″同盟の店″という認識になってしまっているようです。



 私はそれを正すよう言ったのですが、ランゲロックさんもビズレイズさんも何ならアデルさんまで「勝手に言わせておこう」という判断でした。むしろその方が宣伝になるし、別に間違いを言っているわけじゃないからと。


 うーん、私としては「ランゲロック商店」として頑張って欲しいのですがね。なかなか上手くはいかないようです。



 ともかく、そうした色々なことがあって、新店舗の準備は整いました。

 広すぎる店内は奥の半分ほどが店舗という感じ。

 棚や机が並び、そこに沢山の商品が置かれています。主に薬剤と木工品。


 ランゲロックさん夫妻が作る商品だけでは棚が余っていましたので、ギルド加盟店らしく小売りも行うことになったようです。別の生産者さんが作った薬剤や木工品も売るということですね。



 そして店の手前半分が【彩糸の組紐ブライトブレイド】エリアとなっています。もうこれは単純な客寄せですね。協力するためには是非もありません。


 六塔の塔章と旗を壁に並べ、これでもかと人目に付くことを意識しています。

 そこには″女帝印″の商品と″アデルスペシャル″しか置いていません。個別に売っているものとセット売り、贈答品用などもありますが。



「いずれは六塔それぞれになぞらえた商品を置こうと思っています。せっかく旗や塔章を飾って頂いたので、それとセットに商品を並べたいですし」


「それはいいですわね。出来上がりましたら皆さん喜びますわ」


「ですね。商品開発みたいなことはできないってことでしたが、協力はすると仰っていましたので」


「ありがたいお話です。是非ともやらせて下さい」



 そうなれば益々話題になるでしょう。ビズレイズさんもテンション爆上がりです。

 私としても手前の商品が売れて欲しいんですよね。全てランゲロックさんとソフィアさんのお手製ですし、一番店の利益になりますから。





 そして内定式の二日前、ランゲロック商店の新店舗がオープンしました。

 内定式は多くの人が集まりますから、その前に開店しておこうということです。


 私もアデルさんも見に行きたい気持ちが強かったのですが、さすがに自重しました。

 私たちがお店に行ったら大パニックになるか逆に客足が遠のくかの二択ですからね。全てを任せますと。


 それでも塔運営をしながらそわそわしていたのは事実で、常にターニアさんに様子見してもらいつつ、経過報告をアデルさんと共有する。そんな一日になりました。


 特に開店時間の間際はアデルさんから「どれくらい人はいますの?」「従業員と警備員の様子は?」「どこら辺が売れていますの?」と事あるごとに質問責めです。気持ちは分かります。



 どうやら開店前に人だかりが出来ていたようです。

 まぁ店舗の前には貼り紙してありましたしね。オープンの日時と販売しているもの、そして私たちが協賛しているという旨も。

 その効果もあっての人だかり。バベリオではなかなか珍しい光景のようです。


 やはり裕福な奥様方が多かったようなのですが、物見遊山の冒険者や街民も多くいたみたいです。

 低ランクの冒険者には早々買えない商品なのですがね……まぁ美容品でなければ問題はないですが。

 新聞の取材とかもあったようですし、おそらくドナテアさんの遣いの方もいたでしょう。一応伝えておいたので。



 そうしてオープンしてからは、店内が混みあい、警備の人が大変だったようです。もちろんランゲロックさんもですが。

 ビズレイズさんも心配してわざわざ来て下さっていたようで、そこら辺の対応はお手の物。

 ギルドの人を使って上手い事捌いていたようです。それで事なきを得たと。


 やはり私たちの旗や塔章を見て立ち止まり、まじまじと眺める人が多かったようです。冒険者でなければなかなか見られませんからね。


 それから商品を手にとったり、試しに買ってみようという人もいれば、高すぎて買えないという人もいると。

 最初だけだと思いますけどね。いずれは「こういう店だよ」と周知されますし、そうなれば落ち着くのではないかと思います。

 最終的には高級美容品を扱う店として、それに見合ったお客さんが残る感じになるのではないでしょうか。



 一応、ソフィアさん製作のものとして『玉座用の机』も売っていますので、塔主の方から注文が入るかもしれませんね。

 私たちが注文して作って頂いたやつです。塔運営をしている塔主にとっては非常に助かる商品。

 塔主ならば高級美容品でも買うのが苦ではないでしょうから、それと一緒に机も売れればなぁと思っています。

 それこそドナテアさんとかどうですかね? 机くらいすでに持っていますかね?



 その日は営業終了後、エメリーさんとアデルさんとすぐに新店舗に向かいました。



「予想以上のお客さんで驚きましたし大変でしたが、何とか初日を乗り越えられました。本当に皆さんのおかげです」


「最初だから仕方ないですよね。売れはしたのですか?」


「ええ、そりゃもう! 生産委託しておいて正解でしたよ。恐ろしいほどの売れ行きで、女帝印やアデルスペシャルは鐘一つ分で売り切れです。あとはもう委託生産の通常品を売るだけでした」


「高い方から売れたのですか……それは予想外ですね……」


「それだけわたくしたちが目立ったということでしょう。飾り付けして正解ですわよ」



 なるほど。試しに買うなら高くてもおすすめ商品を買うと、そういう感じですかね。

 なんにせよ力添えになれば幸いです。やっぱりこのお店には繁盛してもらいたいですしね。



「ビズレイズさんもお疲れさまでした」


「いやはやまさか丸一日店舗に立つとは思いませんでした。数年来やっていなかったので疲れましたな」


「さすがにこんなに混むのは今日一日だけですよね」


「どうでしょうな。また口コミで広まるでしょうし油断はできません。せめてあと十日は様子を見ませんと。まぁ私があまり出しゃばるつもりもありませんので控えますがね」



 そう言って明日も店に立っていそうですけどね……商魂逞しすぎる人ですから。さすがギルド長です。

 まぁギルド長はギルド長らしく商業ギルドでデスクワークすべきでしょう。あまり店に出るのもどうかと思いますし。

 明日からは本格的にランゲロックさん主導でお店を経営していく形になると思います。


 私たちも見に来るのはたまに、という感じですかね。

 正直開店までは気になったり焦ったりしていましたが、一度オープンしてしまえばあとはランゲロックさん夫妻にお任せするしかできません。

 あくまでお二人のお店ですからね。今後は少し控えようと思います。



 ……で、私たちが買う分の美容品はちゃんとあるのですよね?


 あわよくばレイチェルさんにお渡しする分も欲しいのですが……ああ、それはまだですか、そうですか。



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