285:変則同盟戦、決着です!
■シャルロット 16歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
『さすがにあとは消化試合やろな』
『向こうからすれば早く殺してくれといったところでしょう。けれど手心加えてはいけませんわよ、シャルロットさん』
ドロシーさんやアデルさんの言うとおり、その後の戦いは危ない場面もなく順調にいけたと思います。
まず【空白の塔】はエメリーさんとバートリさんが指揮をとりつつ殲滅戦を再開しました。
<白昼夢の空>の危険性だけが残っていましたが、そこはフゥさんに見張ってもらいつつといった感じです。
ここでの戦い方には最初からいくつかの課題がありまして
一つはエメリーさんの騎獣しながらの指揮と斥候。
マンティコアに乗らないほうがエメリーさんも動きやすいのですが、今後を見据えた訓練を兼ねて騎獣し続けたようです。
私から見れば非常にスムーズな騎獣だったと思いますが、やはり機動力と攻撃手段が限られるのが難点ですね。分かってはいましたが。
接近してハルバードを振るうよりも、マンティコアにブレスを吐かせるか、鎖付きの分銅を投げるかという感じになります。
途中からは魔竜斧槍の魔法も解禁していましたが、エメリーさん的にはご自分で斬り掛かったほうが戦いやすいでしょう。
まぁ飛ぶ手段を確保したと思えば良い結果なのではないでしょうか。
二つ目はバートリさんの指揮ですね。
前に出たがりで前線指揮タイプのバートリさんが部隊の中央で指揮をとり続けられるのかと。
これもほぼ完璧に出来ていたと思います。さすがはクイーン種といったところでしょう。やはり部隊指揮はお手の物だと。
ただ配下ばかりが戦っていてバートリさんがうずうずしていたのは間違いなかったようで、それを察したエメリーさんが時々戦わせていました。ストレス発散ですね。
そこら辺の管理ができるのはさすが侍女長様といった感じです。
エメリーさんがいない場合の全体指揮を考えればバートリさんが経験を積むことは非常に有意義です。
少なくともターニアさん以上に″指揮官″という感じはしますからね。ターニアさんも指揮が上手いのは知っていますが何となくふわふわしていますし。
理想はハルフゥさんが中央で回復兼全体指揮。前衛指揮がバートリさん。上空・後衛指揮がターニアさんといった布陣です。
ハルフゥさんは初陣ですし水中戦で頑張って貰っているので、今回に関しては部隊長止まりですがこれも経験ということで。
いずれはエメリーさんの代わりに総指揮官を担ってもらいたいものです。
あとの課題は召喚したばかりのハーピィクイーンの運用ですね。
エメリーさんを上空部隊の総指揮に置いてハーピィクイーンを部隊指揮としたのですが、配下もハーピィだけとあってかなり上手く戦えていたようです。
一体のクイーンに対し十~二十体程度のハーピィを配下におくだけで部隊として完全に機能すると、エメリーさんが太鼓判を押しています。
となると【女帝の塔】の配置に悩むわけですが、現在ハーピィ(D)を置いているのは一階層なわけで、そこにBランクのハーピィクイーンを置いていいものかと。
とりあえず一階層のハーピィを統率する意味でハーピィクイーンを一体だけ置き、もう一体は五・六階層の『城裏の森』に置こうかと考えています。
そうなるとハーピィも追加で召喚したいですし、五階層のハーピィクイーンをもう少し召喚しておいたほうがいいかもしれません。
今度皆さんで話し合って決めましょう。
そういったわけで大きく掲げた三つの課題はある程度の成果を得られたのですが、新たな課題も見つかりました。
斥候ですね。斥候に特化した部隊、指揮官がいないと。
見つかったというより元から少し不安だった部分でもあるのですが、<白昼夢の空>を目の当たりにして余計に課題だと感じてしまいました。
今はエメリーさんが頭三つくらい抜きん出ていまして、ターニアさんがそれに続く形です。
配下のハイフェアリーも含めて<魔力感知>ができますし、ファムで情報を集められると。時と場所によりますけど。
他にもバートリさんやベアトリクスさん、ハルフゥさんも一応察知系スキルを持っていますので魔物の対処はできます。
しかし罠となると<危険察知>くらいしかないのですよね。
<危険察知>は「危険だ」と思わないと発動しないとのことで特に高ランクの魔物の場合、見逃すことも多いらしいのです。
そうなると<罠察知>を持っている魔物の部隊が欲しくなります。
【女帝の塔】の魔物召喚リストの中にはロイヤルジェスター(A)やクラウンスカウト(C)などもいますので、そこら辺は優先的に召喚しておいたほうがいいかもしれません。
あとは【空白の塔】でミミックファング(A)とクリアリンクス(C)の群れを斃したのでそれを召喚するのも一つの手です。擬態する虎と山猫ですね。珍しい魔物だと思います。
今まで斃した塔の魔物にも目を通しておくべきですかね。探せば何かいるかもしれません。
【空白の塔】で語れるのはそれくらいです。
カラーダイスさんは何回か<白昼夢の空>を使ってきましたが私の視点とエメリーさんの斥候能力の前には無力同然。
せっかく強力な限定スキルなのですからせめて使い方を熟考していれば……といったところでしょう。
私としては多くの鳥系魔物と天使まで召喚権利を得られたのでそれだけでもう大戦果です。
カラーダイスさんを先に斃したことで【轟雷の塔】で<白昼夢の空>を使われる心配もなくなりましたしね。
これで99%の勝利が100%になった感じです。
次に【氷海の塔】に目を向けますと、ターニアさん、ベアトリクスさんの飛行部隊とハルフゥさんの水中部隊の殲滅戦ですね。
【空白の塔】一階層での戦いで援軍に来ていた【氷海】の魔物は150体ほどいました。
クリスタルゴーレム(A)とアイスゴーレム(C)の部隊、ホワイトグリズリー(B)やアイスウルフ(C)の地上部隊、ブリーズイーグル(B)・コールドコンドル(C)・
それらは全て【空白の塔】で斃したのですが【氷海の塔】にはまだ多くの魔物が残っていました。
援軍に送りたくても送れなかった魔物――つまりは水棲魔物ですね。
一番の戦力が3mほどもある巨大なクリオネ。これが【氷海】の固有魔物でして、配下にはクリオネウィッチ(B)とクリオネレイス(D)がいました。
他にもウォルラスキング(A)を指揮官としたステラシールマン(C)とシールマン(E)の群れ。
マーダーシャーク(B)やマーマン(D)系統も多くいましたね。
海上や氷の上に上がってきてくれる魔物であればターニアさんやベアトリクスさんが対処できるのですが、水中での戦いとなるとハルフゥさんに頼むしかありません。
力量的に心配はしていなかったのですがかなり働かせてしまったのでそこが申し訳ない感じでいっぱいです。
しかし当の本人は久しぶりに全力で泳ぎながら戦闘できるということで張り切っていました。やっぱりそこは魔物なんですね。
遊泳速度はステータスでも『敏捷:S』となっていたとおり、とんでもない速さです。
水の抵抗など無視するかのような動き。水中なら無敵ではないかと思ったほどです。エメリーさんにだって勝てますよ、多分。
そんなハルフゥさんにはAランクが束になったところで勝てるわけもなく、まさしく水中の魔物を殲滅していました。
スキュラクイーン部隊とかはほとんどおこぼれの魔物を斃すくらいのもので、仕事の多くは魔石の回収だったほどです。
水中ならば独壇場ですね。
これを見てしまうと陸上で指揮と回復をさせておくのももったいなく感じてしまいます。
【女帝の塔】十二・十三階層『海の神殿』に配置する魔物は目途が立ちました。
鳥系は一階層や五・六階層で使ってもいいですし、クリスタルゴーレムとかは……置くとすれば十四階層の『ダンスホール』ですかね。分岐路に控えさせておく感じで。
【氷海の塔】の攻略も危なげなくできたとは思いますが、やはり課題は斥候でしょう。
ターニアさんとハイフェアリーの部隊だけでは不足に感じました。
罠とかは事前にファムで覗いて地図を作っていましたから問題はなかったのですが――そもそも【氷海の塔】に屋内地形はほとんどないですし――これがBランク以上の塔だった場合に困ります。
あとは回復役ももう少し欲しいですね。こちらにはハルフゥさんとカーバンクルしかいませんでしたから。
【空白の塔】で権利を得た天使部隊は召喚するつもりです。
【女帝の塔】のリストにいるロイヤルビショップ(A)ロイヤルプリースト(B)なども候補ではあるのですが……天使のほうが優先ですね。飛べますし。
【空白の塔】と【氷海の塔】を攻略したあとは【轟雷の塔】を残すのみ。
先にエメリーさんたちが侵入し、あとからターニアさんたちが続く形です。
エメリーさんたちは上層を中心に攻略してもらい、ターニアさんたちに下層の掃討をお願いしました。総力戦ですね。
【轟雷の塔】にはCランク以下の弱い魔物しか残っていませんでしたが、その悉くを殲滅しました。
十四階層に固有魔物のドラゴンが残っていましたが【魔剣グラシャラボラス】が効くという時点で敵ではありません。
安全をとってエメリーさんお一人でドラゴンに突っ込んで斃した格好です。
『は~~~い、しゅ~~~りょ~~~! 【女帝の塔】の勝ち~~~!』
随分と長引かせてしまいましたが無事に勝利。
やはり最初のあれこれだけが大変だったという印象です。
あっちへ行ってこっちへ行って、大部隊同士のぶつかり合いになり、大量の殲滅戦となった。それが全てだったと思います。
そこまでの駆け引き……
まぁアデルさんたちからすれば「申請が受理さえすれば勝てる戦い」と見ていたようですが、私は非常に神経を使いましたし頭も使いました。けっこうぐったりしています。戦った皆さんほどではないでしょうがね。
「ああ、神様。そう言えば一つお聞きしたかったのですが」
『んー? なにかなー?』
「立ち会いの時、階層数とか魔物の総数を限定するよう言ったのはわざとですよね?」
それを緩和するために神様は三塔の攻略階層を限定したり、配置する魔物の数を限定したりしないかと提案してきたのです。
もちろん私は主目的に外れるので却下したのですが、それによって敵方に私の目的がバレる結果となったのです。
ファモンさんたちはそれから作戦を練り直しました。
私が殲滅戦を狙っているならゆっくり攻略するはずだから、自分たちはこう守ろうと。主力の魔物と限定スキルを組み合わせてこう撃退しようと立案していたのです。
それをファムで知ったからこそ私も二塔同時攻略として、結果混乱を誘って勝てたのですが、神様ならば最初から私と相手方の戦力差をご存じだったでしょうし、私の主目的を知っていてもおかしくありません。
つまり私に提案するふりをして敵方に情報を流していたのでは、と思うのです。
中立を謳う立会人の神様がそれじゃダメでしょう?
『ハハッ! いやだな~、そんなわけないじゃない! そのほうが面白くなるだなんて微塵も思っちゃいないよ~!』
うわー、白々しいですねぇ……。
『とまぁ冗談はそのへんにして、真面目な話をするとあれはシャルロットちゃんへの罰みたいなもんだね』
「罰、ですか?」
『だってあんな分かりやすい条文にしちゃったんだもの。裏をかかれるのが普通でしょ? 今回だって主目的ははっきり分かってなかったけど一応の対策はしてたみたいだしさ。
シャルロットちゃんが変な方向に真っすぐなのは強みでもあるけど欠点でもあるんだ。特に今回は同盟のみんなが周りにいない状況だったからね。自分一人でもある程度は考えられるようにならないといけないよ』
そう言われてしまうと耳が痛いですね……私は皆さんに頼ってばかりなので。
確かにあの立ち会いでは私一人で考えて喋らないといけない状況だったのですよね。
あの場面で敵に気付かれないような言葉選びが必要だったということですか……。
『まーあんまり言うと今度はシャルロットちゃんを贔屓する感じになっちゃうから僕はもう何も言わないよ』
「ありがとうございます。今後は心しておきます」
『そういうところなんだけどな……まぁいっか。じゃあ僕は退散するからねー』
画面から神様が消えました。
何と言いますか色々と勉強になった
とりあえず戦ってくれた皆さんを労って、あとは祝勝会の準備をしておきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます