302:新年祭の反応は様々です!
■ジョアンナ 28歳
■Aランク冒険者 パーティー【氷槍群刃】リーダー
「いやぁ、すごかったな、シルビアは」
「ちゃんと″塔主様″だったわねぇ」
「あんな綺麗なシルビアなんか見た事ないよ。あれで一年前まであたしらと一緒に剣振ってたんだから驚きだね」
シルビアが通り過ぎればあとは見る価値なしとでも言うように皆は窓際から離れた。
そして出るのはシルビアへの賛辞だ。
私としても仲間の晴れ舞台を見られてこのまま宴会に突入したい気分だ。
シルビアが塔主となって苦労しているとは聞いている。
もっとも、傍からは順調そのものに見えるものだ。
プレオープンから501期トップを飾り、
これで「苦労している」と言われたら他の新塔主は何なんだという話になる。
しかしシルビアは真面目に苦労しているようだった。それは会うたびに聞かされた。
塔主と冒険者という関係となった今、詳しく話せないのは仕方ない。
それでもなんとなくは分かる。『バベルの塔主という闇の深さ』と『偉大すぎる先達』。この二つに集約されているのだと。
普通の新塔主であればおそらく『日々の侵入者から身を守るため』苦労するものだろう。生きるか死ぬかの日常なのだと思う。
それこそ【
新塔主はプレオープンからそれを意識すべき。心を強く持たねばと。
シルビアの場合はその地点を飛び越えるのが早かった。
敵は『日々の侵入者』ではなく『バベルの塔主』となり、そちらにも気を回す必要が出てきたのだろう。
その為に色々と調べ、塔を強くし、戦い続けるという″本格的なバベルの塔主″に逸早くなってしまった。
おまけに模範とすべき先達が【
もちろん″利″が多大にあるのは想像つくが、彼女たちの考えを理解し付いていくだけでも相当大変だろう。
Fランク冒険者が私たちのパーティーに入ってすぐに戦えるはずもない。それと同じだ。
ともかくそうしたシルビアなりの苦労があって、こちらも気に掛けてはいたのだ。
それが今日のパレードを見ればどうだ。
元々貴族令嬢であったことを思い出させるような美貌と凛とした立ち姿。
フェンリルとジャックフロストを従える様は塔主そのものだった。
110位という新塔主とすれば早すぎる登場。大通りの歓声が大きくなるのも仕方ない。
しかし新塔主とは思わせない立派な″お披露目″だったと思う。
シルビアは遠目でこちらに気付いていたようだ。まぁあれだけキリカが手を振っていれば目につくとは思うが。
そしてこちらに近づいた時に左手を突き出した。六色の組紐を見せつけるように。
――もう大丈夫だ。私はこの同盟でやっていける。
そう言っているように私には見えた。
これが虚栄だというのも分かっている。シルビアは私たちに弱音など見せないからな。
自分のことは心配するなと、そう言いたかったのだろう。
おそらくシルビアは現在進行形で悩んでいるだろうし、苦労もしているはずだ。
こちらはそれに鈍感でいてやるのが正解なのだろう。
まぁたまに会った時には酒でも飲みかわし、愚痴でも聞いてやればいい。
それが仲間というものだからな。
■ケニー・ルフロン 19歳
■Dランク冒険者 パーティー【天耀乱舞】所属
俺たちがバベリオに来てから二回目の新年祭。今年も相当盛り上がったな。
パーティーメンバーと屋台で飲み食いしながら眺めていたわけだがみんな騒いでいた。
序盤には歴史に名を残すであろう高ランク塔主。そしてその眷属も伝説級の魔物とかそんなのばかりだ。
SランクとかAランクとか、本当に異次元すぎてただの観客になっちまう。
そして一際大きな歓声が、早くも登場した【女帝の塔】。二年目で25番目とか意味不明すぎる。
バベリオ的にも一番人気のある塔――というか同盟――だろうし、納得の騒がれ方だった。
おまけに騒ぐ材料を与えるかのように
例の塔章が入った大きな絵織物。それを掲げてパレードをしていた。
まるで【女帝】の力を誇示するかのように。
当然盛り上がった。俺たちだけじゃなく大通りの観客全員がだ。
塔章のことは新聞で取り上げられていたが実際に見た事があるのはバベルに入ったことのある冒険者くらいのものだろう。
街民はどんなもんだか知らなかっただろうし、騒ぐのも無理はない。
それ以前に、軍旗を掲げてパレードするなんて他の塔主はやらないしな。それだけで話題性は十分だ。
おそらく来年も【
まぁ人気が出るほうが俺たちも挑みがいがあるというか、階層の一つでもクリアすれば名声になるからな。そこら辺は願ったり叶ったりだ。
ただ俺たちが挑んでいる【六花の塔】にしてももうちょっと優しめにしてくれるとありがたいんだが……。
◆
翌日、冒険者ギルドに行ってみると、やはり話題は昨日のパレードに関する声ばかり。
「おい、【鋭利】が天使連れてたんだが。去年と全然違うじゃねえか」
「例の【反逆】の一件が絡んでるんだろ。元は【純潔】の天使だろうさ」
「さすがに天使がいたんじゃ挑むだけ無駄だろ。別に変えたほうが良くねえか?」
そんな方針変更が出るのも新年恒例だろうな。まぁ気持ちは分かる。
お披露目された眷属というのは挑戦する塔を選ぶ材料みたいなもんだからな。
で、色々と周りの話を聞いているとどうやら今年もバベルの一階で【世界】のレイチェルと【
今さら驚くことではないが「あのレイチェルが話す」とそれだけでもバベリオの民からすれば大ニュースに違いない。
【
どんな内容だったのか、どんな様子だったのかと気になるのは仕方ない。
しかしそれは分からないようだ。リークしたやつが知らなければ知る由もない。
ただそれと同時に起こった″事件″のほうで話は盛り上がっていた。
どうやらレイチェルと【
それは【狂乱の塔】のゼーレ。Bランクに上がったばかりの塔主だ。
詳しくは分からないが、ゼーレが襲い掛かったところを【英雄】ジータと【女帝】のメイドが防いだらしい。
【赤】のアデルを狙ったのか【女帝】のシャルロットを狙ったのか、それともレイチェルを狙ったのかは分からない。
いずれにせよ塔主が集まる新年祭という状況だからこそ起きた事件だ。
ゼーレが襲う計画を立てていたとしても昨日以外にチャンスなどないだろう。
ゼーレはジータとメイドに取り押さえられ、そこに【黒】のノワールも介入して事は治まったようだ。
パレードの直前にそんなことがあったなんて知らなかった。
少なくともパレードはいつも通りに行われていたと思う。華やかなもんだ。
ゼーレもパレードには参加していたはずだが、どんな様子だったか覚えちゃいない。
その二台後ろが【忍耐】の魔導車だったからな。注目はそっちに集まっちまう。おそらく誰だって同じだろう。
「しっかしゼーレもよくやるな。よりによってなんでレイチェルやら【
「そりゃ妬みとかじゃねえの? どうせ
「それで斃したところで非難殺到じゃねえか。冒険者なんて誰も寄り付かなくなるぞ」
「斃す以前に襲撃した時点でアウトだよ。現に撤退しようってBランクのパーティーは言ってたな」
「まぁそりゃそうか。もう【狂乱】には汚名しかないわけだし」
塔主を塔以外で斃せば罪であり汚名である。
これは俺たち冒険者や民衆に対してだけでなく、塔主同士にも言えることだ。
ゼーレが
これで仮に【狂乱の塔】を攻略する冒険者が出たとしても、それが名声になんか繋がらない。むしろ挑戦し続けることで周囲からは非難されかねない。
まぁ中には物好きが挑むんだろうが……挑戦者はぐんと減るだろうな。
いずれにせよジータやメイド、ノワールの株が上がったのは間違いない。
今日はどれほど混んでいるのやら……やれやれ。俺らもさっさと【六花の塔】に行ってみようか。
■セリオ・ヒッツベル 24歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
新年祭、【狂乱】のゼーレの襲撃事件を僕はわりと近くで見ていた。
【世界】のレイチェルと【
僕と同じような塔主はいっぱいいたし、かといって近くには寄れず遠巻きに盗み聞きするといった姿勢になっていた。
今にして思えばなんとも恥ずかしい。しかし気になるものは仕方ないだろう。
その会話自体は挨拶と軽い世間話程度のものだったが、その後に起こった襲撃事件はかなり衝撃的だった。
塔主がバベルで他の塔主を攻撃することなどできない。仮に誰にも気付かせずに攻撃できても【
そんなことは塔主なら誰でも知っているし、ゼーレも承知していたに違いない。
しかしゼーレは【女帝】シャルロットに触れようと手を伸ばし、それをジータとメイドに止められた。
【赤】のアデル曰く「限定スキルを使おうとした」とのことだ。
つまりゼーレが所持していたのは『接触することで発動する限定スキル』であり、それは『攻撃的なスキルではない』ということだろう。
おそらく諜報型か、デバフか……まぁ悪意のあるものには違いないが。
十三年目でBランクとなったゼーレが限定スキルを持っていたことに違和感はない。
それより考えさせられたのは、『ジータやメイドが限定スキルの使用を察知し未然に防いだこと』と『アデルがすぐに限定スキルと見破ったこと』だ。
つまり限定スキルのことをよく知っていて、それを防ぐ術を持っているということに他ならない。
おそらく【赤】も【女帝】もすでに限定スキルを取得しているのではないか……そう思うのだ。
二年目で取得など本来なら不可能である。しかしヤツらならあるいは、と……。
とにかくそういったことも踏まえてかなり衝撃的な事件だった。
それに比べれば【女帝】が軍旗を用意していたことなんて些事みたいなものだ。
「来年に向けて今から準備しておいたほうがよろしいですね」
などと
いや確かに恰好はいいと思うがまるで軍事推進派みたいじゃないか。ヒッツベル家は穏健派なのだ。軍旗など掲げるわけがないだろう。
――と、そんな言い合いをしつつ新年の塔運営を精力的に行った。
それが一月経った頃、僕にさらなる衝撃的な事件が起きたのだ。
凶報は実家から送られてきた一通の手紙。
その内容に思わず僕は声を荒げた。
「お、伯母上が……第502期の新塔主に!?」
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