401:同盟戦のことを聞いちゃいます!
■セリオ・ヒッツベル 24歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
「そうですか。危な気なく勝てたのであれば良かったです。大丈夫だとは思っていましたが」
「
「恐れ入ります。もっともそれを行えたのもティナさんのおかげではありますが」
あれから数日後、僕たちは例によって『訓練の間』に来ていた。
まるで試験だな。やはりエメリーはティナにとって師匠のような存在だ。
実際に模擬戦してみたところ、確かに改善はしているらしい。エメリー曰く。
ただ僕には以前も今も全く見えないので違いが分からない。
判断材料がティナ本人の口とエメリーしかいないというのは今後もずっと同じなのだろうな。
「あまり戦力や戦術についてお聞きするのも失礼ですから言えなければ言えないで結構なのですけれど、ティナさんはちゃんと連携とれましたの? 突出した戦力を運用するのも難しいと思いますが」
「そうですね……基本的には遊撃でしたね。ただ私の戦力の運用も試したかったので控えてもらっていた部分もあります。戦闘経験の為にも高ランク魔物は全て任せましたが」
あまり好き勝手に戦わせてしまうとティナ一人で敵を壊滅させてしまう。目に見えない速度で近づき、気付いた時には戦闘終了だ。
それではイェグディエルを出した意味もなくなってしまうので、ティナにはある程度″待て″をさせた。
Aランク以上の魔物はほとんど任せたがな。
「部隊指揮はティナさんとセリオ様の魔物のどちらが?」
「私の魔物ですね」
「なるほど、そこがエメリーさんとの違いですわね。強力な武器は結構ですけれど指揮官のご苦労はお察ししますわ。ジータも同じようなものですし」
「つまりセリオ様の魔物が勝敗の全てを担うわけですか。大変ですね……どうぞ労ってあげて下さい」
ティナは強力な武器である。それは僕もそう思う。
問題はその武器を振るう者、つまり指揮官だ。
本来ならティナの主である伯母上が眷属伝達で指示をするのだが、伯母上にそんなことが出来るはずもない。
今回の場合はイェグディエルに総指揮を任せ、ティナを動かせたが、もしイェグディエルとティナを攻守で分けていたらそのようなことは出来ない。
【風雷の塔】単体で
エメリーは最も強力な武器でありつつ、指揮も出来るし、盾役にもなれるという。圧倒的な『器用値』のおかげだろう。
だから基本的には総指揮の立場をとりつつ、必要な時に必要なポジションに入れるのだとか。
なんとも羨ましい話だ。ない物ねだりというのは分かっているのだがな。
ジータは騎士団長であったと聞くし指揮も出来るのでは、と思ったのだが、アデル曰く、強敵を前にすると勝手に指揮を放り投げ突っ込んでしまうそうだ。「あれはただの猪ですわよ」とのこと。
だからその時は代わりにアデル自身が部隊の指揮をとると言う。全くとんだ貴族令嬢様だ。さすがはメルセドウの神童と言うべきか。
ティナの場合はジータ以上に指揮がとれない。完全に武器としての扱いになる。
それはもしかするとエメリー以上に強力な武器なのかもしれないが、その分の負担は指揮官に回ってくるのだ。
イェグディエルには改めて礼を言っておこう。
「お二人はエメリーさんやジータ殿の代わりの指揮をずっとなさっているのですか? 代わりの指揮官などは」
「私はやっと総指揮を任せられる眷属を用意できました。エメリーさんが指揮の教育を施しまして、今はエメリーさんを防衛に置いたまま攻撃陣を組めています」
「わたくしもやっと手に入れられたという所ですわね。これで肩の荷が少し降りたとホッとしておりますわよ」
約二年強、延々と戦い続け、塔を斃し続けて「やっと」なのか。
おそらく指揮官となるべき魔物の召喚権利を得られたということなのだろう。人語を介せる人型なのだろうな。
【風雷】の今後の課題はそこになるだろう。早くティナを御せる指揮官を眷属化させる必要がある。
同盟塔である僕も同じだな。イェグディエルの他に見つけておかねば戦略もろくに練れないのだから。
「【矛盾】同盟の固有魔物で良さそうなのはおりませんでしたの? と言いますかSランク固有魔物は召喚していましたの?」
「二塔ともAランクでしたね。【水艶】は固有魔物自体おりませんでした。一体、人型指揮官の魔物はおりましたが……防衛向きなので悩みどころですね」
「まぁそれは残念ですわね。それでも召喚はするのでしょうが眷属化となるとわたくしでも悩みますわね」
「将来的に指揮官はSランクになりますしね。私だったら召喚報酬のAランクで枠を埋めていいものかと考えてしまいます」
総指揮を任せるならばその魔物は代えの利かない眷属でなければならない。
指揮の適正があるからと言って、仮にAランク固有魔物を眷属化させてしまうと塔が成長した時に不足になるということだ。
しかも報酬で得た魔物を召喚できるのは一度のみ。
後から眷属化を解こうと思っても再召喚ができない。だから悩ましいのだ。
眷属化していないAランク固有魔物を総指揮に置くわけにはいかない。せいぜい部隊長といったところだろう。
手に入れた魔物はナイト系なので硬いのだが鈍重といった印象。故に攻撃よりも防衛の戦力だと思っている。
そうなると益々、ティナと組ませて攻撃陣とするのはどうかと思うのだ。
やはり
敵がSランク固有魔物の指揮官を要するほど強く、そこに勝てるほどこちらも強くならなくてはいけない。
せめて戦えるランクになるまで塔を成長させなくては話にならん。
そこに辿り着くのは一体いつになることやら……遠い目をしたくなるな。
「ああ、召喚報酬もそうですけれど【審判】同盟は報酬の分配はどうしていますの? 二塔できっちり山分けで?」
「私もお聞きしたかったのです。私どもは全てを二等分にして召喚権利は私が勝手に振り分けているのですが、そちらの場合六塔ですし……」
普通バベルの同盟というのは″差″が生まれるものだ。
ランク差、戦力差、それによって戦果は変わるし、当然報酬の分配にも差が出てくる。
こちらの場合は戦力としてティナが突出しすぎているものの、【風雷】の指揮も実質僕が担っているから、分かりやすく二等分としている。
【
歴は同じでもランク差もあり明確な差が付いてしまっている。
それでどうやって報酬を分配しているのかと聞いておきたかったのだ。
「わたくしたちは全て六等分ですわね。戦力差や貢献度は無視で」
「えっ、その……大丈夫なのですか、それで」
「うちは最初からそうしようと決めていましたからね。召喚報酬は戦果順に選び合う形ですけれど」
「昨年の【魔術師】同盟戦でも【六花の塔】は数体しか魔物を出していないですけれど、それでもわたくしたちと同じ分のTPを得ておりますわよ。それも同盟強化の一環ですので」
これはとんでもない事を聞いたな。よくそれでシャルロットもアデルも納得したものだ。
あの頃の【六花】などほとんど戦力など整っていないはず。
魔物を数多く出し、数多く失ったのは【女帝】や【赤】だろうし、それなのに【六花】と報酬が同じとは……普通の同盟ならばありえないだろうな。
その信頼の強さはバベルにおいて異質すぎる。それが結束力を生んでいるのかもしれないが普通なら不満も出て当然だろう。
まさかそんなところまで『反差別主義』だとは思わなかったな。
同盟の強化というのは確かに分かる。
おそらく【魔術師】戦で【六花】は労せずして膨大なTPを得たのだろう。それを丸々塔の成長に使えるのだ。
戦力も揃えやすいし、塔の難易度も増す。ランクアップも容易いだろう。
結果として【
言われてみればその通りなのだが、報酬が減っているにも関わらず【女帝】や【赤】が無限に成長しているのはどういうことだ。
まぁそれだけ戦っているからと言われればそれまでなのだが。
「私も少し気になったのですが、敵の
「あー……実はそれで苦戦した部分もあります。正直油断しておりました」
「まあ、それは災難でしたわね。大事なかったなら良いのですが」
今回戦った【矛盾】【恐震】【水艶】の三塔では【水艶】のみが
【矛盾】の持つ盾の
地面を打ちつけると範囲内の敵の体勢を崩すような効果だったのだが、これによりティナの足も止められ、地上部隊は完全に崩された。
幸いにもこちらには飛行系のイェグディエルがいたし、ティナは動きを止められながらも魔竜剣などで戦えたので難を逃れたが、僕としては内心パニックだったのだ。かなり衝撃的だったと言っていいだろう。
正直、
塔主の七割が持ち、そのほとんどが取るに足らない性能だと。
僕が
頭から抜け落ちていたのだ。
中には厄介な
だから100%勝てる勝負だと端から決めつけていた。
全く甘い考えだ。僕も
「私としては今は
「仰るとおりです。身に染みて理解しました」
「予想のつかない何かが起こるかもしれないというのはバベルの
「だからと言って
なるほどな。確かにこちらがティナを最高戦力に置いている以上、敵の
そのような条文もあるのだな。純粋に勉強になる。
【矛盾】同盟はCCDランクということで限定スキルの警戒はほぼする必要がない。
しかし
そして今後Bランク以上の塔と戦う時は、
不確定要素をいくつも持つ敵との
闇を払う方法はないものか。こちらも限定スキルに頼るしかないのだろうか。
【
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