402:【竜牙の塔】で動きがあるようです!



■ヴィラ・ヴェルガダーツ 45歳

■第502期 Eランク【竜牙の塔】塔主



 俺が502期の新塔主に選ばれたのは年の初めのことだ。

 王国騎士団の副長を務めていた俺は勇退となり、塔主となるべく準備を始めた。

 俺がいなくなれば騎士団の武力は大きく下がるだろうが止むを得まい。神に選ばれたのだからな。


 当然、我がヴェルガダーツ侯爵家も手を上げて喜んだ。

 我が家からバベルの塔主を輩出するのだ。すでに英雄のような扱いだったが悪い気分ではない。

 手厚い支援を受けることとなり、それによって俺の塔は益々栄える。そんな風に思っていた。



 ある日、一報が入る。

 バベルにて【黄神石の塔】が消されたと。


 【黄神石の塔】はヴェルガダーツ家とも親交のあるブルグリード伯爵家の持ち塔である。伯の御夫人が塔主を務めていることでミッドガルド内でも有名だった。

 それが消えたことで伯は大いに取り乱したという。


 無理もない。十数年を掛けて伯爵家が支援してきた塔なのだ。

 それがいきなり消えるというのがバベルの恐ろしい所なのだが、だからと言って割り切れるものでもない。


 大金を掛けて塔を成長させ、今ではBランクにまで上り詰めていた。ほぼ英雄クラスと言ってもいいだろう。

 ミッドガルドの歴史に残る塔を消されるというのは伯にとって爵位を奪われるほどの衝撃だったに違いない。



 しかもその消した相手は【赤の塔】だという。

 ミッドガルドでも少し話題になっていた500期の同盟の一塔。

 メルセドウの公爵令嬢、アデル・ロージットが塔主を務め、【英雄】ジータを抱えた塔だった。



 メルセドウの小娘に御夫人が殺された。ブルグリード家が誇る名塔を消された。

 伯はその復讐に燃え、ミッドガルド出身のバベル塔主に依頼の手紙を送ったという。【赤の塔】を潰してくれと。

 噂ではあの【赤竜兵団】にも依頼をするというのだ。伯の本気が窺える。


 当然俺のもとにもやって来た。俺が新塔主に選ばれたことも存じていたからな。おそらく父上が城内で吹聴しているのだろうが。


 伯からは【赤の塔】を斃してくれと懇願された。

 俺は任してくれと答えた。ヴェルガダーツ家の誇りに掛けて、【赤の塔】を討伐すると。



 それから俺はバベリオへと向かい、塔主内定式を受ける。

 賜ったのはなんと【竜牙の塔】だった。五竜王ドラゴニアの一塔だ。これには俺も驚いた。


 五竜王ドラゴニアの塔を賜るというのはもうすでに歴史に名を残すことが確定しているようなものだ。

 竜を有せることは確実だし、侵入者どもはそれを斃すべく群がってくる。

 五竜王ドラゴニアの塔主となった時点で成功者であり、英雄と言っても過言ではない。


 とは言えプレオープンでは苦労をした。

 思い通りの塔は創れず、侵入者には最上階まで入られ、俺自身が剣を振るうはめにもなった。


 結果、5位Eランクというのは決して納得できる数字ではない。

 五竜王ドラゴニアに選ばれた俺がこの程度で終わるはずがないだろう。

 今に見ていろ。上の四人も【赤の塔】も全部俺が潰してやる。



 まず手駒が必要と考えた俺は【一閃の塔】に同盟申請をした。

 【一閃】のソルディアは名もなき塔を二十年以上も運営し続けAランクにまで上った、ミッドガルド屈指の塔主である。

 元はどこかの街の衛兵だったというし、ならば騎士団副長でもある俺に仕えるに足りるだろうとわざわざ声を掛けたのだ。


 しかし答えは却下。

 何と馬鹿な真似を。この俺が平民に声を掛けてやったのだぞ? それを無下にするとはそれでもミッドガルドの民か。

 Aランク塔主になったからといって増長しおって。

 かくなる上はこの俺直々に裁いてくれるわ。【赤の塔】の次は【一閃の塔】だな。覚悟していろ。



 結局、一人で運営することとなり【竜牙の塔】はオープンを迎えた。

 なかなか思い描く侵入者討伐というのは難しかったが、徐々に塔運営にも慣れていく。

 その頃、頻繁に神様通信なるものが届き、周囲の塔がどんどんと塔主戦争バトルを行っている様子が分かった。


 塔の運営にも慣れてきたことだ。そろそろ俺も……と思っていた時に待望の塔主戦争バトル申請が届いた。



「【赤の塔】に……【六花の塔】だと!?」



 それは二塔から同時に送られてきた。

 【赤の塔】は先日飲み屋でジータに会ったので、それが原因だと分かる。

 しかし【六花の塔】まで申請してくるとは意外だ。


 同じ同盟に属しているのも知っているし、共にメルセドウ貴族だというのも知っている。

 俺の狙いはブルグリード伯夫人の仇でもある【赤の塔】。それは変わらない。

 しかし同盟そのものを潰したいとも思っているし、中でも【赤】と同じメルセドウ貴族である【六花】はミッドガルド貴族として討伐しておきたいと思っていた。そういう意味では好都合だ。



 問題はどちらから狙うかだが……やはり【赤】はジータがネックか。

 大抵の魔物は俺が直接斬り伏せればいい。しかしジータと剣で打ちあっても確実に勝てるとは言えん。


 ならば先に【六花】を斃し、報酬を得たところで強い魔物を召喚し、共にジータと相対せばいい。

 メインディッシュは後にとっておくと、そういうことだな。



 【六花】などたった一年先に塔主となっただけの無名の塔にすぎん。

 五竜王ドラゴニアとは比べるまでもなく無価値の塔だ。

 ランクもたかが一つ上のDランク。【橙の塔】と同じではないか。


 【竜牙の塔】の初めてとなる塔主戦争バトルはメルセドウに対する誅罰とする。

 これによりあの同盟にも楔が入る。【赤】も動揺するに違いない。

 その隙に俺は【竜牙の塔】をどんどんと強くするぞ。待っていろ、アデル・ロージット。





■シルビア・アイスエッジ 23歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



『まぁ、分かっておりましたが残念ですわね。小銭でも稼いでおきたかったのですが』



 【竜牙の塔】からの返答は、私の【六花の塔】との塔主戦争バトルをするというもの。

 それを受けてアデル様は残念そうにしている。

 申し訳ないと思う気持ちも少しあるが、ほとんど冗談だと分かっているので特に謝りなどしない。


 そもそもBランクの【赤の塔】がEランクの【竜牙の塔】と戦えるわけがないし――【女帝】vs【正義】が特殊すぎただけだ――戦ったところで得られるTPなどほとんどない。


 召喚権利を狙おうにもオープンして半年も経っていない塔にろくな魔物がいるはずもない。

 私が戦う以上に【赤の塔】には戦うメリットがないのだ。



 ただ私からすれば微々たる報酬TPでも欲しいし、ランク的に近いということもあって戦いやすい。死にたがり塔主の介錯でもないしな。

 攻撃陣の編成も試したいし、ついでに勝てば集客に繋がると。

 決して大きいとは言えないが、そこそこのメリットがある。



 【竜牙の塔】を狙う理由としては「ミッドガルドの報復を狙って」とか「都合よく【赤】に敵意を持っている」とか「将来的な危険因子を早めに潰しておく」とか色々ある。

 しかし一番の理由は「私がCランクに上がる前でなければEランクの塔とはろくに戦えない」ということだ。

 だから後期の塔主総会の前に塔主戦争バトルをするしかなかった。


 本当はある程度強くなった【竜牙の塔】のほうが美味しいのだがな。TPやら魔物やらと。

 ただまぁ機を逃すのもどうかということで今回は申請をしたのだ。

 仮に却下となったら強くなった時にまた申請すればいい、そういうつもりで。



 それがまさか受理されるとはな……聞きしに勝る大馬鹿者だ。

 フッツィル殿から塔主の印象はある程度聞いてはいたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。



『ど、どこに勝機を見出したんですかね、ヴィラさんは……』



 私もノノア殿と全く同じ疑問が頭を巡っている。

 生まれたばかりの塔が【六花の塔】に勝てるわけないだろう?

 501期トップですでに塔主戦争バトルを九戦(うち一戦は同盟戦ストルグ)も経験しているのだぞ?

 どれだけ強くなっているか想像も出来ないのか?



『どうせ「たった一年先輩」だとか「たった一ランク上なだけ」だとか思っているんじゃありませんの?』


『【彩糸の組紐ブライトブレイド】の六番手って評判でも聞いたんかな。だったら強くはないやろって』


『誰がどう見たって普通のDランクじゃないんですけどね、【六花の塔】は』



 自分で言うのも何だが【六花の塔】は二年目Dランクという域をとっくに抜けている。

 魔物の総数では劣ると思うが戦力的にはCランク最上位~Bランク下位らしいし、同盟の皆の協力もあり塔の難易度も非常に高い。

 ベテランのCランクの塔と戦っても安定して勝てる程なのだ。

 少なくとも私が【竜牙】の塔主であったなら絶対に受理などしない。



『おそらくじゃがヴィラが直接魔物と戦うつもりのようじゃな』


『は? それで【六花の塔】に勝つつもりなんか?』


『固有魔物とかにも勝つつもりなんですかね。騎士団の副長さんってそんなに強いのですか』



 なるほど、自分の剣に自信があったから私の申請を受けたというのか。

 それにしても大馬鹿者には違いないのだが。

 仮に【六花の塔】をDランク相応だと思ってもAランク数体くらいはいると見るべきだろう。

 そうした魔物の群れに単身で勝つなどSランク冒険者とて簡単ではない。



『ジータ、貴方あのヴィラを直接見たのでしょう? それほどの強さには見えまして?』


『いいや、せいぜいCランク侵入者ってとこじゃねえか?』


『ダメダメやないか!』



 話にならん。そんな腕前で自信を得て私の塔と戦おうとしているのか。

 もっと言えばそんな腕前の者を副長に置いているミッドガルド騎士団が馬鹿だ。

 まぁ侯爵家という権力あってのものだとは思うが……それもあって自惚れているというわけか。


 ならば警戒も必要ない。

 フッツィル殿から塔の詳細と魔物戦力についても聞いている。

 バベルの塔主戦争バトルに絶対などないのだが……さすがに絶対負けないだろうな。



 となれば、どれだけのことが試せて、どれだけ魔石を回収できるかという所が焦点だな。

 格下だからと言って目的もなしにダラダラと戦うつもりはない。

 私はやるべきことを精一杯やらせてもらおう。



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