21:初めての外出は危険がいっぱいです



■アデル・ロージット 17歳

■第500期 Dランク【赤の塔】塔主



「ジータ、こちらはまだ六階層に入られた所ですわ。多少の余裕はありますわよ」


『あいよ! 問題ねえ! こっちはもう終わりだからな!』


『くそっ! メルセドウの神童に英雄ジータ……まさかこれほどとは……! 公国に栄光あれえええ!!!』



 【駿馬の塔】……さすがに十年物のCランクと言えますわね。

 初塔主戦争バトルの相手にしてはお強かったですが、それでも得るものは多かったです。

 TPもそうですが経験も。ジータのストレス発散にもなりましたしね。


 向こうはジータを『【赤の塔】の最終防衛戦力』と見なしていたようです。

 それは正しいのですが、わたくしもジータも攻め気が強いですからね。今回は攻撃に行ってもらいました。


 その代わりに防衛を固め、時間を掛けさせ、その間にジータが撃破すると。賭けではありましたが功を奏しました。



 どうやら相手はラッツェリア公国の関係者だったようで。まぁその情報は掴んでいましたけど。

 ラッツェリア公国と接するメルセドウ王国の領地がロージット公爵家なのですよ。


 戦争でも仕掛けるおつもりなんですかね、公国は。

 わたくしが死に、公爵家が乱れれば公国が攻め入る隙ができると?

 そんなやわではないですわよ? うちの公爵おじい様は。


 まぁ何かとちょっかいを掛けたがる面倒な国ですから、今後も警戒しておきましょう。

 塔主の中にも他に公国関係者はおりますし。

 順々に斃していけばそれに伴いこちらも強化できていくでしょう。


 となれば次の相手はおそらく――。





■シャルロット 15歳

■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主



「うおー! 外やー! 二ヶ月ぶりの外やー! 夜やけどー!」


「ちょっと! はしゃがないで下さいよ、ドロシーさん! 目立ちますから!」



 勇気を出しての初外出。確かに浮かれる気持ちも分かります。


 でも四本腕侍女のエメリーさんが私の背後にいますし、それだけで私が【女帝】だってバレるはずです。

 ドロシーさんだってあまりいないドワーフなので目立つんですよ。



 街の人から見れば塔主は英雄譚の主人公でもあります。

 私としては大量殺人犯だと思いますが世間的にはそういった風潮です。

 だから最初の内定式でも盛り上がっていたのでしょうけど。


 でも街には相応に冒険者の人とかいますし、そういう人から見れば私たちは『敵』。

 知人を塔で亡くした方も多いと思います。じゃあ挑むな、とも言えないのですが。



 仮にそういった人が街中で塔主を襲うとすると、それはかなり重い処罰になるそうです。

 バベリオとしては『塔主は塔を攻略して斃せ、街中で襲うなど論外』という姿勢。名声どころか醜聞になると。

 街民からしても同じらしいですね。主人公が殺されたと。襲った人が『悪』だと。



 実際、塔主がバベルジュエルをドロップするのも『塔で斃された場合』なので、街中で斃されてもそういった『旨味』がありません。

 それでも襲ってくるとすれば私怨の類でしょうし、やっぱり襲う方が悪いとなります。


 だから塔主が外に出歩くのも普通にある事で、特に危険はない――



 ――キンッキンッ! ヒュン! ズバッ!



「「えっ」」


「仕留めました。少々お待ち下さい」


「「えっ」」



 どうやらナイフを投げられたらしく、エメリーさんはそれを防ぎ、同時に何かを投げて襲撃者を斃したらしいです。

 私とドロシーさんは全く何も分かりませんでした。

 エメリーさんが木陰から男性を引きずってきます。黒ずくめの男性ですね。



「エ、エメリーさん、ありがとうございます」


「こわっ、よお分かったなぁエメリーさん……こんな夜なのに……」


「<気配察知>も<暗視>も持っておりますので」


「だからなんで斥候スキル持っとんねん」



 黒いローブをはがすと、その下から軽鎧が出て来ました。

 騎士? 兵士?



「この紋章は【正義の塔】の塔主と同じですね」


「うわー、ニーベルゲン帝国の騎士かい。シャルちゃん、めっちゃ恨まれてるやん。いやもうウチも関係者扱いやろうけど」


「ひぃぃ……」



 私がラスターさんを殺しちゃったから……だから報復を?

 それにドロシーさんも狙われる事になっちゃうんですか? 同盟を結んだだけで?


 怖い。一気に怖くなります。



「や、やっぱり帰った方がいいんじゃないでしょうか」


「いやウチも怖いけどもやな、それを言ってるといつまで経っても外に出られへんで? エメリーさんはどう思う?」


「わたくしはお嬢様の安全が第一ですが、あのような襲撃であれば確実に防げます。何よりこういった輩のせいでお嬢様が楽しみにされていた外出が阻止されるのは許しがたいと」



 それは何とも心強いと言うか、何と言うか。ちょっと殺気出てますし。



「帝国とやらが狙っているとすれば外で襲ってくる分には好都合でしょう。返り討ちにし続ければいなくなるでしょうし」


「「うわぁ」」


「しかし塔主となるとそうもいきません」



 ニーベルゲン帝国の関係者である塔主。おそらく何人もいるでしょう。400人以上もいるのですから。


 もしそういった人が高ランクで、私やドロシーさんを狙って来るとすれば……ただ塔主戦争バトルを申請してくるというのでは済まない気がします。


 どの塔主が関係者か。その塔はどのような構造か。どんな手を持っているか。

 やはり調べるには何かしらの手段が必要です。

 そういった意味も含め、外を出歩く価値はあるとエメリーさんは言います。



「情報収集と襲撃者の殲滅、お嬢様のストレス発散も兼ねますが」


「余計にストレス溜まりそうで怖いですけど……」


「まぁエメリーさんがそう言うてくれるんなら行ってみた方がええやろ。ただシャルちゃんだけじゃなくてウチも守って下さいお願いします」


「お任せください」



 斃した襲撃者はバベルの職員さんに引き渡しました。

 事情も説明し少し時間をとられてしまいました。


 せめて見通しの良い大通りを歩こうという事で、バベルの前の広場から真っすぐ伸びる通りを三人で歩きます。

 私も来る時に通った道。あの時は朝で今は夜ですが、それでも人通りは多いと思います。

 今までバベルに籠っていたので余計にそう感じるのかもしれません。



「ん? メイド? い、いや、四本腕のメイドってあれ……」

「【女帝】か!? あんな普通の娘なのか!?」

「いやあの塔、相当ヤバイらしいぜ? Dランクじゃありえねえって話でさ」

「隣のドワーフはどこの塔主だ?」



 やっぱり目立ちますねぇ……一番目立つのはエメリーさんなんですけど。

 そりゃ侍女服ってだけで目立ちますし、それが四本腕となるとこの世に一人しかいません。


 だから私が【女帝】だとバレると……どうせバレるのであれば【女帝】っぽく振る舞わないといけませんね。歩き方から。



「おっ、シャルちゃん【女帝】モードやな」


「【女帝】として人前に出ていますからね」


「ご立派です。堂々とお歩き下さい」



 姿勢、歩き方、手の位置、視線、表情、全てに気を張らないといけません。

 固くはなくなってきたと思うのですが、それでも集中力がいりますね。



「それで情報収集ってどうすればいいのですかね?」


「普通ならギルドか酒場かってトコやけど、どっちも敵地に乗り込むみたいで嫌やなー」


「そうなると普通のお店とかですか? 夜だから開いているお店も限られそうですが」


「せやなー。ダメ元で探ってみよか。せっかくの街歩きやし、行ってみたいトコはとりあえず行ってみる感じで」



 今日一日で情報が入手できるわけもありませんからね。

 何かしらの手掛かりがあれば御の字でしょう。


 怖い気持ちも残っています。【女帝】らしく振る舞いたいとも。

 とは言え久しぶりの街というのは楽しくもある。ドロシーさんではないですが。

 思わずあちこちに目を向けてしまいます。



 本当であれば小さな商店とかが見たいです。実家であった日用品などを売っているお店。

 しかし夜にやっている所となると大きな商店というか商会になりますし、益々目立つでしょう。

 あとは服屋さんとか道具屋さんとか……これも大商会になるんですかね。


 ドロシーさんはお酒が見たいとか飲みたいとか言っています。

 ドワーフは子供の頃からお酒を飲むそうです。すごいですね。

 バベルに入ってからはTPで時々買うくらいしかできていないという事でそれを狙っているそうですが……さすがに酒場は無理。冒険者の人たちが多そうです。



 そんな感じで大通りを歩いていると、通り沿いに屋台がちらほら。

 なるほど。こういうのもアリですね。【女帝】らしくないかもしれませんが。

 屋台の食べ物などTPで買えないですし、せっかくなので食べてみたい気持ちもあります。


 ドロシーさんも乗り気なようで、良さげな屋台を探してみようと――そう思った矢先。



「なんだ!? 金持ってねぇのに食おうってのか!? 子供だからって許されねえぞ!?」


「たまたま金を忘れたと言うておろう! と言うか、わしのどこが子供じゃ!」


「見たまんま子供じゃねえか!」


「子供じゃないわい!」



 屋台のおじさんと口論になっているドロシーさんより幼そうな子供がいました。


 灰色のローブを着て、フードを頭まで被った……あれ? この子はどこかで……。



「ん? おーい! 【女帝】! お主【女帝】じゃな! すまんがちょっと金を貸してくれ!」



 突然、そう呼ばれたのです。



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