219:忍耐の塔も色々いじっているようです!
■ドロシー 24歳 ドワーフ
■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主
ウチの塔へと入り込んだ第三陣――【青】の
ウリエルが<人物鑑定>で見た情報はやはり正しかったらしく、<罠察知>を使いながら高い敏捷値を駆使して【忍耐の塔】を走り抜けていった。
エメリーさんが【宝石の塔】を走破した時よりも速い。
前情報があるのもそうやけど、それだけ急いでいたちゅうのも間違いないやろ。だから唯一人で来たんやろうし。
有翼亜人が率いる攻撃陣は五階層の『トラップ回廊』に苦しんでいた。
元より狭く、長く、罠だらけちゅう困難さに加えてウチが今朝にも弄っとるからな。
飛行系の魔物は飛ぶのも辛そうやし、コボルト系やスキュラ系の雑魚は結構斃してる。
高ランクは軒並み生き残ってはいるけど戦果はそこそこってとこや。
しかしそこにベンズナフが加わったことで一気に攻略速度が上がった。
斥候特化の
ほとんどの罠が無意味になり、六階層への進軍を許す結果となった。
六階層は『砦』。元々は
ほぼ全てが
ただ、ここも今回の
五階層からの階段を昇るとそこは砦の玄関のようになっているわけやけど、そこからは三つのルートに分岐する。
正確には右・中央・左と扉があって、最初は右の扉だけが開いている。
そこに誰かが入ると五秒後に閉まるんやけど、今度は中央の扉が開く。そこにも誰かが入れば五秒後には閉まって今度は左の扉と……順番に開いていくわけやな。
それぞれのルートには特色があって
右は狭くて一直線、だけど罠が沢山あるルート。
中央は大部屋に魔物が待ち構えているルート。
左は道は広いけど罠も魔物もあるルート――となっている。
ルートを抜けた先は共通でボス部屋や。本来ならここにライアンがいるわけやな。
【青】の団体がこれを攻略しよう思うたらどこかのルートを一本選んで進むべきや。
五秒間しか開かんけど誰かが扉をくぐれば次の扉が開くから、雑魚を一体送り込むとか、ベンズナフあたりが入って扉が閉まる寸前に引き返す、とかでもいい。それで一つのルートに団体まるごと放り込むことができる。
せやからその絡繰りに気付くのかというのが一つ。気付いたところで分散させずに進軍できるのかというのが一つ。ここら辺がポイントやな。
さらに言えば選んだルートによって魔物の配置を変えているので、そこら辺の数や相性の問題もある。
つまり相手にとっても賭けやし、ウチらにとっても賭けになるちゅうわけや。
ちなみにこれの原型は【世沸者の塔】の三階層にある。
あっちにあるのはもっと凝った創りのルート分岐構造やけどウチの塔だとこれが精一杯やな。
シャルちゃんトコも八階層に同じような分岐を創った。ノノアちゃん発祥で真似するトコが増えとる感じや。
画面に映るベンズナフは砦の玄関を訝し気に眺めていた。そら調べとった六階層の情報とちゃうから戸惑うやろ。
開いている右の扉、閉まっている二つの扉。見比べた上で作戦を立てているようや。
やがて右の扉へと足を踏み入れたのは斥候役のベンズナフを先頭に前衛のコボルトキング(B)率いるコボルト部隊。
その大半を飲みこんだ所で扉はバタンと閉まった。
明らかな動揺。ベンズナフは今頃、眷属通信で中央の扉が開いたと聞いているはずや。
五秒で閉まった右の扉、代わりに開いた中央の扉。この情報をどう精査するかで攻略が変わるんやけど……どうやら一塊で中央の扉に入ると決めたらしい。
これ以上分散させたくないってことやな。
中央の扉もおそらく五秒ほどで閉まってしまう。その次はおそらく左の扉が開くだろう。そこまでは考えるはずや。
せやけどその次にまた右の扉が開くかどうかは分からない、と考えたわけやな。一回ずつしか開かない可能性もあると。
残った【青】の団体は有翼亜人の指揮で中央の扉になだれ込んだ。
ヴィゾフニル(B)やルサールカ(A)は問題ない。飛べるしな。
だがたった五秒で地上部隊全部を入れるのは厳しかったらしい。
取り残されたのはコボルトリーダー(C)十体、スキュラナイト(B)三体、スキュラ(C)二十体、ブルーサーペント(B)二体。計三十五体。
それらは素直に左の扉に向かうらしい。とりあえず進軍するだけするって感じやな。眷属もおらんやろうし。
とりあえずは分散に成功。これをもってまた次の策を練らんとあかん。
「ノノアちゃん、そっちは頼むで!」
「わ、分かりましたけど、そちらは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫やないわ! せやけどやるしかないやろ!」
ベンズナフが入った右ルートは魔物がおらん。罠は察知されるし無傷で通す感じになるな。
左ルートはノノアちゃんの魔物を集めている。これは問題ないやろ。
ただ中央ルートはライアンを始め、元々六階層に配置していたウチの魔物をまとめて置いてある。物量作戦のつもりで。
その中央に来たのは固有魔物であろう有翼亜人の他にヴィゾフニル(B)二十体、ルサールカ(A)十体、スキュラクイーン(A)三体、スキュラナイト(B)二十七体、スキュラ(C)十体、ブルーサーペント(B)八体――計七十九体。
これに対し待ち構えるのは
数では勝るけどAランクがサンダーファングの一体しかおらん。
何をどうしても勝つビジョンが見えん。
ライアンだけ逃がすという選択肢もあるが……それもあかん。魔物の指揮で戦果が変わる。せやから――
「ライアン、聞こえるか! そっちに八十近い高ランクの軍勢が来るで! 地上部隊に集中攻撃せい! スキュラクイーン狙いや!」
『ガアウッ!!!』
「すまんが頼む! 任せるで!」
こう言うしかない。削ることが第一や。
Aランクを何体か落とせれば御の字。他はベンズナフたちに続いてボス部屋に抜けるやろうな。
「ド、ドロシーさん、
「ボス部屋でか? んなことしたらただ狩られるだけやで。予定通りにボス部屋は素通りさせる。ただそのあとの準備は頼むわ」
「わ、分かりました!」
もうちょっと上手いこと分散してくれればライアンたちでもやりようはあったんやけどな……。
それかいっそのこと全部が右ルートとかに行ってくれたらボス部屋に入ったあとで後ろからまとめて強襲とかもできたけど……たらればやな。今は起こったことに対処していくしかない。
……待てよ? ボス部屋にウリエル部隊とスフィー部隊を集めるのはどうや?
そこにベンズナフの部隊が最初に来て迎え撃つ。ライアンたちが抑えている間にディーゴ部隊が合流すればベンズナフだけでも先に斃せるんちゃうか……?
……いや、時間的に厳しいか。今から配置変更は間に合わん。
ベンズナフが右ルートを突破するほうが速い。罠なんか無意味やろうし。
やっぱり当初の計画通りにすべきやな。
元より厳しい戦いになるんは分かってたし――悔いるのは止めや。
■コパン・メルンゲム 52歳
■第488期 Bランク【青の塔】塔主
【忍耐の塔】の六階層は事前に<青き水鏡>で見た光景とはまるで違っていた。
これまでも罠の配置など色々と変更してある所はあったが、ここまで極端な塔構成の変更はない。
おそらく
ベンズナフとも眷属伝達にて相談し、一先ず警戒しながら開いている右側の扉へと進ませた。
しかし入ってすぐに扉が閉まる。ギギギとそれらしく閉まるのではなく、いきなりバタンと閉まったのだ。
そして今度は中央の扉が開いた……つまりは分散させる為の仕掛けに違いない。
我々が大部隊を率いて進軍してくるのを見越して罠を張ったと見るしかない。
「ベンズナフ、そのまま警戒して進め。残りはこれ以上分散させないようまとまって行かせる」
『……まぁそれが無難か。しかし【忍耐】め、さすがにすんなりとは行かせてくれんな』
「ああ、あのドワーフは罠の名手だ。おそらく他にも罠はあるぞ。くれぐれも警戒してくれよ」
『分かった。そっちは他の部隊の監視を頼む。逐一連絡をくれ』
しかし中央の扉に残った全ての戦力を送り込むのは時間的に厳しかった。
優先して高ランクの魔物を入れたから【翼人将イカロス】やルサールカ、ヴィゾフニルなどはまとめることは出来たが、最後尾の少数ははぐれる形となった。
仕方ない。それらは左扉から入るだろうが……まぁ斬り捨てるしかあるまい。
画面でそれぞれの扉の先を見るが、ベンズナフが入った右側は五階層と同じような狭い道が延々と続いているようだ。
あれと同じであれば罠も多いはず。
ベンズナフならば問題はないと思うが……ここが【忍耐の塔】である以上警戒は必要か。
中央も狭い道だが少し先にまた扉が見える。
左側は一変して広い通路。いかにも『砦』といった印象で、行く先々に曲がり角も見えた。こちらは本格的な探索が必要そうだ。
あの戦力では無理だな。スキュラクイーンは指揮をとれるが斥候がコボルトリーダーの鼻しかない。
そうこうしているうちに中央の部隊が扉を開ける。
その中は――だだっ広い空間が広がり、そこには百体を超える魔物の群れが待ち構えていた。
ざっと見るにウェアウルフ系統やウルフ系統、マーダーグリズリー(C)、オーガ(C)、奥にはライカンスロープ(B)も見える。あの虎は……サンダーファング(A)か!?
多種多様の亜人、獣の群れ。しかし違和感を覚える。
――【忍耐】らしくない魔物だと。
「ベンズナフ、中央の扉は『魔物部屋』だった。ランクは低いが数がとんでもないぞ」
『チッ! なるほど、扉によって趣向が異なるわけか。こちらは普通に罠だらけだな』
「イカロスたちならば問題ないだろうが削られるのは確実だ。そっちも気を付けてくれ」
『ああ、分かった』
いくら魔物の数を揃えたところでこちらの攻撃陣の″質″には敵わない。
殲滅の上、魔物部屋を抜けるのは問題ないだろう。
しかし多少の犠牲は出るし、時間もかかる。
ベンズナフの様子次第だが……どこかで合流してから上層へ昇るべきだろうな。
全く……やはり【忍耐の塔】はこの同盟の中でも厭らしさならば一番だな。調べた時から思ってはいたが。
この分ではあとどれほど驚かされるものか……。
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