233:女帝の塔は戦後の影響が残っています!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
【魔術師】同盟との一戦は私たちにとって最も厳しい戦いだったと思います。
それは計画していた頃から危惧していたことでもありますが、実際に戦ってみて余計にそう感じました。
こんなに長時間戦ったこともありませんでしたし、こんなにエメリーさんが封じられることもありませんでしたし、こんなに敗北を――死を感じることもありませんでした。
何より私にとって初めて眷属を喪うこととなった……その事実は私に重く圧し掛かりました。
私は塔主ですから味方の魔物でも命を賭けて戦わせるのが仕事です。
魔物は基本的に戦闘意欲が高い。だからこそ勝ったのならば称え労う。
負けて死んでも悔いてはいけない。塔主は――【女帝】は毅然としているべきなのです。
同盟の皆さんがいる前では大丈夫だったと思います。
エメリーさんやターニアさん、ナイトメアクイーン、ウィッチクイーンが帰ってきた時にもちゃんと労えたと思います。
でもエメリーさんと二人きりになった時、私は溢れる涙を止めることができませんでした。
ヴィクトリアさん、パトラさん、ラージャさん。
一年間、毎日私と共に塔を盛り立ててきた大事な家族です。
それが一気に喪われるというのは正直……辛かったですね。
しかし泣くのも悔いるのもその日その時だけと決めました。
眷属を喪うというのは同盟の皆さんはすでに経験していること。
それでも皆さんは前を向き、日々の塔運営を頑張っている。
私も見習わなければなりません。下を向いてはいられません。
それに私が沈んでいるとエメリーさんが悲しみますから。
エメリーさんは「あの戦いで多くの味方を喪った責は指揮官である自分にある」と仰っていました。
もちろんそんなわけはなく、むしろあの
しかしご本人は納得していないそうで……だからこそ私は前を見るべきだと思ったのです。
エメリーさんのことですからきっと「お嬢様を悲しませている原因はわたくしにある」とか思ってしまいそうですからね。
そんなことはないですよと伝える為にも明るく元気に頑張りましょう。
あまり眠れない昼寝を終え、起きたのは夕方から夜にかかる時間帯でした。
すでにエメリーさん、ターニアさん、ナイトメアクイーン、ウィッチクイーンは起きていたようです。ちゃんと休めたのか心配でしたが大丈夫とのことで。
「改めて皆さん、昨日……と言いますか今朝までですがお疲れさまでした。明日からまた通常営業ですのでよろしくお願いします」
「もう一日休まないで大丈夫なのですか?」
「私の塔はほとんど侵入されていませんし、攻撃陣で出した魔物を召喚するだけで一応の準備はできます。それに【赤の塔】【忍耐の塔】【輝翼の塔】は休塔日でしょうからね。Cランクで一塔くらいは営業させておきたいですから」
きっと明日は侵入者の数が膨大になるはずです。
Cランクの四塔が同時に休むとCランク侵入者の受け入れ先がなくなりますからね。Dランクは【世沸者の塔】に行くでしょうけど。
ですので私の塔だけでも運営したいなと。
本音を言えば下手に休んで考え込むより仕事をしていたほうが気が紛れるとか、そっちの理由もあります。言いませんが。
「ヴィクトリアたちの補充はどうする?」
ナイトメアクイーンのその言葉に内心ビクンとしましたがおくびにも出せません。
眷属だろうが消費した魔物の補充は塔主として当たり前のこと。ナイトメアクイーンの言葉は魔物としてごく自然なものです。
パトラさんも以前に仰っていました。魔物は塔主の道具として扱うべきだと。私の場合は優しすぎるのが欠点だと。
魔物は自分のことを「塔のための消耗品」と捉えている節があります。戦うための存在だから戦いたいのだと。
私も塔主となってだいぶ割り切れるようになったはずなんですけどね……まだ未熟です。
「最初にナイトメアクイーンとウィッチクイーンの眷属化を行います」
「ほう」「ん……!」
これはもう以前から決めていたことです。眷属枠が空いたらお二人を眷属にしようと。
今回の
TPも豊富ですしね。報酬TPの170,000に加えてアデルさんから返ってきた25,000TPがありますし。使い放題です。
「あとは話し合って決めたいのですが【海姫ハルフゥ】をどうするかというのが一点。新たにアラクネクイーン、サキュバスクイーン、ラミアクイーンを召喚・眷属化するのかというのがもう一点です」
「【海姫ハルフゥ】……【青の塔】のSランク固有魔物ですね。わたくしはどのような魔物か見ていないので何とも言えないのですがお嬢様は御覧になりましたか?」
「海の魔物全ての指揮官といった立ち回りをしていましたね。完全後衛で水魔法と神聖魔法を使っていたはずです」
「あら~、神聖魔法というのはいいですね~。ですけどぉ~……」
「海、というのが問題なわけだな」
クイーンと言うより『姫』なのでしょうが、私としては同じようなものだと思っています。女性の指揮官ですし。
スキュラクイーン(A)も同じような立ち位置でしたが、そちらの場合は前衛も出来る指揮官で、【青の塔】では海姫ハルフゥを総指揮官、スキュラクイーンを部隊長のように使っていました。単にランク差による上下関係なのかもしれませんが。
後衛の魔法使いというのはターニアさんもウィッチクイーンも同じなのですが、そもそもクイーンが前線に出ることのほうが違和感がありますし――ナイトメアクイーンくらいしかいませんけどね、そんなクイーンは――何より神聖魔法を使えるクイーンというのは魅力です。
ただ使うとすれば海の階層が必要かと、そこが一番の問題です。
「ちなみにやろうと思えば海の階層を創れないこともないです」
「『女帝の城』に海、ですか?」
「TPはすごくかかりますけどね。『海の祠』とか『海の神殿』という感じで、城の内装と海を掛け合わせたようなものです。ただ『女帝の城を昇っていって、途中に海の神殿がある』という感じになってしまうのでそこが多少違和感あるかなと」
「なるほど……」
「あとは階層数の問題ですね。海の階層を創るのなら二階層分はつなげたいですし、そうなると大改装が必要になります」
仮に海姫ハルフゥを召喚し、そのための階層を創るとなれば、そこに配置する魔物はそれこそスキュラクイーン部隊など【青の塔】の魔物が中心になるでしょう。
ただ元々自分の塔の召喚リストにいない魔物ばかりになりますから、それこそ補充とかが問題になりそうですよね。
ドロシーさんも
恐らくガラッと魔物配置を弄るのではないでしょうか。
私が海階層を創っても同じような悩みがつきまとうことになりそうです。
「階層云々はそれこそBランクに上がってから考えるべきではないか? 妾としてはとりあえず召喚して本人の意見を聞きたいところだ」
「とりあえず召喚となるとしばらく陸での生活になりますが」
「五階層のユニコーンの泉にでも住まわせればよいのではないか?」
「あれ海水じゃないですよ。下手したら死んじゃいますよ」
「ならば多角形の部屋の一室に海水の大風呂でも創ってやればよいではないか」
あー、それは創れないこともないですね……なんか可哀想な扱いですけど。
「わたくしもナイトメアクイーンに賛成です。高ランクのクイーン種……と言って良いのか分かりませんが、欲しい人材ではありますので」
「私も賛成~。面白そうですし~」
「ん……私も。……と言うか魔物は海水だろうが淡水だろうが関係ない。魚じゃあるまいし。なんなら風呂に住まわせればいい」
おお、ウィッチクイーンがいつになく喋っている……!
と言うか魔物は海でも池でも関係ないのですか……それは初めて知りました。そういうものなのですね。
「それとアラクネクイーン、サキュバスクイーン、ラミアクイーンですが、わたくしは召喚すべきだと思います。眷属化はどうかと思いますが」
「やっぱりそうですか」
「配下の魔物も多いですし能力的にも塔に必要な人材だと思います。何なら複数体召喚してもいいのではと思っております」
やはりもうBランクの眷属は創らないほうがいいのですかね……塔自体がもうすぐBランクに上がることを考えると侵入者相手でも後れをとるかもしれませんし。
【魔術師の塔】はウィッチクイーンを何体も召喚していましたし、【青の塔】はスキュラクイーンを、【霧雨の塔】もラミアクイーンを複数召喚していたようです。
それを考えると部隊長としての役割が妥当なのですかね、やっぱり。
眷属化しないでどこまで能力を発揮できるのか……おそらく今までのように画面を見ながら会議のような真似はできなくなると思いますが――何人も同じクイーンがいたら一人を選ぶこともできませんし――それでも召喚はしておくべきなのでしょう。配下の魔物をまとめる者として。
「……よし! では今日のうちに眷属化や召喚を終わらせて明日に備えましょう。色々と相談することが増えると思いますので皆さんご協力をお願いします」
「かしこまりました」「はぁ~い」「うむ」「ん」
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