240:シルビアさんがバベリオの街にお出掛けです!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
【魔術師】同盟との
侵入者は相変わらず多いと思うがなだれ込んで来るようなこともなく気の休まる日々となれたのだ。
私が侵入者の対処に慣れた部分もあるだろう。もちろんアデル様を始め諸先輩方の助言があってのことだ。
【六花の塔】は四階層前半までの侵入を許した。全五階層でそこまで到達されたということは即ち私の塔構成が甘いということに他ならない。
元よりアデル様には「単調だ」と言われていたが正しくその通りで、『氷雪の塔』というのは防寒対策と滑り止め、雪道・吹雪対策をしていればあとは普通の探索と変わらない。
私に塔構成――魔物と罠の配置センスがないのも相まって「単調な」創りになってしまっているのが原因だ。
もちろん諸先輩方からのアドバイスは頂いている。
先達の五塔はどれもセンスと工夫の塊のような塔なのだ。参考にする部分は極めて多い。
それを自分の塔に活かす能力が私になさすぎるのが問題なのだ。
故に単調な創りとなり、氷雪対策された侵入者に攻略されやすくなってしまっていると。
塔構成についてもそうなのだが課題は他にもあって、それは氷雪系の魔物に関する知識が不足していること。
自分の召喚リストにある魔物の全てを知っているわけではないので、ありきたりな魔物を召喚してしまっているのだ。これもまた単調な要因の一つだろう。
こればかりは諸先輩方から助言を受けるわけにもいかず――氷雪の魔物を運用している塔などないし――自らの足で調べなければならない。
幸いTPは大量にあるのだ。調べた上で色々と召喚して試してみるのもいいだろう。
というわけで休塔日をつくりバベリオの街へと繰り出した。
今回は私一人だ。図書館で調べものをしてついでに【氷槍群刃】の連中と会おうと思っている。
私単独ではそこまで目立つこともない。恰好は冒険者のそれだからな。悠々とバベルを出て大通りへと向かった。
ああ、そういえばアデル様に買って頂いたドレス……もうすぐ塔主総会なのだよな……着なければいけないのか……。
捨てたはずの貴族という肩書きに囚われるようで嫌悪感もあるのだが、『塔主としての正装』と捉えれば仕方ないかもしれない。
元よりアデル様の施しを受けておいて拒否権などないのだがな。
そんなことを考えつつ若干遠い目をしたまま私は図書館へと向かった。
「よっ! シルビア!」
「遅かったわね」
「キリカ! リアンヌ! どうして……集合は夕方じゃないのか?」
「あたしらは暇だからお手伝いだよ。調べものだろ?」
図書館の入口で待ち伏せていたのは【氷槍群刃】の二人。斥候のキリカと神聖魔法使いのリアンヌだ。
どうやら他の二人は別件で出ているらしく、余った二人は先に私と合流することにしたらしい。
私が調べものをすると言ってあったので、その手伝いをすると。
侵入者を斃す為の魔物のことを塔主が調べるというのにAランク冒険者の彼女たちが手伝うというのも……と少しは躊躇したが、素直に手伝ってもらうことにした。
どうせ帰れと言ったところで大人しく帰るようなヤツらではない。
「んじゃ氷雪系の魔物を探せばいいのか?」
「そうだな。E~Bランクあたりの魔物が多いとありがたい。それと氷雪の塔に関する記述もあれば」
「では私はそっち行くわ。キリカは魔物ね」
さすがに三人で探すとなると早い。私一人では本を探して読んでと数日掛かる羽目になっただろう。
気まぐれで手伝っただけかもしれないがありがたいことだ。
「お前らは氷雪系の魔物でこれは嫌だってヤツはいるか?」
「やっぱクロセル(A)とかフレスベルグ(A)とか……フェンリル(A)ももちろん嫌だけど」
「それは私も知っているしランクが高すぎる。【六花の塔】に置けそうなヤツでだ」
「弱い魔物で氷雪系なんてピンと来ないわよ。バベルに来る前は氷雪系の魔物なんてほとんど戦ってないんだし」
やはりそうだよな。だから私も困っているのだが。
我々はメルセドウで経験を積み、ある程度ランクを上げてからバベリオへと来たのだ。
それからはBランク以上の塔しか入っていないので低ランクの魔物とは戦う機会がない。
そもそも氷雪の塔も限られているのだから知識がほとんどないのだ。
まぁ泣き言を言っていても仕方ないということで、時間の許す限り調べ上げ、私のメモは数枚埋まるだけの収穫を得た。
二人は「探索するより疲れた」と身体を背もたれに預けている。
本当に感謝だな。おかげで助かった。夕飯は奢ってやることにしよう。
「あ、時間あるならちょっと寄りたいんだけど」
「別に構わんがどこだ?」
「ギルドだよ、ギルド」
「はあ? 私もか?」
どうやら二人は冒険者ギルドに用事があるらしい。依頼か相談かは知らんが。
時間は掛からないから私も付きあえと、そう言うのだ。
確かに少し前ならば毎日のように来ていた場所なのだが今となっては敵対者の巣窟みたいなものだ。
塔主という立場で堂々と入るわけには……いやまぁ堂々と依頼しにくる塔主もたまにいるのだが……。
私は躊躇していたのだが「どうせシルビアがあたしらの仲間だってバレてんだし」とキリカもリアンヌも平然としていたので、ともかく付いていくことにした。
しばらくぶりに入ったバベリオの冒険者ギルドは特に変わった様子もない。
時間帯はまだ昼過ぎだし混雑というにはほど遠い。大抵の冒険者はバベルに挑戦しているだろうしな。
これならば多少はマシかと思っていたのだが、キリカたちと一緒にカウンターに行った時に一変した。
受付嬢が「シルビアさん!?」と気付き騒ぎ始めたのだ。
久しぶりだからというのもあるだろうし、【六花の塔】の評判がいいというのもあると思う。
受付嬢は仕事も忘れ矢継ぎ早に喋りまくる。褒めまくる。私には苦笑いしかできない。
当然その声はギルド中に聞こえるわけで、たむろしていた冒険者たちも騒ぎ出した。
「シルビア!? 【六花】のシルビアか!?」
「おいおい【氷槍群刃】の二人も一緒だぞ! 冒険者に復帰すんじゃねえだろうな!」
「【六花】ってあれだろ? 【
「新塔主のトップじゃねえか! なんかこう、風格があるな……」
「誰か【魔術師】戦の詳細聞いてこいよ! 聞いて来てくれよ!」
……思いのほか好意的だな。
501期トップの成績というのもあるだろうがやはり【
【
この中にはE~Fランクの者もいるだろうし私の塔に挑戦した者もいるはずだ。
そこで怪我を負ったり、仲間を喪った者もいるかもしれない。
だからこそ私を恨み、この機に突っかかって来る者もいると思ったのだが……
杞憂に終わったようだと内心胸を撫で下ろしたすぐ後、案の定突っかかって来る者がいた。
「ああん!? 塔主様がギルドに何の用だよ! ここはてめえの敵、冒険者ギルドだぞ!」
やたら体格の良いスキンヘッドを先頭にその後ろには四人。パーティーか。
見たことはないな。最近バベリオにやって来たよくいる『地元じゃ英雄』というタイプの輩かな。
「話は聞いてるぜ! 新塔主のトップなんだろ、お前! たかがEランクで調子に乗ってんじゃねえぞコラア!」
「そういう貴様は何ランクなのだ?」
「俺たちゃCよ! これじゃお前を殺しに行きたくても行けねえ! 命拾いしたなあオイ! ガハハハ!」
地元じゃ英雄にしてもCランク程度でよくそこまでイキれるものだ。
私が元Aランク冒険者というのも知らないと見える。
周りの冒険者たちもキリカたちも引いている。うわぁという漏れた声がそこかしこから聞こえた。
「それは残念だな。では貴様らに丁度いい塔を私が紹介してやろう」
「ああん!?」
「【女帝の塔】【赤の塔】【忍耐の塔】【輝翼の塔】、ここならばどれもCランクだから挑戦できるぞ?」
「おいてめえそれは……」
さすがに知っていたか。私のことを知っていて【
虎の威を借る狐そのものだが別に恥じることもない。
「ここに居る全員が証人だ。貴様らが四塔のいずれかを攻略したとなればたちまち英雄となるだろう。なに安心しておけ、伝手はある。四塔の塔主には貴様らが来れば丁重に持て成すよう私から申し伝えておこう」
「くっ……! さっさと攻略されちまえクソが!」
そいつらは捨て台詞を吐いてギルドを後にした。ただのチンピラだな、あれは。
ギルドの中では何故か拍手喝采。どうやら私の味方が多いらしい。
私は敵たる塔主なのだがな……どれだけあのチンピラどもは煙たがられているのだ。
一方でキリカとリアンヌも笑っている。
「わざわざ相手することもないのに。律儀だねぇシルビアは」
「塔主様なんだしあんなの斬っちゃってもいいんじゃないの?」
物騒なやつらだ。半分茶化しているのだろうが。
塔主が冒険者を殺していいのは塔の中だけだ。
「正当防衛でもないのに街中でそんなことするわけないだろう。塔主でも犯罪行為と見なされれば罰則がつく。それに変な真似をして
「へぇ、そういうもんなのね」
「
「塔主らしからぬ行為を働く者には
「ほぉ~そんなのいるんだねぇ。初めて知ったよ」
新塔主にむけての冊子に書いてあったことだからな。市井に知られていないのも無理はない。私も塔主になって初めて知ったことだ。
「じゃあその
「そうじゃないのか?」
「発表はどうするんだろ。
塔が消えた場合、バベルの職員からの発表がある。
侵入者に攻略された場合はただ「攻略された」と。
言われてみれば確かに「
では誰も
まさかそんなことはないだろう。
全ての塔主が品行方正なわけがないし、悪事を働く者もいるはずだ。
死の恐怖から塔運営を拒否する者もいるだろうし、そういった者たちが処されないわけがない。
ならばなぜ誰も『
私は心の中に何か靄がかかったような気持ちになった。
その後【氷槍群刃】の皆と集合し食事をとったわけだが、ずっと引っ掛かりを覚えていた。
アデル様たちは何かご存じだろうか。帰ったら伺ってみよう。
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