197:シルビアさんの同盟塔訪問です!



■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Eランク【六花の塔】塔主



 塔主戦争バトルの三連勝に加え【浄炎の塔】が消えたことで私の【六花の塔】には侵入者が急増したわけだが、【彩糸の組紐ブライトブレイド】に加入したという情報が流れたとたん、さらにその数は跳ね上がった。


 【彩糸の組紐ブライトブレイド】の人気とはこれほどのものかと驚かされた。話には聞いていたのだが、それでも甘く考えていたのかもしれない。



 特に最初の数日は人の波が絶えず、プレオープン初日を思わせる盛況ぶり。いや、それ以上に入っている印象があった。


 一階層の『雪道の森』には人が溢れ、魔物のリスポーンも間に合わない状態。

 押し込まれるように現在の最高到達点は三階層まで伸びてしまった。



 それを受けて私も色々と修正作業に追われている。現在進行形で。

 考えなければいけないことは多いのだが、悩んだり苦しむということはない。


 なにせ営業しながら画面をつないで意見を聞くこともできるし、相談もできる。

 たった一年で多くを経験している『成功者たち』が傍で見守っていてくれているのだ。

 これが同盟の最大の利点なのではないかと最近はよく思う。



 一番よく画面をつなぐのはアデル様。本当に親身になって下さっている。感謝しかない。


 次いでドロシー殿とノノア殿。このお二人は普段からずっと喋っているらしい。

 お二人の塔は罠・ギミックと似通ったところがあるからな。共に相談しながら運営しているそうだ。


 次にフッツィル殿だろうか。

 このお人は方々の塔を探りつつ、エルフの塔の世話も見つつ、自塔の管理もしているので本当に忙しそうだ。

 そんな中でも私を気遣って下さっている。ありがたいことに。


 【輝翼】が屋外構成の塔で鳥を扱っているから、その運用についてはフッツィル殿を頼ることが多い。本当に助かっている。


 一番話す機会がないのがシャルロット殿なのだが、それも他の方々に比べればという話。最低でも一日に一回は画面をつないでいる。


 元より【女帝の塔】は『八女王会議』で延々と話し合いながら営業しているらしいので、ドロシー殿たちのようにお喋りしつつ相談する必要がないのかもしれないな。自塔で全て賄えるから。


 魔物――それも配下を統べるクイーン種の意見というのは、それを主戦力としている【女帝】ならではの強みなのだろう。羨ましくも思うが他の誰に真似できるものではないとも思う。



 ともかくそうした先達と喋り、相談しながらの塔運営というのは本当に素晴らしい。

 今までが孤独だったということもあるが、焦ったり悩む必要がないというのが大きいのだ。


 多くなった侵入者の対応をどうすればいいのか、魔物の配置や罠の配置に関する疑問、修正箇所の有無、今後の展望も見据えた強化計画、その全てにすぐに答えが出て来る。


 なんなら私が問題と気付く前に指摘が入る。

 これで結果が出ないようなら私はどれほど無能なのだという話だ。



 ちなみに営業時間後に【女帝】以外の四塔にお邪魔して、それぞれの塔を見学させてもらっている。これも勉強だ。


 【彩糸の組紐ブライトブレイド】という同盟は人種も豊かだが、思っていた以上に塔の個性もバラバラ。

 よくこれで一つにまとまっていられるものだと感心したほどだ。


 おそらく互いに補い合う関係なのだろうが、その中心たるシャルロット殿の人柄もあるのだろう。なんとなくそう思う。



 【赤の塔】は地形の困難さに加えて、魔物が強く、その配置と罠の配置も合わせて秀逸。さすがアデル様と感嘆するほど見事な塔だ。


 炎と氷で私の塔とは対照的だが、塔構成の考え方としては似通っていると思う。

 地形により探索を困難にさせ、ダメージや討伐を積極的に狙う方針なのは共通だ。

 そういった面を踏まえて、やはりアデル様に助言を頂くことが多いのだが。


 強い魔物を並べて力押しというのはバベルによくある形ではあるが――高ランクでも意外とこういう塔は多い――アデル様の場合、そこに配置の妙が加わることで少しでも無駄なTPを減らし、ダメージTPなり討伐TPを稼ごうという意図が見える。


 画面を見ながら懇切丁寧に教えて下さるのだが、聞けば聞くほど頭を使っているなという印象を受けた。

 さすが『メルセドウの神童』。今は真似することしかできないが、いつかは私も自分で考えた塔構成にしたいものだ。



「わたくしの場合、こうでもしなければシャルロットさんに追いつけませんからね。頭を使って少しでもTPを稼ぎませんとアレには勝てませんもの」


「それほどTPの取得量に差があるのですか? 私には決して劣るとは思えないのですが」


「【女帝の塔】はクイーンの<統率>とエメリーさんの<教育>が塔内の魔物に行き届いていますからね。弱い魔物で効率よくTPを稼ぐのが驚異的に巧いのですよ」



 なるほど。それも【女帝】の利点というわけか。

 クイーン種だけならば他の塔でもいるだろうが、そこにエメリー殿が加わればまた違うと。


 この目で見た限りでは『塔構成の巧さ』ならば【赤の塔】に分がありそうだが……『凶悪さ』と『美しさ』は【女帝の塔】が上だと個人的には思う。



「【赤の塔】にしても【女帝の塔】にしても罠に関してはドロシーさんにお聞きしていますの。次は【忍耐の塔】なのでしょう? 行ったら色々と教えて頂くといいですわよ」



 そういったわけで日を改めて【忍耐の塔】にお邪魔した。


 塔構成についてはある程度説明を受けていたが、実際に画面を見ながら説明を受けると……これは同盟で一番凶悪かもしれない。


 下層はとにかく罠と状態異常。心とダメージをこれでもかと削ってくる。

 魔物は弱いが囮に使ったり罠にはめる為の起点としたりといった役目に終始しており、単純な攻撃によるダメージなどほとんど考えていない。

 防御力のある魔物で足止め、他方から状態異常を仕掛ける。もしくは罠にはめる、といった用途での魔物配置だ。


 それを【六花の塔】で再現することはできないが、罠に関しては学ぶところばかり。なるほど同盟全体の罠を手掛けるだけのことはある。

 アデル様やシャルロット殿から多少伺ってはいるが、【忍耐の塔】はその何倍もの規模で罠が張り巡らされているのだ。これは恐ろしい。


 上層になると一変して魔物の対処に迫られる。魔物の質と量が一気に上がるのだ。

 【女帝の塔】も同じようなものだったがここまで極端ではない。


 【女帝】はある程度侵入させるために難易度を調整しているのに対し、【忍耐】は下層と上層で別の塔を攻略しているような気分にさせる。



「本当は下層の罠と状態異常だけで塔を創りたいんやけどな、そうなると塔主戦争バトルの戦力が足りんのよ。強い魔物を多く確保しよう思うたらそれに合わせた階層が必要やし、仕方なしにこうなってん」


「なるほど。そういう理由もあるのですか。塔構成に魔物を合わせた下層と、魔物に塔構成を合わせた上層ということですね」


「せやな。シルビアちゃんかて『この魔物は絶対欲しい!』ってヤツがおるやろ? そいつを召喚する時、同じように悩むかもしれんな」



 私が召喚できる魔物は氷雪系ばかりだから極端な変化はないと思うが、強い魔物は大きくなるのが普通だからな。そういう意味では魔物にあった階層というのが必要になるだろう。



「魔物に塔構成を合わせる最たる例が【輝翼の塔】やな、ウチらの中では。行ったらよく見てみるといいわ」



 そうして次に【輝翼の塔】にお邪魔した。



「とりあえずアイダウェドブリングに咆哮かけてもらうかのう、念の為」



 まずは洗礼とばかりに<虹竜の咆哮>とやらを掛けられた。これで私に何かスキルが掛かっていれば解除されたということらしい。


 というかなんだこのドラゴンは。

 真っ白な体毛と虹色に輝く六翼。ここまで美しいドラゴンなど見たことがない。


 そんな感動を覚えつつ最上階で画面を見せて頂く。


 【輝翼の塔】は全階層が『飛行する魔物のための階層』となっている。同時に『霧の森』や『樹氷雪原』など探索を困難にする地形だ。

 侵入者にとって戦いづらく、魔物にとっては戦いやすい。それを徹底しているのが窺えた。



「鳥の魔物は素早いし攻撃も多彩じゃが極端に打たれ弱いじゃろ? じゃから一方的にダメージを与えられる環境というのが必要になるわけじゃ。何も考えずに鳥を飛ばすだけでは赤字じゃからのう」


「はい。仰りたいことはよく分かります。私も『攻撃を当てさえすれば容易い』と思っていましたので」


「その当てない為の工夫が必要じゃな。地形・罠・他の魔物との併用、やろうと思えばいくらでもある。わしの場合は奇襲に重きを置いているがのう」



 上空や木々の隙間、または背後からの奇襲。これならば鳥が攻撃されるリスクを抑え、TPを稼ぎやすいと。

 塔によっては見通しのよい平野などで鳥の魔物が襲ってくることがあるが、ここではせいぜい『渓谷迷路』くらいのものだ。

 それも渓谷内を自由に飛び回るせいで鳥と戦いやすいとは言えないのだがな。


 私の【六花の塔】でも鳥の魔物の運用はしなければならない。それをどのように扱うかはよく考える必要があるだろう。


 しかしその魔物の為に全十階層を全五階層にまで減らすのはさすがにどうかと思うが……。



「わしの塔なんぞまだマシじゃろう。ノノアのとこなんぞ実質『全三階層』じゃぞ? それであれだけの強固さじゃから困ったもんじゃが……まぁあそこは参考にならんと思うが一応見ておいて損はないじゃろ」



 そんな溜息交じりの言葉を聞いて、最後に【世沸者の塔】にお邪魔した。


 いや、まあ、何と言うか、とんでもない塔だなこれは。

 アデル様が『Sランクパーティーでも攻略不可能』と仰るのも分かるし、【荒天の魔女】ダリアが負けたというのも頷ける。

 ノノア殿が実質全三階層で塔主戦争バトルを受けるのも納得だ。


 謎かけは難しいし、ヒントが見つけづらい上にミスリードのようなヒントも散りばめられている為、そこら中に怪しい所がある。


 これを一つ一つ攻略していくのは相当時間がかかるだろう。

 どんな頭脳集団が相手でも丸一日では攻略は無理だろう。どうあがいても数日はかかる。



「これはいずれ攻略が進んだとしても二の鐘から五の鐘までに五階層に到達するのは不可能なのでは」


「は、はい、多分そうですよね……ですので一階層ごとか二階層ごとに往復魔法陣を設けようかと思っているんですよ。その方が侵入者の人たちのモチベーションになりそうですし……」


「往復魔法陣は五階層ごとにしか置けないのではないのですか」


「さ、最大で五階層っていうことみたいです。まぁ四階層以下に置く塔主なんていないでしょうけど、アハハ……」



 なんと、そうだったのか。往復魔法陣=五階層ごとという頭があった。

 確かに侵入者が有利となるような真似をする塔主はいないだろうな。


 しかし【世沸者の塔】ではどうしても攻略に時間がかかってしまう。攻略不可能となれば客足が減りかねない。

 だからあえて一階層か二階層ごとに往復魔法陣か。


 ……まぁこの塔でしか使えない手だな。少なくとも私には無理だ。



「よ、四階層以上も創りたいんですけどね、今は戦力をもっと欲しいなと。やっぱり皆さんの塔に比べて貧弱ですし、足は引っ張りたくないですし……」


「私も全く同じ気持ちです。が、こちらには固有魔物やリッチなどもいるではありませんか。私にとってはそれすら羨ましいことです」


「で、でも皆さん本当にすごい魔物ばっかじゃないですか。Sランクとか、Aランクがいっぱいとか……シルビアさんも見たと思いますけど……私なんて何分の一の戦力なのかって話ですよ」



 私はノノア殿以下だから余計に感じるのだが、それでも気持ちはよく分かる。

 知れば知るほど、この【彩糸の組紐ブライトブレイド】という同盟はおかしい。二年目にしてどれも強すぎる。

 【世沸者の塔】にしてもその同盟の中で最難関の位置にいるのだ。ノノア殿は謙遜するが私からすれば同じくおかしい。


 私はそうした先達の知識を借りて、塔を成長させなくてはならない。

 これでは手助けどころか延々と足を引っ張るだけだ。


 何とかしなくてはな……今のところ不安ばかりなのだが。



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