368:アデルさんも魔物の運用を悩んでいるようです!



■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



「おっ、あいつら今日も頑張ってるな」


「早いところ五階層に行って欲しいものですがね。傭兵団のくせに慎重すぎですわよ」


「荒くれ者でも想像してたのか? 傭兵団だって一流ともなれば騎士団みてえにまとまるもんなんだよ」


「ちゃんとした斥候がいる分、騎士団よりも厄介かもしれませんね」


「それこそアデル様が望んでいたことでは?」


「そうですわね。二十数人のまとまった冒険者パーティーと考えれば得難い機会ですもの」



 約一月前から【赤の塔】にやって来た【赤竜兵団】ですが、非常に地道な探索を続けており、現在は四階層『赤砂の砂漠』を攻略中です。

 もう少し進めば五階層まで到達して往復転移魔法陣が使えるようになりますので、そこからまた順調な探索が出来るのではないでしょうか。



 現在、侵入者の最高到達地点は七階層の始め。

 五、六階層は耐火装備や対火属性魔法でどうにかなりますからね。そういった手段を持っている侵入者であれば、あとは魔物を斃す武力さえあれば突破は可能です。


 【赤竜兵団】の皆さんには是非とも最高到達地点を更新して頂きたい。

 そうでなくてはこちらの防衛を検証することも出来ませんし、わざわざ生き永らえさせている理由がなくなります。


 わたくしとしてはミッドガルドのブルグリード伯に攻略失敗の報を入れて頂きたいわけですしね。そうなれば次の報復が来るかもしれませんし。……暗殺は困りますけれど。



 やはり二十数人の傭兵団と言うのは塔主の身からすればなかなか厄介な存在です。

 いつも侵入しているBランクの冒険者パーティーが四倍の規模になったようなものですから、単純に考えれば前衛も四倍、攻撃手段も四倍、魔法も四倍です。

 実際は斥候が三人で神聖魔法使いが一人なのですが、あくまで単純計算の話です。


 それが指揮官の元、組織立った動きをするのであれば、冒険者パーティー四組以上に強力なのは当然です。四組がバラバラならば各個撃破すればいいだけですしね。

 ちゃんとした斥候の存在や魔物の対処を鑑みれば、騎士団二十数人を相手にするより難しいと言えるでしょう。



 だからこそなるべく攻略して欲しいと待ち続けているのです。さっさと最高到達地点の先に行って欲しいと。

 そこでどのような探索を行うか。どのように魔物を対処するか。わたくしは確認したいのです。


 というのも【黄神石の塔】戦でも【氷牙の塔】戦でも、【赤の塔】への侵入がありませんでしたからね。

 二戦やっていずれも攻撃陣を送り込まないというのは少々予想外でもありました。


 まぁ二塔とも「防衛策に出て当然だな」と思わせる塔ではあったのですが、その二塔と戦うことになったのがそもそも予想外だと。


 わたくしから申請した相手であればもう少し攻めっ気のある塔を選ぶことも出来たのでしょうがね……ないものねだりではあります。



 防衛には自信がありますが、だからといって強敵との塔主戦争バトルでぶっつけ本番というのも頂けません。

 【魔術師】の攻撃陣に入られたことはありますが、あの時はまだCランクでしたしね。Bランクの塔となった【赤の塔】は未だお披露目の機会もないのです。


 そう考えるとシャルロットさんは上手くやりましたわよね。【影の塔】戦でわざと十四階層まで侵入させたのですから。


 それにより被害は出ましたが、代わりに多くの検証を行えました。

 考察し、話し合い、大改装を実施してより一層難易度の高い【女帝の塔】を創り上げているのです。現在進行形で。


 わたくしはその様子を画面で見て、想像しながら考察することしか出来ません。

 今現在の【赤の塔】がどれほどのものなのか、わたくし自身よく分かっていない部分があるのです。


 大丈夫だと思っていたら簡単に突破された、なんてこともよくある話ですからね。そういった箇所を出来るだけ早く解決していきたいのですよ。


 その為の一つとして【赤竜兵団】の存在は貴重なものです。

 わたくしの為にも存分に攻略して貢献して頂きたいですわね。



 塔構成の検証・見直しと並行してTPの使い道、魔物召喚に関しても頭を悩ませております。

 数多くの召喚権利を後回しにしている状況なのですよね。


=====


【死屍の塔】ゴーストドラゴン(★S)

【魔術師の塔】ナインテイル(★S)

【黄神石の塔】聖猿皇ヴァナラ(★S)、ハヌマーン(A)、キラーエイプ(B)、エイプウィザード(B)、モールドラゴン(★A)

【氷牙の塔】マナガルム(★S)、スコル(★A)、ガルム(★A)、氷貴精レーシー(A)、フェンリル(A)、アイスマンモス(A)、シールドマンモス(B)


=====


 このようなところでしょうか。

 ゴーストドラゴンやナインテイルであれば現状の塔構成でも十分に使えますが防衛でしか使えません。


 【黄神石】の猿部隊はかなり魅力的なのですが、置くのであれば上層に森の階層が必須ですわね。


 【氷牙】の魔物も優秀です。マンモスは微妙ですが狼部隊は如何様にも使えますし、マナガルムもやろうと思えば攻撃陣で使えるのですよ。巨大と言っても体高が2mほどですし。

 Cランク下位程度の塔が相手であればマナガルム、スコル、ガルムの三体を送り込むだけで勝てるのではないでしょうか。

 まぁさすがにやりませんけどね。安全性を考慮しますし。



 しかしいずれにせよ眷属枠は残り一つ。

 それは自塔のSランク固有魔物である【赤竜メテオノーラ】のために確保してあります。

 十三・十四階層も連結階層にしておりますし、いつでも召喚できる状態ではあるのです。


 ……が、正直あまり気乗りはしておりません。いくら自塔の固有魔物だからと言っても、防衛にしか使えない上に、連結階層が必須でスペースを非常に食う飛竜を優先していいものかと。


 【魔術師】の攻撃陣でも地形と既存の魔物と限定スキルで抑え込めておりましたからね。

 十三・十四階層の赤竜メテオノーラが防がなければならない事態というのが想像できないのですよ。



「エメリーの姉ちゃん級の神定英雄サンクリオとまでは言わなくても、ヨグ=ソトースヨギィ並みの魔物はいてもおかしくねえんじゃねえか? そしたら単独で攻略出来ちまうだろ」


「そんなのが来たら赤竜とて厳しいですわよ。であればナインテイル(★S)とファイブテイル(A)の部隊の方が強そうですし、マナガルム・スコル・ガルムの三体ならもっと使える上に攻撃にも回せますわ」


「フッツィル様の虹竜アイダウェドブリングのように固有スキルがあるかもしれませんが」


「狙うとすればそこですわね。ですが文献を調べてもそんなことは載っていませんし」



 赤竜メテオノーラという竜については過去の文献を調べても名前が出て来ません。

 しかし『赤竜』という存在なら過去にも出ています。

 ただ『火属性の大型飛竜』くらいしか分からないのですよ。固有スキルのことなどは不明です。


 そもそも固有スキルというものがどういったものなのかもよく分かっていないのですよね。

 Sランクの固有魔物ならば必ず持っているというものでもないようです。

 シャルロットさんの妖精女王ターニア様などは持っていませんしね。その代わりにファムを扱う特殊能力があるわけですが。


 フェニックスクルックー(★S)も<超速再生>という固有スキルに加えて身体の大きさを変えられる特殊能力を持っています。

 この特殊能力は宝珠オーブで見るステータスにも表示されませんし、これもこれでよく分からないのですよね。



 赤竜メテオノーラも何かしらのスキルか特殊能力を持っていてもおかしくはない。しかし持っていない可能性もある。

 そしてそれはどのSランク固有魔物でも同じことが言えるのです。

 だからまた振り出しに戻るのですよね。別に赤竜を召喚しなくてもいいのではと。



「ちなみに寒冷系の魔物を配置するとなった時、階層構成はどうなさるのですか?」


「それも考えものですわね」



 【赤の塔】だからと言って全ての地形が暑いものではありません。

 一階層は『紅葉樹の森』ですし、二階層は『レッドクリスタルの洞窟』、七階層は『サンゴ草湿地』などなど。


 赤に纏わるもので安く済ませているわけですが、仮に赤くなくてもある程度の地形なら生成できます。

 シャルロットさんが【女帝の塔】に海階層を創ったような感じですね。TPは異常に掛かりますが創れないこともないと。



 しかし絶対に作れない地形というのもあります。

 【女帝の塔】で言えば屋外地形が総じて高く、森や墓場などは一応創れますが、【赤の塔】にあるような溶岩地帯などは創れません。あまりに【女帝】のイメージからかけ離れている為だと思われます。

 海階層にしても『海の神殿』と一応屋内階層の形式にしているから創れるだけのはずです。


 同じように【赤の塔】では雪原や氷山地帯などの寒冷地形は無理ですし、海も不可能です。泉や池ならばやれないこともないという感じですね。


 ですので、寒冷系の魔物を配置するとしたら『宮殿』や『広間』のような石畳のものにするか、『岩石地帯』や『湿地』のような地面のものにするか、という感じになりそうです。

 持ち味が十二分に発揮できるかと言われれば微妙ですわね。


 【黄神石】の猿部隊なら楽なのですがね。『紅葉樹の森』がそのまま流用できますし。



「だったら森階層に猿部隊と狼部隊を共存させりゃあいいんじゃねえのか? 猿部隊の運用を考えるなら森だって連結階層のほうがいいだろうし、天井が高けりゃマナガルムたちの<空跳>が活きるだろう」


「……なるほど。それも一理ありますわね。狼の使い方が少々勿体ない気もしますが」



 猿部隊は木々の上を自由に動き回るような戦い方をしていました。それが非常に厄介なところでしたので使うのなら森階層が必須と思ったわけです。


 ただ聖猿皇ヴァナラ(★S)とハヌマーン(A)に関しては<浮遊>を使いますので空は高いに越したことはないと。

 木々が高くなるだけでも猿の自由度は増しますしね。連結階層のほうが望ましいというわけです。


 狼も森での運用が可能ということは分かっています。【六花の塔】の一階層『雪道の森』でアイスウルフ(C)を使っておりますしね。

 ただ寒冷地形でない森の場合、何かしらの不都合があるかもしれません。



「まぁそこらへんはマナガルムあたりを召喚した時に確認するしかないでしょう」


「んじゃ結局、赤竜は後回しって結論か」


「優先順位としてどうされますか?」


「……やはり狼部隊が欲しいですわね。マナガルム、スコル、ガルムを召喚し、とりあえずは十三・十四階層にでも置きましょう。それから森階層を創り、猿部隊を召喚。ナインテイルとゴーストドラゴンを適宜召喚した後に赤竜という順ですかね」


「最後の最後かよ。こりゃAランクまでお預けだな」



 仕方ないですわよ。他に召喚したい魔物が多すぎるのですから。

 延々とTP稼ぎをしつつ、塔構成を考えつつ、徐々に召喚していくしかありません。


 そうと決まればTPがあるうちに召喚しておきます。

 マナガルム、スコル、カルムの三体で約十一万TP。【氷牙】の報酬で十分に足ります。


 この三体とはよく話し合わないといけませんわね。ランスロットかパタパタを通して。

 どのような狼部隊を構成すべきか、どのような地形構成にすべきか。

 それが完成するまでは大ボスとして君臨していてもらいましょう。



 ふふっ、【赤の塔】の大ボスに寒冷系の固有魔物というのも面白いですわね。


 まぁ本来ですとランスロット、パタパタ、クルックーに任せ、ジータはわたくしの護衛という形になるとは思いますが、臨時で置く分にはいいでしょう。

 あとはどのような形に仕上げていくべきか。ここから先は相談しながら進めなければなりません。


 ああ、はやく次の塔主戦争バトルの機会がありませんかね? こちらは年中無休でTP不足ですわよ。



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