03:新塔主も人それぞれのようです



■アデル・ロージット 17歳

■第500期 【赤の塔】塔主



「なるほど。奥が深いですわね、塔主というものは。貴方が過去に二度も呼ばれているというのは、わたくしにとってかなりのアドバンテージですわね」


「だろうな。大抵の連中は塔の管理だけで手一杯だろう。最初から要領良くできるヤツなんていねえ。TPとは何ぞやって所からだろうしな」


「その点、貴方は『塔』の何たるかを熟知している――なんと優秀な神定英雄サンクリオですこと」


「ははっ、それを引き当てた上に【赤の塔】に選ばれる主こそ優秀ってこったろうが」



 わたくしはメルセドウ王国の公爵家に生まれ、幼い頃からその才能を見出されました。神童などとも持てはやされました。

 学問、武芸、魔法、そのどれもが秀でていたが故です。


 特に火魔法に関しては自信がありましたので【赤の塔】に選ばれた事はわたくしにとって想定の範囲内。


 それ以上に神賜ギフト神定英雄サンクリオを引き当て、それが過去二回も神定英雄サンクリオに選ばれた英雄ジータ・デロイトであった。

 そこが非常に喜ばしいところです。



 ジータはわたくしでも知っているような著名な英雄。

 かつて亡国の騎士団長を任され、強大な魔物の討伐や戦争においても最前線で剣を振るったといいます。

 獅子奮迅、一騎当千の活躍ぶりはまさしく英雄と呼べるもので、歴史の教本にも載っていますし、未だに吟遊詩人が唄ったりもしています。


 過去二回、神定英雄サンクリオとして呼ばれた時は【狩人の塔】と【霧霞みの塔】というあまりパッとしない『塔』だったと言います。

 それでも数年、十数年と『塔』を維持できたと言うのですから、よほどジータの活躍が大きかったのでしょう。

 だからこそわたくしが名のある十色彩カラーズの一塔である【赤の塔】だった事に喜んでいる様子です。



 塔の名前によって管理に差が出るというのは常識です。

 例を挙げますと、侵入者から塔を守る為に魔物を召喚し配置するわけですが、そのコストとなるTP(タワーポイント)が変わります。


 ゴブリンの上位種であるレッドキャップは通常ですとゴブリンの五倍~十倍、TPが掛かります。

 しかし【赤の塔】ではゴブリンと大差ないTPで召喚できる。つまり【赤】に関するものを召喚しやすいと。


 ″色″というのは汎用性が高い。赤い魔物などいくらでも居るのですから。

 だからこそジータは喜んでいるわけで、『十色彩カラーズが強い』と言われる所以なのです。


 まぁ代わりに他の″色″の魔物のコストが高くなるのですが……それほど痛手には感じません。


 塔の内装に関しても【赤】に関連したものは安く設置できますし、TPの消費が抑えられる。

 内装も魔物も罠も、全てを赤くすればいい。それだけで他の同期の塔より優位に立てる。



 とは言え油断などしませんがね。

 塔主は侵入者に命を狙われるのが常。

 驕って適当な管理をすれば足元をすくわれるのがオチです。

 わたくしはそんな無様な管理をするつもりなどありません。


 そういった意味でも経験のあるジータが来てくれた事は大きい。

 侵入者の心理、過去の経験、最初からそういったものを加味した上で塔を創れるのですから。



「ま、いずれにせよ最初の関門は『プレオープン』だな。七日後だろ?」


「ええ、この冊子にはそう書かれておりますね」



 わたくしの手元には『新塔主の方々へ』と書かれた冊子があります。

 内容は新人に向けた指南書といった所でしょうか。

 塔を管理するとはどういう事か。塔主とはどうあるべきか。TPとは何か。などなど。

 わたくしはジータから聞けばそれで済む事ですが、他の新塔主の皆さんには必須でしょうね。


 その中には今後のスケジュールのようなものもあり、喫緊のイベントが七日後の『プレオープン』となります。

 そこで初めて、侵入者――冒険者などの挑戦者の方々――に【赤の塔】をお披露目すると。


 つまりは七日間で『塔』『塔主』『TP』といったものを理解し、塔を創っておけ、というわけです。

 あくまで『プレ』オープンですから、わたくしが侵入者に斃されても死なないようですし、意地でも完成形の塔を創れというわけではなさそうですがね。



 プレオープン期間が二週間。その後一週間の準備期間を経て、本格的なオープンは今から一月後。


 そこからが本番。

 わたくしが殺されない為に、侵入者を全て排除できるよう整えなければなりません。

 そうしてTPを溜め、塔のランクを上げ、より発展させ、どんどんと強固な塔を創り上げていく。


 目指す先はバベルの頂点、ただ一つです。



「【赤の塔】ってだけでも目立つのに、俺なんかを引き当てちまったんだ。プレオープンから注目されるのは間違いない」


「でしょうね。観客の中にもどうやらわたくしの事をご存じだった方がいらしたようですし」


「最初から賑わうのは目に見えてる。侵入者はバンバン来るだろうし研究もされるだろうな」


「望むところですわ。『プレ』オープンとは思わず、最初から本番のつもりです。侵入者には【赤の塔】に恐れ慄いてもらいましょう」



 プレオープンをただの練習場とするわけにはいきません。

 わたくしが塔主となった以上、すでに命の奪い合いは始まっているのです。

 遊び感覚で侵入してきた者には、『死』か『畏怖』を刻んでさしあげます。


 一歩目から先頭を走り続けた先にあるのがバベルの頂点。


 そこまでの道のりが即ち――



「それがわたくしの″覇道″ですわ」





■ドドスコドン 35歳

■第500期 【鉄槍の塔】塔主



「うおおおおっ! すごいっ! これが宝珠オーブ! これがTP! これが塔主の力か!」



 第500期の新塔主に選ばれただけでも発狂したが、神賜ギフトを得て、バベルへと入り、宝珠オーブに触れた事で俺の興奮はピークに達している。


 神賜ギフト神授宝具アーティファクトだった。【装衛の槍】というごっつい槍だ。盾代わりにもなるらしい……と宝珠オーブで確認した。


 与えられた塔は【鉄槍の塔】。

 神賜ギフトと同じくパッとしない感じ。誰からも他の雑多な新塔主に埋もれそうな印象を持たれるだろう。



 ――が、俺には俺だけの武器がある。



 何を隠そう俺は『バベルマニア』なのだ。

 バベルの事が好きすぎて、調べすぎて……かと言って自分で挑戦できるほどの戦闘の腕前はなかったのだが。


 しかしバベルに関する知識量だけなら世界の誰よりあると自負している。

 書籍も全部読んだし、バベリオの酒場に集まって来る冒険者たちの生の声を毎日のように聞いていた。


 もし自分が塔主に選ばれたらどうするか、脳内でさんざん妄想した。しない日などなかった。

 そして35歳になってやっと夢が叶う。

 こんなに嬉しい事はない。発狂するのも無理からぬ事だ。と自分に言い訳をしている。



 【鉄槍の塔】といういかにも地味で誰もが「おっ、初出の塔かな?」と思っていそうな我が塔に関しても、実は既出のものだと知っている。

 第386期の代で一度。その時も神賜ギフトは槍だったというが、見た目が【装衛の槍】と違うのでおそらく別物だろう。


 新しく出来た『塔』は【Fランク】と位置付けられ、オープンから一月ひとつきでその二割が消える。

 侵入者によって塔が攻略され、塔主が殺されるわけだ。そして塔は消える。

 半年経てば半数が消え、一年後に残っている『新塔主の塔』は二~三割だ。これは毎年、毎期同じ事。


 第386期の【鉄槍の塔】は半年保った。

 たった半年で消えたと見るか、よく半年も保ったと見るか。俺は後者だと思う。


 新塔主に選ばれ、右も左も分からない中、初出の【鉄槍の塔】という中途半端な塔を与えられ、それでも半年保ったのだ。これは褒められるべきである。



 その時の【鉄槍の塔】の詳細。どんな階層を創り、どんな魔物を置いたのか。

 どのようにして戦い、どのようにして負けたのか。全て俺の頭に入っている。


 すでに【鉄槍の塔】の運用プランは出来上がっているのだ。

 半年、一年で消える事のない塔にする為の戦略が。


 宝珠オーブの情報の中には新塔主となった者の名簿のようなものもある。

 受け取った神賜ギフトの詳細は分からないが、神授宝具アーティファクト神造従魔アニマ神定英雄サンクリオかは判別がつく。



神定英雄サンクリオは三人か……。英雄ジータが【赤の塔】に選ばれたのは見たが、他の二人が過去に選ばれた神定英雄サンクリオかどうかは分からないな」



 調査はする必要があるとして、ジータは過去に二度も神定英雄サンクリオとなっている本物の英雄だ。

 地力がある上に『塔』での戦いをよく知っている。


 おまけに今度は十色彩カラーズの一つである【赤の塔】に選ばれた。これは脅威以外の何物でもない。



 同盟を結ぶ事ができればジータの知識を共有する事もできるだろうが……現状は無理だろう。向こうに旨味がない。


 こちらが注目されるような戦果を挙げるか、何かで手助けできるような機会をつくるか。

 そうでもなければ【赤の塔】が【鉄槍の塔】と同盟を結ぶメリットがないのだ。やはり難しい。



「ま、難しいのも塔の管理の面白さだな! よっし! 俺の考える最強の【鉄槍の塔】を創ってやるぜ!」



 新塔主に与えられたTPは5000。

 これを駆使して塔を創り上げ、プレオープンでさらにTPを稼ぐ。

 それをもってオープン時には最強の【鉄槍の塔】のお目見えだ。


 うひょおおおおお! テンションあがってきたあああああ!



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