第266話 小島のダンジョンに行くのはテストを終えたあとで
テスト参加者の中で行動は二つに分かれた。
いきなり攻撃してくる奴と、遅れて行動して来る奴だ。
正解はいきなり攻撃してくる奴だろう。
なにしろこっちは四人、相手は六人。
俺たちが全員やられたとしても合格できるのは四人のみ。
つまりは先着順ってわけだ。
それに、誰を倒しても合格っていうのだから、やはり先着順に拍車をかける。
ていうか、絶対に俺たち試験官に嫌われてるよな?
膝をついたら負けとか、四対六とか明らかに俺たちにとって不利な条件だ。
こんな狭い部屋だと五分とかいう制限時間の有利はあってないようなものだしな。
たぶん、試験官はふざけた格好の俺たちを不合格と決めつけ、他のテスト参加者の試金石にするつもりなんだろう。
最初に狙われたのは俺とミスラだった。
なんでもかんでも合格したいと思ったやつは、一番小さなミスラを倒そうとするだろう。
逆に正々堂々と戦いたい武士道精神のある奴は俺を狙ってくる。
着ぐるみ越しではあるが、俺が男で残りが女性だというのは声や動きでわかるだろうから。
ミスラを狙った奴らをぶん殴ってやりたいが、まずは目の前の敵を対処しないとな。
俺は蒼木の剣を装備して最初に襲ってきた槍使いの槍を弾いて柄の部分で腹を殴り気絶させ、剣士と一対一で対峙する。
「やるな、オークもどき。俺が二十年の歳月を費やして覚えた秘技を見せる相手と見た」
「そのオークもどきってやめてくれ。カワイイ豚さんだ」
「いくぞ、豚もどき!」
豚もどきもやめてほしい。
剣士が抜刀の構えを見せた。
よく見ると、あれって剣じゃなくて刀か?
まぁ、かつての勇者は数百年前の日本からこの世界に訪れたわけだから、日本刀がこの世界に広がっていてもおかしくないか。
刀を使った秘技。
それっていったい――
「秘技、びっくり刀」
男が刀を抜いた直後、その刀身が俺に向かって飛んできた。
刀の中にバネでも仕込んでいたのかっ!?
まぁ、そんなに速くないので木剣で叩き落とす。
「なっ、俺のびっくり刀が破られただとっ! 二十年の歳月をかけて開発したというのに」
「もっと別の努力しろ!」
俺は木剣で頭を殴りつけて男を昏倒させた。
さて、ミスラは……あ、大丈夫そうだな。
複数の石の弾が銃弾のように放たれ、迫ってきた他のテスト参加者たちの足を貫いていた。
そして、出遅れた残りのテスト参加者はというと、アムとミスラに昏倒させられていた。
「試験官さん。五分経ってませんが、どうします?」
「う、うむ。トール、アミ、ラミス、キルティア。以上四名は合格だ。なお、不合格者は再度試験を受けることはできないからな。彼らのように着ぐるみを着ても、魔力を登録しているからわかるぞ」
試験官は腑に落ちないという表情を浮かべながらも、俺たち四人の合格を宣言した。
先ほどとは別の受付に行き、そこでテストの合格通知と予選に関する資料を受け取った。
「こちらで手続きは以上になります。お帰り頂いて構いませんよ」
受付の女性がそう言って話は終わり。
ちなみに、現時点で予選の参加者は527名……最終的には1000名を余裕で上回るそうだ。
予選は三日間に分けて行われる大規模なものになりそうだな。
ちなみに、予選でも最終日だけはメインの会場で観客を入れて行われるらしい。
カイザーが視察に来るとしたらこの時だろう。
うーん、それまでは暇だな。
帝都の中にダンジョンでもあれば暇つぶしができるんだが、そんな都合のいいものはない。
あったとしても、これだけ強い人が集まっていたら難易度の低いダンジョンだと人で溢れかえる。
難易度の高いダンジョンがあればと思うが、そんなダンジョンがあるのなら、カイザーがわざわざ死の大地周辺まで冒険に来たりしないか。
「はぁ、人のいないダンジョンはないか?」
「ああ、この辺りにはないですね。帝都の北にダンジョンのある小島にはちょっと変わったダンジョンがありますが、馬車も出てませんし、小島に行く船もありませんからね。歩いて行ったら五日はかかりそうですし」
受付の人がそんなことを言った。
歩いて五日――往復で十日。
確かにかなりの距離だ。
でも、ノワールに乗ったら直ぐに着くか。
「詳しい場所、教えてもらえませんか?」
ということで、俺たちは一度帝都を出て全力で走り、夜になるとかなり離れた場所からノワールに乗って教えてもらった小島に向かった。
港町もなければ船も出ていない海も、空を飛べば一瞬だな。
そして、目標としていた島に辿り着いた。
一平方キロメートルくらいの小さな島の中心にダンジョンの入り口があった。
そういえば、ちょっと変わったダンジョンだって言ってたけれど、どんなダンジョンか聞くのを忘れていたな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます