第300話 ダンジョンの真実を知るのはミスラが確信したあとで
ダンジョンの一階層を進む。
地図を見る。
魔物の反応はあっても、アムたちや他の選手の反応はない。
一番警戒しないといけないのはやはり霜月だな。
こんなところで爆発されたら困る。
でもダンジョンの壁って鋼鉄よりも遥かに頑丈だから、もしかしたら破壊できないかもしれないが、そんな可能性に賭けてダンジョンで爆発させるほど俺はギャンブラーじゃない。
俺は確実に死んでしまうし。
なので、俺とミスラは動物なりきりセットの衣装を着たままダンジョンを進む。
死の大地のダンジョンというからどれほど恐ろしいダンジョンかと思ったが、最初に出てきたのはスライムだった。
かなりの量だが、スライム一匹一匹は雑魚だし、下水道のスライムみたいにベトベトしているわけでもないので難なく倒せた。
「そういえば、近くの泉にスライムがいっぱいいたな。もしかしたらここのスライムが脱走したのか?」
「……そうかもしれない。通常、ダンジョンの魔物は別の階層に行かないけれど、魔物が増えすぎると移動してしまう。スライムはダンジョンの魔素を吸収して繁殖しやすいから、特にダンジョンから溢れやすい魔物」
「なるほど」
そのお陰で俺はこっちの世界に来てレベルを上げることができたわけか。
あの時スライムと出会わないままレベルを上げずにいたら、ゴブリンと戦うときに少し危なかったかもしれない。
次の部屋に行く。
またスライムがいっぱいだ。
「……トーカ様、次はミスラが焼く。炎よ顕現せよ」
ミスラがそう言って魔法を唱える。
巨大な炎がスライムを呑み込んで、灰も残さずに焼き尽くした。
魔法の威力、また上がっているな。
出発前に試練の塔でレベルを上げた結果だけでなく、魔導書を読んで得た知識によるものもあるんだろう。
ダンジョンに行けない期間はずっと魔導書を読んでいたもんな。
「ってあれ? ここボス部屋か?」
一階層だというのにいきなりボス部屋。
まだダンジョンに潜って十五分くらいだ。
ボス部屋までの距離が一番短いダンジョンだな。
今後、ダンジョン周回はここですればいい気がする。
拠点からも近いからな。
ボス部屋に入る。
現れたのは巨大スライムだった。
黒鉄の大槌を振るう。
一撃で倒れた。
弱い。
完全踏破ボーナス、初回撃破ボーナスの金色宝箱、銀色宝箱と茶色宝箱が三つ。
「……アムがいないから昇格しにくい?」
アムは運が高いだけでなく、昇格率を上げるハッピーリングを装備している。
それのない状態では宝箱の昇格率は最低ラインに等しい。
「だな。とりあえず開けておくか」
金色宝箱からはスライムスーツ(全身タイツみたいなアバター)、銀色宝箱からは道具枠拡張の巻物が出た。
茶色宝箱からは全部お金(100イリス)と大ハズレ。
アムたちがいない分、道具枠を拡張できるのはいい。
俺の道具枠は12枠まで広がっているから、これ以上広げようと思うと一度に二個の道具枠拡張の巻物を使う必要があるので、ミスラの道具枠を拡張させる。
ボス部屋の奥には扉があり、その先には下り階段があった。
ダンジョンはまだまだ続く。
いったい何階層あるダンジョンなのだろう?
二階層で出てきたのはゴブリンだった。
やっぱり弱い魔物ばかりだな。
「こんな魔物しか出てこないのなら心配なさそうだな」
「……トーカ様に言い忘れてたことがある」
「どうした?」
「……ミスラが転移した先の広い部屋で魔物と遭遇した。そこにいたのはレッサーワイバーンだった」
「レッサーワイバーン?」
「ワイバーンよりは弱いけれど、それでもCランク相当の魔物」
「うっ、でもCランク相当ならアムやハスティアでも十分倒せるよな」
ハスティアはBランク冒険者で、アムはハスティアより強い。
「……ん。問題は魔物の幅が広すぎる。通常、ダンジョンの魔物の強さは同じランクくらいの魔物しか出てこない。初心者向けのダンジョンに強力な魔物は出ないし、逆も同じ。でも、このダンジョンは違う。ここのダンジョンの魔物の幅は広い」
「それって、レッサーワイバーンより強い――それこそAランクとかそれ以上の魔物がいるかもしれないってことかっ!?」
「……ん。そして、ここのダンジョンの正体に確信が持てた」
「確信?」
「……ここは原初のダンジョン」
「原初のダンジョン?」
「……ん。最初のダンジョン。全ての魔物はここで生み出されたと言われている」
全ての魔物はここで生み出された?
そんな凄いダンジョンが死の大地にあったのか。
「ということは、魔王が最初に作ったダンジョンってことか?」
「……ん、そう。だから、人々は畏怖の気持ちを込めてこのダンジョンをこう呼んだ」
ミスラが振り返って後方を見て言う。
「……魔王城と」
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