第299話 ダンジョン再突入は伝書竜を放ったあとで
ダンジョンの中にいる。
地図を確認しても、やはりダンジョンの中にいるのは間違いないらしい。
どこのダンジョンなのか、何階層なのか、魔物はどれくらいいるのかはわからない。
「ノワール、いるか?」
「ぎゅる」
影からノワールが鳴いた。
ノワールがいるのなら、外に出れば飛んで帰れるだろう。
しかし、召喚されたのだとしたら、召喚したのは一体誰なんだ?
周りには誰もいない。
うーん、とりあえず脱出するか。
「エスケプ」
魔法を唱える。
ダンジョンから脱出できた。
暗い。
道具欄からランタンを取り出す。
階段があった。
どうやらまだ地下のようだ。
ってあれ? 地図を見て俺は驚いた。
何故なら、俺はここに来たことがあるからだ。
階段を上る。
階段の上は土砂で埋まっていた。
「ノワール!」
「ぎゅる!」
ノワールが飛び出して土砂を呑み込んだ。
周囲の土砂が落ちて来るがそれも呑み込んだ。
空から光が差し込む。
そして地上に出ると、少し先に大きな石畳があった。
間違いない、ここは俺が召喚された場所――死の大地だ。
ここから東に行けば、拠点に戻れるが、空を飛んで帝都に戻ろうと思えば数日の必要になる。
こりゃ、大会に間に合うのは難しい。
俺が転移したことで大会延期になってくれていたら助かるのだが、そうでないなら不戦敗だな。
戻った頃には既に霜月が爆発していそうで恐ろしい。
急いで戻るか――いや、ここまで来たのなら一度拠点に戻ってポチに言伝を頼もう。
アムたちが帰還チケットを使って拠点に戻ってくるかもしれない。
そう思ったとき、階段の下から人の気配がした。
誰かいるのかっ!?
と振り返るとそこにいたのは――
「ミスラ!?」
「……トーカ様」
そこにいたのはミスラだった。
「召喚されたのは俺だけじゃなかったのか」
ミスラもダンジョンからエスケプの魔法を使って脱出したのだろう。
「……ん。一瞬だったのでほとんど解析できなかったけれど、ワグナーの転送魔法の対象は舞台の上にいた選手全員。アムもハスティアもダンジョンの中にいるはず。ところで、トーカ様。ここどこ?」
「ああ、ここは――」
と俺はミスラにこの場所の詳細を、俺がこの世界に来たときはじめて来た場所だということとともに伝える。
そして、石畳を見る。
鑑定したところ、やはりこれが召喚石だったようだ。
「しかし、一体何のためにワグナーは俺たちをこんなところに召喚したんだ」
「……ん、最初はミスラもわからなかった。でも、ようやく推測が立った」
「なんなんだ?」
ミスラは振り返り、そして言った。
「……もう少し情報を集めたい。トーカ様、一緒にダンジョンに行こう。みんなを助けないと」
「だな。ミスラ、一応聞いておくと観客は実況、審判は召喚に巻き込まれていないんだな?」
「……ん。ソッチはダイジョブ」
ミスラがきっぱりと言うので、心配ないのだろう。
よかった。孤児院の子どもたちをダンジョンの中に残してきたなんてなったら大変だからな。
ていうことは、ダンジョンの中にいるのは決勝トーナメント出場レベルの猛者たちだ。
心配は無いだろうと思うのだが、中にはワグナーや霜月、あと俺たちにとっては脅威ではないが、グラナドっていう犯罪者もいる。
一番厄介なのはスクルドか。
未来を見通すスクルドのことだ。
こうなる事を知っていたのだろうか?
やはり手を組んだのは失敗だったか?
後悔するのはあとだ。
アムとハスティアが心配だ。
あの二人のことだ。
帰還チケットはぎりぎりまで使わないだろうが――
「ノワール、お前ポチと会話できるか?」
「きゅる」
「だったら、拠点に帰ってポチに現状を伝えてくれ。あっちに飛べば拠点に行けるはずだ」
アムとハスティアが帰還チケットを使って帰ったとき、こちらの状況が伝わるはずだ。
ノワールは頷き、東の空へと飛んでいく。
伝書鳩ならぬ伝書竜だな。
そして残された俺とミスラは二人でダンジョンに再度潜るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます