第74話 魔法を使うのは理解したあとで
朝食後、俺たちはエルマの村から森のダンジョンに向かっていた。
相変わらずダンジョンの周辺はレッサートレントだらけだが、こちらから何かしなければ攻撃してくることはないので気にしない。
「それで、ミスラ。魔導書はどこまで読んだんだ?」
「……基礎理論の一部を読んだ。理解は難しい」
「理解が難しいって、どういうことだ?」
「……基礎理論通りに書いてある通りに転移魔法を使おうとするのなら、人間の魔力では魔法が発動しない。発動前に魔力が枯渇する」
「てことは、魔力を節約する術とかが後半部分に書いてあるのか?」
「……たぶん? まだ十分の一も読んでいない。解読しながら読んでるから時間がかかる」
「暗号って、知られたら困る事でも書いてあるのか……」
「……違う。内容が複雑過ぎて、言葉を簡略化しないと一冊の本に纏まらない。それを理解できる文字に置き換えるのに時間がかかってる」
ああ、簡単にいえばパソコンのデータを圧縮しているような感じかな?
その圧縮したデータを解凍ソフト無しに理解できるようにしているのがミスラの作業ってわけか。
そりゃ解読に時間がかかるわ。
「……でも、応答は可能。水よ顕現せよ」
ミスラが魔法を使う。
すると、水が出た。
ただし、出る位置がおかしい。
これまで魔法は、手を前に出せば、その手の先端から、杖や剣を持っていればその先端から出るものだった。
しかし、水が出たのは、ミスラの左一メートルの位置だった。
「……魔力の発動位置を転移させた」
「凄いな」
「私は魔法の理論はわかりませんが、これができるのなら、敵の体内に水を生み出して内側から破裂させることもできるのでしょうか」
俺が感動していると、アムが恐ろしいことを考えた。
でも、それが可能だとしたら、即死魔法だ。
水魔法じゃなくて、火魔法、いや、血管の中に風魔法で空気を送るだけでも即死させられる。
最強じゃないか?
「……そう簡単にはいかない。発動位置の転移には、ミスラと魔力の繋がりが必要。障害物を越えて転移させられない」
「そううまくはいかないか。でも、零距離からの攻撃は可能だろ?」
「一メートル離れた場所から魔法を発動させるだけでも、通常より何倍も魔力が必要になる。それ以上距離が離れたらさらに魔力が必要」
……あ、ミスラのステータスを確認すると、本当に魔力が大幅に減っている。
一メートル離れた場所でそれだけ魔力を消費するのか。
そして、一メートルっていえば、もはや接近戦の距離。
ミスラがそこまで敵に近付くことは稀なので、やっぱり攻撃方法としては難しいか。
「まぁ、魔法と剣、どっちも使う俺には便利そうだよな。使い方教えてもらっていいか?」
「……うん。まず、空気中に存在する大気の流れに魔力を伝道させる方法について――」
とミスラは説明してくれたが、何を言っているのかわからない。
高校物理でもそれなりの成績を修めている俺は、一時、この世界では現代知識無双ができるんじゃない? って思った時期がありましたが、現在、ミスラに魔法知識無双をされていた。
魔力伝導率ってなに?
魔力の伝達速度って、光の速度と同じなの? というか、光の速度知ってたんだ。
てっきり体内の魔力は血管か何かを通じて移動しているかと思ってたが、そうじゃなくて、全ての細胞に流れてるんだ。ていうか、なんなら着ている服とか剣にも通してるんだ。
そうだよな。魔法を放つ時、剣の先とか杖の先から出るもんな。
結果、理解できませんでした。
理解しようとしたけれど、でもたぶん俺の魔法とミスラの魔法は違うものなのだと思う。
俺の魔法はアイリス様から与えられたゲームのシステムに基く魔法だからな。
「……魔法を理解していないのに使えるトーカ様が凄い。私はステータスにエスケプの魔法が表示されているけど、たぶん魔導書を最後まで読まないと発動できないと思う。使える感覚が浮かばない」
「そういうものなのか?」
「……そう。魔導書は、トーカ様が魔法を使うための道具であると同時に、この世界の魔術をトーカ様の知っている魔法に導くための本でもある。まさに神の書物」
そういうことなのか。
ただのゲームアイテムじゃないってことか。
じゃあ、アムが魔法を使えないのも、ゲームシステム的に使えないキャラという設定ではなく、魔導書を理解できないと判断したのかもしれない。
さっきミスラの説明を聞いていたとき、アムもチンプンカンプンって感じだったからな。
「つまり、魔導書は誰でも魔法を使えるマジックアイテムってわけじゃないのか」
「……そう。魔導書の特別な力はトーカ様専用」
てことは、魔導書が使える人間を集めて、魔法師団を生み出す――なんてのは無理だな。
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