第75話 キスをするのは虹色宝箱を見たあとで
森のダンジョンに来た俺たちは、早速人食いオレンジと遭遇。
焼きオレンジのドロップアイテムが欲しいので、ミスラに火の魔法で倒してもらう。
「……火よ、顕現せよ」
彼女が唱えると、巨大な炎の塊が生まれ、人食いオレンジを呑み込んだ。
一瞬での出来事。
人食いオレンジは弱い魔物ではあるが、かといって、これまでのミスラが一撃で倒せるような魔物ではなかった。
それに、本来、ファイアボールの威力はそこまで高くない。
魔力の最大値によって威力が変動するといっても、60~80のダメージを与えるという説明書きがあるような魔法だ。
敵の魔力と使用者の魔力の差を計算して60~80が決まり、そこから敵の弱点や耐性、魔法威力倍増能力の有無、その他諸々の数値を考慮してダメージが算出される。
つまり、蒼剣のシステムではどれだけ魔力を上げてもそれだけで低威力の魔法はどんなに頑張っても高威力の魔法には敵わない。
アニメでいうところの「今のはメ〇ゾーマではない、メ〇だ……」はできないのだ。
なのに、ミスラの魔法はメ〇ゾーマほどはなくてもメ〇ミくらいの威力に変化、いや、進化している。
ゲームのシステムとこの世界の魔法との違いなのだろう。
その威力の変化に、ミスラ自身も驚いているようだった。
「ご主人様の訓練の成果ですね」
アムは一人俺を称えているが、そこはミスラを褒めてやってほしい。
いや、ボールを倒したのはほとんど俺とアムなんだから、ミスラを褒めるのは違うのか?
「……ん、トーカ様のお陰。ありがとう」
「どういたしまして?」
「……お礼にキス」
「しない」
「ミスラ、キスはダメですよ」
「そうそう、キスはダメだな」
アムが口を挟んだので俺も同意する。
やっぱりアムって独占欲強いんだよな?
妖狐族はそういう種族だって言ってたし。
見た感じ怒っている様子はない。
俺がしっかり断ったからだろうか?
異世界でもハーレムより一途の方がいいのかもしれないな。
「ご主人様、先を急ぎましょう。今日も宝箱をいっぱい取らないといけませんからね。ミスラ、虹色宝箱が出たらお祝いにキスしてもいいですよ。私もしますから」
「そうだな。虹色宝箱が出たら――ってそれならいいのか?」
「はい。ですからいまはダンジョン周回に集中しましょう」
「……うん、虹色宝箱の魔導書も楽しみ」
それでいいのか、二人とも。
俺以上に宝箱廃人だな。
「てか、虹色宝箱から魔導書は出ないぞ」
「…………!? ……金色宝箱の方が……」
「でも、魔力アップの道具は出る」
「……やっぱり虹色も欲しい」
でも、虹色宝箱から出る貴重品の中には、魔導百科という複数の魔法が修得できる道具が出るんだよな。
ただし、その確率は高くないし、なんなら魔導百科を手に入れたとき、既にそこに記載されている魔法をすべて修得していたなんてのもよくある話だ。
それに、虹色宝箱からは魔導百科より価値のあるアイテムも多い。
まぁ、そう簡単には出ないんだけどね。
虹色宝箱は。
まだ全員の運も低い。
アムの運をもっと上げたいところだ。
「ご主人様が今欲しいのはなんですか?」
「いろいろと欲しいのはあるが、犬でもわかる技術書の中(トロッコ列車)は欲しいな」
「トロッコ列車……ですか?」
「ああ。トロッコ列車は便利だぞ。ダンジョンまでの移動がものすごく楽になる。まぁ、鉄塊がそれほど多くないから長距離は難しいが」
まぁ、これについてはゆっくりと話そう。
犬でもわかる技術書シリーズは金色宝箱でしか手に入らないし、確率も低い。
前に造船の技術書が手に入ったときはそりゃもう驚いたものだ。
といっても、港もなれば、そもそも海や湖もない現状では宝の持ち腐れであり、ポチの読み物になってしまったが。
技術書が読み物といえば、一つ気になった。
「そういえば、魔導書はミスラが理解しないと使えないって言ってたけど、技術書は読まなくてもアムにも使えたよな? なんでだ?」
「……たぶん、能力玉と同じ力があるのだと思う」
「能力玉?」
「……能力を他人に与える魔道具。でも、使用回数に制限がある」
「へぇ、そんな便利なものがあるのか。いくらくらいするんだ?」
「非売品だと聞いています。現存しているものは全て国宝。国家が厳重に管理、保管しているそうですよ?」
……マ?
それって、凄い貴重品ってことだよな?
俺の技術書の方が回数制限がなくて便利だと思う。
特定のレギュラーメンバーにしか使えないって縛りがなかったら、大変なことになっていただろう。
つまり、魔導書のようなアイテムは存在しないから、詳しく説明を書いている。
技術書は、似たような力を持つ能力玉というアイテムがあるから、それと同じ力を与えた――ってことか。
「その能力玉って誰が作ってるんだ?」
「……誰も作ってない。ダンジョンの中で稀に見つかる。でも、そういうダンジョンはだいたいは敵の強い恐ろしいダンジョン。このダンジョンでは見つからない」
高難度のダンジョンで見つかるのか。
ゲームシステム以外にも、そういうお宝が見つかる可能性があるってのは凄いな。
いつかチャレンジしてみたい。
その後、俺たちはボス部屋に来た。
「ミスラ、次は俺たちが行くから休憩していてくれ」
「……ミスラも戦える」
「レベルアップした俺たちも自分の力を確かめたい」
「……わかった」
魔法より剣で戦う。
俺は剣を、アムは短剣を構えた。
「「スポットライト」」
俺とアムに光が降り注ぐ。
タゲとヘイトを集め、一緒に部屋に入るミスラに攻撃が行きにくくなる。
そして、扉を開ける。
空を浮かぶ桃。
ビックリピーチとの再戦。
俺とアムが同時に走った。
アムの速度が前にも増している。
レベルアップによる恩恵もあるが、盗賊レベルが4になったとき、盗賊である間限定で「俊敏+30」の能力に目覚めたのも大きい。
彼女がナイフを振るたびに桃の果汁が周囲に飛び散る。
「アム、退け!」
俺の言葉とともにアムが後ろに跳び、その直後、俺の剣がビックリピーチに振り下ろされた。
次の瞬間、桃がくるりと回った。
まさか――
「種マシンガンが来るぞ!」
俺が叫ぶ。
種マシンガンは体力が減ったときに使うビックリピーチの奥の手だ。
まさか、通常の種飛ばしのターンに行かずに一ターン目から種マシンガンを使って来るとは。
それだけ俺たちの攻撃力が増したということなのだろう。
俺たちは走って種マシンガンを避け続ける。
種マシンガンが止まった次の瞬間、再びアムと俺の攻撃がビックリピーチを襲った。
あっという間にビックリピーチはその場に倒れた。
「体が思っている以上に動き過ぎました。身体が感覚に追いつかないのは初めてです。次はもっとうまく戦えます」
「いや、いまでも十分強かったよ。さて、宝箱は――」
「……残念。三つとも茶色」
うん、三つとも茶色い宝箱だ。
ハズレだな……と思ったら、少し変だ。
「ご主人様、あの宝箱、少し揺れていませんか?」
「……もしかして、ミミック?」
アムとミスラが警戒をする。
茶色い宝箱がカタカタと震えていたのだ。
嘘だろ、おい、マジか。
「集中!」
俺が大声を出した。
アムとミスラの警戒がさらに強くなるが、俺は歓喜の声を上げた。
「昇格演出が来るぞ!」
次の瞬間、茶色い宝箱がはじけ飛び、その中から現れたのだ。
七色に光る宝箱――虹色宝箱が。
―――――――――――――――――
20万文字を突破しました。
これからも「ゲムあと」をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます