第76話 盆栽の趣味は老後になったあとで

 虹色宝箱が出るとは。

 今の確率ってどのくらいだ?

 最近の計算だと1/900くらいじゃなかったっけ?

 一回のクリアで3個出るから1/300くらいまで上がるとしても、凄い確率だ。

 虹色宝箱はそのままストレートに出現する他にも、様々な方法で出現することがある。

 ちなみに、ボス撃破直後に虹色の煙が出る、ファンファーレが鳴る、Congratulationの文字が浮かび上がる、最初宝箱が二つしか現れない(一つ遅れ)、宝箱が一つだけ明らかに大きいといった虹色宝箱確定演出が存在する。

 今回の茶色宝箱がガタガタ揺れるのも虹色宝箱確定演出の一つだ。


 って、待てよ?

 そういえば、さっき、虹色宝箱が出たらキスでお祝いとか言ってなかったか?

 まさか、このタイミングで出るとは……来るのか?

 キスが来るのか?


 俺は覚悟を決めたが――


「あれ?」


 アムとミスラは俺の方を見もしないで既に虹色宝箱の前で待機していた。


「ご主人様、開けましょう!」

「……わくわく」


 キスより虹色宝箱ね。

 初めての虹色宝箱、興奮するなっていうほうが無理か。

 虹色宝箱――こうしてみると本当に凄いな。

 ゲーミング色ですら、もっと大人しい色をしているぞ。

 これ、なんでできているんだ?

 金属のようだが――オリハルコン?

 鑑定しても――


【虹色宝箱:とてつもなく貴重なものが入っている宝箱】


 としか表示されないからわからないんだよな。ちなみに、金色は【とても貴重なもの】銀色は【貴重なもの】と表示される。

 どのみち宝箱を持ち帰ることはできないのだが――


「ご主人様」

「ああ、開けよう」


 アムはこれ以上待ちきれないようだ。

 息をのむ。

 宝箱の蓋が重く感じる。

 中に入っていたのは――


「王冠を被った……木でしょうか? 植木鉢ですね。ハリーさんに似ています」

「……それと……霧吹き?」


 中に入っていたのは松の盆栽だった。その松の上には金色に輝く王冠が被せられている。

 アムとミスラは宝箱の中に入っているものを見て理解できずにいるようだが、俺は震えていた。

 まさか、こ、これは――


「盆栽キングじゃないかっ!」


 大当たり中の大当たりだ!


「「ぼんさいキング?」」

「ああ、盆栽の中の盆栽。第七十六回コワール王国盆栽連盟主催盆栽コンテストにて歴代最高得点を記録して受賞。その推定価値はこっちの値段だと三億イリス」

「「三億イリスっ!?」」

「という設定だ。売却することはできないが、しかし、その性能はキングに相応しい」


 俺は手で鉢を持ち、観察する。

 青々とした美しい松に魅せられる。

 芸術品としても一流だな。

 道具欄に入れるのが勿体ない。

 このまま眺めていたいほどだ。

 老後になったあとで、盆栽を趣味にするのもいいだろう。


「この盆栽キングを拠点に設置すると、ときどき盆栽の周りにスペシャルキノコが生えるんだ。そのスペシャルキノコを食べるとステータスがアップする」


 スペシャルキノコの胞子――「細菌」、そして盆栽キングの中の「栽キン」という文字から、ファンの間では「サイキンマン様」と呼ばれることもある。

 ステータスの伸びに限度はなく、エンドコンテンツの一つとして挙げられるため、ユーザーの間では、盆栽キングを手に入れてからが蒼剣のスタートという意見もあるほどだ。

 もっとも、出現率は虹色宝箱から約1%と出ないときは本当に出ない。

 もちろん、直ぐに強くなりたい俺は、これよりも欲しい道具はいっぱいあった。

 しかし、サイキンマン様を出しておいて、残念に思うことはない。

 ちなみに、霧吹きは水が出て、これを毎日続けないとキノコが生えてこない。

 スペシャルキノコができるのに水気が必要という予想も上がっているが、一般的には霧吹きの中にスペシャルキノコの菌が混ざっているのだろうというのが通説になっている。ハリーことサボテンにこの霧吹きで水を吹きかけると針を飛ばされるので、異物が混入していると思われていることが原因だ。


「凄いですね。これが虹色宝箱の秘宝ですか」


 うんうん、凄いだろ?

 ただ、これでも

【蒼剣、虹色宝箱から出たら嬉しい道具ランキング】

 では第四位だったんだぞ?

 まぁ、ステータスが伸びるといっても、本当に微増だし、他にもステータスが伸びるエンドコンテンツはあるからな。

 一位は【ゴールド福引回数券】だったな。

 ゴールド福引券でしか出ないアイテムもたくさんあるからだ。


「……キノコは美味しいの?」

「見た目は毒っぽいが、美味らしいぞ」


 設定資料集にバターソテーにして食べると美味しいって書いてあった気がする。

 とりあえず、霧吹きで一度水を吹きかけて、道具欄に収納した。

 残りの茶色宝箱からは鉄塊と銅塊が出た。


 その後、四回ダンジョン周回を四回繰り返して、銀色宝箱が毎回出てくれた。

 銀色宝箱の内容は、トマトの苗、アイスソード、武器強化の巻物、美味しい練り餌とまぁ、大当たりとは言えないが、そこそこいいものが揃ってくれた。

 俺のレベルが30になったので、一度家に帰ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る