第73話 朝ご飯を食べるのは全員揃ったあとで

 銀色宝箱御開帳。

 中に入っていたのはチケットだった。


「試練ダンジョンの入場券ですか?」

「いや、銀色宝箱から試練ダンジョンの入場券は出ないよ。これは職業育成ダンジョンの入場券だな。試練ダンジョンの銀色宝箱の中では、一応当たりだな」


 職業育成ダンジョンは職業経験値が手に入るダンジョンで、使い方は試練ダンジョンと同じ。

 ちなみに、職業育成ダンジョン<職業特訓ダンジョン<職業超特訓ダンジョンの順で職業経験値が手に入りやすくなる。


「別のダンジョンということは、そちらでも新しい金色宝箱が手に入るのですね?」

「そうだな。でも、職業育成系のダンジョンが使うのは上級職業が解放されてからにする。悪いけど暫くはお預けだ」

「そうですか。仕方ありませんね」


 アムの尻尾がショボンとなる。

 彼女は犬並みに尻尾で感情を表現するからな。

 茶色宝箱の中は、経験値薬が入っていた。

 経験値薬といっても微々たる量の経験値しか手に入らないので棚に保存して、低レベルの護衛対象ゲストが加わったときに飲ませて体力の底上げをするのがベストな使い方だと言われている。

 さて、次にレベルの確認をする。

 俺のレベルは24、アムのレベルは15、ミスラのレベルは13。

 俺とミスラは2つ、アムは1つレベル上がっている。

 普通、低レベルの二人だったらレベル4つか5つ上がってもおかしくないんだけどな。

 でも、ステータスの伸びは二人の方が圧倒的にいい。


「よし、じゃあもう一周するぞ」

「はい!」

「……わかった」


 ダンジョンから脱出。

 見張りをしていた男が「おかえり」と言ってくれるが、「またすぐに出かけるよ」と言って試練のダンジョンに。

 今日は合計三周してダンジョン探索を終えた。残念ながら、全部茶色宝箱で経験値薬だった。

 回数を重ねるとボール狩りのコツもつかんできたのか、倒す効率が上がった。

 俺のレベルは29まで上昇。アムはレベル17、ミスラはレベル15。

 効率が上がってもレベルが上がりにくいのな。


 もう深夜一時頃か。

 さすがにそろそろ眠い。

 そのままベッドにダイブしたいが、


「あるじ、アム、ミスラ。せめてシャワーを浴びるのです。そのまま寝たら汗で汚いのです」


 と注意され、順番にシャワーを浴びたあとベッドで横になる。

 髪を乾かしているアムが来るまで起きていようと思ったが、気付いたら寝てしまっていた。



 目を覚ますと一人だった。

 アムの朝は早いので、起きたとき一人というのはよくあることなのだが、ベッドの様子を見ると彼女が寝ていた様子はない。

 どうやら、俺が寝ていたので、起こさないようにと気を遣ってミスラの部屋で寝たらしい。

 一人で起きるのは普通だったはずなんだが、こういうときは少し寂しいな。

 ……リンの奴、一人にさせてしまったが元気にしているだろうか?

 見た目は小学生だけど、しっかり者だしアイリス様もフォローしてくれているって言っていたから大丈夫だとは思うが、やはり心配だ。

 心配したところでどうしようもないのだが。


 起きて、食卓に行くとアムが配膳を手伝っていた。


「おはよう、アム。ミスラはどうしてるんだ?」

「昨日は遅くまで魔導書を読んでいたので、寝ていると思います」

「そうか。じゃあもう少し寝かしておいてやるか」


 エスケプの魔法は俺もミスラも習得できた。

 だが、その原理を解明し、ダンジョンからの脱出以外に転移魔法を使えるようになったら、たとえば帰還チケットを使わずに村に帰ることも、いや、それどころか拠点ポイントを使わずに転移門を生み出す魔道具が作れるかもしれない。

 どうせ、この時間は転移門を利用する村人も多いので試練のダンジョンに行けないからな。


「でも、ずっとこの調子が続くようならガツンと言わないとな。アムが働いているのに一人寝てるってのはダメか」

「私は気にしていませんよ。ご主人様の役に立てるのがなによりですから」


 うわ、アムめっちゃかわいい。

 こんな嫁が欲しい。

 結婚申し込んだら受け入れてくれるだろうか?

 いや、でも結婚を申し込むのは、彼女を奴隷解放してからだな。


「あるじ、ご飯の準備をしている間にミスラを起こしてきてほしいのです」


 ポチが俺にそう頼む。

 ちょうどいま、ミスラはこのまま寝かしておいてやろうって話したのだが、「夜中まで本を読むミスラが悪いのです。ここで甘やかしたらミスラはこれからも続けるのですよ? 朝食はみんなで食べた方がおいしいのです」と言われ、確かにそうだと納得し、彼女の部屋に向かった。

 そういえば、ミスラを起こすのは俺の仕事になってるな。


 いつもなら、「メシだぞ」と言ったら起きるのだが、今日は反応がない。

 ノックして部屋に入る。

 パジャマで涎を垂らして寝ているな。

 まるで妹を見ているみたいだ。

 あいつもこんな感じだった。


「おおい、朝だぞ、ミスラ。起きろ」

「…………」

「起きろ、ミスラ」

「…………あと五分」

「ポチに怒られるぞ」

「………………あと十分」


 これはダメだな。

 仕方がない。

 確実に起こすための裏技を使うか。


「起きないと無理やりキスするぞ」

「…………」


 反応がない。

 あれ? リンだったら「トウジ兄、ヘンタイ! シスコン! 女の敵!」って思いっきり怒って起きるのに。

 って、これってマジでセクハラだった。

 つい妹を見ているみたいでリン相手にやっていることをミスラにもやってしまった。

 ミスラは……大丈夫、寝ている。

 気付いていないな。

 俺は安心し、再度ミスラを起こす。


「起きろって」

「……キスはまだ?」


 俺はミスラの頭にチョップを入れた。

 彼女は頭をさすって上半身を起こす。


「……ひどい」

「よし、起きたな。朝メシ食べに行くぞ」

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